誰もが譲れないものを抱えて
ジャスがディディを見つけたのは、その日の夕刻だった。
「ディディ、今いいか?」
「リアさんならリーシャ様のお部屋にいらっしゃいますよ」
「違う」
まさかディディにまで言われるとは思っていなかった。どれだけ自分が判り易い言動をとっていたか指摘された気分で、ジャスは僅かに顔を赤らめる。 背後に控えるヒースはきょとんとしているようだが、気取られるのはなんとなく癪で、咳払いで強引に話を戻した。
「ディディ、ランティスには会ったか?」
「はい。さっきまでリーシャ様の旅支度をお手伝いしていました」
ジャスは軽く頷いた。ここまでは想像通りの会話だったからだ。問題は次。
「まさかとは思うけど、念のため聞く。付いて行くつもりじゃないよな?」
「え?」
ディディがリーシャと同じ色の目を丸く見開いた。何故そんなことをと、顔に書いてある。
「もちろん、お供します」
「あー」
やっぱりか、とジャスは項垂れる。
ディディがリーシャを慕っているのは、城の誰もが知っている事実だ。敬愛してやまぬ巫女姫の傍を片時も離れようとはしないその姿は、正直クリフと重なるものがある。
どうしたものかと思案するジャスは、ディディが背嚢を抱えているのに気付いた。
「それ、誰の?」
「私のです」
「はい没収」
鮮やかな手つきで少女から空の背嚢を奪い、そのまま背後の護衛官に投げ渡す。ヒースも心得たもので、主の意図は分からずとも背くことなく従った。
「えっ、ジャスさん!? なにするんですっ」
「ちょっとリーシャに引っ付き過ぎだ。将来の夢はストーカーか何か?」
あまりに心外な言葉だったらしく、ディディはそのまま絶句した。今だ、とジャスは畳み掛ける。
「嬉しいのは分かるよ。死んだと思ってた大切な人が還って来たんだ。だけど、ディディは度を越してる。あまり張り付かれると、リーシャも疲れてくるんじゃないか? 俺だって、未だにクリフが鬱陶しいんだぞ」
空気だと思えれば楽だが、そうはいかない。少なくとも、ジャスとリーシャは周囲の者を「背景」と割り切れるような性分ではないのだった。
一方、どこかで自覚はあったのか、ディディは小さく呻いた。
「でも……」
「ていうか、ディディ。ランティスのこと嫌いだろ」
ずっと以前から感じていたことを指摘すると、今度こそディディは飛び上がった。
「な、なんでそんなこと言うんです?」
明らかな動揺を見せながらも気丈に振舞おうとする姿に、それで誤魔化しているつもりかと呆れつつ、ジャスは屈んで、妹同然の少女を覗き込んだ。
「巫女の世話役だったんだよな、お前の一族」
「……はい」
「血の穢れを持つ奴を、巫女には近づけたくないのが本心なんじゃないのか」
ディディが押し黙った。図星だったらしい。
「サーシェスやリオンとは普通に接してるのに、ランティスは駄目なのか」
「……駄目です。駄目に決まってます」
「理由は?」
短く訊ねると、ディディの目が鋭くなった。
「巫女は天に仕える神聖な導き手。しかも、リーシャ様は龍神のお児であらせられます。いずれ龍の住まう世界に還ることが定められた、特別に尊いお方なんですよ!? 恋人なんて必要ありません。邪魔なだけです」
「ディディ」
ジャスは呻いた。まさかと思いつつ今日まで放置してきたが、これほど彼女が信心深いとは知らなかった。もはや妄信的といえるだろう。
故郷を失った日、ディディも絶望の中で悟った筈だった。
自分達の信じてきた都合のよい救いの「神」など、何所にも存在しないことを。
しかしリーシャがかつてと変わらぬ姿で生きていたことに、ディディはいたく感激した。再び神を信じるようになったのだ。
それだけなら、まあ別に宗教云々は個人の自由だと悠長に構えていられた。けれどランティスに対する風当たりの強さが日増しに看過できるものではなくなっている。今はまだランティスも気付かないふりをしているが、そのうち周囲が不審に思い、いずれ女王ルフィスの耳にも入るだろう。ランティスの過去は皆が知っていて、しかも国主自らチュニアールに招き入れた経歴がある。つまり、彼の過去を誹謗することは、それを認めた女王に喧嘩を売っているようなものなのだ。現実主義のルフィスがディディの肩を持つとは思えないし、何より他の構成員の手前、【星空の宴】全体の空気を悪くしたディディに、何らかの罰則が与えられる可能性が高かった。
そこで最も責任を感じて傷つくのは他ならないリーシャであるということを、おそらくディディは理解できていないのだ。というより、今の様子では考えてもいないのだろう。
「ディディ。言いたくはなかったけどアイモダは、もうないんだ。まして、閉じ込められてたリーシャを見つけて助け出したのも、お前じゃない」
ジャスは確実に少女を傷つけると承知の上で、口を開く。しかし、ディディは噛みつく勢いで反論してきた。
「リーシャ様がいらっしゃるなら、アイモダ復興も夢ではありません」
ディディは、つま先を睨んでジャスと目を合わせようとしなかった。言いくるめられることを理解しているのだろう。少しでも歩み寄る姿勢と取ったら負けだ、と言い聞かせているらしい姿は滑稽でありながらも痛々しい。
ジャスとしては、ディディにもう少しオブラートで包むということを知ってほしいものだった。そうすれば、ランティスとの確執も誤魔化しが効く筈で、彼女の傍にいる二人の少年、セブン・ボナクとラディール・オゾロックが上手くフォローしてくれると確信していたのだ。
しかし、彼女の暴走はジャスやセブン、ラドの予想を超えていた。
(丸投げしやがったからな)
数日前から、ジャスは複数の相談を受けていた。
一つはセブンとラドから、ディディの説得。彼ら(主にラド)は自分の手に負えないと判断するや、ディディが兄のように慕うジャスに協力を求めてきたのだ。ジャスとしても少し目に余ると感じていたので吝かではなかったが、なんだか上手く利用されている気分ではある。
そして、もう一つは――――。
「リーシャにその気はないよ」
「……そんなの、リーシャ様に直接お尋ねしなければわからないじゃないですか」
「俺はリーシャに相談されたんだ。自分に構ってばかりで、お前がセブン達と距離を置いてるって」
本当は、それだけではないのだけれど。なるべく言わないでほしいとリーシャにも念を押されている手前、最初から全てを話すつもりにはなれなかった。
「いいえ、リーシャ様がそのようなことを仰る筈がありません!」
「聞け。リーシャは人間だ。いい加減にしろ」
「あの方は天と私達を繋ぐ尊い御遣いです」
「もしかしたらそうなのかもしれないけど、それ以前に女性だよ」
「たとえ女性であっても、それ以前に神に近しい存在なのです。女神も同等の存在なのです」
その言葉が、妙に気に障った。
脳裏に最愛の少女が浮かび、次の瞬間、そんな少女を苦しめてきた帝国の連中と、目の前のディディが重なりそうになり、激しい怒りが湧いてくる。落ち着けと自分に言い聞かせるうち、自然と声が低くなった。
「いい加減にしろ」
説得するはずが、完璧な喧嘩になっている。ディディと口論するのは初めてかもしれない。
「ディディアン・ポルシェア。それ以上の妄言は控えるんだ。今お前が取っている言動は、リーシャにとって負担にしかならない」
「では、ランティスさんをリーシャ様から引き離して下さい!! あの人は、神聖なるリーシャ様にまるで相応しくない。いえ、それよりも害悪を成す存在です!」
流石に、この言葉は聞き流せなかった。
堪忍袋がの緒が切れるというのは、こういう感覚なのだろうか。そうどこかで考える自分が、やけに遠く感じた。
「それは、彼を取り立てた女王陛下に対しても侮辱に値する言葉だな」
冷静にディディを取り成すつもりだった。
けれど、幼少の頃から傍で支えてくれたランティスをここまで言われては、いくらなんでも気分が悪い。しかも相手は、彼が過去を抱えて苦しんでいるのを、知ろうともしない小娘だ。それはほんの一瞬だが、ジャスの中にもディディへの敵意が芽生えてしまう。
「リーシャは、確かにアイモダでは比べるもののないくらい、貴い存在だったのかもしれない。けれど、ここにいる以上はただの団員だ」
ジャスの声が冷たい硬さを帯び、興奮していたディディも口を噤む。
ジャスは基本的に温厚で優しい。だからこそ、出会ってからずっと本当の兄のように慕ってきた。けれど、怒ったところをみるのは、今日が初めてだった。
間違ったことは言っていない。そう思うのに。
怖い。
全身を冷や汗が伝った。
「ディディ」
「……はい」
いつも通りの愛称が、今は逆に不安を煽る。
「リーシャからランティスを引き離すことは出来ない。彼女が望んでいるのは、彼と共にいることだ」
「で、でも」
先程までの威勢は見事になくなり、ディディは狼狽した。
この人は民の上に立つ王族の器なのだろうな、と思い知らされた。思わず膝を付きたくなる。
対等に向かい合っている筈なのに、逆らえない。
「なあ、リーシャはいずれ龍の世界に昇るんだよな?」
「そ、その通りです。ですから」
弱腰ながら抗弁を試みるディディに、ジャスはちらりと視線を寄越す。
「じゃあディディは、リーシャがいつ死んでも悲しくないんだな」
「!?」
とんでもない薄情者扱いに、ディディは目を剥いた。
「そんなありません!」
「けど、お前の主張を要約すると、そうなんだろ。リーシャの死後に期待してる」
「違います!」
「どう違う? リーシャをアイモダの皆が願った純潔のまま、天に捧げたいんだろ」
「それでは、まるで人身御供のようですね」
苦し紛れに言葉を発するが、もう会話の主導権は完璧にジャスが握っていた。
「そうやって新たな守護神となったリーシャの加護のもと、アイモダで暮らす。それが理想か」
ジャスが吐き捨てた。彼にとってリーシャは、少し気の毒な経歴と変化能力の持つだけの仲間で、大切な友人だ。
そして、ランティスを変えてくれた恩ある相手。
「ディディ、アイモダの復興は諦めろ。どうしてもと言うのなら、そこにリーシャを巻き込まないと約束するんだ」
「なにを……!」
ディディがなにか言いかける。
意地になっている彼女に、ジャスはとうとう告げることにした。
「リーシャの命が春になる前に尽きるからだ」
「え?」
理解できないというディディを無視するように、ジャスは淡々と続ける。
「さすがに半年じゃ、他の生き残り連中捜すだけで精一杯だろ? 無理だよ。旗本になれそうなリーシャもいない、しかも本人にその気はないんじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
青褪めて叫ぶディディに、ジャスが向ける視線はひどく冷たいものだった。
「なんだ」
「な、何を」
「リーシャ自身が俺に相談してきたんだ。なるべく言わないでくれって頼まれたけど、これ以上お前が暴走しても困るし、先に知っといた方がいいと判断した」
「リーシャ様はまだお若いんですよ!?」
気色ばむディディに、あくまでジャスは冷淡に答える。
「少なくとも十年は神殿にいたんだろ。外見が変わってないだけで、もう四十代だし」
リーシャ本人が許しても、ランティスやリアが聞いたら激怒しそうな台詞である。リーシャなら実年齢のままの姿でも変わらず美しい姿を保っているに違いないだろうと思いつつ、ジャスは続けた。
「それに、さっきからお前自身が言ってるだろ。リーシャは龍の児だ。寿命に違いがあっても、何ら不思議はない」
人間にとって一年が、違う生物にとっては3年である場合もあるように。それ以前に、神殿で幽閉の際に使われていた術式は、リーシャ自身を核として稼動していた。その負担として寿命が随分と削られているのだ。
(クリフが何か掴んでくればいいけど)
リーシャから相談を受けた直後に、港の海兵を使って伝令を出した。元々トロナイルは魔法で発展した先進国だ。世界各国の神話などの書物も多くある。滞在中、可能な限りでいいから、彼女の寿命を伸ばす手段を捜してほしいという旨の手紙を送ったのだ。しかし内容が内容の為、他の団員に知られるわけにもいかず、返信は不要とした。王宮の誰かに見られるのも面倒なので、すぐに焼却する指示も出している。
もちろん、そういった行動をディディに伝えるつもりはない。リーシャが生きたいと望んでいても、今の彼女はその意志を妄信のもと切り捨てる可能性がある。
「頭を冷やせ。お前は、リーシャが巫女だから慕っているわけじゃないんだろ」
「え?」
虚を突かれたようなディディに、ジャスは更に言った。
「お前が“リシエル”って巫女姫を狂信的なほど慕っているのは、嫌ってほどよく分かった。でも、お前は“リーシャ”のことも好きなんだろ?」
「すき……?」
「そう、好きなんだろ。近所のお姉さんみたいなリーシャのこと」
ディディは黙り込んだ。何かを思い出しているのか、ここではないどこかを見ているような印象を受ける。
「リーシャ様は、特別な巫女姫なんです」
「そうだな。あんなに華奢な体で、とんでもない怪力だ」
とぼけるジャスを、ディディは呆然と見上げた。
「本当なんですか……?」
「なにが」
「だ、だから……」
あえて冷たく聞き返す長身の相手に、ディディは臆した。
(どうしよう)
流石にディディも、自分が何かとんでもないことを犯したという気分になっていた。ジャスの態度がその証拠だ。
彼は理不尽に誰かを責めるような人でない。それだけの信頼があった。なにせ相手は、海賊の所有物になっていた自分を助け、この国においてくれた恩人なのだから。
声が出ない病気と分かってからは、ディディの物覚えの悪さに見切りを付けることなく、懇切丁寧に文字を教えてくれた。セブンやラドと出会って声を取り戻すまでは、ジャスの教えてくれた文字で筆談し、他者に意思を伝えていたのだ。
(あ……)
そこで思い出した。そうだ。
(ランティスさんは、色んな本を用意してくれた)
当時まだ幼く、文字という概念に馴染みの無かったディディを慮って、彼は多くの書物を集めてくれたのだ。物語性があれば勉強も捗るだろうと、本当に沢山。
それだけ世話になった義兄弟に対し、自分が何を言ったか改めて思い出す。
頭に血が上っていたとはいえ、これは酷い。最低だ。人間として侮蔑されても文句の言えない振る舞いをしている。
更に青褪めるディディは、もういつ気絶してもおかしくないほど顔色が悪い。ジャスはその姿を淡々と眺め、時機を見計らって口を開いた。
「今のままじゃ、リーシャは遠くないうちに死ぬ。彼女が望んでいるのはお前じゃなくてランティスだ。ただでさえ弱った体で、精神面も芳しくないんじゃ回復の余地もないだろ」
「そんな……」
言葉を失っているディディに、ジャスは改めて釘を刺す。
「少しでも今ランティスに対して詫びたいと思う気持ちがあるなら、今回の旅は黙って見送れ。お前はその間に頭を冷やすんだ。いいな?」
有無を言わせぬ口調に、ディディは力なく頷くしかできなかった。
+ + + +
もっと他の言い方があったかもしれない。立ちすくむディディを置き去りに廊下を歩きながら、ジャスは溜息をついた。冷静であろうと思いつつ、結局は頭に血が上って喧嘩腰になってしまった自分を悔いつつ、角を曲がる。
曲がった瞬間、何かが飛来してきた。
「殿下!」
アホに見えても武官らしく、ヒースが前へ出ようとする。
「いや」
“こいつら”の気配は感じていたので、まあ無事に部屋へ戻れるとは思っていなかったし、もっと婉曲に告げることができなかったのかという自己嫌悪もあった。それでも、ジャスにとって先のディディの言動は酷いもので、とても聞き逃せるものではなかったのである。
「そのままで構わない」
何か――――投擲された木刀を、ジャスはあっさり避けた。もともと、しっかり狙いを定められていたものではなく、感情を持て余した子どもが癇癪のようにぶつけてきたも同然の軌道で、むしろ、当たれ、というのが無理な注文だった。
「なにか用でもあるのか?」
淡々と、しかし、彼らにとってはしゃあしゃあと言うジャスに、先程の口論をずっと見ていた二人の少年はそれぞれ複雑そうな顔をしていた。
褐色肌の少年セブン・ボナクは、怒りと動揺をない交ぜにしたような表情。
一方の、黒縁眼鏡をかけた少年ラディール・オゾロックが、苦渋と感謝、他にも多くのものが混同して、何ともいえない眼差しでジャスを見ていた。
「ありがと、ジャス兄。嫌な役回り押し付けちゃってごめんね」
「いいよ。確かに今のあいつは耳も貸さなかっだろうし」
ディディの中で優先順位を付けるなら、勿論一位はリーシャだろう。そして、第二位はジャスだというのは誰もが知っている。故にジャスはセブンから延々と目の敵にされているのだが、今はどうでもいい。それにセブン程度なら寝ぼけていても撃退できる。
「うん。でも、ごめん」
セブンと比べて理知的な振舞いで知られるラドは、静かに目を伏せた。それはディディへの説得を頼んだ事の謝辞のみでなく、怒っているらしいセブンのことを詫びている風にも見えた。
こいつも大概にして苦労性だと思いながら、ジャスはセブンに目をやった。
「あ、いたのか」
「ふざけんな! 誰がチビだ!」
「ジャス兄と比べたら僕たち小さいだろ、背も齢も器も」
セブンの怒りの矛先を引き受けた事に安堵したらしいラドが、茶々とも取れる風な口を挟む。褐色肌の少年は、ぐっと押し黙った。相変わらずラドの言葉はよく聞く奴だ。
それでもラドがこの直情馬鹿を押し付けてきたのは、ラド自身も相当に参っていて、馬鹿の相手をする余裕がないからなのだろう。そして恐らく、セブンの方もそれを承知している。普段なら諭してくれる友人の不調ともいえる態度が更に苛立ちと焦燥を呼び、ジャスを睨む目が据わっているのがよく分かった。
(厄日だな)
面倒だった。ディディならともかく、今の相手は馬鹿というのが愛称になりかけているセブンである。正直、殴り倒して暫く放置した方が手っ取り早い気がする。しかし、それでは頭を下げてきたラドに悪い気がして、結局は向き合ってしまうジャスだった。
「今日は何の八つ当たりだ?」
「ふざけんなって言ってんだろ! ディディに何言ったんだ!?」
(へえ)
どうやら会話が聞こえていた訳ではないらしい事に安堵する。内容はリーシャの抱える深刻な問題にも触れていて、今あまりの大勢に知られるのは得策ではなかった。
「お前がディディに言おうとしても言えなかったことだよ」
「それって、聞き方によっては愛の告白したみたいだよ」
絶妙なタイミングでラドが口を挟む。ジャスは頷く。
「あー、そっちもあるな」
「いつかするから、それまで何も言うな!」
自分の気持ちが周知の事実となっていると暗に指摘したジャスとラドの思惑には気付く事なく、セブンは僅かに赤くなりながら喚いた。確かに今の彼はディディにとって完璧な圏外だろうし、想いを告げても断られた挙句、その後ずっと避けられてしまうのが関の山だ。
「なんで俺に聞くんだよ。ディディに聞け」
「じゃあ、なんであんなに泣きそうになってるんだよ!」
「……自分がそうするのが嫌で、俺に押し付けたんじゃなかったのか」
先程までの不快さが蘇り、ジャスの声が低くなる。どいつもこいつも、最近のガキはどうしてと思ったところで、自分も充分にガキな態度だったと反省した。何より、目の前でがなる馬鹿の横には、年齢の割に落ち着いていて、哀れなほど賢すぎて色々なことを弁えた少年もいるではないか。
ちょっと大人になろう。ジャスは頑張ることにした。生意気なセブンの鼻っ柱をへし折ってやりたい衝動を抑え、その頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「行けよ。せっかく悪者になってやったんだからな」
言って、ジャスはセブンに道を空けるようにして歩き始めた。
その場に残されたセブンとラドは思う。
きっと敵わないんだろうな、と。
背が伸びたって、一番大事な部分は追いつけない。
どんなに体が大きくなって知恵をつけ、齢を重ねても。
ディディが、ジャスやリーシャを見る時と同じ目で自分を見つめてくれることは、きっとないのだ。
そう、少年達は思った。




