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薄いブルーの封筒に入れると、薄いピンクの封筒も手に持ち、私は急いで戻った。
「はい。あげる」
薄いブルーの封筒を翔真に差し出した。渡されたものを見て、目を瞬く翔真。
「開けていい?」
と言いながら封筒から、メッセージカードを取り出していた。「家に帰ってからにして」と私が言っている横で。
「これって……俺のために作ってくれたのか」
「んなわけないじゃん」
感動したようにいう翔真に、事実を教えてやる。そう、この桜のメッセージカードは翔真へと作ったものではない。翔真へのカードはこれから作るつもりでいたから。これは、本当は園先生に個人的に渡そうと思って、作ってみたものだった。けど、色紙の桜が満足いくものが出来たから、必要がなくなったものである。
「それで、こっちは樹里亜ちゃんに渡してね」
薄いピンクの封筒も翔真へと手渡した。こっちは樹里亜ちゃん用に用意していたもの。ピンクの封筒を情けない顔で受け取ると、改めて表情を引き締めて翔真が言った。
「佳乃、元気でな」
「翔真こそ。気候が違うからって体調を崩さないようにね」
右手を出して来たから、その手を握り返しながら私は言った。手を離すと、翔真はもう一度笑顔を見せて「じゃあな」と私に背を向けて歩きだした。
私は彼が道を曲がるまで見送ると、急いで家の中へと入ったのでした。
◇
「な、なんでお前らがここにいるんだよー」
翔真の大声が駅の構内に響き渡った。
「なんでって、見送りに決まってんだろ。なあ」
「そうそう。ほんと、水臭いんだからな、小木は」
お調子者の田倉君と川上君が、翔真の肩に肘を置くようにして話している。その翔真は視線をさまよわせたと思うと、私に焦点を合わせて怒鳴ってきた。
「なんで話してんだよ、佳乃」
「みんなに話すなって言われなかったし~」
私は腰に手を当てて胸を張るようにして翔真のことを睨みつけた。
「普通、察するだろ。何してくれんだよ」
「自分でサヨナラも言えないお子ちゃまの尻拭いなんて、したくないからに決まってんでしょ」
「だーれが、お子ちゃまだよ」
「あんたよ、あ・ん・た! 他に誰がいるっていうのよ」
ポンポンと言い合う私達に、集まったみんなの目が丸くなっていた。この三年間おとなしいと思われていた私が、翔真と言い合っているのだ。みんなの視線が翔真よりも私のほうに集中していたのも、仕方がないか。
それにもう一つ、みんなが目を丸くしているのには、訳があった。
「樹里亜ちゃん、僕、必ず大学は樹里亜ちゃんがいく大学に行くからね。それまで待っててね」
「もちろんよ、透君。来てくれるなんて嬉しいわ」
「だって心配だもの。樹里亜ちゃんは可愛いから、きっと他の男達が放っておかないよ」
「やだ~。私には透君だけだからね」
と、隣でラブラブ光線をだしまくりの我が弟と樹里亜ちゃんは、言い合い中の私達より視線を集めている。
どう見ても小学生カップルがラブっているのだ。素直になれないお年頃の私達には眩しいものがあるよね。
私は視界の端で弟たちの様子を見ながら、心の中でグッジョブと親指を立てていた。
◇
昨日、家の中に入るとすぐに、私は小木家に電話をした。小木のおばあさんに翔真から聞いたことを確認するためだった。おばあさんは驚いていたけど、翔真から聞いたことは本当だと話してくれた。それで、なぜ確認の電話をしてきたのか聞いてくれたから、翔真がみんなに黙って日本を発つつもりだと、チクったのだ。
お茶目なおばあさんは「翔真にはお仕置きが必要ね」と言ってくれた。なので、私は明日、見送りに行くと伝えたの。おばあさんは「お別れのための時間は気にしなくていいわ」と、弾んだ声で言ってくれた。
私はおばあさんとの電話を終えると、真智にメッセージを送った。真智からすぐに返事が来て、数度やり取りをした後、『翔真に気づかれないように!』を合言葉に、クラスメイトへの連絡を任せた。
それから夕食時にうちの家族に「翔真と樹里亜ちゃんが明日日本を離れる」と言ったの。弟の透は涙目になった。樹里亜ちゃんに会いに行くと言ってきかない透に、私はそっと耳打ちをした。その言葉を聞いて弟は母に連れられて樹里亜ちゃんに会いに行った。
◇
実は、もちろんここに樹里亜ちゃんのクラスメイトだった子たちもいた。こちらは樹里亜ちゃんと透のことを、いつものことという風に囲んでいた。透はこの三年間毎日送り迎えをして、周りにも樹里亜ちゃんとの仲は公認となっていたのだ。転校してきてから樹里亜ちゃんが、小さい頃に一緒にいた透に、べったりとくっついていたのも大きかったのだろう。二人は本当に仲が良かった。
その二人を見ながら、田倉君が翔真の肩を叩いた。
「小木、小学生に負けてんぞ」
「なっ! 何のことだよ」
「そうそう。ここで素直になっとかないと、あとで後悔するのは小木だって」
川上君も翔真のことを小突くようにした。
「だから、何のことだよ!」
怒鳴る翔真に田倉君は呆れた視線を向けた。
「なんだ、気がついてなかったのか、小木は。お前の気持ちなんかバレバレだっつうの」
「はあ?」
翔真は間抜けな顔を晒した後、みんなを見回してから顔を赤く染めた。何かを言おうと口を開くけど、パクパクとするだけで言葉にならないようだ。
「あのさ、みんながハッパをかけてくれようとしているのは嬉しいけど」
と、私はゆっくりと話しだした。みんなの視線が私に集中した。翔真も私が何を言い出すのだろうと、不安そうに口を閉じた。
「昨日、『好きだった』って告白されたのよね」
途端に上がる歓声。「おお~」「やるじゃん」などと、翔真の肩や背中を叩く男子もいた。そんな中、宮崎さんが冷静な声で「ちょっと待って」と言った。
「ねえ、聞き間違いじゃなければ小木君は『だった』と、言ったの?」
「そう」
私は簡潔に一言で肯定した。途端に今度は「え~」と、ブーイングが起こった。
「なんで?」
真智が一言で聞き返して来た。
「離れる距離に自信が持てないみたいね」
私の言葉にみんなの視線が翔真へと集中した。
「それって、自分が心変わりするって、思ってんの? それとも柿崎さんの気持ちを、離れている間、小木のほうに向けさせておく自信がないわけ?」
「なっ!」
川上君の言葉に、言葉を詰まらせる翔真だった。




