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RUN WITH WOLVES  作者: HINO
5/19

――神楽盃の戦略――

 「――つまり、未来の自分たちが犯した過ちを、過去の自分たちの手で清算しなければならない、と?」


 「はい」


 小学校での一件から、すでに二時間近くが経過している。


 命を落とす一歩手前の経験をした上に、タイムカプセルは回収できず終い。どころか、あのロボットと共に爆散してしまい、もう二度と回収ができなくなってしまった。これ以上は無いというほどの、文字通りの散々な日となってしまった訳だが、しかしまだ、その今日は終わってなどいない。


 現在時刻は、午後十一時過ぎ。


 俺はひとまずイヴを連れて帰宅し、事態の説明を受けていた。


 頭を抱える以前に、そもそも頭に入り切りそうもない話をされてしまったのだけれど、一体俺はどうすればいいのだろうか。未来で起きたという戦争の話を聞いて、正直、目眩がしてきそうな思いだった。


 未来からの因果応報なんて、どう受け止めればいいのだろう。


 キッチンにあるテーブルを挟み、俺とイヴは向かい合うように座っていた。正面のイヴに疲労の色などは一つも見えない。俺は混乱で、今にも崩れ落ちてしまいそうだと言うのに。


 「高度な科学の発達がもたらしたものは、本当に災厄そのものでした。同じ過ちを繰り返さないためにも、我々は行動せねばなりません」


 言って、イヴは真っ直ぐに俺を見つめてくる。その瞳に明確な意思を灯らせ、俺に目で語りかけてくる。


 「……わかっているさ。ただ、誰がどう動くかわからない以上、こちらも下手には動けないだろう」


 「はい。しかし、指針を決めることはできます」


 指針、か。


 俺はどうするべきなのだろうか。五角戦争の話を聞いた限りだと、俺と霧島という男が当面の標的にされると見てまず間違いない。早速命を狙われたわけだし。


 「イヴ、俺はまず、それぞれがどう動いているかを知るべきだと思うんだ」


 「と、言いますと?」


 イヴは質問をしてくる時でさえ、小首を傾げたりという仕草を一切しない。さっきの話ではないけれど、精密にできたロボットのようにも感じられるのだ。


 「ああ。具体的に言えば、各陣営に戦う意思があるのかどうかって話だよ。この時間座標では五角戦争の勢力図は当てはまらない。なら、当人たちの意思も単純なものではないはずだろう?」


 「そうですね。実にあなたらしい考えです」


 そう言って、イヴは小さく首肯する。表情こそ変わりはしなかったけれど、その時のイブの顔は、どこか満足そうなものに見えた。


 何だろう。俺の回答を予想でもしていたのだろうか。


 「盃」


 唐突に、イヴが俺の名前を呼ぶ。何だよ、と俺が答えた瞬間には、イヴの顔つきは凛とした雰囲気に戻っていた。本当、何を考えているのかわからない奴だ。


 「他の陣営は様子を見るとして、ルー・シュバルツェネガーはどうするのですか?」


 「ん、ああ、そのことか」


 ルー・シュバルツェネガー。


 先ほど俺に奇襲を仕掛けてきた張本人であり、調べるまでもなく、はっきりとした戦意を持っている。


 「あのロボットは、そのルー・シュバルツェネガーという奴の差し金で間違いないんだよな?」


 「はい。あのレベルの兵器を展開させることができるのは、マシン・キメラの異名を持つルー・シュバルツェネガー以外にあり得ません」


 マシン・キメラ。


 二つ名まで持っているような相手だったのか。


 「相手方は戦意剥き出しだからなあ……」


 しかし、だからと言って交戦しようとは思わない。人の命を奪うようなことを、俺は絶対にしたくない。


 「今日、あれだけの奇襲を仕掛けてきた相手なら、また近いうちに俺を狙ってくるだろう。その時に、俺は命ではなく、相手の戦意を殺してやろうと思う」


 「戦意を殺す? では……命を奪うつもりはない、と?」


 「もちろんだよ。俺は誰も殺さない。そうだな、言うなればこれが俺の指針だよ、イヴ」


 これは譲れない。これだけは譲れないのだ。


 俺の頭には、雫の顔が浮かんでいた。両親が事故で死んだ時の、泣き叫んでいる雫の顔。


 誰にだって大切な人がいる。俺が誰かを殺せば、その誰かの帰りを待っていた人はきっと、雫のように悲しい涙を流すだろう。


 俺は残された側の痛みを知る人間だ。無闇に人の命なんて奪えない。


 「わかりました。あなたの信念は、この私、イヴ・キッドマンが貫かせて見せます」


 イヴはそう言って右手を胸に当てると、誓いを立てるように俺を見つめた。


 「……ありがとう、イヴ」


 出会いは最悪だったけれど、どうやら俺は、最高のパートナーに出会えたらしい。


 もちろん、イヴにだって死んで欲しくない。


 俺はそう思っていた。


 だから、考えなくてはいけない。そして、最良の選択をする。俺は俺にできることをするべきなのだ。


 「イヴ」


 今度は、俺の方からイヴの名前を呼んだ。


 「何でしょう」


 「俺にしか扱えない力があると、さっき、そう言っていたよな?」


 「……はい」


 僅かながら、怪訝な顔をするイヴ。


 「突然どうしたのですか、盃。その問いには何か意味が?」


 イヴがそう尋ねてくる理由は、容易に想像ができた。きっと、誰も殺さないと言い切ったばかりの俺が、早々に殺人兵器なんかの話を持ち出したからだろう。


 「それを俺の体にインストールすれば、敵への対抗手段になる……。そうだったな?」


 俺は構わずに続ける。


 「ならすぐに、それを俺の体にインストールしてくれないか」


 ここで、イブは沈黙した。顔つきだけが段々と険しいものになっていく。


 「盃、私にはあなたの意図が読めません。兵器情報のインストールに反対するわけではありませんが、どうしてそんなに急ぐ必要があるのですか」


 やっぱり、俺の言葉に違和感を覚えているらしい。


 「単純な理由だよ、イヴ。お前を死なせないために、一刻も早く力が欲しい。それだけだ」


 「何を……?」


 イヴは俺が何を言っているのかわからない、という顔をする。まさか、ここまで言って伝わらないとは。


 「いいか。いくら敵を殺さないとは言っても、奇襲を受ければ無抵抗ではいられないだろう? その時になって俺が戦えなければ、お前一人が危険に晒されることになる。当然、命を失うことだってあり得るんだ。けど、俺がお前と一緒に戦うことができれば、敵を殺さないままに、戦意だけを押さえつけられるかもしれないだろう」


 「………………」


 再びの沈黙。


 イヴは下唇を結び、何かを考えているような仕草を見せる。そして、言いにくいことがあるというように、わずかに目を逸らした。


 何だ? 言いたいことははっきりと言ってくる性格だと思っていたのだけれど。


 「盃、最初に言ったはずです。私はあなたのボディガードであると」


 「それが何だよ」


 「あなたを死なせないために私はここにいる。それなのに、あなたが戦線に立つような意思を持たれては困る」


 イヴの語気は荒立っていた。目つきも明らかに攻撃的なものになっている。


 どうしてそんな顔をする。


 「俺に戦うなと言うのなら、どうしてお前は兵器情報の話をしたんだ? 俺にしか扱えない力だと、そう言ったのはお前だろう」


 「それは防衛手段の一つとしてです。あなたが戦線に立つと言うのなら、兵器情報のインストールはできません」


 嘘だろう。


 「おい、馬鹿を言うなよ。丸腰の俺を守りながら戦ったところで、お前の危険が増えるだけだろうが。死ぬかもしれない状況なんだぞ?」


 「ご心配なく。命に代えても、あなたのことはお守りしますから」


  譲らない、と。イヴはそう目で訴えかけてくる。


  ……まったく、頭にきた。


 「気に入らないな」


 俺ははっきりと言ってやった。


 「……え?」


 イヴは目を見開き、一瞬の硬直を見せる。


 「お前、自分の命は度外視か?」


 イヴは俺を見つめたまま、口を開こうとしない。まるでとてつもない難問に出会ったかのように、そのまま黙考に入ってしまう。


 俺の怒りは、それで頂点に達した。


 俺に言われないと気付かなかったと言うのだろうか。盲目的に俺の命を守ろうとする、自分の愚かな姿に。


 「自分の命を度外視するなど、そんなことは――」


 「ないと言うのか?」


 やっと発せられたイブの言葉を、俺は遮った。


 いい加減にしろというのだ。


 「お前は俺に、戦うなと言った。そしてお前は、戦わない俺を守ると言った。命に代えてもだなんて……何なんだよお前は」


 「……さ、盃?」


 イヴは不安そうな顔で俺を見る。俺はそんなイヴの瞳を真正面から見据え、自分の想いを吐き出した。


 「お前は俺を守るためなら、命を差し出してでも盾になるつもりか」


 「………………」


 「お前は俺を守るためなら、自分がどうなってもいいっていうのか」


 「………………」


 イヴは何も答えない。つまりは、それが答えだということじゃないのか。


 「それが自分の信念だと、何の疑念も抱かずに命を捨てるのか」


 「………………」


 俺は思い切り歯噛みした。


 「いい加減にしろっ! 自分の命の大切さもわからないような奴に守ってもらいたいなんて思わない! いいか、お前の命はお前だけのものじゃないんだぞ!」


 イヴは目を丸くし、瞬きすら忘れてしまったかのように、じっと俺の顔を見つめる。


 動揺も恐怖も驚愕も。


 イブの全てが、その表情一つで伝わってくる。


 「……あ」


 ここで、ふと我に返る。


 言い過ぎてしまっただろうか。いや、そんなことはないと思う。俺は間違ったことを言ったつもりなんてない。


 ただ、大きな声を出すことはなかった。こんなんだから、俺はいつまでたっても北条先生にからかわれてしまうのだろう。


 本当に、まだまだ幼い。


 俺は長く息を吐き、肺から空気を絞り出した。これ以上言葉を続けられないように、長く、長く吐き出す。


 もう、イヴに言うことは何もない。肺が空っぽになるまで息を吐き出し、今度は深く、大きく吸い込む。そうして入れ替えた空気を声にして、俺はひとまず、一番に言うべきことを言った。


 「大きな声を出してすまなかった」


 「……い、いえ」


 止まっていた時間が動き出したかのように、イヴは慌てた様子で俺に応える。


 「私の方こそ、無礼をお許しください」


 そう言って椅子から立ち上がると、今度は深々と頭を下げてきた。


 「なっ、やめろよ。もう怒ってないから……」


 イヴはそろそろと顔を上げ、力のない目で俺を見る。その潤んだ瞳で見つめられてしまっては、もう何を言う気にもなれない。


 「……とりあえず座ってくれよ、イヴ」


 言って、今度は俺が席を立つ。


 「あの、盃……?」


 「いいから座ってろ」


 突然立ち上がった俺に怪訝な顔をするイヴだったけれど、渋々と言った様子で俺の言葉に従ってくれた。俺の方はキッチンに入り、コーヒーカップを二つ用意する。


 「イヴ。コーヒーは飲めるか?」


 「え、はい……。あの、コーヒーを作られているのでしたら私が」


 「座ってろ」


 対面式キッキンの向こうから聞こえてきたイヴの言葉を、俺は短く遮った。カップの中にインスタントコーヒーの粉を入れ、ポットのお湯を注ぐという作業をしながら。


 「ミルクと砂糖は?」


 「いえ、結構です」


  おお……。ブラックを飲むのか。


  見たところ、イヴの年齢は十八歳くらい。


 「………………」


 なるほど。


 自分よりも年下の人間がブラックコーヒーを飲むというのは、何とも妙な違和感がある。どこかでイヴのことを子供扱いしていたのだろうか?


 奇しくも、今まさに北条先生の言っていたことがわかってしまったのだけれど、あの人と同じ感性というのは納得できない部分がある。俺はそんな雑念を溶かしたコーヒーをティースプーンでかき混ぜ、それらを持ってイヴのもとに戻った。


 「はい。熱いから気をつけろよ」


 俺はイヴにコーヒーを手渡すと、ゆっくりと自分の席に腰を下ろした。


 「……ありがとうございます」


 イヴは受け取ったコーヒーを見つめながら、照れくさそうに礼を言う。俺の方はそれ以上何も言わず、そっとコーヒーに口をつけた。


 鼻孔を通り抜ける芳香が、空腹を刺激する。


 そう言えば、と思い出してみれば、俺は夕食を取っていないままだった。まあ、あれだけの体験をした後だ。混乱と空腹とで言えば、混乱が勝ってしまうのだろう。


 「……ん?」


 ふとイヴに視線を遣ると、イヴは未だコーヒーに口をつけないでいた。


 「どうした、イヴ。飲まないのか?」


 イヴはコーヒーをじっと見つめたまま、一向に口をつけようとしない。


 「いえ、未来のあなたも、こんな風にコーヒーを作ってくれたことがありまして……。ちょうど今みたいに、口論になった時でした」


 なんとまあ。


 「その……何というか、俺は二十年後も変わってないんだな」


 「どういう意味です?」


 「……いや、今俺がコーヒーを作ったのは、仲直りの意味を込めてというか、そんなものだったから。二十年後の俺も、遠回しに仲直りをしようとしていたんだろうなって……」


 「なるほど。これは仲直りの印ですか」


 温かい眼差しでカップを見つめ始めるイヴ。


 何だか急に恥ずかしくなってきた。


 「笑いたきゃ笑えよ。俺は幼いからな……こんな風にしか歩み寄れないんだよ」


 「いえ、頂きます」


 イヴは上品な仕草でコーヒーに口をつけると、ふっと微笑んだ。俺はその一瞬の微笑みに、自分の心が弾んだのを感じた。


 「……初めて笑ったな」


 「はい?」


 俺の言葉に、イヴは不思議そうな顔をする。


 ああ、なんだ。よく見れば表情だって豊かじゃないか。


 「お前、ずっと無表情だったけれど、やっと笑ったなあって思って」


 微笑んだイヴの顔には年相応の柔らかさが滲み出ており、それは素直に、可愛いらしいと思えるものだった。戦争なんてものがなければ、今、俺の目の前にいるこの少女は、もっと自然に笑うことが出来る日常を送れていたのではないだろうかと、そんなことが頭を過ぎる。


 「盃、そんなところをずっと見ていたのですか?」


 「別に。そういうわけじゃない。それに無表情とは言っても、さっきのは怒っているとわかったさ」


 「……その話はやめましょう。また口論になりそうです」


 「しかし、はっきりとさせなければいけないことだ。兵器情報をどうするか」


 この問題をクリアしなければ、俺たちは戦えない。


 「あなたは自分の意志を変える気など、毛頭ないのでしょう?」


 イヴはコーヒーを啜りながら、平坦な声で言う。


 「まあな。お前に守ってもらう立場には変わりないけれど、お前を盾のようには思いたくないんだよ。そこはわかってくれないか?」


 イヴは無言で俺の目をじっと見つめてからカップを置き、それから間もなく、もう諦めましょう、というような顔をした。


 「正直、この時間座標のあなたなら、言いくるめることができると思っていました。……ですが、やはり無理でしたね」


 「……何の話だ?」


 「私は、未来のあなたに救われたのです」


 イヴはそっと目を伏せ、まるで詩を朗読するかのように、ゆっくりとした口調で語り始めた。俺は静かに、耳を傾ける。


 「私の両親は、私がまだ幼い時に、五角戦争で亡くなりました。戦場に一人残され、人を殺すことで生き延びていた私を、未来のあなたが引き取り、育ててくれたのです」


 過去のように語られる出来事は未来であり、他人がしたことのように語られる行為は俺のものである。そんな話をされているのだと考えると、何とも不思議な気分になった。


 「あなたは私を、本当の娘のように育ててくれた。私はそのことを、言葉では言い表せないほどに感謝しています。物心ついた時からずっと、私はそんなあなたに恩返しがしたいと思っていました。……でも、私が何かしてあげたいと言っても、あなたはそんなものいらないと言うのです。いつもいつも、決まってあなたは何もいらないと言う。それが……それが何より、私は悔しかった。あなたに何も返せないというのが、辛かった……」


 俺の知らない俺と、俺の知らないイヴ。二人の間には、確かな繋がりがある。この時間座標ではまだ存在していない絆が、確かに存在している。だが、今、俺とイブがこうして出会ってしまっている時点で、二十年後の未来――イヴが話してくれたような出会いが自分に訪れる可能性は消えたのだ。


 しかし。


 それでも運命という奴は、相変わらず皮肉なものだと思う。


 俺がイヴと出会うこと、戦争に関わること、それら全ては決定事項だったということなのだろう。その証拠に、イヴとの出会いがこうして二十年も早まり、それで運命が変わったのかと思いきや、運命を狂わせたその戦争もまた、この現代にやってきているのだから。


 「私はどうしてもあなたに恩返しがしたかったのです。だから、必死に考えました。あなたへの恩返しの方法を。そして、考えて、考えて、やっと思いついたのです。兵器情報を体内に取り込み、この身を賭してお守りするという、恩返しの方法を」


 イヴが兵器情報をインストールするまでには、そんな経緯があったのか。その気持ちは嬉しいと思ってもいいのだろうか。


 いや、未来の俺ならきっと――


 「察しはつくかもしれませんが、私のしたことに、未来のあなたは激怒しました」


 当然。話を聞いているだけの俺でも、きつく叱ってやりたくなったくらいなのだから。


 「でも、これだけは理解して欲しかったのです……。私はただ、あなたをお守りしたかっただけなのだということを。五角戦争で命を狙われ続けていたあなたを、守りたかっただけなのです」


 命を賭してでも、か。


 やっぱり、俺にはわからない。


 「しかし、そこまでしていながら、私は結局、あなたの力になれないまま、日々の生活を送りました。まったく、お恥ずかしい話です。ですがそれも、霧島一矢の一件で、状況は大きく変わりました」


 「………………」


 霧島一矢。


 この時間座標に使者を送った、最初の人物。


 「霧島一矢がこの時間座標に使者を送ったのを知り、未来のあなたも、使者を送ろうと考えた。これは先ほど説明しましたね」


 「ああ。その使者がお前だったんだろう?」


 「はい」


 それも何だかなあ……。いや、待てよ?


 俺はここで、ある疑問に辿り着いた。


 「なあ、イヴ」


 「何でしょう」


 「未来の俺たちは、この時間座標にどうして自分を送らなかったんだ? 別に、わざわざ使者を用意する必要はなかっただろう」


 ああ、と。


 イブは俺の質問に淡々と答える。


 「五角の当人たちはそれぞれ、最後まで情報操作を行う必要がありましたから。自身が転送される側では、時間座標の調整などに失敗する可能性が出てきます」


 そうか。だから未来の俺たちは、自身の身近にいた信頼できる者を、この時間座標に送り込むしかなかったのか。


 「なるほどな。じゃあさっきの話だ。俺を言いくるめようとしていた、というのは?」


 「それは……」


 ばつが悪そうな様子で、イヴは佇まいを正す。


 「……その、未来であなたのお役に立てなかった私は、今度こそ、この時間座標であなたのお役に立ちたいと考えていたのです。そこで――」


 「ああ、わかった」


 話は見えた。


 「つまり、この時間座標の俺なら、何も知らない分、話を通せると思ったんだな」


 「……はい」


 イヴは顔を俯かせ、上目遣いのようにして俺を見る。また怒鳴られるとでも思っているのだろうか。


 しかし今の話を聞いて、俺はもう一度叱りつけてやろうなんて気にはならなかった。いや、そんな気も起こらないほどに呆れた、という方が正しいか。


 イヴの病じみている献身的な精神はきっと、俺が考えていたものよりもはるかに根が深い。今更俺が何を言ったところで、言うことを聞きはしないだろう。まあ、それならそれでやりようはあるというものだ。北条先生という、捻くれた大人を相手にしている俺を舐めるなよ、イヴ。


 「まあ、お前の気持ちはよくわかったよ」


 俺は落ち着き払った声で言った。お前の言いたいことはよくわかった、だから安心しなさいなという、そんな雰囲気を滲ませた声。


 「盃……」


 イヴの表情が一瞬で明るいものになる。こいつ……、実はわかりやすい奴なのかもしれない。


 まるでセールスでもしているかように、俺は台詞めいた言葉を吐き出した。


 「お前のやりたいようにやってくれ。俺は兵器情報をインストールしてもらった後は、お前に背中を預けるから。戦闘の最前線に立つような真似はしない」


 「……わかって頂けて何よりです」


 華やかな笑顔を見せるイヴだったが、無邪気な子供を騙しているようで胸が痛い。いや、俺は今、実際にイヴを騙しているのだ。


 「でしたら、早速兵器情報のインストールを」


 覇気のある声を出して、イヴは素早く腰を上げる。そして、すぐに机の反対側から、俺の横へとやって来る。


 ……えっと。


 「なあ、イヴ。別にゆっくりでも」


 「これから説明しますので、よくお聞きください」


 まずはお前が聞けというのだ。


 「インストール自体は一瞬で終わります。ただ、脳と肉体にかなりの負荷がかかりますので、最低でも目眩くらいは生じるかと」


 イヴは早口で話し続ける。もう止まってくれそうにはない。まあ、ここまできたらなりふり構っていられないか。


 「ああ……大丈夫だ。始めてくれ」


 「わかりました。では」


 椅子に座ったままでいる俺の横で、イヴは軽く、右手の平を開く。すると、イヴの手の平が緑色の光に包まれ、その光が、一点に集中し始める。


 先ほどイヴに見せてもらった、情報化という技術である。


 イヴの手の平の上に、三センチほどの半径を持った球体が現れる。まるで巨大な蛍がそこにいるようだ。イヴは左手をその球体へと伸ばし、淡い光を優しく包み込む。


 「盃。これを見てください」


 言って、球体を覆っていた左手をどける。


 「……これは?」


 イヴの右手の上には、コの字型の電極のようなものが横たわっていた。家庭用コンセントの形にも似ているが、両端はやけに鋭く、触れただけで怪我をしてしまいそうな物体である。


 「これがインストールのためのツールです。使用するのはこの一点のみですね」


 イヴは淡々と言ってツールを左手に持ち替えると、まるで見えないマッチの火を消そうとしているかのように右手を振った。同時、イヴの右手に纏わりついていた蛍光が、一瞬で消え失せる。


 「本当にこれだけなのか?」


 イヴの左手に握られている物体を眺めながら、俺は尋ねた。先端の鋭利な部分がいやに恐ろしい。


 「はい」


 「……そうか」


 短く答えたイヴの声を聞いて、俺は拍子抜けしてしまっていた。俺の勝手な想像が悪いと言われればそれまでなのだけれど、兵器情報のインストールと聞いて、俺はもっと仰々しいものをイメージしていたのだ。大型の装置でも出てきてくれたら、大体のイメージ通りであったと思う。


 「で、これをどうするんだ?」


 「こうします。痛みが伴いますが、ここは我慢を」


 イヴはそう言った直後、俺の後ろ首に迷いなくという勢いで、インストールツールの先端を突き刺した。


 「いっ……!」


 瞬間、頸椎から全身へと向かって、電流が流れていくような感覚が走る。指先、肘、肩――肉体の末端から痺れが広がっていく。段々と、足にも力が入らなくなってくる。


 「イ……ヴ……」


 これはまずい。呼吸まで苦しくなってきた。体中の血管が膨れ上がっているような気までする。いや、間違いない。きっとそうだ。


 俺は小刻みに震える右手を眼前まで持ち上げ、その様子を眺める。


 青い筋が手の皮膚の表面に浮き出し、今にも破裂しそうな状態であるのが見て取れた。きっと、この膨れ上がった血管の中には電流が走っている。そう思わされるほどに、体中を鋭い電気刺激が蝕んでいた。


 「もう少しです。耐えてください」


 冷静に言葉を掛けてくるイヴ。


 これのどこが一瞬で終わるんだとイヴを睨みつけてやりたいが、眼球も動かせない。


 ついには姿勢を保てなくなり、俺は机に突っ伏した。頭を固い机にぶつけてもなお、その痛みが気にならないほどの苦しみが続く。


 また痛みが増してきた。


 今度は背中が熱い。


 脊椎だ。脊椎を焼き切ろうとしているかのような熱を感じる。


 やばい……。意識が飛びそうだ……。


 熱はゆっくりと上昇を始め、頭部へとせり上がってくる。その感覚はまるで、嘔吐を頭でしようとしているかのようだ。


 何だ……何か、何か塊が、脳に入ってくる……。


 俺は力の入らない両腕で頭を抱え、必死に目を閉じた。


 終われ、終われ、終われ……。


 こんなの、早く終わってくれ……。


 「お疲れ様です。終わりましたよ、盃」


 イヴの声……。


 俺は机に伏せたまま、首だけを動かしてイヴを見た。


 「意識はあるようですね。安心しました」


 安心?


 おいおい、心配しているようには見えなかったぞ。


 いや、それより。


 「お前……嘘をついたな」


 「ご無礼をお許しください。一瞬で終わると言っておかなければ、要らぬ恐怖を与えてしまうと思ったのです」


 馬鹿を言うな。いきなりこんなのを味わうよりはましだったはずだ。


 俺はイヴに文句の一つでも言ってやりたかったのだけれど、込み上げてくる感情とは裏腹に、もう声の方が出てきてはくれなかった。


 「あの……お疲れのところ申し訳ないのですが、能力使用についての説明をしてもよろしいでしょうか?」


 言って、イヴは俺の首筋からインストールツールを引っこ抜く。


 鋭い痛みが首元に走り、声にならない声が漏れてしまう。


 鬼か、こいつは。


 そんなことを思っている俺の横で、イヴの手の平に乗せられたインストールツールは霧散していく。


 改めて思うことでもないけれど、やっぱり不思議な光景だ。


 「勝手に説明に入らせて頂きます。まず、あなたにインストールされている力についてですなのですが、使用は極めて簡単です」


 沈黙する俺を無視して、イヴは続ける。そんな中、徐々にではあるが、早速末端の痺れが和らいできていた。この調子なら、もう少しで動けるようになるか……。


 俺が暴れた振動でこぼれてしまったのか、机の上には所々、コーヒーの水たまりができている。俺はそのコーヒーの滴を眺めながら、イヴの言葉に耳を傾けた。


 「例えばですが、あなたは歩く時、足をどのように動かすべきか、というのを考えますか?」


 「……いや。何だよ、突然」


 声も取り戻せつつあるようだ。しかし、えらく喉が渇いている。


 「はい、能力使用とはそういうものなのです」


 いい加減にしろ。わかるわけがないだろう。


 苛立ちを隠そうともしない俺とは対照的に、イヴは表情を固めたまま、単調な声で語る。


 「つまりは、結果のみをイメージすればよいということです。歩く時に、いちいち足をどう動かすかを考えないのと同じように、能力使用も、その発現に至るプロセスは省略できるのです」


 「……ああ、プロセスに関わる情報処理は、脳で行われているわけか」


 「驚きました。その通りです。しかし、何故それを?」


 「インストールした時、何かが脳に入ってくる感覚がした。おそらくそれが情報処理プログラムなんだろう?」


 「さすがです」


 イヴは声を潜め、感嘆の溜息を漏らした。


 しかし、別にさすがと言われるものでもないはずだ。他にも、脳に莫大な情報が詰め込まれていくような感覚があった。何となくではあるが、能力使用のイメージも出来る。


 これなら、きっと戦える。


 「イヴ、能力使用については後でいい。今はとりあえず、俺たちが具体的にどう動くかを決めないか」


 俺が戦えるなら、戦略がきちんと立てられる。イヴの力と、俺の力を合わせれば……。


 戦略と呼べるほど立派なものでなくとも、勝算は十分にあるだろう。


 「わかりました」


 イヴは頷き、俺の向かい側の席へと戻る。そして、イヴが座ったのと同時に、俺は口を開いた。


 「まずはやっぱり、ルー・シュバルツェネガーをどうにかしないといけないと思う」


 ゆっくりと上体を起こし、真正面からイヴと向かい合う。


 やけに体が重い。


 今すぐ横になりたいと思ったけれど、話をまとめておかなければ休もうにも休めない。


 「しかし、ルー・シュバルツェネガーは強敵です。簡単にどうにかできる相手ではありません」


 イヴははっきりと言い切る。


 「まあ、確かにそうだろうな。兵器情報をインストールした今でも、あのロボットとまた対峙すれば、腰が抜けるかもしれない」


 「それに、今日は一体だけでしたが、あの機械兵の数を増やされたら、こちらは太刀打ちできないと思います」


 「……は?」


 イヴの言葉を聞いて、寒気がした。


 「あのロボット、数を増やせるのか?」


 イヴは頷き、表情を変えずに言い放つ。


 「少なくとも、二十年後の時間座標にいたルー・シュバルツェネガーは、同時に数百体の機械兵を展開させていました。今日のところはおそらく、初めての能力使用だったために、やむなく一体での奇襲を強行したのでしょう」


 「……待て待て。あんなのが、あと数百体だって?」


 冗談じゃない。二人組が五組、つまり計十人しかいないこの代理戦争で、ルー・シュバルツェネガーだけは数の優位性を持っていることになる。しかも、その数は数百以上。


 これでは戦いにすらならないだろう。


 「ルー・シュバルツェネガー攻略は、この戦争における最難関とも言えるかもしれません。それに、護衛のこともあります。ルー・シュバルツェネガーだけでも強敵であるのに、未知の護衛までいるとなると、もはやまともに戦うのは不可能でしょう」


 イヴは険しさを滲ませた声で言う。さすがに希望的観測で話を進めるようなことはしないらしい。


 「しかし、数百体の戦力を、全て向けてくるということはないんじゃないのか?」


 「……何故そう思うのです?」


 疑問符が目に見えるような顔をするイヴ。


 「いや、だって、市街地であんなのを出せるわけないじゃないか。今日は夜の小学校だったから良かったけれど、他の場所では出せないだろう?」


 まあ、小学校関係者には本当に申し訳ないと思う。明日の朝、大騒ぎになるだろうしなあ。


 裏庭に不明の爆発痕があるのだから、警察だって動くかもしれない。そうなると、少し厄介ではある。


 俺がそんな思考を巡らしていると――


 「残念ながら、それはあり得ません」


 「どうしてだ?」


 「ルー・シュバルツェネガーのみならず、この戦争に関わる者は、どこであっても戦闘を行うことができますから」


 「……どういう意味だよ」


 「説明をしていませんでしたが、二十年後の時間座標には、歪曲空間というものを展開させる技術があるのです」


 「……歪曲空間?」


 「はい。情報化技術の延長、と言ったところでしょうか。その歪曲空間を展開させれば、誰一人部外者を巻き込むことなく戦闘が行えます。民間人を巻き込まないようにと、五角戦争の最中に開発された技術です。この時間座標においては、便利なバトルフィールドとして利用されることでしょう」


 そんなものが実在するとしたなら、状況は最悪だ。


 「つまり、ルー・シュバルツェネガーは場所なんて選ばずに、数百体の機械兵を出現させることができる、と……そういうことか?」


 イヴは無言で頷く。


 俺はあまりの絶望に項垂れてしまいそうだった。


 「先ほど戦闘が行われた場所も、もちろん歪曲空間が展開されていました。今あの場所に戻っても、戦闘の痕跡は残っていません」


 「……嘘だろう。じゃあ、何だ、歪曲空間というのは、戦場の掃除もしてくれるってわけか?」


 「掃除というよりは、戦場そのものを消滅させるといった感じでしょうか。あれは一種の異世界です。その空間内の情報も自由に書き換えることができますから」


 戦場の消滅?


 異世界?


 いよいよ本格的にわけがわからない。


 「歪曲空間とは、現実世界の情報をコピーして作られた、疑似空間のようなものなのです」


 イヴの口から発せられる難解な言葉の数々を、俺は丁寧に噛み砕いていく。どんなに噛み砕いたところで、今度は飲み込むのが難しいのだが。


 「現実世界に疑似空間を重ね、私たちはその中で戦闘を行います。街などの構造のみをコピーして利用するため、その場にいる人間までをも巻き込むことはありません。私たちはターゲットのみと戦い、そして、戦闘が終わったらその疑似空間を消滅させる、というわけです」


 なるほど。確かに、それなら戦場ごと消滅する。戦いの痕跡すら残らない。


 「ターゲットの選定は、歪曲空間を展開させる本人が直接行うため、純粋に戦闘に関わる者しかその場にはいません。しかし、情報化技術をうまく扱えるものならば、他者が展開した歪曲空間に干渉することもできる。このような理屈の上に成り立っているのですが、理解して頂けるでしょうか……?」


 イヴは不安そうな目で俺を見る。説明したことが伝わっているのかどうか、それを気にかけている様子である。


 「まあ、相変わらずの超技術ではあるけれど、何となくはわかったよ」


 ついでに、圧倒的不利だという状況もわかった。しかし、部外者を巻き込む心配が無いのなら、その分こちらも全力を出せるということだ。


 歪曲空間、か。


 俺は考えていた。


 この歪曲空間。対ルー・シュバルツェネガー戦には不利に働くかもしれないけれど、元になっている情報がこの街であるのなら……。


 「イヴ。その歪曲空間というのは、どれくらいの大きさまで展開することができるんだ?」


 「半径三十キロ四方までなら可能です」


 「……そうか」


 なら、十分だ。


 「あと一つ質問。歪曲空間は、俺にも展開できるのか?」


 「はい。しかし、あなたが展開するのは避けて頂きたいのです」


 「どうして?」


 イヴは力の籠もった眼差しを向けてくる。


 「何か理由があるのか?」


 「はい。歪曲空間の展開には、それなりの負担が伴います。ただでさえあなたの兵器情報は負荷が高いものですから、あなたが歪曲空間を展開させ、なおかつ能力を使用するというのは危険なのです」


 ああ、なるほど。しかし、理屈はわかるけれど。


 「そもそも、俺の能力はそんなに危ないものなのか?」


 「はい。かなりのものです。普通、兵器情報には適性というものがあるのですが――」


 「適性?」


 「拳銃を展開させるくらいなら誰にでも出来ますが、そこから特異的な力にまで発展させようと思えば、脳の情報処理能力にいつか限界が訪れます。足し算しかわからない子供に、複素関数を解けというのは無理な話でしょう? ですから、兵器情報を扱う人間は、自分の情報処理能力に見合った力を身につけるのです」


 なるほど。大きな力を使うには、それだけの負担に耐え得るだけの脳が必要になる。要は脳のキャパシティの問題というわけか。


 「盃。あなたの能力は数ある兵器情報の中でも、極めて特異的かつ大きなものです。脳が限界を迎えていないのが、奇跡だとすら思える力なのですよ」


 イヴの言う通りであるなら、俺はまさしく異能ということなるのだろう。まあ、全く現実味のない話だが。


 「実感はないけれど、覚えておくよ」


 「はい。ぜひ、よろしくお願いします」


 イヴは座ったまま腰を折り、俺に向かって頭を下げる。


 んん……。


 礼義正しいと受け取るべき行為なのだろうけれど、なんだか主従関係のようで嫌だな。まあ、少しずつ言ってやろう。こいつとはこれからゆっくりと向き合っていけばいい。


 そう思ったところで俺はふと、壁のデジタル時計に目を向けた。


 時刻はもう間もなく、午前零時を迎える。


 「よし。イヴ、今日はそろそろ休もう。まだ途中の話もあるけれど、それはまた明日だ」


 「わかりました」


 イヴはそう言うと、途端に緊張を解くような顔をした。俺への長時間の教鞭でさすがに疲れたようだ。


 しかし、この話はいつしよう。


 俺はこの時、対ルー・シュバルツェネガー戦に関して、ある戦略を構想していた。実現可能な戦略かどうかはわからないけれど、もし実現可能ならば――


 俺は椅子から腰を上げ、イヴに言った。


 「イヴ。俺はお前の寝床を用意しておくから、先に風呂へ入ってくれ」


 「な……それは私が致しますので、あなたから先に汗を流してきてください」


 そう言ってイヴは急いで立ち上がろうとしたけれど、先に席を立っていた俺がイヴの横まで行き、その肩を押さえつけた。


 「いいか、イヴ。俺とお前の関係は縦じゃない。俺はお前のこと、パートナーだと思っているんだ。変に気を回したりするな」


 宝石のように青い瞳を、俺は真っ直ぐに見つめた。


 イヴ・キッドマン。


 その容姿は華奢な女の子に違いなく、けっして武器を持たせてはいけなかったはずなのだ。イヴが兵器情報をインストールした時、それを激怒したという未来の俺の気持ちは痛いほどに理解できる。


 本当に、胸が痛いくらいだ。


 しかし、そんな俺の気持ちが彼女に伝わるはずもなく、椅子に腰掛けたまま俺を見上げるイヴは、困惑の表情を浮かべていた。


 「なら、あの……私はどうすればよいのでしょう……」


 目をあちらこちらに泳がせながら、俺にそんなことを尋ねてくる始末だ。


 「……はは」


 予想もしていなかったイヴの言葉に、思わず笑いがこぼれる。


 「な、何がおかしいのですか」


 「いやいや。ごめん」


 さて、どう答えてやるべきかな。


 「そうだなあ……」


 俺はふと、今日の北条先生の言葉を思い出す。そして、ある言葉を捻り出した。


 「――甘えろよ。思いっきりな」

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