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08 呼び声


気が付くと操は、何処かの建物の廊下に立っていた。


つい先程、ライナと会話して眠りについたと思ったのに、唐突に変わってしまった景色に戸惑う。


(……ううん。 この感じ……多分これは……)


そう呟こうとして、声が出ない事に気が付く。


その他にも、体の感覚が通常と異なっているようだった。


(やっぱりこれって、ライナの部屋で目を覚ます直前に見た夢の続き……?)


廊下に見覚えは無い。


しかし、うまく表現できなかったが、廊下の状態から過去の光景であると何となく判断する。


具体的に言うと、電灯が新しかったり、周辺の物が綺麗に整頓されているのだ。


そのあたりの様子から、病院の廊下のような印象を受ける。


(と、いうか、実際病院の廊下なんじゃないかな?)


良く見れば、待合席と思われる椅子が壁沿いに置かれている。


そこそこの規模の病院のようで、廊下の先まで同じような椅子が間隔を開けて設置されていた。


近くにある椅子の脇にある扉の横には『内科』と書かれている。


(あれ……? この扉、見た事がある?)


操がその扉に既視感を覚えた、と思った瞬間、周りの景色が突然変化する。


(えっ……!?)


気が付くと、操は先程の扉の中、つまり診察室で医者と思われる男と対面していた。


(これ……もしかして、記憶を失う前に私が体験した出来事?)


そう思い相手の医者の顔を確認しようとしたが、どういう訳か顔の部分が靄がかってしまって見えない。


どうにかして手がかりになりそうな情報を探さなくては、と思っていると、対面している医者の男が口を開いた。


『検査の結果ですが、特に異常はありませんでした、念の為レントゲン検査もしましたが、おっしゃるような異物も無く、健康そのものですね』


『そうですか……』


医者がカルテを見ながらそんな事を言い、それに対して誰かが答える。


(この声……私?)


自分の声を客観的に聞いた事がないせいか、何処か自分ではないような奇妙な感覚を覚える。


『有毒の可能性がある植物性の物体……とおっしゃっていましたが、具体的にはどのような物なのですか?』


『それが分からないので、念のため検査をお願いしたんです。そうした物体を吸い込んでいた可能性がある、という事に気が付いたのは、『それ』の研究を進めた後でしたから』


『うーむ……とはいえ、かなり細かく……それこそ、血液検査や生体検査まで行って、特に問題がありませんからね。体には何も影響していないか……もしくは既に排出されたかでしょうね』


『……やはりそうなりますか?』


『何か懸念する事が?』


自分と医者の会話を第三者として自分の目線で聞く、という頭が混乱しそうな状況だが、何とか会話を聞き取る。


『まだ断定は出来ないのですが、私が今研究している物は、内包したDNAの働きから、一部を体内に取り込んだ生物に、何らかの影響を与えるのではないかと思われます。』


『影響……というと?』


『簡単に言えば細胞の活性化です。 これまでの実験でそのような兆候が見られたので、仮説が正しければ、『それ』を吸い込んでいた私の体にも何らかの変化があると思ったのですが……』


『……桜木博士が非常に優秀なのは知っていますが、ご自分はもう少し大切にした方が良いと思いますよ?』


医者が呆れたような、心配するような声色で苦言を呈する。


(……というか、桜木『博士』?)


色々と情報量が多くて目が回る。


『分かっています。 けど、研究者ってそういう物ですよ?』


(私って、研究者だったの……?)


寝耳に水の情報が自分の中から出て来てしまった。


とはいえ貴重な情報ではある。


もし、この医者を見つける事が出来れば、記憶を失う前の操の情報を得られるかもしれない。


『では、……伝手……使……異常が……さらに調べ…………しょう』


『お願…………す。 ……出…………れば外部…………伝わ…………………して……たい……』


そう思っていると段々と声が遠ざかって行く。


やがて、声も映像も薄れて行き周囲が暗くなる。


今度は何が見えるのだろうか。


徐々に自身の記憶が明らかになって行く事を期待して、夢の内容に意識を集中する。


……しかし。





『急がなきゃ』





突如耳元で声が聞こえた。





「…………ッツ!!」


驚愕と共に目が覚める。


視界に写ったのは眠る前に見たライナの部屋の天井だった。


「……また、あの声……」


またしても、同じような声にすぐ傍で囁かれて目を覚ました。


しかし、今回はあの声には聞き覚えがあった。


「あの声……私……?」


正確には、夢の中で医者と会話をしていた時の操の声だ。


以前、夢を見てこの部屋で目を覚ました時も、あの声は聞こえたが、囁き掛けられた言葉は違っていた。


「『探さなきゃ』『急がなきゃ』……。 一体何を?」


やはり、あの声が何を求めているのかは分からない。


前回聞いた声の内容通りなら『DD-4032』とやらという事になるのだが……。


(今回の夢の内容から考えると、私は何らかの研究に携わっていたみたいだった)


桜木『博士』と呼ばれていたという事は、少なくとも博士号を取得したか、それに類する功績を残した、という事になるのではないだろうか?


(仮に研究に使用するような何か、だとするなら、専門性の高い物。例えば……)


やはり以前夢の中で見た光景の中に何らかの医療機器のような物があったのを思い出す。


医療関係と言えば今回の夢の中で見た医者の男……。


(医療関係の何かなら、単純に何らかの医療機器……あるいは、医薬品……?)


医療機器や医薬品には、一般には知られていないような物も当然ある。


そうした物が探している『DD-4032』なのであれば、そうした知識が無ければ発見は難しいだろう。


(でも、あの医者の人に話を聞く事が出来れば……)


あの声が操に探させようとしている物が何か。


さらに上手く行けば、操の詳しい素性も分かるかもしれない。


自分の物と思われる声とはいえ、その声が示す所が何なのかが分からないのは不気味だ。


しかし、今回に関しては『DD-4032』探す事は、記憶を取り戻す事にも繋がる。


「行ってみるしかない……かな」





記憶の手掛かりと、夢の中の声が求める『DD-4032』の情報を求めて、医者の男を探す事を決意した操。


しかしいくら小規模な街とはいえ、一人の人間をがむしゃらに探したとしても、見つけるのは困難だ。


「普通に考えるなら、この街にある病院だけど……機能してるのかな」


現在の街の状況を考えると、まともに機能しているとは思えない。


それどころか、病院自体が無事かどうかも怪しい。


「それでも、行くしかないよね」


危険は承知の上だ。


怪物に襲われた場合を考えると不安もあるが、今の自分ならある程度対処出来るだろう。


操はベッドから降りると、ライナが置いて行った元々操が来ていた服を取った。


川に怪物と共に落ちて、ずぶ濡れになってしまっていたはずだが、


綺麗に乾かされた上、畳まれていた。 ……やはりマメである。


ともかく元の服に着替え直そうとして、それぞれの衣服をベッドの上に広げる。


全体的に動き易さを重視した物が多い印象があるのだが、少し納得のいかない部分があった。


「確かにこれも動き易いけど……ちょっと地味すぎるような……」


……主に下着等の人目に触れない部分が。


尤も、今はそんな事を考えている場合ではないので、雑念を振り払ってさっさと着替える。


部屋の隅に姿見があったので、念の為恰好をチェックする。


あのホテルで目を覚まして以降、自分の顔という物を確認していなかった。


記憶を失っている為か、鏡に映ったその顔は、何処か別人のような感覚がある。


「……ライナの事、黒づくめだなんて思っちゃったけど、私も似たような物だった」


日本人、あるいは日系人とライナが判断したように、頭髪は黒髪のショートヘア。


上は黒のノースリーブで、下はショートパンツの下に膝上程度までの黒いスパッツ、足にはショートブーツ、といった具合だ。


やはり、動き易さ重視らしく、ブーツもスポーツタイプ……というのだろうか? 軽量の履き易い物だ。


何となく、記憶を失う前の自分の私生活面が垣間見えるような気もする。


「研究者なんだよね……? 何だかちょっと自信が無くなって来たなぁ……」


そんな風に、かつての自分の服の趣味に疑問を抱いていると、気になる事が出て来た。


「あれ……? よく見たら、瞳の色が……黒じゃない?」


自分が日本人であるなら、瞳の色は黒だと思っていたので気が付かなかったが、どうやら操の瞳は黒色をしていないようだった。


「……これ、何色って言うんだろう? 深い青色だから……ダークブルー?」


非常に濃い青系の色をしている為、黒色に見えていたようだ。


光の反射のせいか、角度を変えるとほんの少し青い色が見える。


瞳の色としては変わった色……だと思う。


「……もしかして、これも『青い花』のせい?」


そう考えた所で例の写真が入ったペンダントを思い出す。


確認してみると、写真の中の自分の瞳は黒色のように見える。


「うーん……小さくて見えにくいけど……やっぱり黒な気がする」


そこまで考えてから気付いた。


もしも操の考えた通り、瞳の色が変化しており、それが『青い花』の影響による物だとすれば……。


「両腕だけじゃなく、もうほぼ全身、花の影響を受けてるって事だよね……」


ホテルで怪物相手に、アクション映画ばりのアクロバティックな動きをした時点でそんな気はしていた。


あの身体能力はどう考えてもおかしいし、考えてみれば、聴覚や視覚等の感覚も鋭くなっているように感じる。


『青い花』が、一体どういう物なのかすら今の所分かっていない為、安易に判断することは出来ない。


しかし、段々と自分が人間ではなくなって行っているような気がして、操は一抹の不安を覚えた。


「それも、あの医者の人に会えれば分かるかな」


不安を振り払うようにそう言うと、あの医者が居る可能性のある、街の病院の事をライナに聞くべく、操は部屋を後にした。





部屋を出るとそこは、リビングとキッチンが一緒になった広めの部屋だった。


どうやら1LDKの部屋であるらしく、入口方面に行く通路の他は、水回りへの扉があるだけだった。


部屋の中央、リビング部分ではライナが何やら作業を行っている。


操が部屋から出て来たのに気付いて、ライナが声をかけて来る。


「あれ、もう起きたのか、操? まだ寝てて大丈夫だぞ」


ごく普通の朝の挨拶のような軽さでそんな事を言って来るライナ。


……やはり、こちらへの配慮というより、あまり周りの状況を気にしていない、と言うべきな気がして来た。


「うん……ちょっと、夢見が悪くって」


「夢?大丈夫か?」


「大丈夫。 少しだけど、眠る事は出来たから」


時計を見るとベッドで横になってから3時間程経っているようだった。


実際短い時間だが、体の怠さ等は残っていない。


「そうか?なら良いけど……あんま無理するなよ?」


「うん、ありがとう」


操が礼を言うと、ライナは微笑んだ後再び手元の作業を再開する。


どうやら、何かの機会を修理しているようだ。


「それ……何してるの?」


「ん?これか? これは無線機を直してるんだ」


「え?無線機?そんなのあったの?」


思わず驚きの言葉を上げる操。


そんな物があるのなら、外部との連絡も意外と簡単に出来るのではないだろうか。


見た所、ライナが言った通り修理中のようだが。


「その辺の道路に止まったまんまになってたパトカーからもいで来たんだ。 ……壊れてたけど」


「ええ……? 無線機って、もげる物なの……?」


『リンゴをもいで来た』ぐらいの感覚で話すライナに呆れる操。


しかし、緊急時なのだから仕方がない、と無理やり納得した。



「……ねぇ。ライナ。 聞きたい事があるんだけど……」


「ん?どうした?」


暫く作業を行うライナを何となく眺めていた操だったが、本来の目的を思い出し、話を切り出した。


「この近くに規模の大きな病院ってある? 多分総合病院だと思うんだけど……」


「え? 病院? 何でまた?」


「実は、また夢を見たんだけど……」


操は先程見た夢の内容をライナに伝えた。


加えて、その前の夢で見た『DD-4032』という記号についても話す。


ライナは黙って操の話を聞き終えると、暫く難しい顔をしてから言った。


「うーん……確かに街の北側には、そこそこの規模の病院があるけど……」


「本当? その場所を教えて欲しいの。 もしかしたら私の事が分かる人がいるかもしれなくて……」


「待て待て。 教えるのは勿論構わないけど、今あそこに行くのはお勧め出来ないぞ」


「……どうして?」


ライナが困ったような表情をする。


やはり病院に何かあったのだろうか?


「さっき話した避難所がその病院なんだよ」


「…………なるほど」


街の北側は怪物の数が多く、そちらから怪物が流れて来ている可能性が高い。


先程ライナから聞いた、そのような話の中で出て来た避難所こそがその病院。


つまりは、大量の怪物が徘徊する区域のまさに中心部と言える場所へ乗り込むという事だった。


「あまり言いたくないけど、その医者が生きてる可能性は低い。 仮に生きてるとしても、向こうに近づくのは危ないぞ」


「……うん、分かってる。 でも、どうしても行かないといけない気がするの」


実際、無くした記憶は戻るのか、『DD-4032』が何なのかなど気がかりな事は多い。


しかし何より、あの夢を見る度に焦燥感のような物に苛まれる感覚がある。


この感覚が何なのかは分からないが、『時間がない』というあの声が事実であるなら、


何か取り返しがつかない事になってしまう気がしてならない。


「危険なのは分かってる。 でも、記憶の手掛かりはそれしかないの。夢で聞こえた私の声は、急げって言っていた……それが何故かは分からないけど、私自身急がないといけない気がするの」


「…………」


正直な所、自分でも一人でそこに行くのは無謀だと思う。


しかし、だからといってライナにも一緒に来てほしいとはさすがに言えなかった。


言えばきっと、ライナは付いて来てくれてしまうだろう。


だがこれ以上、操の事情に無関係のライナを巻き込む訳にはいかない。


どうにか説得して病院の場所を教えてもらえないだろうか……。


「はぁ……。 これ以上は言っても聞いてくれそうにないな……」


そう言うとライナは立ち上がり、リビングの隅にある棚の引き出しから何かを取り出した。


「ほら、これ持ってけ」


ライナがそう言って差し出して来たのは……一丁の銃と3本の弾倉だった。


「えっと、これは……?」


「この部屋の持ち主の持ち物だ。 丸腰で化け物の巣に行くよりはマシだろ」


操は、一瞬躊躇いながら、銃と弾倉3本を受け取った。


そして、銃に装填されていた弾倉を取り出す。


続けて銃のスライドを引き、チャンバーに弾薬が装填されていないかを確認する


しかし、その手つきはお世辞にも手慣れているとは言えない。


「使い方、分かるか?」


「ええと……。 分かるといえば分かるけど、多分使った事はないと思う……」


操はそう言うと銃を構えてみるが、やはり様にはなっていない。


「まぁそうだよな……。 基本的な使い方だけでも教えようか?」


「うん、お願いしても良い?」




ライナから銃の構え方や操作方法、緊急時の立ち回り方などを簡単に教わる。


大雑把な性格かと思っていたが意外にも丁寧な教え方だ。


教わった事を30分程練習しながら、ライナに見てもらう。


「そう、狙いの付け方はそれで良い。 ……腕はもう少し伸ばした方が良いかな」


「こう?」


「うん、そんな感じでOKだ。 ただし、あんまり力み過ぎないようにな」


付け焼刃でどれ程役に立つかは分からないが、ライナの言う通り全くの丸腰よりは良いだろう。


尤も操には『青い花』の能力もあるのだが。


「ごく基本的な事だとこんなもんかな。 今は時間もないし……」


「ありがとう、ライナ。 ……それで、病院の場所は教えてくれるの?」


「ああ、操が練習してる間に、地図に場所と比較的安全なルートを書いといた」


そう言ってライナが一枚の地図を手渡して来た。


市販の地図に手書きで病院の場所と病院までのルートが記されている。


『巨大花の根が近くにあるので化け物に注意!』と書かれていたり、『似たような建物が多いので迷わないように』


と書かれている。 ……やはりマメだ。


因みに病院の名前は、『聖メアリー記念病院』という名前らしい。


「……悪いんだけど、俺は一緒に行けない。 外と連絡を付けなきゃならないからな」


そんな事を考えていると、ライナが申し訳なさそうに切り出して来た。


やはり、操と一緒に行く事を考えてくれていたようだ。


「気にしないで。 元々私の事情だから」


「……一応この辺は化け物の数が少ないし、暫くはここにいるつもりだから、病院を確認したら戻って来いよ」


「うん。 ……ところで、ここってライナの部屋なの? 『この部屋の持ち主』って言ってたけど……仕事でこの街に来たって言ってなかった?」


地図に書かれたルートを確認していると、素朴な疑問が浮かんで来た。


このアパートを仮住まいとしていたのだろうか。


「ああ、この部屋か? ここは俺の部屋じゃなくて、どっかの誰かの部屋だよ」


「……………………え?」


それはつまり全くの他人の部屋という事では……?


「怪物に襲われて死んでた奴が持ってた鍵が、ここの鍵だったんでな。ちょうどいいから拠点にしてたんだ」


「そ、そうなんだ……」


……やっぱり、危ない人かもしれない。


「あ、そうだ。 この家の住人といえば、あれがあったな……ちょっと待ってろ」


「……あれ?」


「銃の入れ物」


入れ物というと……所謂ホルスターだろうか?


確かに銃本体と弾倉3本をポケットに入れて持ち運ぶのは、中々大変だ。


ライナがクローゼットから取り出した来た物を持って来る。


「ほら、これだ」


そう言ってライナが渡して来たのはやはり銃のホルスターだった。


「この家の人って何かこう……警察とか、警備とかの仕事してる人だったのかな?」


銃と予備弾倉、さらに専用のホルスターまであるという事は、何かそういう仕事しているのでは。


そう考えた操は一応ライナに聞いてみたが、彼の予想は全く違っていた。


「んー……どうかな? そっち方面の人間の物にしては、銃のチョイスがちょっと……」


「え?そうなの?」


「安さが売りのポリマー製の奴で、マガジンは随分昔の弾数規制の時の10発仕様だしな。形から入るタイプだったのかな? 手入れはちゃんとしてたみたいだけど」


……見ただけで何故そこまでわかるのだろうか、と思ったが、操はそこには触れなかった。


「まー銃として使えるんだから問題ないよ」


「そ、そうだね……」


とりあえず細かい事は気にしない事にして受け取ったホルスターを装着する。


「……ん? あれ? これって……」


しかし、装着しようとする内に操はある事に気が付いた。


「どうだ?付けられたか?」


「ええっと、つ、付けられたんだけど……」


ライナから渡されたホルスターを装着することは出来た。


だがこのホルスター、警官のように腰の所に装着するタイプではなく、太腿の部分にベルトで巻き付けて装着するレッグホルスタータイプの物だった。


今現在、操はショートパンツにスパッツという格好だ。


そこにベルトで固定するレッグホルスターを付けた状態になる訳なのだが……。


「…………あー」


「へ、変じゃないかな、これ……」


自信なさげに零す操。


それに対してライナは若干目を逸らしつつ答える。


「まぁ……大丈夫だろ。 ……緊急時だし。」


「緊急時関係ないよね?」


操にしては珍しく即座に反論が飛び出した。


「まぁ、動きやすいけどさ……」


「コホン。 だろ?こういうのは使いやすさ重視だって!」


わざとらしく咳払いをして、ここぞとばかりに畳みかけるライナ。


……ややじっとりした目つきでライナを睨みつつだったが、操もそれで納得した。 ……一応。




数分後、操とライナは部屋の外……アパート前の道路に居た。


周囲は変わらず霧のような花粉が立ち込めているが、ホテルの部屋から見た時よりはずっと視界が良い。


右腿に銃。 左腿に弾倉3本。


それぞれを収納し、動きを確認する。


特に問題ないようなので、ライナにもらった地図を服のポケットにしまう。


それから、ついでに、と言ってライナがくれた、ウエストポーチの位置を確かめる。


持ち物が増えた場合を考えて、との事だったが、どこから持って来たのかやや気になったが、あまり考えない事にした。


……これで準備完了だ。


「じゃあ……行って来るね、ライナ」


「ああ。 ……十分気を付けるんだぞ」


ライナが見送りの言葉を掛ける。


やはり、まだ操に聖メアリー記念病院へ行かせるのは抵抗があるようだ。


「大丈夫。 怪物が多すぎたりしたら、その時点で諦めて戻って来るから」


「……そっか、分かった。 さっきも言ったけど、何もなければ俺もここに留まってるからな。 医者に会えたらすぐに戻って来いよ」


「うん。 ……色々ありがとう、ライナ」


勿論今生の別れ、と言う訳ではないが、操はライナに感謝の気持ちを改めて伝えた。


ライナが助けてくれなければ操は生きていなかっただろう。


「気にすんな。 ……またな」


操からの感謝の言葉にライナは小さく微笑むと、変わらぬ様子で返事をする。


操はそんなライナに対して同じく微笑みを返すと、背を向け霧の満ちた街へと駆け出して行った。


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