防衛戦
視点はレナさんです。
「すぐさま防衛ラインを作れ!! もう他の敵を中へと入れるな!!」
門へと集まっているロピアルズ警察会や魔法研究会、武芸強化会、そして雑賀から教えられたが、表には公表されていない悪魔退治会がいた。
戦闘のできるほぼ全てのロピアルズ隊員が揃っている。残りは内部の敵の制圧だ。
あと、正確にはまだ雑賀と妃鈴、寝虚が所属している軍事会が全員は揃っていない。
「レナちゃんはすぐにでも中へと……」
「バカを言わないでくださいですわ。わたくしも神使いですの。引き下がれませんわ」
「そう言うと思った。おいお前ら! 絶対にルクセル家令嬢を殺すな!!」
『了解!』
その前にロピアルズでも無い人が此処に居る事に対する疑問は無いのか。
外から来るのはヘレスティアの軍勢。その中に七柱芯の姿も確認されているらしい。
『黒騎士』『白騎士』『弓矢』『執事』『家政婦』『魔導士』はショウの方面のライコウの門以外の方面から攻めて来ている。まるでショウの方面へと逃げれるように逃走経路を残していた。
そこに姿が分からない『囚人』がいるのかもしれない。
その場所は罠としか考えられないうえで、ロピアルズが取った行動とは襲ってくるヘレスティアを全て撃退できるようにするために防衛ラインを作る事だった。
今はカナがこの緊急事態だというのに不在なので、指揮をしているのがこの場で一番位が高い雑賀だということだった。
寝虚が指揮を執るのもいいが、彼女は幼い為に指示はできない。
「雑賀、ヘレスティアはもうそこまで来ているぞ。カナの奴は見つからんし、スナイパー達もすでに攻撃準備万端だ」
そんな雑賀の元へと走ってきたゴスロリ服着た幼女……もとい、【風霊】地粛棺。
こんな可愛い幼女が元は背の高いおっさんだったとは何度見ても信じられない。それと、前とちょっと性格変わってはいないだろうか。
「か、変わりましたのね……。前はその体が嫌々でしたのに……」
「む。見かけない顔かと思ったらお前、前に魔法研究会に来た時に居た娘ではないか」
幼女に娘と言われる高校生って……。
ちなみにジーダス攻略戦では一度も出会っていない。聞いただけだ。
「私は改心したのだ。今ではこの体もすんなりと受け入れられる。まぁもう少し背が高くなればと思うのだが……アンドロイドの体ではそれも望めないか」
体を見下ろしながら呟く棺。その様子に雑賀が何やら顔を押さえて反対方向へと向いていた。
まさか元男にも反応するのだろうか。と思った矢先、そう言えばリクも男性の方だった事を思い出していた。
「雑賀、いつまでのんびりしているんだ? 戦争だぞ?」
「あぁ……分かってる……。俺たちは籠城戦をする。一歩も外に出るな。一歩も中へと入れるな。撃つタイミングは任せると伝えてくれ。俺は正門指令室へと向かう」
「了解」
棺は礼をすると足に風を纏って宙を駆けて行った。
「見えそうで……見えぶはぁ!?」
その下を覗こうとした雑賀が後頭部を盾で殴打された。
「何をしているんですか天童さん。今すぐ殴りますよ?」
「殴った!! 今言う前に殴ったぞ妃鈴!?」
「ではもう一度殴りますか?」
「やめてくれ!? それよりも、カナちゃんは見つかったのか?」
妃鈴は雑賀に言われてカナを探しに本部へと行っていた。目的はそれだけじゃなく、市民の避難勧告もそうだ。
「それが、カナ様はどこにもいなくて、これ以上の捜索は無駄だと思いました。ロピアルズ社長室の机にこれがありましたので」
雑賀が手紙を受け取り、開いた。わたくしもその横から手紙を除くと、内容はこうだった。
[死なない程度防衛してショウに逃げなさい♪ 私はやる事があるわ♪]
「どういう……事ですの……?」
わたくしはその手紙に書かれている事が信じられなかった。
まさかライコウを捨てるというのか?
そんなことをして一体何を……。
「天童さん……。念のため、小姫様に話した所、ショウにライコウの全市民を逃がす事をお許しくださいました。後は私が合図を送ればいいのですが……」
妃鈴が手に持つは小さな巻物だ。おそらく合図をするため、信号弾の魔法が発動する事が出来るのだろう。
「他の軍事会の方は小姫様と市民の護衛へと当たっています。カナ様の命令だそうです」
「…………」
雑賀が悩む。
だけど、その手紙は明らかにカナの直筆だ。それだけは字面からよくわかる。
「……分かった。市民の避難が先だ。妃鈴、お前は市民と一緒にショウへと向かってくれ。罠だとは思うが、くれぐれも死なないように」
「わかりました」
妃鈴が雑賀の言葉に答えて巻き物を空へと向けて開いた。するとそこから魔法陣が展開され、空へと向けて信号弾が放たれた。
「各隊員、聞け!」
雑賀が耳に当てているトランシーバーを操作して作戦内容を話した。
各々反対するような声が上がったが、カナの命令だと言うと渋々と言った風におさまった。
国を捨てる。それがカナが決断した命令なのだ。
「わたくしはどうしますの?」
「すまないがレナちゃんは正門の上の砦に立ってくれ。そこから神の力を使って敵を倒して欲しい。これは戦争だ。命を奪っても文句は言われない」
「わ、わかりましたわ……」
いや、わかっちゃいけない。そんなのは誰もが望んでいない。でも、そうするしかないと誰もが考えているだろう。
わたくしは雑賀に指示された通り正門の砦に行き、階段を上って行く。
中ではすでに爆発音がしている。そちらの方にも何十人も抑えに行っているのだ。
これ以上敵を入れるわけにはいかない。
わたくしは急いで砦の屋上まで登ると、そこはすでに何百人ものロピアルズの人達がいた。
屋上はとても広いので何百人といても動き回れる程度の広さはある。
端は凹凸が繰り返されていて、それぞれの場所にロピアルズ兵が隠れていた。
「総員、ねらえ!!」
すでにスナイパーなど遠距離武器を顕現するロピアルズの人達は構えてスコープを覗いている。
屋上に出たレナに気づいた一人がこちらへと歩みよってくる。前にも会った事がある。
黒いフード付きローブを着た老人だ。
「おやおや。貴方様は確か研究会に来た事のある……」
「レナですわ。ケオズさん」
「くっくっく。名前を覚えておられて私は光栄で御座います」
怪しそうなこの雰囲気はこんな明るい場所に出ても変わらないようだ。
わたくしは屋上から外を見ると、そこにはもうすぐそこまで来ているヘレスティアの軍勢が……。
「撃てぇ!!」
指揮官らしき男に言われ、構えていた遠距離部隊が一斉に攻撃を始めた。
銃声の騒音が幾重にも重なって聞こえ、相手兵の体をどんどん撃ち抜いて行った。
しかし、ヘレスティアも黙っているわけにはいかず、その場で盾や壁の魔法を放って進撃を止めて銃や魔法で応戦してきた。
その銃弾や魔法を受けたロピアルズの隊員達が呻きながら倒れたり、ある者は頭へと直撃して即死してしまった者も居る。
その様子にわたくしは口元を覆った。
「レナ様。人の死を考えていては戦争には勝てませんぞ? 即刻立ち去るべきです」
ケオズはそう言って魔力を練り始め、魔法を発動し始めた。
「いえ……やりますわ。そのために此処に居るんですわ。カイシン」
『うむ』
わたくしがその手に武器を顕現する。
それは腕に納まるぐらいの大きさのハープ。曲に惹かれたカイシンが顕現する神具だ。
前衛向きで無いわたくしには丁度いい武器だ。
「ほぅ。武器顕現するための言葉も無しに」
「細かい事は説明しませんわ」
できればもう二度と戦争なんて起こす気が無くなるよう。
――わたくしはなるべく大きな魔法を放った。
「〈ウォーターハザード〉!!」
ハープの音を奏でながら、わたくしはその魔法を放った。
すると正門と地面の間に突如として洗われる大量の海水。
「全てを飲み込んで流してしまいなさいですわ!!」
超巨大とも言える波が襲い掛かって来ていたヘレスティア全軍を全て飲み込んでいった。
ヘレスティア軍の悲鳴が聞こえたが、わたくしはその声を耳を塞いで聞こえないようにしていた。
大丈夫。わたくしが殺そうとしないかぎりこの魔法で死ぬはずは無いと自分で自分に言い聞かせ、それからもう一度魔法を放つ。
「〈ウォータースパイラルランス〉!」
拡散目的の水の槍を数千、空へと放ち、全てがヘレスティア軍がいたその場所へと降り注いでいく。
「行けるぞ!? まだ起きていた奴がいたらそいつから狙え!」
いつの間にか銃声が聞こえなくなり、静かに待ちかまえているロピアルズ軍。
わたくしは立っていませんように、と願いながら水がおさまるのを待った――次の瞬間。
ドパァァンッ!! と水柱をあげてこちらへと急接近する何者かがいた。
それを合図に一斉に銃を撃ち始めるロピアルズ軍。
だが撃ち落とすその前に、その人影は砦の屋上へと到達。壁として隠れていた凹凸の岩を壊しながら着地してその人影は黒い甲冑を着こんだあの男だった。
「黒騎士!?」
「小娘。確かヘレスティア城門であったな。なるほど、貴様の魔法が先程の海魔法か」
「くっ」
黒騎士がこちらへと睨んでいる。わたくしはそれにおじけて一歩後ろ脚を下げた。
その時、剣を構えていたロピアルズ兵が黒騎士へと剣を振りかぶてた。
「らぁあ!!」
「邪魔だ」
その兵士の首元を斬り捨てる黒騎士。
その様子に怒った他の者達が奮闘して黒騎士へと群がった。
「〈ブレイズスラッシュ〉!」
「〈神速〉」
「消え――」
黒騎士の速度に驚いたロピアルズの人が次の瞬間に剣が腹から突き出て、それが上へと移動して両断した。
「こ、これがコードネーム持ちッ」
「怯むな! 此処で絶対に止めをさせ!」
「刺せる者が居るのならな」
次々と殺して行く黒騎士。ロピアルズで訓練されていった者達ばかりなのにそれをものともしない力を振るって行く。
その様子に衝撃の二文字を浮かばせていたわたくしはすぐさま助けるべく魔法を放った。
「〈ヴォルテックプリズン〉!」
「遅い」
剣先が、わたくしの首元へとたてられていた。
「!?」
「貴様は殺さん。土産とするのだ。王へのな」
その言葉を聞いた次にはわたくしはその手に顕現していた水の槍を放つ。
だがそれに気づいていたらしき黒騎士はそれを楽々と避けると剣を逆手に持ち替えてわたくしの腹へと突いた。
「かはっ」
あまりの痛みに意識が全て持って行かれて、倒れ込んだ――。
――その目の端には、魔法で攻撃しようとしていたケオズの腹に黒騎士の剣が突き立っていた光景が移って消えて行った。
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