Intermission 行橋雁也(レグル)
視点は雁也です。
「ふッ。ハァ!」
城に潜入して一日が経った。
その一日だけで、ある程度の情報が手に入った。普通の人では一日である程度情報が入るような人などいないだろう。私もそうだ。
だが今回は時間が限られている。私は少し危ない橋を渡りながらも、もう一人の自分であるミュアの力を借りてその端を渡った。基本、私が操っているレグルが情報を知り、ミュアは目をそむけさせるような行動をとらせた。おかげでメイド長にまた引っ張って行かれた。
さて、手に入れた情報の中に、敵勢力もあった。
まず、この城に居る人間は約八千人。内兵士が七千人程度。残りの千人は召使いや城に滞在している七柱芯や貴族や王だった。
そして驚いた事に、この城の地下には更に兵士の訓練場があり、そこで訓練する兵士は二万を軽く超えている。
地下の訓練場がどれほど大きい事か。ヘレスティアのどこの地面を掘ってもこの訓練場へとたどり着きそうだ。
そして、今俺は二万を超えていると言った。そう、一般の人間の兵士では気づいていないだろうが、この訓練場で訓練している兵士の内、約一万ニ千は悪魔、もしくは幻魔だったのだ。
(これは、かなり驚くべき事実です……。どう考えてもこの国の王はただの人じゃない。悪魔を操っているような男として見受けられませんね……)
異常だ。悪魔をこうも使役できるなど訊いた事がない。もちろん、この国の王が邪神級の悪魔なら納得できる。
だが、昨日王の間での警備をした所、王の姿は老いた老人でしかないような感覚しか感じなかった。つまり、この国を影ながら操っている奴の姿を想像した方がよさそうだ。王はただの飾りにすぎない。
温厚だと言われていたが、納得だ。あんな王ではこの国は保てないだろう。
しかし、その考えは影で使役している人を探そうとして昨日あった政治に関する会議に身を潜めて参加した事で覆された。
参加していた人は七柱芯の内六人と、王が一人。召使い二人に貴族が数人いた。
七柱芯は『執事』『家政婦』『弓矢』、そして『黒騎士』と『白騎士』『魔導士』だ、
黒騎士と白騎士は、それぞれ黒い鎧と白い鎧の全身甲冑を着ていて顔までは見れなかったのが残念だが、その腰にはそれぞれ対になる黒薔薇と白薔薇の剣が装備されてあった。本人たちと武器からは、同じ魔力を感じるので、おそらく本人たちの魔力で作った武器何だろう。
そこから、対になっている武器というのは分かりやすい物で、黒騎士と白騎士は双子。もしくはそれに近い人間だと言う事がわかった。
魔力が似れば、自然と武器も似るのだ。
魔導士に至っては、全身をフード付きローブで包んでいて、表情、体格などまったくわからなかった。武器も持っている様子がなかったので、隠しているだろう事を感じた。
そして、そこで放された内容は、ほとんどが悪魔と世界崩壊の内容だった。
思わず息を飲み、その内容を覚えるべく必死に話を聞き続けた。
そして、作戦というのがこうだった。
ライコウへと戦争を仕掛け、別働隊が聖地を手に入れる。聖地を世界の中心へと連れて行き、世界を管理する無の世界を出現させる。無の世界へと入り、そして世界を滅亡させる。ありとあらゆる所に悪魔を召喚して……。
――無謀だ。
そんな事をしたらここに居る奴等もタダでは済まない。世界中に悪魔を出現中させたらどこもかしこも悪魔だらけになって無差別に人を襲い始める。そうまでして何故世界を崩落させたいのか、その目的が全く分からない。
そうまで考えて、私はその会議の様子をずっと見続けていると……。
――チラッとこちらに目線を送ってきた王と目が合った。
そこからはあまり覚えていない。全身に悪寒が走った後、全力でその場から逃げたことしか覚えていなかったのだ。
あの様子は、完全にバレている。一応顔がバレない様にマスクをして来たために顔は見えていないし、暗い場所に居たから分からないと思っていたのだが、あの様子では完全にバレテいる。
一体いつ私が失態を犯した事も分からないまま、夜が明けてしまった。
王はタダものでは無い。それが一夜で明かされた真実。影で使役しているような人もいなかった。あれは完全に王自身が考えて行動している。
お飾りでは無い。王の本質が見抜けない。王に視線を送られただけであんなにも悪寒が走ったのはカナ以来の出来事だった。
本能が、私は王に勝てない事を知らせる合図。
「どうした? レグル。剣が鈍ってるぞ?」
「あ、あぁ。すまない」
今は訓練中だった事を忘れて考え事をしてしまったせいで、剣の動きが鈍くなっていたみたいだ。レグルの記憶が覗けるのでレグル本人の動きには間違いない。
「よし、本日の訓練はそこまでッ!! 各自一旦休憩後、持ち場に戻れッ!!」
兵士長の声が訓練場に響き渡り、それぞれの兵士が振っていた剣を納めた。
目の前に居るオズや私も剣を鞘に納める。
「よしっ。今から昼飯食べに行こうぜ! この時間帯ならミュアちゃん食堂に居て食べ物運んでくれるだろ?」
「よせ、オズ。恥ずかしいだろうが……」
「照れるなよぉレグル。くぅ、羨ましいぜこの野郎!」
ぐりぐりと拳を頭にねじ込んでくるオズ。
「痛い、痛いだろ! やめろって」
手甲もつけているので本気でやられればそうとうに痛いのだが、オズが手加減してやってくれているのでそこまで痛くは無い。
やっとの事でやめてくれて、オズと一緒に食堂へと向かい始めた時だった。
「お、おい、あれ黒騎士様じゃね?」
「ほ、ホントだ。何で? 白騎士様も一緒だ」
周りの兵士達がざわつき始めたのでオズと一緒に私も振り返る。
すると、奥の方から黒騎士と白騎士が何やら誰かを探しているようにしながら歩いてきている。
「なんで、この国最強の騎士である二人がこんな訓練場に来るんだ?」
「さぁ、わからないな」
騎士に昇格した人達は基本こんなところへと来ない。訓練場は兵士を育てる場所であって、騎士を育てる場所ではないからだ。
一体何の用なのかと言われれば、私には心当たりがある。
会議で王に見つかっている。マスクをしていたから顔はバレていないと思ったが、まさかバレたのか?
そんな二人がきょろきょろと見回しながら、私と目が合った。
「…………」
「…………」
だが、目が合っただけですぐに二人とも周囲をキョロキョロと見回した。
「ふぅ。まさか二人に目を付けられたのかと思ったぜ。黒騎士様も、白騎士様も、訓練は大変だって聞くしな」
「そうなのか?」
「あぁ。俺、そっちにも知り合いがいてよ。訓練、めちゃくちゃ厳しいらしいぜ?」
なるほど、それは行きたくない。とは言っても、今の私はあの二人を暴くために近づかなくてはいけない必要もあるので是非受けてみたいが。
そうしながら、立ち止まっているオズと私の隣を、黒騎士と白騎士が通り過ぎた。
――直後、轟音が響き渡った。
「ッ!?」
「ほぅ。俺の速度について来れるか」
黒騎士から金属質の声が漏れてくる。その手には黒い粒子が纏っている悪魔の剣。
――間違いない。完全に私を殺そうとして剣を引き抜いたッ!
素早くバックステップで後ろへと飛び退くも、黒騎士はそれがわかっていたように同じく跳躍してきた。そして再三振られるその剣に、私はレグルの魔力で作った剣をぶつけた。
金属音が響き渡り、そして両者が後ろへと飛び退いた。
「……は? れ、レグル!? 大丈夫か!?」
オズは今までの状況について来れず、やっとのことでレグルが黒騎士に襲われた事を知る。
「黒騎士様!? レグルが何をしたんですか!? い、今の、レグルが偶然防げたからよかったものの、あんなのやられたらひとたまりもありませんよ!?」
「黙っていろ。これは公開処刑だ。貴様も、一対一がお望みだろう?」
黒騎士の金属質の声がオズを黙らせ、私へと剣をつきつける。
「こ、公開処刑!? レグル! お前何したんだ!?」
「俺は何もやっていない!」
ここは嘘をつきとおせるか。いや、この黒騎士に嘘は通じないだろう。完全に私が黒だとわかっている。一日でバレるとは思わなかった。これは今まで潜入した中での最短時間だ。
「平然と嘘をつく奴だ。名を名乗れ」
「レグル・マスケイン」
「嘘をつくなと言っている。我が王は、貴様が何の魔法を使っているのか、貴様が誰かなど全て分かっている」
一日で……そんな事が!?
右目の〈レアリーダウト〉が黒騎士が言っている事が嘘では無い事を言っている。
「ライコウの【侵入者】よ。その体では動きにくかろう。姿を現せ、強者と戦えると思うと、俺はどんな事でもするぞ」
「ら、ライコウのカメレオン……?」
オズがわかっていないような顔をして私へと顔を向けてくる。
他の兵士もこちらに顔を向けている。それだけでは無い、武器を取り出している者もいる。
今度ライコウと戦うことはここにいる兵士は誰もが知っている。ある物は今この場で起こっていることは前哨戦だとでも思っているだろう。
確信している以上、隠す必要はなかろう。
「何か、魔法か何かで私を調べたのですか?」
「あぁ。王が魔法を使いながら貴様を見た。覚えているだろう? 会議の時の事を」
あの時かッ。
これ以上レグルの中に隠れることは危険だなと思い、レグルの中から出る事にする。レグルを巻き込むわけにはいかないし、何より本気を出せない。
俺はレグルにかけていた魔法を解き、レグルと分裂するようにして外に出る。
「まさか、こんなにも早くバレるとは思いませんでした。やはりヘレスティアの王はタダものではありませんね」
そう言って、その手に光の弓を手にする。
黒騎士も、その手に悪魔の力を流した剣を構える。
「それが貴様の本来の姿か」
「レグル……じゃねぇッ。お前、騙してたのか!!」
オズは怒り狂って剣を抜いたが、攻撃をしてくるような気配はない。隣にいる白騎士が威圧して止めているからだ。
なるほど、一対一を作り出す空間がうまい。白騎士がその他全員の兵士の武器を止めている。あくまで黒騎士と私一対一で戦わせる手はずか。
「カメレオン。誰もその姿を見た事がないからつけられたと聞いていたな。実際、これまで何人に姿を見られた?」
「そうですね……。この姿を見られたのは今回が初ですよ。〈レイ・ボウ〉!」
私の放った矢はいとも簡単に黒騎士にさばかれ、そして接近を許す。
黒騎士の剣は恐るべき速さで、紙一重に避けたと思った次の瞬間には激痛が走る。
「かわしきれていませんかッ」
「〈風速〉」
更に黒騎士が魔法を唱え、姿を消した。
「〈ホーリーシールド〉!」
「〈黒点〉」
後ろから闇魔法が放たれ、防御魔法がヒビを入れて割れる。私はそれに合わせて弓振るい、黒騎士の剣を止め、それから止めた弓で矢を放った。
身をよじってかわした黒騎士に私は足払いをかけ、更に弓を放つ。
跳躍し、更に追撃した矢を剣で払いのけると、私から距離を放さないように詰め寄って攻撃してくる黒騎士。弓を持つ者との戦いを分かっていて、それでいて手慣れている。速度も尋常ではない。これはとても厄介だ。魔力の最大値が半分になっている私がどこまでやれるかッ。
今の私は接近戦が苦手だ。弓を持っている時点で分かるだろうが、私は遠距離派なのだ。
「〈踏破〉ッ」
私は一歩で数十キロ移動できる魔法を使い、黒騎士から弓が届くギリギリの距離まで逃げる。
そして私は弓に魔力を込めて黒騎士を狙った。
――次の瞬間には目の前に黒騎士が立っていて、矢を放つと同時に黒騎士に腹を貫かれ、横に斬り裂かれた。
「ぐ、ぁぁッ」
「俺の速度に、追える者はいない。短い間だったが、楽しかったぞ、カメレオン」
黒騎士は剣を斬り返して、横に一閃。
「冥土の土産に教えてやろう。俺の名前はギゼン・ラルカだ」
過剰な激痛と体が無くなるような感覚を覚えながら、私の意識はそこで途切れた。
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