応対さん
「レック兄ィ、リラさんの事が好きなの?」
『シカバネ亭』の食堂で、向い合せに席に着いて、
それぞれの注文を済ませた段階で、
ロックは、兄に尋ねてみた。
「な、な、何言ってんだよロック、
お、俺は、別にリラさんの事なんて、
何とも思って無いぜ」
兄のレックは、まったく持って挙動不審であった。
「ふ~ん、そうなんだ。」
「お、おう、そうだ。」
「・・・あっ、リラさんだ!」
兄のレックからは背後となる、
食堂の入り口の方を見ながら、
ロックが声を上げる
「何!?」
兄レックの首が、
某有名ホラー映画の金字塔に主演したヒロイン宛らの、
勢いでグリンと回転した。
「と思ったら、良く似た幼女だった。」
食堂の入り口から、入って来たのは、
リラに良く似た感じの、
10歳ぐらいに見える女の子だった。
「・・・ああ、
あれは、リラさんの妹の、
ロリちゃんだよ」
兄レックは、あからさまにガッカリとした表情で、
ロックに告げた。
(何て、分かり易い兄なんだ・・・)
ロックは、余りにも素直な反応を見せる兄が、
可哀想になったので、
これ以上の追及は見送る事とした。
兄弟2人で、レック達が出て行った後の、
ホワタ村での、出来事の話などをしている内に、
2人が注文した料理が運ばれて来た。
ちなみに、食堂のウェートレスをしているのは、
リラの姉のララで、
シェフは父親のシッカバーネ氏だそうだ。
(シッカバーネって響きだけを聞くと、
何かイタリアンのシェフみたいな名前だな)
しかし、ロックの思いを外に、
兄弟のテーブルへと、運ばれてくる料理は、
ザドス王国では一般的な、
肉ドカ盛りの料理であった。
テーブルへと運ばれた料理の一品を見たロックは、
思わず声を上げてしまう。
「こっ、これは!?
伝説の料理として名高い『マンガ肉』ではないか!」
大きな皿の上には、中心に太い骨を配した
巨大な肉の塊が鎮座していたのであった。
「マンガ肉?」
兄のレックが、不審そうな顔をしながら、
ロックの方を見ている・・・
「あ、ああ、前に読んだ事がある本の中に、
この料理が紹介されてたんだよ、
一度食べてみたかったんだ。」
「そうなのか?
ザドス王国では、一般的な料理らしいけどな」
「でも、ホワタ村じゃ食べた事無かったじゃない?」
「流石に村じゃ作れないだろ、
これだけの大きさの肉を焼くには、
それなりの大きさのオーブンが必要だろうから、
最低でも、街まで出掛けないと食べられないだろうな」
「もっと早く知りたかったよ・・・
知ってれば、村の近くの街まで、
トレーニングがてらに、ランニングして食べに行ったのに」
「それ程までして、食べに行く料理か?」
この料理を、食べ慣れているレックからすると、
日本からの転生者であるロックが、
『マンガ肉』に掛ける情熱を理解出来ないのである
「うん、一部の人に取っては、
人生で一度は味わってみたい料理なんだよ」
「そ、そうなのか・・・」
レックには、良く分からなかったが、
普段は、余り物への執着を見せないロックが、
並々ならない、熱意を持っているのは感じられた。
「レック兄ィ、早く食べようぜ!」
「お、おう、俺は食べ慣れているから、
遠慮しないで、全部食べても良いぞ」
「サンキュー!レック兄ィ」
「さんきゅー?」
ロックが何を言ってるのか分からなかったが、
感謝をしている感じなのは理解出来た。
「いただきます!」
ロックが、さっそく『マンガ肉』へと、
カブり付くのを見て、レックが注意する
「おいおい、誰も取ったりしないから、
もっと、落ち着いて食べろよ」
「だっ、モグモグモグモグ、
ねん、モグモグモグモグ、
りょ、モグモグモグモグ、
もん。モグモグモグモグ」
「話は、飯を食い終わってから聞くから、
口に物を入れながら喋るなよな」
呆れた様子で、レックが言うと、
ロックは、コクコクと頷いて返事をしている
「どんだけ、食いたかったんだよ・・・」
レックも、他の料理に舌鼓を打ちながら、
一心不乱に、肉を食べ続ける弟を見つめた。
「ううっ・・・胸焼けが・・・」
「そりゃ、あれだけ肉ばかり食ってりゃ、
胸焼けもするだろ・・・」
食事を終えて、胸焼けに苦しむロックを見ながら、
食後のコヒ茶を楽しんでいるレックが言う
「念願の『マンガ肉』を食べられたんだから、
胸焼けしても本望さ・・・うぷっ」
「ほら、食べ過ぎに効く、
『キャベヅン茶』を頼んでおいたから、
飲めよな、
それから、一応の注意をしておくが、
あくまで『ジ』では無くて、『ヅ』だから、
間違えない様に注意すること」
「何の注意をしているの?レック兄ィ」
「一応だよ、一応」
「ふ~ん」




