12、つまり、勝ちルートでは?
「止めましょう。えぇ、そうしましょう。聖女を目指すための道筋は、何も貴族の娘として養育されていくのが最短というわけでもありません」
「え、でも、私の養育に対して責任を取らせないと……お母さんの苦労と不幸を思い知らせられないって言いますか……」
私は私を抱え込むことが「面倒」「お荷物」「負債」である自覚があるので、ちょっとした腹いせの意図もあるのだが。
バアルは土色の顔を青白くさせ、なんとか冷静に私を説得しようと試みているようだった。
「あの化け物伯爵が、カナン様のお父上であるなどきっと、えぇ、間違いです。お母上から聞いたわけではないでしょう。なぜその名を?」
「名前って、ルー」
「その名を悪魔が聞けば力のない者はその場で八つ裂きになって消滅します。私は再生できるので問題ないといえばありませんが、ダメージはあるのでお止めください」
実父……なんだ、この世界の名前を言ってはいけないあの人的な感じなんだろうか……。
バアルは嫌がっているのだけれど、“カナンの実父”はその名前を言ってはいけない伯爵なのだ。この世界にいる、ということは、カナンの父親、という事実、設定、あるいはつじつま合わせは同じはず。
「実父は、バアルが、悪魔が嫌がるくらい……悪い人ってことですか?」
「善悪の判断をどのように定義したとしても、善人ではありません。死せる者の天敵であり、生きとし生ける者にとっても厄災。死んだ方が世界が平和になることは間違いのない人物です。えぇ、そのような者に、カナン様が関わって不幸な目にあうかもしれないなど……僕は想像しただけで胸が張り裂けそうになります」
「なるほど……わかりました」
そうか、うん、と私は力強く頷いた。
「つまり、そこまでの悪人を改心させたり真っ当な父性を芽生えさせて人の道に戻したら、間違いなく私は聖女ということですね?」
「そうきますか」
やったね。養育費をせびるだけじゃなくて、お母さんを生き返らせるための役にも立ってくれるとか、顔も知らな扶養義務から逃れているロクデナシ……でなかった、未来の愛すべきパパ、なんて素晴らしいのだろう。
「……おすすめはできませんが、本当に、あの化け物を“父親”と扱うのですか?」
「現段階で情は欠片もありませんが、それはあちらも同じでしょう。バアル、あなたは仮にも自分を傍観する悪魔だって自負されているのに、これは楽しめないのですか?」
悪魔も恐れるような怪物が、幼女を溺愛して人間に墜ちてくれるようになる様子は、まさに観劇するに値する喜劇じゃないのか。
私は上機嫌に歌い出す。
軽やかに歩いて、跳ねて、くるりと周ると、バアルが私を手を掴み、引き寄せて溜息をつく。
「あなたの歌声ばかりは、本当に素晴らしい。危ういとわかっている舞台に、悪魔でさえ踊らせてしまうのだから」
小川で溺れることがないように、道案内は致しましょうとバアルは約束してくれた。




