船ですごす夜
ボクもアキもパジャマに着替え終わると、体が疲れていたためにベッドへと横になった。
いつもならすぐに寝られるのだが今日ばかりは違った。
ヘレスティアからの脱走。炎を司る守護十二剣士。世界の鍵。ショウの姫君。
いろんな事がありすぎて疲れては居ても目がさえて仕方が無いのだ。
まるい窓の外を見ると、もうすでに日の出が出ている事もそのうちの一つとなっている。
朝日はとても眩しく、ボクはその朝日から逃れるようにしてカーテンを閉めた。
「リクちゃん、眠れないの?」
「はい……。だって、今日はいろんな事があったから体は疲れていても、たくさんの気になる事があって……」
「だったら……さ。ちょっと私の話し聞いてくれない?」
アキがベッドに横にしていた体を起こすと、ボクへ向けてお願いをしてくる。
そのままの状態でもいいと思うのだが、アキがせっかく体を起こしたのだ。ボクも同じようにベッドの上に座る事にした。足はベッドから放り出して。
「どうかしたんですか?」
「その……ごめんね。リクちゃん」
「へ?」
突如として謝るアキ。
ボクはその真意に気づけず、首を傾げた。
「だから、私がリクちゃんをしっかりとサポートできないって事……。さっきの白騎士との戦いだって、私がもっと強ければきっと……」
――勝てていた。
アキが言葉を濁したが、おそらくそう言いたかったのだろう。
だが、白騎士との戦いでアキがそんなに恐れる事は無いだろう。
「そんな事ないですよ。アキさんは十分注意を引きつけてくれましたし、何より一回目は逃げる事が出来たじゃないですか」
「でも、二回目は……」
二回目は仕方のない事だろう。白騎士みたいな強者に二回目も当てられるなんていうのは相当な腕前が必要だろう。
ボクにそんな技術は無いし、アキが悠々とそんなことをやってくれたら絶対にアキに勝つことなんてできなさそうだし。
「二回戦目は確かに死んじゃいそうになりましたけど、こうして生きてるじゃないですか。アキさんがボクと一緒に戦ってくれなかったらきっと蜜さん達が来る前に死んじゃっていました」
ボクの攻撃だけじゃない。阻害魔法を繰り出していて、それに対応せざるを得なかった白騎士。アキの阻害魔法が白騎士へと避けられていても降り注いでいなかったらきっとボクは一瞬で瞬殺されてしまっていただろう。
「それだけじゃない。森で龍と戦ったときだって、リクちゃんは屈せずに戦いぬいて……。こんな私なんかの魔法が効く事を教えてくれて……」
アキの声がだんだんと曇って来て顔がうつむく。
ボクは今言うのは野暮かと思い、黙って聞いている事にした。
「私はなんにもして無い。なんにもできていない……。試練の最後だって私だけ記憶が無くて、途中で気絶しちゃってたんでしょ? それなのにリクちゃんやユウちゃんは文句を言わなくて……。でも、ヘルちゃんには逃げられちゃって……」
確かに、逃げられた……と言えば逃げられたのだろう。
だけどもボクはそうは思っていない。まだヘルはアキの事を見放していないような気がするのだ。まだ、アキを信じているんじゃないかって。
じゃなければアキにトラウマなんて埋めてどうすると言うのだ。暗にヘルは、そのトラウマを克服しろって言っているということではないかとボクは考えている。
「リクちゃん……」
アキが顔をあげる。その瞳には、
――初めてみた、アキの涙が……。
「私、どうしたら強くなれるかな……?」
「アキさん……」
アキのその言葉には、二つの意味が入っているのだろう。
「今まで強がってみたけど……。両親が死んでも、ハナのためにと無理やりに笑って来てみたけど……。引き取ってくれた師匠が急に居なくなっても……。何とも無いって思って頑張ってみたけど……。探してる情報が何一つ入ってこなくても……笑って過ごしてきたのに……」
「アキさんが探してる情報? それって一体……」
アキが少し顔をうつむけて話してくれた。
「私の両親と……ハナの両親を殺した人物……。私は親が死んでから、今日この日までずっとその情報だけを探していたの……。正直、他の情報は副産物。毎日事件を追って行ったら知って行く事が出来ただけ」
アキとハナの両親を殺した人物を追っていただなんてまったくと言っていいほど知らなかった。授業中でも抜けだすと言う話は聞いた事があったがよもやこんな裏話があるだなんて誰だって分かるはずは無いだろう。
「その人物を見つけ出したら……アキさんはどうするつもりなんですか?」
ボクは今思った一番の疑問をアキにぶつけてみた。
殺すだなんて思っているならば、今すぐにでもアキを止めないといけない事は分かっている。
ボクはそんな瞳でアキを見ていると、アキは口を開いた。
「別に殺す事はしない……。ただ、罪を償って欲しいだけなの……。私とハナの両親を殺した罪を……償って欲しいだけなの……」
アキは膝を抱え込んだ。せっかく借りたパジャマが濡れていくのが目に見えてわかる。
普段はあんまり弱音をはかない【情報師】。だけど、目の前に居るのは紛れもなく、とても弱々しい女の子の姿だった。
「でも、そのためにはヘルちゃんの力が欲しいの……。なんでも知ってる、情報の力が……。でも私にはそれを受け止める力が無いからヘルちゃんが離れて行ったんだよね……?」
――壊、れた。やっ、ぱり、アキ、には、無理、か。
ヘルの残念そうな声音が頭の中に響き、アキの震える声に、ボクは黙って頷くしかなかった。
「どうしたら強くなれるの……? リクちゃんみたいに……どうやったら力も……精神も……強くなれるの……? どうして世界の運命を目の当たりにして立っていられるの……?」
アキは言う。その目はやはりいつものアキでは無い弱い瞳。不安な瞳。
いつも孤独に戦い続けている、一人の女の子の瞳……。
だからボクはベッドから立ちあがり、泣いてるアキの傍まで寄った。
そして、ボクはそのままアキを真正面から抱きしめる。
「アキさん、こうしていると安心して来ませんか?」
「え……?」
アキはボクの言葉を聞いて、しばらくそのままでいる。
「少し……。でも、それとリクちゃんの強さにどういう……」
「ボクはですね。強くなんかありません」
「嘘……。だってリクちゃんは一度も逃げないもん……」
「それはみんながいてくれるから……仲間が、いてくれるから、その場に立って居られるんです」
仲間が居てくれなかったら、ボクは怖くなって全てを投げ出して今頃赤砂学園に行っているだろう。ヒスティマなんか知らないと言って。
でも、こっちにも繋がりを持ってしまったし、第二の故郷となったようなもの。
「十分……強いよ……。私も、仲間を信じたら、強くなれるかな?」
「もちろん!」
ボクは満面の笑顔で、アキに笑いかけてあげた。
アキが少し照れくさそうにしているのを見ながら、ボクとアキはそのまま眠りについてしまった。
――仲間を信じて仲間も自分を信じてくれる。だからこそボクは足を立てて歩きだせていた。
あの日までは……。
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