マスター・ロック
「では、こちらが売買契約書と領収書となりますので、
ロック様のサインを頂けますかな?」
ザドス王国の王都にある奴隷商『タヌキノ商会』で会長を務める、
トラーヌ・タヌキノが、作成した書類をロックに差し出しながら、
そう告げる
「分かった。」
「自分の手形はいらないっすか?」
「ロック君、ちょっと待って」
サインをしようとしたロックに、
カネーが声を掛けて止めた。
「どうかした?カネーちゃん」
「ちょっと待ったコールっすか?」
「その書類を、ちょっと見せてくれる?」
「うん、良いよ」
ロックは、書類をカネーに手渡した。
「・・・・・・やっぱり、
タヌキノさん、この書類なんですけど、
領収書の方の金額には、ちゃんと最初にGマークが入れてありますけど、
売買契約書に記載された金額の方には付いていませんよね?
これだと、後から数字を付け足して、
契約金の一部しか貰って無いって言い張れるのでは無いでしょうか?」
「おや?そうでしたかな・・・
おお~、これはウッカリ致しました
直ちに訂正するとします。」
(まったく・・・油断も隙もあったもんじゃ無いな)
「こちらで、如何でしょうか?」
タヌキノは、訂正した書類をカネーへと手渡した。
「え~と・・・うん、今度は大丈夫みたいね、
ロック君、サインしても良いわよ」
カネーは、書類に目を通してからロックへと手渡した。
「しかし、お嬢さん、
その、お年にして随分と商取引に詳しい様ですな」
「ええ、申し遅れましたが、
ガッポリ商会の娘のカネー・ガッポリと申します。
以後お見知りおきを・・・」
「これはこれは!ガッポリ商会の会長様のご息女でしたか、
道理で商売に詳しい訳ですな」
「父をご存じなんですか?」
「この王都で商いを営んで居って、
商業ギルドの理事を務めて居られる御父上を知らん者はモグリですよ」
「サインしたけど、これで良いかな?」
「自分の手形付きっす!」
「ご拝見いたしますね・・・・・・はい、結構で御座います。
それでは、売買が成立致しましたので、
彼女達の奴隷紋を書き換えたいと思います。」
「それなんだけど、カレンさんとファニーちゃんを、
奴隷から解放する事は出来ないかな?」
「この束縛からの卒業っす!」
「それは、勿論の事、可能で御座いますが・・・」
「待って下さい!
私達の奴隷紋は、このままでお願いします!」
「えっ!?何で?」
「謎っす!」
「一つは、私達がロック君に借金を返済するまでのケジメとしてという事と、
もう一つの理由としては、私達が奴隷から解放されたと継母達が知れば、
また捕まって売り飛ばされる恐れがあるからです。」
「なる程、カレンさん達が、
ロック君の奴隷で居る間は安全だもんね」
「はい、そういう事ですので、
私達が実力を付けて、ロック君に借金を返し終わるまでは、
この奴隷紋は、このままでお願いしたいのです。」
「そっか・・・分かった!
でも、消したくなったら何時でも良いから言ってくれよな」
「エブリタイム・カモンっす!」
「では、所有権の書き換えという事で宜しいですかな?」
「ああ、それで頼む」
「オッケーっす!」
「分かりました。
お二人とも、奴隷紋を上にして手を出して貰えますかな?
『契約・・・所有者書き換え』
はい、これにて彼女達の所有権はロック様へと変更されました。」
「よっしゃ!
じゃあ、手続きも終わった事だし、帰るとしようか?」
「賛成っす!」
「あの~、少々お待ち頂けますか?ご主人様」
「その、ご主人様って、もしかして俺の事!?」
「マスター・ロックっす!」
「はい、私達の所有者と成られたので、
そうお呼びしたのですが・・・」
「今までの通りにロックで良いから!」
「自分はウィルちゃんで良いっす!」
「そうですか、では、
ロック様とお呼びさせて頂きます。」
「いやいや、普通にロックで良いよ」
「ロック君、形だけとは言っても、
彼女達は奴隷なんだから、主人を馴れ馴れしく呼んでたら、
彼女達が変な目で見られちゃうわよ」
「それもそうか・・・オッケー、じゃロック様の方がマシだな」
「同感っす」
「畏まりました
ロック様とお呼びさせて頂きます。」
「うん、それでカレンさんは、
まだ、ここに何か用があるの?」
「私の事は今後、カレンとお呼び下さい、
実は、ロック様にご相談がありまして、
私達の多額の借金を立て替えて頂いたのに、こんな事を申し上げるのは心苦しいのですが、
ロック様に、もう一人奴隷を購入して頂きたいのです。」
「何か、事情がありそうだね・・・」
「引きで終わりっす!」




