私はカスタード派
「さ~てと、どうしようかな」
シカバネ亭を後にしたロックは、
今晩泊まる場所を、どうしようかと考えていた。
兄レックは、一緒に宿探しをしてくれると言っていたのだが、
そのぐらい一人でも出来るからと言って、
ロックが断ったのであった。
夜遅くまで店が開いている日本とは違い、
この世界の店は、夕方で殆どが閉まってしまうので、
この時間でも、開いてる店というと、
酒場ぐらいなものであった。
「そうだ、確か冒険者ギルドは24時間開いてるって、
登録した時に言ってたよな」
クエストによっては、深夜に熟さねば、
ならないものもあるので、
冒険者ギルドの受付カウンターには、
24時間、誰かしら居るとの事であった。
「こんばんわ~」
ロックが、冒険者ギルドの入り口のドアを開けて、
中へと入ると、他に冒険者の姿は無く、
受付カウンターに、一人で座っている女性へと、
声を掛けた。
「いらっしゃいませ、
今晩は、当ギルドへようこそ、
本日は、どのような御用でいらっしゃったのでしょうか?」
まだ、装備が整っていないロックは、
冒険者らしく見えなかった様で、
受付嬢のネコ系獣人の女性が尋ねて来た。
ちなみに、ウッカリ屋で購入した剣は、
普段着だと、カッコが付かないので、
アイテムボックスに入れてある
(やっぱり、ネコ系獣人の人は夜行性なのかな?)
「俺は、今日、冒険者登録をしたロックって言うんですが、
泊まる予定だった宿屋がダメになったんで、
どこか、紹介して貰えないかと思いまして」
ロックは、冒険者カードを提示しながら告げた。
「あら、あなたがロック君なのね、
モモエさんが、将来が有望なルーキーが入って来たって、
言ってたわよ、
私は、主に夜の受付を担当している、
ミューニャーっていうの宜しくね、
それで、宿なら、
いくつか紹介出来るけど、
何か『こんな宿が良い』っていう注文とかある?」
「ええと・・・食事が美味しいところで、
出来れば、お風呂があれば言う事無しなんですが・・・」
ホワタ村では入浴の習慣が無かったので、
ロックは、ダメ元で言ってみた。
「食事は、大体の宿が、
美味しくてボリュームたっぷりだけど、
お風呂は、沸かし湯で良いの?
それとも、少し割高になるけど、
温泉がある宿の方が良いかしら?」
「えっ!?
そんなに、風呂付の宿があるんですか?」
「ええ、コウガ王国から広まった習慣なんだけれど、
魔獣の返り血なんかを浴び易い冒険者は、
伝染病の予防の為に、入浴が推奨されているのよ、
だから、冒険者が多い街では、
風呂付の宿が増えてるらしいわよ」
(へ~、こっちの世界にも、
衛生管理の意識とかあるんだな、
村の子供達なんか、地面に落ちたものとかも平気で食べてたから、
そんな意識とか無いのかと思ってたよ)
「そうなんですか、それは良さそうな習慣ですね、
では、温泉付きの宿を教えて頂けますか」
「ええ、良いわよ」
ミューニャーは、冒険者ギルドから、
宿までの簡単な地図をサラサラと書くと、
ロックに手渡した。
「ありがとう御座います。ミューニャーさん
これは、ほんの申し訳程度のお礼ですので、
お召し上がり下さい」
ロックはアイテムボックスから何かを取り出すと、
ミューニャーへと手渡した。
ちなみに、冒険者ギルドの受付嬢は、
冒険者のスキルに対する守秘義務があるので、
ミューニャーにアイテムボックスを見せる事を、
ロックは気にしていなかった。
「へ~、ロック君はアイテムボックス持ちなんだ、
流石、モモエさんが目を付けるだけの事はあるわね、
ところで、これは何か甘い香りがしているけど、
食べ物なのかしら?」
「ええ、この街へ来る途中で立ち寄った
ハバラ村の食堂のシェフに頼んで作って頂いた
プリンという、お菓子です。」
「へ~、初めて見るお菓子だけど、
名前も可愛くて美味しそうね」
「ええ、俺の大好物なんですよ、
どうぞ、召し上がってみて下さいね、
じゃあ俺は、これで失礼して、
教えて頂いた宿に行ってみます。」
「ご馳走様、
気を付けてね」
ロックは、冒険者ギルドを出ると、
地図を頼りに宿へと向かったが、
少し歩くと、ギルドの方から、
『う・ま・い・にゃ~!!』という、
叫び声が聞こえて来た。
「え~と、地図通りとすれば、
ここで良いのかな?」
ロックは、目的地の宿らしき建物に付いている、
看板を魔導ランプで照らしながら呟いた。
「『ジゴクノカマ亭』だな、
良し合ってるぞ」
宿の名前が合ってるのを確認したロックは、
入り口から、中へと入って行った。




