病棟の戦い
視点はマナちゃんです。
「くっ、あの槍が一番邪魔!」
ウチは襲い掛かる海水から逃げ続け、やっとの事で帰ってきたフィエロを弓へと変えてから弓で反撃をしていた。
しかし、その矢も全て死海が持つあの神具の槍によって全て防がれている。矢は二本だったり、曲線を描かせたりしても全部防がれるのだ。
さすがにこのまま弓で意味の無い攻撃をし続けると魔力が勿体ないので弓を引き絞るのをやめて下から水柱が上がってくるそれを回避し続ける。
「どうしたのマナお姉さん。僕に攻撃しないの?」
「黙ってなさいよ! ちょっと考え中!」
相手に言う事は無いが、つい言ってしまう。
「そう。じゃあどうぞ。その間僕は水柱だけで攻撃してあげるから」
死海はそう言ったまま、足場としている水柱をイス代わりにしてその場に座った。それから少し咳をした。
その様子に疑問を抱いた。まさか彼が病院に居て、病人の服を着ているという事は、まさかとは思うけど本当に病気で寝込んでいたのだろうか?
休めていた体を無理やりに動かしているのだろうか?
ウチは水柱が来ないであろう病棟の屋上まで飛ぶと、その縁へと着地した。
やはりと言うべきか、水柱は天に向けて真っ直ぐにしか伸びないようで、ウチへと襲ってくる水柱が無くなった。
「〈火渦〉!」
ウチはまたも火で死海を炎で囲んで攻撃した。
「そんなの、無意味なのに」
炎で見えていないが、影で分かる。死海はゆっくりと槍をあげて、そうして迫ってくる炎の渦を待ちかまえていた。
――今だ!
そう思ったウチは構えたフィエロの弓を思いっきり引っ張った。
「神と魔の力よ! 太陽の力を持って敵を貫け! 〈神魔破陽弓〉!!」
ウチは周りが見えない死海へと向けて、その矢を放つ。
金色の光を放って死海へと向かう一つの矢。
それは真っ直ぐ死海へと向かって行き――。
「!?」
金色の矢に気がついた死海は〈火渦〉が到達する寸前に接触した金色の炎の矢をその槍で消した直後に〈火渦〉を消すのではなく足場としていた水柱の中へと逃げた。
襲っていた炎の渦は間の空間を無くし、渦を巻き起こして消えていった。
「あいつ……」
今の行動はどう見ても回避行動だ。
もしかしてあの槍で消しきれない魔法があるというのか?
とすると、少しは勝機が見えてきただろうか。
下へと逃れた死海がどこに行ったのか確認しようとして覗こうとした直後、目の前に上がる水柱。
「遊ぶのはもうやめた。今すぐ捕まえてあげるよ。マナお姉さん」
水柱の上に乗っていた死海がこちらへと槍を構えてジャンプをしてきた。その速度は通常の人のそれで、ウチは死海が接触するよりも先に後ろへと飛んだ。
そこからまた〈火矢〉を放った。
「そんなの無駄だって! 〈ウォーターロック〉!」
あがっていた水柱から複数の水が襲ってくる。
ウチはそれを何とか避けながらもその間から矢を放つ。
槍を振るって消す死海。先程のように避けたりはしない所を見ると……。
『マナ様! 前を見てください!』
「え――」
次の瞬間。ウチは勢いよく突然現れた海水の中につっこんでしまった。
「むぐっ! ゴボッ」
少し海水を飲んでしまったおかげで咳き込んだ。それによって空気も吸い込む事もままならなかったのに大量の酸素が外へと出てしまった。
(苦しい……ッ!)
ウチは早くこの苦しさから解放したいと感じですぐさま体中が燃えるようなほどの魔力を蓄えてこの海水を蒸発させてやろうかと思ったが、全然ダメだ。
〈炎翼〉は海水の中へと入ってしまったために解除されてしまって自由が効かない。フィエロの弓で射ぬこうとしても矢を生成させなければならない。その矢は火の魔法だから生成なんてできない。
万事休すとも言われるほどの八方塞がりで逃げ道が無い。
「あははっ。まったく、マナお姉さんたら。運転中はしっかりと前を向いていないとね」
ウチを捕まえて満足なのか、無防備に近づいてくる死海。
正直、ウチが考えうる可能性ではこの海水から抜け出す算段をつける事が出来ない。
酸素も無くなってきた。早くしなければこのまま溺死……。
(フィエロ、何か……)
『す、すみま……せん……。この海水……。私……いえ……火系統に属する……神まで……抑える効果……があるようで……』
フィエロが苦し紛れに答える。
つまり、本当に撃つ手が無いという事……。
(何か……何か……ッ)
ウチは苦しい中で必死に考える。それによって更に酸素が奪われるが助けてくれるような可能性は無い以上、自分で助からなければ……。
その時に、ふと右手が視界に入った。
いや、正確にはその右手首に嵌められている一つの腕輪が……。
(なんだっけこれ……。あぁ、そうだ。ヘレスティアに居た変な店主……確かクムイ。そいつが押し付けた閻魔の腕輪……だっけ……)
ウチは朦朧とする意識の中で、ヘレスティアに居たころの事を考える。
無意識的にその腕輪に触れる。
すると、海水の冷たい感触じゃなくて、とても熱い。とても熱い力を感じた。
まるでそこから出たいと言っているみたいだ。
クムイとか言う店主は怪しいけど、この腕輪は本物だと言わせる何かがある。
何もしなければこのまま死ぬ。だったら、やってみる価値はあるかもしれない。
ウチは、その腕輪に思いっきり魔力を吸わせた。
(!? な、何これ!?)
ウチが魔力を吸わせたその瞬間。体内からとてつもない量の魔力が腕輪に物凄い速さで喰われている。
このままでは今すぐにでも魔力切れで気絶してしまいそうだ。
(ヤバイ! すぐにやめて――ッ!?)
だが、魔力を流すのをやめようとするも腕輪が魔力を吸い上げている力の方が強くて体中から流れる魔力が一切止まる気配が無い。
(嘘……でしょ……)
いつの間にか体中に感じていた魔力が枯渇している。もうこれ以上は出ないよと考えてみてもまだ吸い上げる腕輪。
まだ、魔力が足りないのか……だったら……。
(明日の分までの魔力全部くれてあげる!!)
もう魔力なんて無い。でもフィエロはウチにはまだ封印されている魔力があると言った。
今使える魔力を全部流しても死なないだろう。
だから、ウチはありったけの魔力を全部腕輪に集中した。
「マナお姉さん。一体何してるの? その腕輪、みた事ない腕輪だ……。一体……」
死海がようやくウチの異変に気がついたのか、眼を細くしてウチを見てきた。
もうコントロールできるような魔力が全部つきたその瞬間。
――右手首に嵌められている腕輪が眩い光を放って閉じ込められていた海水を全て吹き飛ばした。
「なっ!?」
水の檻が壊れた事に驚いたのか、死海が素早く寄り添った海水に乗って後ろへと後退していった。
眩い光を放っている腕輪。
ふいに、その腕輪が誰かの手によって覆われると、光がおさまり、元の腕輪に戻っていた。
「今の……は……」
魔力が零点一コンマの量しかないウチは自分でもよく起きていられるなと思うくらいに疲弊していた。
これでは弓を引き絞る事はおろか、立つ事すらできない。
このままでは……などと思っていると、いつの間にかウチの目の前に立っている何者かがウチの首と膝後ろを持って抱きかかえてくれた。
「へ?」
突然の事にウチは頭を混乱させ、目の前にある男の顔を見てみる。
うん。どこにでもはいそうにないイケメンの部類だろう。
しかしウチが知る人物では無い。そんな人だったらウチは驚く以前にさっさと下ろす事を要求するので……。
「だ、誰……?」
「今。主が呼んだではないか。爓巫よ」
威厳のある声が重苦しく響く。普通の人にとってはそれだけで竦み上がってしそうなほど、その人物の雰囲気が怖かった。
それにしても……よ、呼んだ? ウチが?
一体どういう事かさっぱりと分からないウチは近くの壁を枕代わりにして座らされた。
「えっと……貴方は……一体……」
ウチは辛い体を何とか起こしながら、そう聞くと、その者は答えた。
「呼びかけに答え、冥府より参った。地獄の覇者。閻魔大王」
え……閻魔……?
それって……この腕輪から召喚されたってこと……?
視点は一応次もマナちゃんのつもりです。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
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