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10~球技大会・続~

雲一つない青空の下で行われる星翔せいしょう学院第一回球技大会。

4月。

まだ人間家系もそれほど深まってない時期にこの行事を行うことで生徒同士の仲を深めようとすることが学校側の一番目的だろう。

だが、俺は違う。

社会へ出るまでの執行猶予期間であるこの学生生活。いわば自由でいられるこの時、俺は自由を奪われてしまったのだ。

「友達を作る」という「は? それで?」って感じの目標に付き合わされて・・・・・。

その自由を取り戻すため俺はこの球技大会に臨んでいる。

しかし、今、この状況からいって「自由」の二文字は遥か遠くに消え去ろうとしている。




『まもなく、ソフトボール決勝戦、A組対H組の試合が始まります。出場する生徒は直ちに校庭へ集まってください』


校内に響き渡る放送アナウンス


「だってよ。いつまでもぐずってないで行くぞ」


俺がそう声をかけたのは昼休み中ずっといじけていた黒髪ロングの女子、鬼嶋きじま桜子さくらこだ。


「はあ・・・・何で運命ってこうにも残酷なの・・・・」


哀愁に満ちた表情を浮かべ、悲劇のヒロインような台詞せりふ言う鬼嶋。


「はいはい。んなこと言ってないで行くぞ」


鬼嶋の表情を無視して俺は強引に外に連れ出す。


「やだやだー! また三振するもん! またエラーするもん!」

「そんなのやってみなきゃわからないだろ」


やってみなくてもほぼほぼ結果は分かるが。


「あ、あれれれ? なんか急に腹痛が痛くなってきたなー!」


お前それ演技しているつもりか? 大根役者にもほどがあるぞ。

しかも「腹痛が痛い」って文法間違っているから。


「てか、お前さっき『自分が不甲斐なさ過ぎて食欲湧かない』って言って弁当一口も食べてなかっただろ」

「うぐっ」


鬼嶋は痛い所を突かれたような声を出す。


「それに、このままお前が試合に出るのが嫌だからって行かなかったら人数不足でA組うちは不戦勝で負ける。そうなれば『鬼嶋のせいで優勝を逃した』『鬼嶋のやつ、ふざけんなよ』と言った不満の声がクラス中から上がって友達を作るどころか、クラスにお前《鬼嶋》の居場所は無くなって・・・・」

「わ、分かったわよ! 行けばいいんでしょ、行けば!」


鬼嶋は俺が言ったことを想像したのだろう。話を進めていくうちに鬼嶋の顔色がどんどん悪くなって行くのが見えた。そして俺も悪い顔になっていただろう。

そうしたら鬼嶋は我慢の限界が来たのか、俺の話を遮って部室を出て校庭へ一目散に駆けて行った。

う~ん、やりすぎた・・・・か?


ちなみに「オミオミのその悪そうな顔も・・・・良い」とハァハァしている変態痴女野郎は無視して俺も部室を出る。

 


――――すでに校庭に俺を除く他のメンバーが集まっていた。


「みんな揃ったな。決勝だ、何が何でも勝とう!」

円陣の中心で俺たちを鼓舞するように叫ぶ大河。

それに対するみんなの声は「おぉ・・」とすこしばかり元気がない。それもそのはず、対戦相手に原因があった。


「何だよ、みんな元気がないぞ?」

「大河、無理もない。相手があのH組だからな」


H組。

またの名をスポーツ推薦すいせんクラス

全国各地から集められた何かしらのスポーツに長けている者の集まり《クラス》。

H組の教室の前を通ると色々な方言が聞こえてくるものだ。しかも、H組の生徒たちは「本当に同い年か?」と疑いたくなるような肉体からだをしてる。


みんなの士気が上がらないまま決勝戦が始まってしまう。




「ストライク! スリーアウト、チェンジ!」


そう宣言する主審の声。


「あんな速い球打てるわけねーだろ」

「しかも、女子にも容赦なしかよ」


野球部の内川と村田がそれぞれ愚痴をこぼし、守備位置へと向かう。


「楽勝、楽勝」


そう言ってマウンドを降りてベンチに帰る長身のH組《相手チーム》のピッチャー。


「さすが及川おいかわだ。俺たちも負けてられないな!」

「いやいや、大河さん。そのやる気はどっから来るのよ」


はじけるような笑顔でマウンドへ向かう大河を横目に俺はセンターのポジションへ向かう。

あぁ~、遠い。


「及川、ナンスピッチングじゃ!」

「決勝ってコールドあるん?」

「はよ、打って試合終わらせんかい!」


H組のベンチから聞こえる声は西の方で使われている方言がほとんどだ。

大河によると、ピッチャーの及川は大阪出身で中学時代に日本一の経験がある、全国屈指の選手だそうだ。すでに野球部でもエース候補に上がっているそう。

他のやつらも全国では有名なやつばかりらしい。


1回の裏、H組の1番バッターが打席に入る。


「はよ、こんかい。終わらしたるわ」


そう言ってマウンドの大河を睨む。

その顔はセンターの離れた位置でも分かるくらいに怖い、そして「本当に高校生?」と聞きたくなるような老け顔だった。

あの顔面ならうちの組のにいても他のやつと遜色ないな。うん、マジで。


そんなことを考えているとおっさん高校生が放った打球はライトの鬼嶋を襲う。

あんなデカい当たり鬼嶋が取れるわけない。

俺は全力で鬼嶋のカバーに向かうがどうやら間に合いそうにもない。

ぎこちなく打球を追う鬼嶋。その姿は錆びて上手く動かないロボットのようだ。


「キャッ!」


鬼嶋はバンザイをするように仰向けで豪快に転んでしまう。

「終わった」俺がそう察したときだった。

あろうことか打球の落下点と鬼嶋のバンザイしたグラブ位置がピンポイントで重なりグラブの中にボールが収まる。

周りから歓声が上がる。それに気づいていない鬼嶋はキョロキョロと周囲を見渡す。


「なに? どうしたの?」

「お前のグラブの中、見てみ」

「え、グラブ? ・・・・・あ!」


鬼嶋の表情は太陽ように輝く。


「やったぁ!」


喜びを爆発させて走ってベンチへ戻る鬼嶋。

その後ろ姿を見て俺は思うことがあった。


鬼嶋、まだチェンジじゃないぞ。帰って来い。




――――――試合は進み、とうとう最終回。

3対0と、三点ビハインドでA組の最後の攻撃を迎える。

先頭バッターは4番の大河から。


大河の振ったバットから快音が鳴り響き、打球はセンターの前に落ちる。

右の拳を突き上げる大河。これが及川から放ったA組初めてのヒットだ。

5番の村田もヒットで続き、無死ノーアウト1,2塁。


だが、

6,7番の女子二人は三振に倒れれる。

女子にも容赦しないで快速球を投げ込む及川。

俺はいいと思うぞ。女子だから、とかそーゆー差別しないところ、俺はいいと思うぞ。


とか、考えているが次のバッターは俺だ。


あぁ、なんかダブるな。中学最後の大会と。

――約1年前、中3の夏。勝てば関東大会出場の大一番点差は1点。場面は奇しくも今と同じ最終回で二死ツーアウトランナー1,2塁。一打逆転のチャンス。

その時、俺は極度の緊張で体が岩のように重かったのを覚えている。

結果、見逃し三振。1回バットを振らず・・・・いや、振れず試合が終わった。


とか、回想に浸っているとすでにツーストライクと追い込まれる。

余裕が有り余っている表情をする及川。女子にも容赦しない、その腐った性格は好きだけど、その面は気に食わねえ!

及川の投じた第3球目。


「ガゴッ」


俺はバットを振るも、詰まりに詰まってボテボテの内野ゴロ。


「うおぉぉぉぉぉ!」


全速力で一塁に向かう俺。

気がつくと無意識で俺は一塁にヘッドスライディングをしていた。


「セーフ!」


一塁審が両手を大きく広げている。

ヘッドスライディングした結果、俺の体操着は真っ黒だ。

でも、何とか首の皮一枚繋がった。

が、次のバッターは。


「鬼嶋ー! 頼むぞ!」


3塁ベース上で叫ぶ大河。

最終回、二死ツーアウト満塁フルベース一発サヨナラのチャンスでバッターは本日オール三振の鬼嶋だ。

しかも及川は女子に手を抜かない中々の手練れだ。うん、ぜひ友達になりたい。


・・・・兎にも角にも、ラッキーでも偶然でも何でもいいからバットに当ててくれ鬼嶋!


「ぶんっ」

「ぶんっ」


俺の思いも虚しく鬼嶋のスイングは空を切き、ツーストライクと追い込まれる。


これで終わりか。

及川がこの試合、最後の1球になるだろうボールを鬼嶋へ投じた。

だが、及川は勝利を確信して気が緩んだか、コントロールミスで鬼嶋の顔面付近にボールが行ってしまう。


「しまった!」


及川は慌てるもすでに時遅し。

快速球が鬼嶋に襲い掛かる。

その光景を目にして俺はあることがフラッシュバックのように脳裏に浮かび上がる。それはバッティングセンターの出来事だ。


校庭中に響き渡る金属音。


「うそ・・・・だろ?」


マウンドで呆然とする及川。

誰もが死球デッドボールだと思ったボールを鬼嶋は打ったのだ。しかもレフトの頭上を越える長打を。


「鬼嶋、走れ!」


バットを両手で握ったまま呆然と突っ立っていた鬼嶋は俺の声で我に返り、慌てて走り出す。

一人、また一人とホームへ帰って来る。

俺もホームへ帰り、土壇場で同点に追いつく。

逆転のランナー鬼嶋もホームへ向かって走る。

そして・・・・


「よっしゃー! 逆転だぁ!」


鬼嶋がホームベースを踏み、4対3とA組がH組に逆転する。

逆転満塁ホームラン。鬼嶋の大活躍により勝利した・・・・・・したはしたのだが、喜びと興奮のあまり俺たちはその裏のイニングがあることをすっかり忘れていたのだった。



――――黄昏時。

夕陽がビルたちを赤く染め上げる。我が星翔学院の校舎も同じ様に真っ赤に染まっていた。


「いやー、惜しかったなー」

「そうだな。あれはサヨナラ勝ちのノリだったもんな」

「それな! オミなんか試合終わったと勘違いして整列してたじゃん」

「う、うっせ。あれは忘れてくれ」


教室の中、俺と大河は黒板の上に飾られた『準優勝』と書かれた賞状を眺める。


「・・・・よし、じゃあ帰るか」

「だな」


祭りのあとの雰囲気が二人の間に漂う。

そこで俺は制服のズボンのポケットに物寂しい違和感を覚える。


「やっべ、ケータイ忘れたかも」


俺のスマホは手帳型のケースでその中に電車の定期券も入っていることからなくすと色々と厄介だ。


「ちょっと部室見てくるわ」

「おう、じゃあまた明日」


俺は「ごめん」と大河に謝って急ぎ足で部室へ向かう。

部室の灯りが付いていることが渡り廊下から見える。

誰かいるのか?


部室の前に到着。


「誰かいるのかー? 入るぞー」


そう言って扉を開ける。

扉の向こう側。俺の目に飛び込んできたのは、たった今スカートを穿こうとしている下着姿の鬼嶋の姿だった。

デジャブ。

鬼嶋と初めて会った時と全く同じ光景だ。

強いて違うとこと言えば、窓から見える桜の木が青々とした葉を揺らしていることと鬼嶋の下着の色が淡い水色で上下とも中央に可愛らしいリボン付きだということだ。


「ご、ごめん!」


俺は慌てて部室から出る。

だが俺はそこである違和感を感じていた。

ある物がなかったのだ。

疑問を確信に変えたかった俺は鬼嶋が下着姿だということを承知で再び扉を開ける。


「た、龍臣!? なに、堂々と見てんのよ!」


鬼嶋は近くにあった部厚めの資料集を俺に投げつける。

視界がだんだん鬼嶋が投げた資料集に覆われて行く中で俺はあることを確信した。


鬼嶋の肩にあった般若と桜吹雪の刺青いれずみがきれいさっぱり無くなっていることを。


それを確信してからすぐに俺の頭に資料集が直撃し、その痛みに悶え苦しむのであった。

誠に勝手ながら賞レースへ出す作品を執筆するので当面の間は連載をお休みさせていただきます。

                                    大多喜 皇

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