推薦入団権
「訓練としましては、
剣などを使った実戦式のもので最後となりまして、
整理体操をして終わりとなります。」
「整理体操とは何じゃ?」
「何じゃ?」
「最初に準備体操を行った様に、
訓練で疲労した筋肉を解して置くと、
次の日に疲れが残らないのですよ」
「ほう、そうなのか、
ジャンヌよ、その方は存じて居ったか?」
「存じて居ったか?」
「いえ、知りませんでした。
ただ、訓練後にマッサージを受けると、
次の日に残る疲れが軽減すると聞いた事があります。」
「ほう、そうなのか」
「そうなのか」
「日中の訓練は以上で、
後は、一日おきに夜、座禅を組みます。」
「座禅とは何じゃ?」
「何じゃ?」
「はい、村の集会所に訓練生を集めまして、
獣脂のランプ一つのみを置いた暗い部屋にて、
この様に足を組みまして、目は半眼に閉じ、
両手は臍の前で合わせまして、
呼吸を細く長くするように心掛けるのです。」
村長のマックは、草叢の上に座り込んで、
足を組んで、両手を合わせて、目を半眼に閉じて見せた。
「それは、どんな効果があるのじゃ?」
「あるのじゃ?」
「私も、理屈は良く分からないのですが、
集中力が増して、
訓練中に考える事無く、体が動く瞬間が増えたと、
訓練生たちは申して居ります。」
「お前たち、
そんな事がありえるのか?」
「ありえるのか?」
王女たちは、今一つピンと来ないらしく、
騎士たちに尋ねていた。
「はい、訓練を長い事続けていますと、
咄嗟に体が反応する事がありますね」
「子供に、その動きが出る事、
事態が驚きです。」
「かなりの実戦訓練を詰まねば出るもんじゃ、
ありませんからね」
「なる程の、それなりの効果はある様じゃのう、
ときに村長よ、相談があるのじゃが、
今日聞いた訓練内容を騎士団に取り入れても構わんかのう?」
「構わんかのう?」
「ええ、騎士団の皆様で使われるのは構わないのですが、
出来ましたら、他の街や村にはご内密に出来ますか?」
「うむ、惜しげも無く手の内を晒して見せてくれた
そなた等の好意には報いねばならんからのう
分かったぞ、このホワタ村式訓練法は、
妾らが直属の、ジャンヌら第3騎士団のみで使用する事を、
約束するのじゃ!」
「約束するのじゃ!」
「ありがとう御座います。」
このホワタ村式訓練法によって、
王女ら直属の第3騎士団は飛躍的な躍進を遂げるのだが、
それは、また別の話である。
「では、村長、ロックよ世話になったのじゃ」
「世話になったのじゃ」
「いえいえ、大したお構いも出来ませんで、
申し訳御座いませんでした。」
「ミーア様、ミール様、今日はホワタ村へとお出で頂き、
ありがとう御座いました。」
「ロック君、冒険者として一流になったら、
第3騎士団に入団するのを忘れないでね」
「待ってるぜロック!」
「はい、その際は宜しくお願いします。
皆さんも、お元気で!」
「村長、約束の方は任せて置くのじゃ」
「任せて置くのじゃ」
「はい、ありがとう御座います。」
村長のマックは、今回の報酬として、
ホワタ村出身の優秀な冒険者たちの、
第3騎士団への推薦権を貰って居り、
早速、ロックの兄らと相談した後に、
数名の推薦をする許可を、王女らから受けていた。
「ロック、また山の形を変えた時は、
どんな罰を与えてやろうかと考えていたが、
結果的には大金星だったな」
遠ざかって行く、王女らの馬車や騎士団を見つめながら、
村長マックは、横に居るロックに話し掛けた。
「うん、俺も冒険者になって活躍したら、
騎士団に入れてくれるって言って貰えたから、
嬉しかったよ」
「まあ、本当に入って欲しいのは、
向こうの方だと思うがな・・・」
マックは、ロックが形を変えた山の方を見ながら呟いた。
「うん?何か言った父さん」
「ああ、益々(ますます)訓練に力を入れなきゃなって言ったのさ」
「うん、俺、これからも頑張るよ!」