11-03.
「……うおぉぉ……甘いな」
ジン・アレキサンダーを一口飲んだ弘臣さんは、俯いて眉間を押さえた。
「ちょっと、無理して飲まないで」
アレキサンダーは甘めのまろやかなカクテルで、すっきりした辛口のものを好む弘臣さんには合わない味のカクテルだ。
「いいや、文乃が作ったカクテルだ。飲む。飲み切る」
「弘臣さんには辛口のものを作りますから。それ、私が飲みますから弘臣さんはストップ」
私たちの会話を聞いていた久我さんが、クッと笑う。
「兄さんは本当に何でもかんでもストライクゾーンが狭いよな。甘口には甘口の美味さがあるのに」
そう言って久我さんはブランデー・アレキサンダーを飲み干す。
「うるさいぞ源臣。別にそれで俺は困っていない」
「どうだろうな。兄さんが困ってなくても、これから周りが困るかもしれないだろう?」
「周り?」
「そう。彼女とか……『奥さん』とか」
奥さん。
私は思わずチラリと弘臣さんに目を向ける。
バチッと絡む視線。
それと同時に弘臣さんはピクリと肩を跳ね上げ、鼻筋に乗った眼鏡をキュッキュとしきりに押し上げた。
「や、やはり俺が飲む」
「えっ? で、でも、その……弘臣さん、本当に無理しなくていいから」
「だ、大丈夫だ」
そんなあからさまに動揺する私たちを見て、久我さんはさらなる火種を蒔く。
「さっさと結婚しちゃえよ」
「「けっ……結婚……!?」」
ユニゾンした私と弘臣さんは顔を見合わせる。
そして気まずくなってすぐに顔を背けた。顔が熱い。
「そ、そもそも、弘臣さんは、そういう願望ないですもんね」
「……」
その沈黙は何?
「……えっ、あるの!?」
バレた、みたいな顔でフイッと顔を逸らす弘臣さん。
まさかの、『ある』らしい。
すると耳を赤くして咳払いした弘臣さんが、私をチラリと見る。
「き、君こそ……ないんだろう?」
「……」
無言の肯定とはこのこと。
元々私にはそんな願望は全くなかった。
でも弘臣さんと出会って、弘臣さんと過ごして、恋人になって、ちょっとわがままになって……想像以上に独占欲が強くなった。『弘臣さんを独り占めしたい』なんていう贅沢な欲望を持ち始めたのだ。
私はチラリと弘臣さんを見る。
「弘臣さん、もしも私が……『ある』って答えたらどう思いますか?」
ポカンと口を開けて固まった弘臣さんは、10秒ほど経過後に私に告げた。
「どっ、どどどどう!? い、いや、ゆっ、指……輪……きゅっ、きゅきゅっ……求こ……ッ……!?」
あらら、弘臣さんの頭上に煙が上がっているかのよう。
石像みたいに固まって動かなくなってしまった。
私はクスッと笑う。
仕方がない、弘臣さんが復旧するまで待つことにしよう。
その暁には、きっと耳も顔も真っ赤にしたかわいい弘臣さんが見られるに違いない。
私たちは、6年前に出会った。
私の過ちから始まったあの頃は、未来がこんなにも明るく輝いたものになっているなんて想像もつかなかった。
そして――
「文乃?」
こんなふうに弘臣さんに甘く名前を呼んでもらえる関係になっているなんて思いもしなかった。
「はい?」
「ま、まずは……その……何から始めようか?」
「えっ?」
「た、たとえば、夜景の見えるレストラン……だろうか?」
なるほど。それはたぶん、プロポーズの『定石』だ。
私はフフッと笑う。
ほらやっぱり、弘臣さんは耳も顔も真っ赤だ。
かーわいい。
「それもいいですね。でも私、憧れていることがあるんです」
「憧れていること? 何だ?」
「ねえ弘臣さん、私の作ったカクテルなら、好みでなくても飲んでくれるんですか?」
「ああ」
「それなら……『サイドカー』を一緒に飲んでもらえませんか?」
琥珀のように輝く、温かなオレンジ色のカクテル・サイドカー。
カクテル言葉は『いつもふたりで』。
いつか特別な人と二人で飲みたかった、私の大好きなカクテル。
「もちろんだ。君となら、何度でも」
弘臣さんと、いつもふたりで、これから何度でも、ずっと……。
〈サイドカーに罪を添えて〜理性的な外科医の特権愛〜 END〉
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