プロローグ
唐突に目が覚めた。
最初に視界に入って来たのは、自分の腕。
しかし、なぜか「それ」が他人の物のような奇怪な感覚を覚える。
意識がはっきりしない。
どこかに頭でもぶつけて気を失ってしまったのだろうか?
そんな風に思いつつ身を起こすと、その考えを裏付けるかのように
猛烈な頭痛が襲った。
「……痛っ……!」
思わず頭を押さえる。
自分の身に何が起こったのか分からず混乱する。
やがて頭痛が多少収まった所で辺りを見回す。
「……ホテル?」
ざっと見回してみた限り、現在いる場所はどこかのホテルの一室のようだ。
どうしてこんな場所にいるのか思い出そうとしてみるが再び頭痛がぶり返しそうになり、慌てて考えるのをやめた。
……と、その段階になり、自分がホテルの部屋のどこに、どんな状態で倒れていたのかを認識する。
倒れていたのはベッドの上だった。
横向きに寝転がるような体勢で倒れ込んでいたのだ。
辺り一面に血が飛び散ったベッドの上に。
「ひっ……」
思わず声が漏れた。
かなりの量の血がベッドに広がっている。
よく見れば、壁にも血飛沫と思われる跡がそこかしこに見られる。
「……何……が、どうなって……?」
そこまでつぶやいてから、思わず自分の頭をぺたぺたと触れる。
……ケガをしている様子はない。
と、なればこれは誰の血なのか?
……それ以前に、誰の血だろうとここは危険な場所なのでは?
様々な考えが頭を巡るが、ともかく自分のいる場所を確認しようと
ベッドから降りて立ち上がる。
途端に足元がふらついた。
頭痛は多少マシにはなったとはいえ今も収まっていない。
朦朧とした意識を何とか保ち、部屋の反対側、向かって正面にある窓に向かう。
そのままテラスに出る事が出来るタイプの窓で、今はカーテンが閉められていた。
そこでやっと彼女は部屋の明かりが点いておらず、カーテンの隙間から漏れるわずかな光のみがこの部屋の光源である事に気付く。
「その割に、何だか明るいような……?」
そう呟きつつ、カーテンを開けると外の様子が目に入る。
……目に入る、はずだった。
まず見えたのは、恐ろしく濃い霧がかかって見えにくくなったテラスの手すりだった。
ほんの1m程度の距離にある物が、視認し辛い状態という事態に狼狽える。
しかし周りを見渡してもそれ以外に見えるのは、「恐らく」向かい側の建物の屋上と思われる「影」だけだった。
意を決して手すりまで近づき、階下を覗きこんでみるが、
見える物はほぼ何もない。
「どうなってるの……これ?」
そう呟いた瞬間だった。
先程まで無風だったのだが、突然風が吹いた。
霧を巻き上げるかのような勢いで流れた風は、霧をほんの少しではあるが吹き流す。
直後。
爆音が鳴り響く。
「!? ……何!?」
明らかに何かが爆発したようなドーンという音。
どうやら先程の風はあの爆発が起こしたものだったようだ。
そして、気付いてしまった。
爆発が起きたと思われる方角に目を向けたとたん、「それ」の存在に気が付いた。
「…………え?」
目の前にあったのは「影」だった。
他の建物と同じような輪郭が辛うじてわかるような「影」。
しかし、大きさが桁違いだった。
自分のいる場所が背の高い建物の上層階であるとは見当をつけてはいた。
それ故、その自分よりもはるか高い位置にこれほど巨大な物が存在するとは思ってもいなかった。
何より「それ」は、常識的に考えてあまりに大きすぎた。
そこにあったのは、『花』だった。
見上げるほどの高さ。 大都市の高層ビルもかくやという、巨大な『青い花』
そんな物体が、眼前にそびえ立っていた。
「何……、これ……!?」
花というよりはもはや『大樹』と言った方が正しいとすら思える巨大花が、眼前の街の殆どに根を伸ばし、まるで建物に食らい付いているかのような光景が広がっている。
その伸ばされた根や蔦からも大小の青い花が咲き誇り、まるで花畑のようになってしまっている所すらあった。
どう見ても異常な目の前の光景に唖然となりつつも、どうにか言葉を紡ぐ。
「一体……何が起こっているの…………?」
それだけをようやく絞り出し、目の前に広がる非現実的な光景に半ば茫然としていると再び霧が濃くなって行き、巨大花は霧の奥に姿を隠していった。
自身に起きた異変に、霧に閉ざされた街を飲み込む巨大な青い花。
白い霧に再度覆われた街並みを前に、「彼女」はただ立ち尽くすしかなかった。
寝て起きたら血塗れの知らない部屋に居るとか
私ならまずデスゲームを疑う。