第60話 一方富楽は
一方その頃、死んだはずの富楽はまどろみの中にいた。
ぼんやりとした意識の中、何かが富楽をどこかへと案内している感覚を覚えた。案内人型ではあるが人間ではない。木製の人形。なんとも言えない表情をしたブサカワ系の人形が富楽をどこかへ連れて行っている。そんな感覚。
(あれ?こいつは)
富楽はそれに見覚えがあった。だいぶ前にメディナからお守りとして受け取っていた人形だ。
どこへ連れて行こうとしているのかは分からない。けれど意識はもうろうとしているし、体も動かない。不安は感じるものの身を委ねるしかない状況だ。
次第に意識がハッキリしていき、体の感覚も戻ってきた所で富楽は目を覚ました。
「ここは・・・」
富楽は横になったまま辺りを見渡した。
知らない場所だけれど、見覚えがある。この壁、この天井、このドア、このベッド。どこかの病院の個室だ。
富楽は体を起こし、手で自分の体をペタペタと触れて確かめる。
傷はない。ナイフで刺された感触は確かにあった。血もダラダラと出ていた。なのにそれが跡形もなく消えている。あの時の怪我が無かった事になっていた。
(うーん。これはもしかして夢オチというやつか?いや、でも夢にしてはリアルだったしなぁ・・・)
そんな事を考えていると、個室のドアがガラガラっと開き看護師が個室へと入って来た。
看護師は富楽が起きている事に気づき声をかける。
「あ、起きたんですね。どうですか?体の調子は」
看護師の心配の言葉に富楽は体を軽く動かして答える。
「あぁ、まぁ大丈夫そうです」
そして富楽は看護師へ質問を返す。
「俺はどうしてここに?」
「お酒を飲みすぎて倒れたんです。あなたが倒れた時に大きな音がして、それを聞いた隣の部屋の人が不審に思ってあなたの部屋を訪ねてみたみたいなんですけど、インターホンを鳴らしても出ないしカギは開いているし、ドアを開けて中を覗いてみると人が倒れてて、それで救急車を」
それを聞いた富楽はハァとため息を吐いた。
「そうですか・・・」
そんな様子の富楽に看護師はお叱りの言葉を放つ。
「そうですかじゃないですよ!あのまま放置されてたら死んでたかもしれないんですからね!」
「すみません。これからは気を付けます」
部屋で倒れたあの時。富楽は自分は死んだと思っていたけれど、看護師さんの言うには何とか一命と取り留めたらしい。
ひょっとしたらあの異世界の事は夢の出来事だったのかなと思い始めていると、
「そうそう、倒れている時に手に握っていた人形はそっちの棚に置いておきましたので」
「人形?」
富楽は何かの人形を握っていたとの事。
看護師が指さす先、棚の上の方を見てみると、そこにはブサカワ系の木製人形があった。まどろみの中で見たあの人形。メディナに手渡されたお守りの人形だ。
どうやらこれまでの出来事は単なる夢オチという訳でもないらしい。きっとあの人形が富楽を元の世界へと無事送り届けてくれたのだろう。
富楽はあの世界での事を思い返し、決意する。
「俺も、もう少しがんばってみるか」




