19 銃火の末に
連続投稿その3
今日は以上
「見つからないように」などと言う事は到底出来ないような轟音を立て、操はダクトごと管理室内に落下した。
「きゃああ!」
幸いにもダクトの真下には大きめの実験机のような物があり、操は崩れたダクトからその机の上に転げ落ちた。
ダクトのあった天井部分からの落下よりは衝撃は小さく済む。
「ぐっ……痛うっ……」
とはいえ、天井から落下して痛い事に変わりはない。
痛みに身悶えるが……今はそれ所ではなかった。
「な、何だ!? だ、誰だ!? お前は!?」
「っっ!!」
少し離れた所で喚いていた白衣の男が金切り声を上げる。
当然の事ながら、これだけ派手に登場しておいて気付かれないわけはない。
思わず男の方を見やると、その顔がはっきりと見えた。
廊下で目にした通り、歳はやはり30代中盤辺りだろうか?
しかし、先程よりも近い距離で見た男の顔は無精髭に覆われ、目の下には隈が浮かんでおり、とてもまともな状態には見えなかった。
「そ、そうか、さっき廊下で追いかけて来たのはお前だな! お、俺を殺しに来たのか!?」
突然の闖入者に、男は酷く動揺した様子で喚き散らす。
そして、操が先程自分の後を追って来た人物であると気付くと、慌てた様子で傍に置いてあった銃を手に取った。
「畜生!! だ、誰が殺されてやるものか!!」
「ちょっ……」
操は制止の言葉を発しかけたが、男の様子を見てすぐさまその行為が無駄であると理解し、身を捻り落下するように机の陰に身を隠した。
「くそっ! くそっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ!」
直後、パパパパパパッ、という連続した発砲音が鳴り響き、壁にいくつもの穴が穿たれた事で飛び散った破片が操に降り注いだ。
「っ……ちょっと! 言いがかりよ! 私はあなたを殺そうとなんかしてない!」
こちらの言葉に耳を傾けるとは思えないが、僅かな可能性に賭け男に呼び掛けてみる。
いくら相手がプロではないと言っても、サブマシンガンで弾幕を張られては命がいくつあっても足りない。
「うるさい! 嘘をつくな! フィッチャーも院長もお前が殺したんだ! それで今度は俺も殺しに来たんだろう!」
案の定、男は操の言葉に反応しても、操の言う事を信じようとはしなかった。
喚きながら操が陰に隠れた机に向かって更に銃弾を乱射して来る。
「っっ……!!」
操が身を隠している机は下部が大きな収納になっていて、一応盾にする事は出来ている。
しかし、この場から逃げるにしても、銃を乱射された今の状況では身を晒すわけにはいかない。
となれば反撃するぐらいしかないのだが、操の腕ではハンドガンのみでサブマシンガンに対抗するのは難しい。
(でもこのままじゃ、こっちまで近づかれてハチの巣にされるだけ……何か手は……!)
操が状況を打開する手段を考えあぐねていると、再び放たれた銃弾が机に着弾。
ダクトや天井の残骸を弾き飛ばして塵が舞った。
……と、その時。
机の上から何かが音を立て、身を屈めている操の真横に落下して来た。
ガシャン! という音と共に床に落ちたのは、一挺の銃……ショットガンだった。
(えっ? これは!? 机の上にあったの?)
周囲をよく見てみれば、銃撃で吹き飛んだ物の中に、軍や警察等でよく用いられている弾薬ケースがある事に気が付いた。
大穴が空き、中にあった拳銃弾と思われる物が大量に床に散乱している。
他にも弾薬ポーチや防弾ベストと思われる物なども複数あり、そこだけ見ればここが武器庫か何かかと錯覚しそうな程だ。
恐らくあの白衣の男がこの部屋に立て籠もる為に院内にある警官の死体から武器や弾薬を拾い集めていたのだろう。
つまり、操の手元に落ちて来たのもその内の一挺という事になる。
(そうだ!これを使えば……!)
と、その時操は、落下して来たショットガンを目にした事で、この状況の打開策を思い付いた。
手元にショットガンを引き寄せ、残弾の確認などを手早く行う。
ざっと調べてみた所、このショットガンは携帯性を重視した切り詰めタイプの物のようだった。
装弾数は3発と少なめだが、ストックを外してある等軽量化され、取り回しが良くなっており、銃の扱いに慣れていない操には丁度良いと言える。
そして都合の良い事に、弾は3発フル装填されているようだ。
銃の状態を確認した操は、安全装置を解除し、銃の前方についているフォアグリップを操作して初弾を装填した。
そして、白衣の男からの銃撃の隙を見て銃を机の角にマウントし、即座に狙いを付ける。
狙うのは、白衣の男……ではなく、男の頭上にある操が通って来たのとは別の通気ダクトだ。
操は記憶を失っている状態でも、不思議と「知識」は思い出す事が出来ていた。
その為、ここまでの探索において、操は頭に自然と浮かぶ知識を基に行動して来たのだ。
しかし、流石に銃の扱いに関する知識は殆ど無く、操はこの銃が散弾銃……所謂ショットガンと呼ばれる物であるという事しか分からなかった。
それでも、ショットガンが散弾と呼ばれる複数の小さな弾丸を発射する銃であり、撃つ為には銃身の下のカバーのような物、あるいは
グリップ部分を前後させるような操作をしてトリガーを引けば弾が放たれる、程度の知識は持っていた。
「……っ!!」
狙いを付けるほんの一瞬の間の後、操はトリガーを引いた。
ハンドガンとは比べ物にならない轟音と共に、銃から散弾が放たれる。
放たれた散弾は、天井からダクトを支えている金属部品を、天井の一部諸共吹き飛ばした。
すると、途端に男の頭上のダクト全体が耳障りな異音立てながら、大きく傾き落下しそうになる。
「う、うわぁっ!?」
突然の轟音と共に頭上から大質量の物体が落下して来た事に、男は驚愕し、反射的に銃撃を止めて操から意識を逸らした。
その隙を見逃さず、操はさらにショットガンによる銃撃をダクトの金属部品へ放つ。
放たれた散弾は、崩壊しかかったダクトを辛うじて支えていた部品を完全に破壊する。
その瞬間、天井からぶら下がっているに等しい状態だったダクトは一気に崩落し、白衣の男目掛けて落下した。
「ぎゃああああ!?」
崩落したダクトはバラバラになりながら白衣の男に降り注ぎ、男はその下敷きになってしまった。
その様子を見た操は、男を拘束するべくショットガンを構えながら机の陰から飛び出す。
…………しかし。
「くそぉ!!!」
「!?」
崩落したダクトの下敷きになり、身動きが取れなくなってしまったと思われた白衣の男は、ダクトと通信機などが設置された
机の間に出来た隙間に身を伏せる事で、偶然にも無傷だったらしい。
自分に近寄ろうとする操を目にし、狙いも付けず半狂乱であちこちに銃を乱射した。
咄嗟に別の机の陰に身を屈め銃弾を回避する操。
しかしその一瞬の隙に、男は自分の傍にあったボストンバッグを左手で掴むと、散発的に銃撃を行いつつ部屋の入り口へ走った。
(!! 逃がさない!)
逃走を図る白衣の男の動きを察知した操は、咄嗟にショットガンを手放すとハンドガンを抜き放ち、男へ向けてトリガーを引いた。
ショットガンでは殺傷力が高すぎると考えての事だったが、全力で走る相手を拳銃で狙い撃つのは操の想像以上に難易度が高かった。
走る男へ向けて連続して銃弾を放つ……が、狙いは逸れて壁に弾痕を穿つ結果に終わった。
「くっ……!」
そうこうしている内に部屋の入り口の扉へ男が辿り着く。
「寄るなぁ! あっちへ行けっ!!」
そう叫びながら男は、手にしたサブマシンガンを操が盾にしている机に向けて再度乱射した。
「っ!?」
慌てて再度身を隠す操。
やはり相手が素人とはいえ、サブマシンガン相手は操には荷が重い。
白衣の男は銃を乱射しながら、鬼気迫る様子で扉のドアレバーを肘で押し下げつつ、殆ど体当たりするように扉を開き廊下に飛び出して行った。
操はすぐさま後を追う……が不用意に飛び出せば撃たれる危険性がある為、慎重に廊下に聞き耳を立てつつ様子を伺う。
廊下を覗き込んでみると階段方面からバタバタと走る音が聞こえるが、男が何処へ向かったのかは操のいる位置からはよく分からなかった。
「……ふぅー…………」
男を見失ってしまった事を理解した操は大きく息を吐き出し、天を仰いだ。
クロフォード医師の行方についての唯一の手掛かりとも言える白衣の男だが、まさかあれほどしぶといとは思っていなかった。
一介の医者に過ぎないと考えて侮っていた事は否めないが、銃で武装した錯乱状態の人間の厄介さを嫌と言うほど味わってしまった。
「この状況で生き残っているだけあるって事かな……」
そう呟きつつ足元に放ったショットガンを拾い上げる。
操も銃の扱いに慣れているとは言えないが、青い花の力のせいで身体能力が上がっているようで、反射的に的確な対処を行える事がある。
しかし、だからと言って必ずそうした行動をとる事が出来るという訳ではない。
それに対してあの白衣の男は、そうした特殊能力無しでこの病院内で生き残っていたのだ。
最初からそれなりの能力がある相手として対処するべきだった。
(……まあ、何が一番駄目って、私がダクトごと転げ落ちたのがダメだよね)
当初の予定ではダクトを通って男の様子を確認しつつ、どうにかして身柄を拘束したいと考えていた。
だが老朽化していたのか、操が潜んでいたダクトが崩壊してしまい計画が台無しになってしまった。
当然気付かれてしまい男は逃走。
クロフォード医師の行方についての手掛かりは手に入らなかった。
(やっちゃったものは仕方ない。 この部屋に何か手がかりが残されてるかもしれないし、調べてみよう)
とはいえ嘆いていても始まらないのも事実。
そう考えた操は、気を取り直して管理室の内部を調べてみる事にした。
管理室内は2ヶ所で崩れ落ちたダクトのせいで酷い有様だった。
白衣の男が使っていたと思われる無線通信機らしき物が机の上に設置されていたが、ダクトの残骸に押し潰されて壊れてしまっている。
それ以外にもエレベーターなどの機械管理用と思われる端末があるが、そちらもダクトの崩落に巻き込まれてモニターごと床に転がっていた。
(機械類に関しては、壊れて使い物にならなそう……というか、私には使い方がわからないね)
そもそも専門的な知識が必要な機器類ばかりなので、壊れているかどうかに関わらず操作方法が不明だ。
むやみに触るべきではないのだろうが……一か所だけ気になる部分があった。
(あれ?この画面は点いてる……セキュリティ稼働状況?)
部屋の中央辺りにある大きな画面。
何台かある他の端末は、機械が破損したせいか電源が落ちてしまっていたが、この端末だけは辛うじて映像が映っていた。
画面には『セキュリティ稼働状況』の文字と共に『監視中』の文字が表示されている。
どうやら病院全体のセキュリティ稼働状況を24時間監視しているらしい。
(……病院ってこんな機械を使ってまでセキュリティ対策するものなのかな?)
勿論、世の中には不埒な事を企む輩が大勢いる為、病院などの公共施設に厳重なセキュリティを施すのは当然と言える。
だが、この画面を見ると、監視カメラの設置数が少々異常とも思える数が設置されているようだった。
南棟の方は巨大な『青い花』が生えて来たせいで壊滅状態になってしまっている為、ほぼ全てのカメラが機能していない。
その為、北棟の監視カメラやセンサーなどの類だけが稼働しているわけだが……。
(………………露骨すぎるでしょ、これ)
倉庫で見た北棟の改装計画書によれば、この建物は老朽化した建物をほぼそのままに修復を行い、外観を整えただけだ。
しかし、今操の目の前にあるセキュリティの稼働状況を示したモニターによれば、管理室以外の部屋には少なくとも1つ、多い所では3つものカメラが設置されている。
そして、その中でも特にセキュリティが厳重なのは……。
(……で、地下室周りのセキュリティが異常に多い、と)
正確には地下室の廊下と機械室だ。
廊下にはモーションセンサー式の監視装置がそれと分からないように設置されている他、機械室と霊安室の扉には開閉の履歴が残るようになっている。
監視カメラは機械室に2台、廊下に至っては4台ものカメラが設置されている。
一方、他の場所とは対照的に、霊安室には扉に電子ロックが掛かっている以外は一切のセキュリティが施されていなかった。
場所が場所だけに不自然ではないと言えなくもないが……。
(これだけ過剰にカメラだのセンサーだの仕掛けてるのに、霊安室だけ何もないっていうのは怪しすぎる)
そう考えると廊下や機械室は、霊安室周辺に近付こうとする者を見張っているようにも思える。
室内に関しては、それこそ見られては困る物がある、という事なのだろう。
(あの男はここで何をしていたんだろう? 外部と連絡を取ろうとしていただけなの?)
状況的に、この管理室もどうやら病院内の暗部に関わりがある場所のようだ。
となると、あの白衣の男がここに立て籠もっていたのは、本当に外部と連絡を取る為だけなのだろうか?
(……もしかして、ここでセキュリティを解除出来るの?)
セキュリティを監視する機械と思われる端末を調べてみると、遠隔操作でセキュリティを解除する事が出来るようだった。
しかし、解除にはどうやら指紋認証が必要らしく、指紋認証が出来なければセンサー類の解除は勿論、霊安室のロックも解除できないらしい。
(指紋認証が出来なくてここに留まっていた? だとすれば、あの男じゃなくて院長かフィッチャーの指紋が必要だった?)
先程、男が喚いていた内容を思い返すと、男は院長達の違法取引に雑用を任される程度に関わっていただけだったようだ。
院長達からの扱いがどの程度の物だったのかは不明だが、重要なポジションに居た訳ではないだろう。
となれば、これほど過剰にセキュリティが施された場所にアクセスできる権限まで持っているとは考え難い。
(この状況で霊安室に向かわないといけない理由があって立て籠もっていたけど、セキュリティ解除の目算が付かなかったから『葬儀屋』に直接連絡を取った?)
そう考えると一応辻褄は合う。
そして同時に、そうまでして地下の霊安室に向かわないといけなかった理由が男にはあり、男の通信時の発言を考えると、ある推測が頭に浮かぶ。
(霊安室に病院から……もしかすると街からの脱出に使える何かがある?)
男が通信機を使って『葬儀屋』にひたすら要求していたのは自分の身の安全だった。
ならば当初、地下にある霊安室を目指していたのは、自身の身の安全を確保する事が出来る手段……つまりは街からの脱出手段が存在するのでは?
(もしそうなら、調べてみる価値はあるかも)
街からの脱出手段になり得そうな物は、今の所発見出来ていない。
もしここでそういった物を見つけられれば、自分達の安全を確保する事が出来るかもしれない。
しかしその為には管理端末で指紋認証をする手段を考える必要がある。
なぜなら、権限を持っているであろう院長とフィッチャー医師の両名が既に死亡している可能性が高いからだ。
(確か、最近の指紋認証システムって、権限を持っている人間が生存していないとちゃんと認証出来ないんだよね)
その辺りの知識として浮かんで来る内容は曖昧だが、生きている人間の指は汗などで僅かに湿っており、
それ故電気を通すのでセンサーが反応する、という仕組みだったはずだ。
だとすれば権限を持った二人が死亡している現状、セキュリティのロックを解除する事は出来ないという事になってしまう。
(フィッチャーは死体を見つけた。 でも院長の死体は見ていない……あの男の言っていた事が本当かどうか確認しないといけないかな)
白衣の男は「院長も撃たれて死んでいた」というような事を通信機に向かって喚いていた。
まずはそれを確認する必要があるだろう。
(病院の院長がいる場所っていったら、院長室だけど……。 一番鍵が掛かってそうな部屋だよね)
あちこちに不要としか思えないセキュリティが導入されているこの病院の院長室。
そう考えると何も仕掛けが無いとは思えなかった。
(まあ、とりあえず様子を見に行ってみようか。 ……また鍵探しとか侵入口探しとかだったら嫌だなぁ)
また管理室に入る方法を探した時のように、あれこれと考えないといけないかもしれない。
操は嫌な想像をして憂鬱な気分になったが、一応この部屋を調べて良い事もあった。
病院には全く似つかわしくないが、室内の一角には弾薬ケースに入った各種弾薬が集められていたのだ。
恐らく白衣の男が病院の敷地内に停車している警察車両からかき集めて来たのだろう。
オーソドックスな9ミリ弾や大口径のライフル弾、ショットガンの弾もあった。
こんなに集めて来てどうする気だったのかという疑問が浮かぶが、怪物に対する白衣の男の不安の表れなのかもしれない。
(ちょうど良いし、補充させてもらおう)
操の持っているハンドガンは9ミリ弾を使用する物なので、消費した分を補充する事が出来る。
さらに、もう一つ操が使用出来そうな物があった。
(これって……ライフルとかを肩から下げるのに使う…………何だっけ? ベルト?)
操が見つけたのは銃を肩に担ぐ時などに使う、いわゆる「スリング」だった。
正式名称はよく分からないが、幸い使い方は操にも何となく分かる。
(あ、そうだ。 これをショットガンに付ければ……)
先程手に入れたショットガンにベルトを付けてみる。
すると思った通り、このショットガンに丁度良い長さになった。
(元々この銃の物だったのかな? 私にはちょっと長いけど……)
ベルトを使ってショットガンを担いでみると、操の体格には少々合っていないようだ。
ベルトの位置を調節してずり落ちないように、そして動き辛くならないようにする。
(よし……良い感じ)
調節したベルトの感触を確かめて満足そうに頷く操。
この先どんな怪物が表れるか分からない状況では、使える武器が多いに越した事はない。
特にショットガンは近距離では非常に威力が高い武器な上、ある程度離れた距離で撃っても散弾を使用する為命中率が高い。
射撃に慣れていない操にとっては大きな助けになるだろう。
(ハンドガンもショットガンも弾をポーチに補充したし……院長室に行こう)
そうして、管理室内にあった武器弾薬で準備を整えた操は次の目的地である3階の院長室へ向かうべく管理室を後にするのだった。
管理室を出た操は病院のマップを見て院長室の位置を確認した。
どうやらこの建物の3階にあるらしい。 ちょうど管理室の真上辺りだ。
階段を使って行けばすぐに辿り着けるだろう。
…………邪魔が入らなければ、だが。
「!!」
廊下を進んでいた操は、管理室がある廊下の北側寄りを警戒しつつ歩いていた。
暫く進み、先程目にした「事務室」と表示されていた部屋の前を通りかかった時に、大きな音が鳴り響いた。
音の発生源はシャッターが下りていた事務室の窓口と思われる場所であり、音に反応して目を向けてみれば、部屋の中から強い力が掛けられ外側にひしゃげていた。
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛…………」
聞き覚えのある奇怪な呻き声が聞こえ、ひしゃげてしまったシャッターへ更に何かが打ち付けられる。
ガンガンと何度も強い力で殴打されたシャッターは、部分的に裂けてその隙間から何本かの「枝」が飛び出していた。
(まぁ、あれだけ撃ちまくってたら気付くよね……)
ベキベキとけたたましい音を立て、シャッターを破壊しつつ受付の窓口から現れたのは、3体の『木人』だった。
狭い受付スペースから唸り声を上げながら、お互いに押し退け合う様にして這い出て来る。
そのまま床に転がる様にして落下すると、ゆっくりと立ち上がり、操の方へ向き直った。
「イ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ぁぁぁぁ……」
「ギィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ぃぃぃ……」
「キ゛キ゛キ゛キ゛キ゛キ゛…………」
それぞれ微妙に違う鳴き声、あるいは呻き声を上げながら、のそのそと近づいて来る。
狭い廊下、しかも3体もの木人を相手にしなければならない状況に、操は体を僅かに強張らせた。
(……中庭では広い場所を使ってどうにかなったけど、それでも一回組み付かれてしまった)
中庭で3体の木人と対峙した時の様子を思い出す操。
あの時は伏兵がいたとはいえ、広い中庭での戦闘だったにもかかわらず、間近に迫られた上、腕に喰いつかれてしまったのだ。
幸いにも植物質の『籠手』を腕に作り出す、という新能力で攻撃を防御し大事には至らなかったが、かなりシビアな状況だった。
『荊の鞭』や『棘』はどちらも近距離攻撃として見ると、性能が極端である為今回のような狭い廊下などでの使用は望ましくない。
その為操は、木人との戦闘を躊躇した。
(戦うのを避けるべき? ……ううん、後を追って来られたらもっと厄介な状況になる)
かくなる上は中庭でやってのけたように『籠手』での格闘攻撃で挑もうか、と考えた所で、ショットガンの存在を思い出した。
(そうだ! 中庭でこいつらは、ある程度近づくと一気に距離を詰めようとして来た。 そこをカウンターで撃てば……)
先程手に入れたショットガンの装弾数は3発の為、木人3体をそれぞれ一発ずつで仕留めなければいけない。
しかし、大火力の攻撃を素早く叩き込める為、勝算はあると操は判断した。
「キ゛ィ゛ィ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」
と、その時、操との距離が最も近かった1匹が、叫び声を上げながら小走りで走り寄って来た。
片腕に生えた無数の鋭利な枝を振り上げ、操に叩き付けようとして来る。
操は冷静に木人の動きを観察し、振り下ろされる枝の一撃をバックステップする事で躱した。
そして、即座にスリングで吊っていたショットガンに手を掛けると、枝を振り下ろして前のめりになっている木人の頭部に照準を合わせ、引き金を引いた。
「ゲ!?」
轟音が響き渡り、発射された散弾が木人の頭部の上半分を吹き飛ばした。
銃撃された事で木人の体自体も仰向けに倒れ込む……が、それを踏み越えて別の木人が接近して来る。
即座に操はショットガンのフォアグリップを操作して、次弾を装填。
そして、枝を振り回して近づいて来る木人に狙いを定め、再び発砲した。
「ゴ!!?」
2回目の発砲は、接近しつつあった木人の胴体部分に着弾。
木人の体に巻き付いた硬質な蔦を粉砕しつつ、木人を後方に吹き飛ばした。
まだ生きているようだが、ジタバタともがくだけで立ち上がって来る様子は無い。
操はショットガンの次弾を再度装填しつつ、今度は操の方から銃を構えて木人に接近すると、狙いを付けると同時に銃撃した。
再び轟音が鳴り響き、散弾が木人に襲い掛かる。
「……!??」
下顎辺りにもろに散弾を食らった木人は、完全に頭部が粉砕され、声を上げる暇も無く絶命してしまった。
「ふー…………。 何とかなったね……」
3体の木人達を無力化して、操は息を吐いた。
3体の内、胴体に散弾による銃撃を受けた木人は、唯一まだ息があるようだったが、体を痙攣させるのみで再び襲って来る気配は無い。
木人がまだ生きている事を確認した操は、再度意識を切り替え緊張した面持ちで木人に近付いて行く。
念の為腰のポーチから予備弾を取り出してショットガンに装填する。
ショットガンを構えつつ、慎重に息のある木人に近付いて様子を伺うが、やはりすでに虫の息のようだ。
「…………」
操はショットガンを下ろすと、右腿のハンドガンを抜き……若干躊躇しながら、木人の頭部へ向けて引き金を引いた。
1発
2発
3発
生命力の強い木人相手の為、念の為頭部に3発。
近距離から放たれた銃弾は、ほぼ同じ場所に着弾し、蔦の装甲を貫いて木人の頭を撃ち抜き絶命させた。
銃声が止み、廊下が静寂に包まれると、操は今度こそ体の緊張を解くのだった。




