『守護十二剣士』
「ここ……は?」
部屋の中には古くボロボロのベッド。草木がからみついているテーブルやキッチンなど、明らかに人が住んでいただろう物が複数置いてあった。
「えっと、ヘルちゃん? ここはどこになるのかな?」
アキも飛ぶ先は知らされていなかったようで、ヘルに訊いていた。
「ここ、は。森の中、で。敵国の、侵入、を、許さ、なか、った、人が、住んでた、家」
「敵国の侵入? ここはつまり防衛ラインだってこと?」
そうは聞いても、要塞のような壁は見当たらないし、今いる小屋以外にありそうな建物は無い。深夜だから視界が悪いなんて思っていたが、所々淡い光が漏れているので見やすいのだ。
すると、触っただけでボロボロと崩れていく木くずを見ながら、ユウがヘルに質問した。
「大体の物が腐ってるね。何年昔の話?」
「だい、たい。八千、年前」
「八千年!? そんなの、この小屋が立ってる方がおかしいよ!?」
ユウが驚きながら叫ぶ。確かに、こんな所に八千年もあるなんて……。ちょっとでも強い風が来れば必ず壊れてしまいそうな小屋なのに。
そう考えていたが、そういえば今ボク達は靴のままで部屋の中に居る。床を見てみると、そこは土。床らしき姿が見えなかった。いつでも外に出られるように部屋の中でも靴を履いたままだったと言うことだろうか。
「いくら魔法で補強しようにも補強した人間が死ねばかけた魔法は解けてしまう。なのにこうやって今も小屋があるってことは……その人間は生きてるの?」
「生き、ている、と言えば、生き、てる。死んで、いると、言えば、死んで、いる」
ヘルが曖昧な答えを返すのでユウは頭を押さえて悩んでしまった。
ボクも興味がわいたので、少し部屋の中を探索する事にした。ベッドを触ってみると、とても堅く、弾性の力が働かずに押さえたままでへこんでしまった。部屋の真ん中に置いてあるテーブルの端を触ってみると、ちょっとした力でパキッと音が鳴って折れてしまった。
イスもあるけど座ったら絶対に壊れるだろう。
「すごい。服まで残ってる……」
アキがクローゼットをあけると、そこには服が何着かハンガーにかけてあった。だけど、不思議だ。服はなぜか新品で、腐ったような感触がしない。
全て男物で、サイズもキリぐらいはあるのでボクは着るつもりはない。いや、サイズが合っていたら少し拝借しようかななんて思っていた。この姿が少しきつい。
ボクは目の端に見つけた、机のような物に近づいた。草木で完全に隠れてしまっているが、明らかに机だろう。
引き出しがあるので、草木をどかしてから取っ手を持って引くと、見事にパキンッと壊れてしまった。仕方ないので引き出しは下から手を添えてあける事にする。すると、中には一冊の魔法の掛かった本が。
特に危険な魔法でもない。ただこの本を風化してしまわないようにかけてある魔法だ。
ボクはその本を手にとって題名を読んでみる。
「『守護十二剣士』……え!? こ、これって……」
守護十二剣士なんて本がどうして存在するのか。どうしてこんな所に本が置いてあるのか、不思議で仕方がないが、とにかくボクはその本の一ページ目を開いてみた。するとそこには……。
『俺達は全員、奴等を探……。奴等の事を覚え……たのは城に住んでいた……だけ。
太陽 幻…… 貫禄爺
封 小林…… 封印精霊兼放浪癖
森 …… お調子者
炎 クウ……チ…………ワイト 姫の相談役兼防衛任務専門
力 ……魔 命に忠実な馬鹿力
水 冷…… お淑やか且つ冷酷
風 ビ…………リカ 双子兄
知 ヒナ・リリカ 双子妹
光 …… 天使
闇 …… 悪魔
土 カザル・ルイベルト 貴族だが権力は振るわない
月 闇丸 暗殺任務専門
こ……番は単純に現役の時の力差だ。……て今……時計軸の方向……ある。
……るものか。世……救ったみなを、兄を、そ……我らが姫を、忘れる……か』
と、そう刻まれてあった。
所々汚れてしまって読めない部分があったが、まるで誰かの感情が詰まった日記のようだ。題名は守護十二剣士と書いてあるけど、日記と言われても差し支えない。
そして、ボクはこの本を読んで白夜に貸してもらった『古書』を思い出していた。あの本の最後には、人々の記憶から自分達の事の記憶を消したと記されていた。ここに書いてある事が本当なのだとしたら、守護十二剣士や英雄姫についての記憶は、城に住んでいた人達の記憶からは消えていなかったということだ。
いや、それは当り前なのかもしれない。じゃなければ、誰が『古書』を描くのだ。
「お兄ちゃん、それ……」
「うん。たぶん、書いたのって八千年も昔の人なんじゃないかな? 魔法が掛かってるから風化されずに――」
「待って、どうして魔法が掛かってるの!? 魔法をかけた人が死んだら魔法は解かれてしまうはずなのってさっきユウちゃんが説明してくれたじゃん!」
そういえばそうだ。どうしてこの本には魔法が掛かっているのだろう?
ボク達は全員がヘルに視線を向ける。
「その、本に、魔法、をかけた、人……。ううん、悪、魔は、生き、てる」
「あ、悪魔が? どうして悪魔がそんなことを?」
そういえば、今読んだこの本の一ページ目にも悪魔と書かれていた人が一人だけ居た。その人は守護十二剣士だから生きてはいないだろうとして、他にも悪魔を仲間につけていたと言う事?
「世界を、旅して、る悪魔、だけ、ど。人、は、襲わ、ない」
「どうして? 悪魔がそんなことをする理由が……」
「それは、始祖の雷神との決闘で封印され五十年。姫様との決闘で負けたからだ」
「「「!?」」」
突如として姿が現れる男の人。その傍らにはヘレスティアにつく前に襲ってきた狼の姿が。
ボク達はその姿を確認すると、すぐに武器を取り出す。まさかヘレスティアからの追手が此処まで来たのだと思ってしまったからだ。
だが、男は襲ってくる様子は無い。武器を取り出す様子も無い。
「姫様との決闘で負けた獄炎の貴公子は元々始祖の雷神と友であった。二人が決闘する事になったのは獄炎の貴公子が悪魔王に命を受けたからだ。悪魔王の命には背けん」
「獄炎の……貴公子?」
「数々の国を焼き払ったその姿を見た兵士が言った言葉だ。その悪魔は青少年の姿をしていてな。一国を治めていて、それでいて荒れていない。とても変わった悪魔だったのだ」
男は何もせず、ただゆっくりと歩いてきて目の前にあったボロボロのイスに座った。その際、イスが淡く光り、補強された事を知る。
戦う意思は無いのか、ただ話をするためだけに出てきたのか、ボク達は全くと言っていいほどわからなかったが、構えていた武器はそれぞれ鞘におさめた。アキはカメラから手を放した。
「貴方は、誰なんですか?」
ボクは意を決して男に聞いた。男は伏せていた目をこちらに向け、言い放つ。
「我は守護十二剣士が一人。我が名は我を倒した者のみ聞ける幻名。始祖の始まり、〝雷光の姫君〟四の守り人。ヒスティマにて、すべての炎の根源を司るもの。問う。なぜに求める」
目の前に居る守護十二剣士の一人だと言う男がそう言った次の瞬間。
「――ッ!?」
アキの表情が驚きに染まり、息を飲んだ。
「久しいな。娘よ。今は我がしっかりと見えているか」
ボクはその男の言葉を聞くと、アキに振り向いた。アキはぎくしゃくしながらも、首を何とか縦に頷いた。
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