モレナーク・ガッポリ
「どうぞ、そちらのソファーに腰を下ろしてくれたまえ」
「はい、失礼します。」
「しゃ~っす!」
「失礼いたします。」
『ガッポリ商会』での買い物を終えたロック一行は、
合計支払金額の計算が終わるまでの間に、
カネーの兄ゼニーオとの約束を果たす為に会長室を訪問する事とした。
「私がゼニーオとカネーの父親で、
当ガッポリ商会の会長モレナーク・ガッポリだ宜しく頼むよ」
ロックの予想では、『ガッポリ商会』という店名のイメージから、
小太りの裕福そうな服を着た人物を思い浮かべていたのだが、
実際の会長はスーツに身を固めたロマンスグレイのハンサムなオジサマであった。
「モレナークさん宜しくお願いします。
俺は冒険者をしているロックです。
ゼニーオさんやカネーさんには色々とお世話になりました。」
「自分はウィルっす!」
「カレンです。先日は妹と一緒に、
ご自宅にお邪魔致しまして、お世話になりました。」
「ロック君にウィル君だね、
君達が、ウチの商隊をシャッキーン・バードから救ってくれた話を息子達から聞いたよ、
本当に、ありがとう助かったよ、
それと、カレンさんだったね、その様子を見ると上手く行った様だね、
ウチの家内も心配していたから良かったよ」
「パパ、カレンさんとファニーちゃんはロック君が購入したのよ、
ロック君は2人を奴隷から解放するって言ったんだけど、
カレンさんが借金を返し終えるまで解放しないでくれって言ったから、
奴隷紋は、そのままなのよ」
「ほう、そうだったのか・・・
カレンさんは、お若いのに確りとした考えをお持ちの様だね、
先日の話では、妹さんと一緒に冒険者としてやって行くという話だったから、
奴隷という形でロック君の保護下に入るのは良いかも知れないね」
「そうなの?」
「ああ、冒険者の中にはガラの悪い連中も多いからね、
若いお嬢さん方が単独でやって行くのは大変なんだよ、
その点、形だけとは言えロック君の奴隷になって置けば、
シャッキーン・バードを単独で倒す程の実力を持った
冒険者の財産と言う扱いになるからね、
他の冒険者は報復を恐れて、無用なちょっかいを出さなくなるよ」
「なる程、そういう事なのね」
その時、会長室の入り口のドアがコンコン!とノックされて、
ゼニーオが入室して来た。
「ロック君、係の者から会計の計算が終わったと聞いたので、
私が持って来たよ」
「ありがとう御座います。ゼニーオさん」
「どれ、ちょっと見せてみろ」
モレナークは、息子のゼニーオがロックに手渡そうとした会計用紙を受け取ると、
その内容に目を通す
「ほう、衣類にマジックバック、武器に防具、
それから旅の装備に加えて、馬車までご購入頂いたのか、
多数の御購入を頂きまして、ありがたいですな」
「俺達も、一か所で色々と揃えられたんで助かりました。」
「あざ~っす!」
「どうですかな?
ロック君達には、今後もカネーの件でお世話になる事だし、
今回の、ご購入の分は当商会からのプレゼントという事にしませんかな?」
「いえ、モレナークさんのお申し出は、ありがたいのですが、
カネーさんの薬草は偶々入手出来る伝手があっただけだし、
友人となったカネーさんを助ける為の行為に対して、
対価を頂く訳にも行きませんので、お断りさせて下さい」
「ノーサンキューっす!」
「ハハハ、ゼニーオやカネーから聞いてはいたんだが、
本当にロック君達は、その実力に対して腰が低いんだね、
分かったよ、では、プレゼントするのは無しとするが、
娘の友人としての割引だったら構わないだろ?」
「はい、それでしたら、
ありがたく、ご好意としてお受けさせて頂きます。」
「あざ~っす!」
ロックは、常識の範囲内で割り引いて貰った金額をゼニーオに渡して、
会計をお願いした。
「パパ、ロック君達の馬車はゴーレム馬が曳くのよ」
支払金額の話し合いが終わったのを見計らって、
カネーがモレナークに、そう告げた。
「ゴーレム馬だと?
そう言えば先程の会計用紙には、馬車を曳く馬が記載されていなかったな、
私は初耳なんだが、ゴーレム馬というのは、どの様な物なのだね?」
「ゴーレム馬というのは、俺が土魔法で造る土の馬の事なんですよ」
「土だけど石みたいに硬いっす!」
「なんと!?土魔法で、その様な事が出来るとは知らなかったな」
「ええ、土魔法は一般的にハズレスキルという扱いですからね、
今まで、俺の様に土魔法のレベルをカンストさせるまで上げようっていう
物好きは居なかっただろうから、発見されていなかったんでしょうね」
「ロック先輩は、土魔法オタクっす!」
「なる程、そういう事だったのか・・・」
「パパ、ロック君達は、
今回の積荷だったベヒモスも土魔法で倒したそうよ」
「何!?それは本当なのかい?ロック君」
「ええ、幸運が味方しての事ですが、
土魔法で倒したのは本当です。」
「ロック先輩の豪運が成せる業っす!」
「なんと・・・
土魔法がハズレスキルというのは大きな間違いではないか」
「ええ、俺としたら、こんなに役立つスキルは無いと思いますけどね」
「ロック先輩のレベルまで鍛えるのは無理っす!」
「それで、そのゴーレム馬というのは、
どの程度、役に立ちそうなんだね?」
「ロック君が言うには、ファイアボール5発分ぐらいの魔力量で、
王都から、ヒデブの街まで歩いてくれるんだって、
それも、ゴーレムだから食事や水を与えなくても良いし、
不眠不休で歩いてくれるそうよ」
「それは凄いな・・・
ロック君の言う事が本当だとすれば、流通業界に革命が起こるぞ!」
「やっぱりパパも、そう思うでしょ?
でも、そう旨い話ばかりじゃ無いのよ、
ロック君から離れると土に戻っちゃうし、
魔力もロック君のじゃなきゃ受け付けないんだってさ」
「なんと、そうなのか・・・
やはり、そうそう旨い話は転がっていないと言う事だな、
だが逆に言えば、ロック君が同行していれば大丈夫という事なのだな?」
「ええ、でもロック君達は護衛クエストを主としていないから、
ウチの仕事限定で、王都と、ヒデブの街を往復する時だけは受けてくれるそうよ」
「おお!それは助かるな、
ゼニーオにも、ヒデブの街への仕事がある時は、
ロック君達に指名依頼を出す様に言って置かねばな」
「ええ、その方が良いわねパパ、
ロック君達もお願いね」
「ああ、分かったよ」
「自分らに任せるっす!」




