5月22日 火曜日 黒板消しと真珠色の雨3
チョークの話をやめることにして、それはともかく、と彼に問う。
「なんで今日も来るんですか?」
昨日不本意ながらも約束を交わしたから、約束のときまで、つまりは教育実習が終わるまで、私に用はないだろうと思っていた。それなのに、今日も当たり前のようにやってきたのだ。
「来たら悪いか」
ふてくされたような声で問い返される。
いや、別に悪くはない気がする。チョークの話題はなかなか盛り上がったし。
「いや、ただなんで来るのかな、と」
ただ単に、疑問なのだ。
「お前に会いに来た、とでも答えたらいいのか?」
予想外の言葉に動揺して持ったままだったチョークの箱を落としそうになった。
危ない危ない。チョークは割れると使いにくいのだ。短すぎるチョークは、それこそ校庭のライン引きくらいにしか使えなくなってしまう。いや、実際使っている人はいないけれど、それはそれとして。とにかく、1本でさえ折れるともったいないのに、箱ごと割ってしまうとなると大損害だ。
さっさと棚に戻すことにしよう、決心しつつ言う。
「できれば違う答えが望ましいです」
チョークの箱を棚に戻しかけて、考え直して箱を開ける。どうせ箱を出したのだから、チョークの補充も済ませてしまうことにしよう。チョークの白を2本と黄色を1本、箱から出して、箱を閉じる。
それなら、と彼は小さく笑って告げた。
「人のネクタイを黒板消しと間違えるような馬鹿な生徒が、約束を忘れないように」
違う答えが望ましいとは言ったが、そのことはもちださないでほしい。自分でも思い出したくない失態だ。
それに、別に間違えたわけじゃないのだ、おそろいと言っただけで。
「約束したことは、忘れませんよ。そこまで馬鹿じゃありません」
「言ったな? 来週、絶対来いよ」
これは藪蛇だ。
はい、と仕方なく返事をしておく。
もっと別の答えがいい、と言うたびに追い詰められていく予感がするので、彼がなぜ来るのかはもう追究しないことにしよう。




