ミーナの探し物
葬儀屋が村を出入りするようになってから数日が経った。2,3日おきにやってくる葬儀屋に、村の人たちも少しずつ慣れていった。
村が日常に戻ろうとしている中、ミーナは相変わらず森を出入りしている。おばさんは、最初の頃はきつく叱っていたが、最近はお婆さんの容体が悪いのか放置状態だ。
特に怪我などはしていないようだが、あの調子ではそろそろ何か問題を起こしそうだ。
私も気にはなっていて、本当ならついていった方がいいのかもしれないが、いかんせん、私にも仕事がある。特に今日はいつもとは違う仕事がある。
「せんせー、さよーならー」
「はーい、さようならー」
今日は村の子供たちに魔法を教えている。俗にいう、先生だ。
「シルフィねえ……じゃなかった、先生!」
「はい、何でしょう!」
直せて偉い。
授業終わりに、いつもの調子で私を呼びそうになった子供は「あの人だあれ?」と窓の外を指差した。
指先を辿って外を見ると、そこには木にもたれかかっている葬儀屋の姿があった。
「お母さんがあの人には近づいちゃだめって言ってたんだけど、何で?お客さんじゃないの?」
どうしたものか。
私は少しだけ正直に答えるべきか悩んだ。まだ幼い子供になんと説明すればいいのだろうか。そもそも話しても大丈夫なのだろうか。
「うーん、あの人はお仕事をしに来てるからお母さんも邪魔しちゃダメよって言っているだけだと思うよ」
まあ、嘘は言っていない。嘘は。
歯切れの悪い私の返事に子供は「ふーん……」と興味が薄れたのかそのまま元気よく教室を飛び出し、友達のいるところへと掛けていった。
勉強用に、と開かれた空家の外では子供たちがおにごっこをして遊んでいる。少し成長して背の高い子供の中には見知った顔が多いが、それよりも頭一つ分小さい子供はあまりよく知らない子の方が多かった。
しばらく眺めていると、顔ぶれの中にミーナが居ないことに気付いた。ミーナは子供たちの中ではリーダー的な存在で、いつも輪の中心にいたのに。
(また、森の中か)
森の中に少しだけ入って探すと案の定、この前見つけた場所よりも奥の方でミーナを見つけた。
「ミーナ」
「わぁ!」
驚いたミーナはその拍子に手にしていた紙を落としてしまった。そのまま私の足元に飛んできたので拾い上げた。
「何これ。本、のページ?」
「あ、返して!」
あ、取られた。なんだったんだ。
「……見た?」
「いや。けど、何だそれ?」
ミーナはしばらく考え込んで「……薬だよ」と短く答えた。
(薬?何で……ああ、婆さんか)
考えれば、簡単な話だ。
でも、レイナさんは……
「ミーナ、レイナお婆さんは寿命で死にかけているんだろ?」
「だって!……おばあちゃんが言ってたんだもん。これは、不老不死の薬だって!」
(不老不死?)
まさか不老不死の薬なんて、ありえない。心の中で強く否定した。
この国や王国でもそんな噂は聞いたことがない。
もし、そんなのがあるのなら、とっくに広まっているはずだ。
「ミーナ、それはありえない」
「なんで!おばあちゃんは言ってたよ!それに、書いてある!」
私の言葉に反発するように、紙を目の前に突き出された。
受け取って広げてみると、
『これをみつけた人はとってもこううんです!なぜなら、わたしのだいはっけんをしることができるからです!それはふろうふしのくすりをみつけたからです!
ここにみつけたばしょをかいておきます。ぜひみつけてみてね!』
と書かれていた。
(何これ?)
ちょっと読みづらい。
紙はずいぶんとすり減っていて、かなり昔に書かれたものだ。
文章の下には簡単な地図が描かれていた。村とその下に森が広がっていて、その中央の大きな星のマークが目をひいた。
まさに、宝物、という感じだ。
「ここに、その不老不死の薬があるのか?」
「そう!」
自信満々だな。
ミーナはそう言ったものの、少ししょんぼりとしていた。
「けど、なかなか見つけられないんだ……」
地図に描かれていたのは大きな星だけ。それ以外は特に何か描かれているものはない。
何か目印が描かれているなら分かっただろうに、これでは場所が分かるはずもない。
「レイナさんは何か言ってたのか?」
「おばあちゃんもあんまり覚えてないって。ただ、とても綺麗な赤い花をつけるんだって」
赤い花か。それだけだと難しいな。
その話も、まだレイナさんが元気だった時に聞いた話だろう。
これ以上の情報は聞き出せないだろうな。
「おばあちゃん、あんまりお花とかは好きじゃないのに。それだけはとても綺麗だったって」
うーん。そこまで言われるとな……。ミーナの思いがひしひしと伝わってくる。
確かにレイナさんはあまり、花とかを褒めることが少ない人だった。本人曰く、つまらないらしい。
「ねえ、シルフィねえちゃん。一緒に探してよ!」
「え?」
「ねえちゃんが一緒なら、お母さんも安心だし、もっと早く見つかると思うんだ。それに……」
それに?
「……久しぶりに、おねえちゃんと一緒に2人だけで遊びたいんだ。前みたいに」
……そうか。
以前の村には私とミーナくらいしか子供がいなくて、必然的に2人っきりで遊んでいた。だけど、子供が増えたり、私も村で仕事があったりとなかなか遊んだり話をする機会がなかった。
私はあまり気にしていなかったが、ミーナにとっては少し寂しさがあったのだろう。
……よし。
「一緒に探すか!」
「ほんと!」
「ああ。ただし、森の奥には絶対入っちゃだめだからな」
「うん!ありがと、シルフィねえ!」
まあ、たまには悪くないだろう。
嬉しそうなミーナを見て、心がきゅっと締まるような気がした。
(寂しかったのは、私も一緒か)
もう少しだけ、この子といたい。
心の底から、そう思う。
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