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目覚め。

剣翁ちゃん視点ですね

一体何事だろう?

光が身体を包み、それが収まる頃には血生臭さが鼻を突く。視界が開けると、澄んだ空気を感じさせ青々とした芝の生い茂る草原だったはずのそこは、赤々とした液体が至る所に撒き散らされ、見覚えのある紋様が彩られた鉄クズが転がっており、ぶよぶよとしたナニカと混ざりあって真っ赤な花をあらゆるところで咲かせている。それは数時間前までは鎧と言う防具であり、もちろんそれを着用していた者がいたはずだ。例え何らかの理由で脱ぎ捨てて置いていたとしても、現状を見る限り自然にああなることは無いと断言出来る。


正直に言えば、現状を理解できないでいた。いや、理解したくなかった。だが、何ヶ月も網膜に焼き付けたそれを見間違うことは無い。ーー王国騎士紋。王国騎士団に属する者が、誇りと民の命を背負う事で初めて与えられる一種の称号だ。そしてそれを付けているのは、私達を待っていた者達だけ。だが何故だ?彼らは間違いなく猛者だ。一対一なら私達の方が強いとしても、連携すれば間違いなく彼らの方が強い。


「ン?マダイタノカ?」


!?ぼんやりしていたせいで全く気付かなかった!


「ニンゲン……シネ!」


驚くのも束の間、迫り来る剣を剣翁流刀術で辛うじて逸らす。


「こいつ……強い…」


思わず口から溢れる。よく見ればそいつは、3メートルは軽く超える身長に、盛り上がった筋肉、あまつさえ四本の腕に剣、槌、槍、盾と異なる武器を持っている。


「ホウ…オレノケンヲミキルトハ…イママデノヤツハミンナマップタツニナッタ。」


目の前の遺体に気を取られていたが、周りにも鎧ごと二つにされた騎士や先の戦いで逃げ出したクラスメイトの遺体もある。


ダンジョンを共に攻略したクラスメイト達もこれには流石に動揺している…

頼みの榊もさっきの反動で動けそうに無い…辛うじて善井と愛珠音が動けるのが救いか…


仕方ない。


「撤退戦だ。善井と愛珠音は皆をフォローしながら逃げろ!」


「瑞月ちゃんはどうするの!」


「そうだ。その言い方だと、まるで殿でもやるみたいじゃねぇか。」


「その通りだ。私はまだ切り札を使っていない。さっきも息を止めながら戦っていた。」


「そ、そうなのか。…………息を止めるのはなんの意味があるんだ…」


「何か言ったか?」


「い、いや何も。」


「とにかく私が時間を稼ぐ。みんなはとりあえず逃げろ!」


「……僕はまだ…戦える…」


「皇輝斗!お前無茶すんな!」


「そうよ!皇輝斗クン!ボロボロじゃない!」


「……それでも…それでも僕は…誰かを犠牲にしてのうのうと逃げるなんてできないよ…」


「榊…」


「いいぜ、やってやろうじゃないか!ここで死んでも文句は言わねぇ!俺も皇輝斗と同じだ!誰かを見捨てるなんてゴメンだぜ!」


「うん…みんなで力を合わせればきっと勝てるよ!」


「分かった…行くぞ!」


「サクセンカイギハオシマイカ?」


「そうだ!【鬼神化】」


先のミノタウロスのようにやれば連携は十分のはず…ただ、前衛はそうは行かないだろう。筋力も技量も桁が違う。自分に引き付けなければ…速さで翻弄すればあるいは…

とにかく、飛び込む!


「オヤオヤ、イセイガイイナ。オレニナノラセテモクレナイノカ。」


「はぁ!」


「マァイイ、オレハ、マオウグンシテンノウノヒトリ、"ヨツウデノザコル"」


何か言っているが気にしない。今のうちに少しでも多くダメージを稼ぐ!


超技【鬼神化】を使ってさえ、大したダメージを与えられている気がしない。善井は敵の攻撃をいなす事すらままならず、盾越しに槌を受けて吹き飛ばされたきり動く素振りを見せない。後衛組も何度か攻撃を放っているが敵の盾に弾かれる。


これが魔王軍か…


正直甘く見ていた。かつての勇者達も倒したんだと、ミノタウロスのようにみんなで力を合わせれば何とかなるのだと、そう思っていた。


だが実際は違った。力が違いすぎる。これは勝てっこない、そう思った時だった。


「…うぁあああぁあぁ!【捲土重来】!」


叫び声。魂からの声が聞こえた。後衛での魔法攻撃に徹していた榊が、切り札を使ったのだ。だが、先程のような神々しいオーラではなく。真っ赤なオーラを纏っている。明らかに無理をしている。だが、そうでもしなければ…


「うぉおおおぉぉおぉ!」


三本の武器と一つの盾をくぐり抜け光剣を振るう。そして槍を持つ腕を切り落とした。


だが、そこまでだった。みるみると赤いオーラは力を失くし、その消失と同時に榊は倒れた。


さて、残るは私だけか。【鬼神化】を維持出来るのもあと少し、もう一本、欲を言えば、あの巨体を覆う盾を持つ腕を落とせれば、残りのメンバーにも勝機がある。腹を括らなければ。


榊が槍の腕を奪ったおかげで、先程までよりも戦いやすい。捨て身の覚悟で剣を振るうこと数分、【鬼神化】が強制的に解除される。切断までは行かなかったものの盾を持つ腕をズタズタに切り裂いた。あれではもう使い物になるまい。だがそれは、自分の身体も同じ。両膝は地に着き、刀を取る気力も体力も無い。


巨大な剣がゆっくりと迫ってくる。それと同時に脳裏に様々な記憶が駆け巡る。


走馬灯か…


思い出す記憶では、自分はいつでも竹刀を持っている、名家の血筋だからと剣道に明け暮れていた。ホントのところ自分はそこまで剣道は好きでは無かった、もっと女の子らしい事もたくさんしたかった。

でも厳しい祖父には逆らう事もできず、言われるがまま。気が付けば女の子らしさなど欠片も無く、剣の道では男相手でも負けを取らない様になっていた。


日に日に感情を内側に閉じ込めるようになって行ったし、反論しようものなら何をされるか分からない、そんな事を無意識に刻まれ、他人の頼みを断れなくなった。


自由に生きている人間がとても憎くとても羨ましかった。その代表が江ケ崎だ。人に流されてしまう私とは違う。何か強い意志を持っていた。


~~~~~~~~~~~~~~


「江ノ崎君、今日は全校清掃の日だよ。みんなまだ掃除してるよ。なのになんで君だけ座っているんだい?」


「ん?そら、俺の担当が終わったからだ。」


「そうだったのかい。でもみんな、自分の担当箇所が終わったら他のところの助っ人に回ってるよ。」


「ふ〜ん、みんな君は勤勉だな。」


「そうだよ。だから君も手伝わないと。」


「なるほど………だが断る!」


「なんでだい!?」


「そんなルールは無いからな!」


「な……君に頼もうとした僕が馬鹿だったよ。」


~~~~~~~~~~~~~~


なぜか思い出した記憶。

不思議と口角が上がってしまう。


自由を得るのは難しい。誰しもが何らかの(しがらみ)を抱えているものだ。彼は彼で信頼を犠牲に自由を得ていたのか。それはそれで、やはり他人には真似出来ない事だと思う。みんな信頼を失いたくは無いだろうし、私も嫌だ。それを平然と行っていたのだ、ある意味決意と覚悟の顕れではないのか…考えすぎかな。


あぁ、私もここまでか。あの大きさの剣であの筋力だ、私の体など容易く両断するだろう。すぐそこまで死が近付いている。


結局女の子らしい事などできなかった。江ケ崎は今どこで何をしているのだろうか。かっこいいと言われた事はあっても、可愛いと言われた事は無かったな。武器も持たずダンジョンに放り出されたりしてないだろうか。必ず助けると決意したばかりなのに、もう果たせそうに無い。あいつは決意した事は何がなんでも成しえていただろう。剣士なんて辞めて、可愛い服とか着てみたかった。最初の頃は、声を掛けただけでびっくりして呂律も回らない様な奴だったから、どこかで怯えているかもしれない。こっちの世界では、何にも縛られることなく自由に生きてみようと思っていた。そのためのアドバイスを貰おうと思っていたのに。いつも挨拶だけしか出来なかったが、本当はもっと話したかった……


あぁ、なんだろう、この気持ち。なぜ今こんなに江ケ崎の事が頭を巡るのだろう。恨めしくも羨ましいから、ずっと彼を見ていた。そのせいだろうか。それともこれが人を好きになると言う事なのだろうか。


あぁ、まだ死にたくない。まだやり残した事だらけじゃないか。もっと彼のことを知りたい。でも、それももう……………………







(にわか)に視界が真っ白に染まる。遅れてやって来た暴風が、いつの間にか頬を伝っていた雫を彼方へと飛ばす。


視界を埋めつくした奔流が静まり、辺りを静寂が支配する。


眼前に迫っていた刃は影を潜め、そこにいたはずの巨体は脛より下を残し消滅している。


「助かった…?」


安堵のあまり意識を手放したのは言うまでもない。


■□


「知らない天井…」


「あ!瑞月ちゃん!良かった!」


気が付けばどこかのベッドで横になっているようだ。


「愛珠音……何があった?」


「うーんとねぇ?………」


要約すると、どこかから飛んできた魔法が私達がいた所の近くに着弾し、見事にあの化け物だけを消滅させた。私は気を失ったが、それは走馬灯の関係で脳が疲弊したのもあるだろう。後衛組は特に問題無かったらしく、咄嗟に前衛組をハジマリの街に運び、そこの兵士や冒険者達に応援を頼んだそうだ。榊と善井も何とか一命は取り留めたと聞いたので一先ずは安心だ。


だが、問題もある。騎士団の件は、既に街長によって王都に届けられているから大丈夫そうだが、それよりも重大なのは、飛来してきた魔法である。魔法に長けた後衛組の誰一人感知できなかった上に、とてつもない規模が消失していて、私達はギリギリで範囲から逃れていたそうだ。"飛来して来た"と表現したが、本当に飛来してきたのかどうかも怪しいらしい。何せ誰も飛んで来た所をみてないのだから。地面の抉れ方を見る限り飛来してきたが正しいようだ。ただ、あの化け物以外に犠牲は出てない様なので、恐らくは敵ではない、なら放置しても大丈夫、というのが現状らしい。


他に、亡くなった者が多いこともある。あの場に来ていた騎士団は全滅し、半数以上のクラスメイトが帰らぬ人となった。


だが、私達は生き残った。あの魔法の使い手には、何が何でも感謝を述べたい。それだけで済むのだろうか…報酬を寄越せと言われたら出せるものは無い。事情を話せば王国が代替わりしてくれるかもしれないが、最初からそれを当てにするのは良くないだろう。それに、相手が男ならこの身で払えなくも無い…


数日後、王都から連絡が届いた。今回の件で私達が力不足なのはよく分かった。故に、私達は、力を付けるため王立学院に向かうことになった。


私達は必ず強くなって、亡き友の為にも魔王を倒す。彼の魔法使いにも協力して欲しいものだ。

真の勇者の力が目覚めるのかと思いきや、剣翁ちゃんの恋心だったんですね。


次話は、来月中には書くと思われます。

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