いつか、親愛なる誰かへ
紅夜だけは味方だった。
だがしかし、やはり彼はノアリスの夫なのである。類は友を呼ぶというわけではないが、似た者夫婦ではあるらしい。
陽翼宮は世継ぎの王子であるジャスの住居だけあって、ノアリスが己を囮とするため意図的に警備を穴だらけにしていた瀞霊宮とは違い、配置されている衛兵たちの数が比較にならないほど多い。
そんな中を王妃を担いで歩くわけも行かない。味方の目を掻い潜らねばならないという予想外の事態に、リアは思わず足を止めた。
「どうしましょうか」
「どうって?」
訊かれた意味がわからない、と言いたげな紅夜の態度に、リアは慌てて説明する。
「だって、あんなに兵士がいるじゃないですか」
「殴り飛ばして意識を奪えばいいだけだろう」
真顔で、心底不思議そうに言われた。それが世界の常識、みたいな目だ。リアは途方に暮れてしまう。もしかして、この場で普通の感性を持ち合わせているのは自分だけなのだろうか。
呆気にとられるリアの代わりに、反応を示したのはヒルダとノアリスだった。
「よし、じゃあ僕は左を」
一体どういう構造なのか、そもそも何が「よし」なのか。ドレスの中から三角錐剣を取り出したヒルダが不敵に笑う。
「だったら、わたしは右だね?」
こちらもいつの間に握っていたのか、そもそも「だったら」と何なのか。ノアリスが双剣を翻して艶然と微笑んだ。
なんでそうなるのかと、困り果てたリアは最後の希望にかけて声を上げる。
「こ、紅夜さん!」
「え? ああ、そうだな」
紅夜が真剣な顔で頷く。
「俺は王妃を抱えてるから、精々援護射撃くらいしかできないが」
背中は任せろと空中に魔力弾を生み出す紅夜に、リアは絶望した。
陽翼宮の平和は自分が守ってみせると決めたリアは3人をなんとか宥め、まずレイチェルとヒースに助けを求めた。王子の乳母であったというレイチェルは立場上レメリーの顔を見知っているし、この陽翼宮のなかでも影響力を持っている筈だ。その息子であるヒースも、ジャスの近辺に侍ることが多く、周囲から一目おかれる存在であるのに間違いない。彼らを押さえれば上手くレメリーを室内に移せるだろうと、リアは確信していた。
案の定、呼び出された二人はレメリーの存在にこそ仰天していたが、事情を話すと苦い表情で同意を示した。ジャスには明日の朝にでも伝えようということになり、レイチェルが見張りの衛兵たちに一時的な幻惑魔法をかける。結界のせいで長続きはしないらしいが、それでも精巧なものだと感心した。
「ありがとうございます、レイチェルさん」
「まあ、そのようなこと。レン様の件、皆様にはどれほど御礼申し上げても足りるものではございませぬ」
深々と頭を下げるレイチェルには、「王妃が陽翼宮に入り込み、そこでノアリスと鉢合わせて気絶した」といろんな意味で心苦しい嘘の経緯を伝えてある。ヒルダを庇うためとはいえ、真摯な眼差しを向けてくるレイチェルに、リアは心のなかで陳謝していた。
「レイチェルさんは、レン様が王室に嫁がれてからお仕えしているのですか?」
「はい」
浮かない表情で頷きながら、彼女が一行を先導して歩く。リアが続き、その横にはヒルダが並んでいる。後ろには王妃を抱えた紅夜とノアリス、最後尾にヒースがいた。
「ずっとお独りで……わたくしはお側近くににおりながら、お諌め申し上げることも、お慰めして差し上げることもできませんでした」
少しずつ壊れていった主を思ってか、レイチェルの顔には暗い色が宿っている。
「独りじゃなかった筈です」
「え?」
レイチェルが驚いたような顔で振り向く。リアは笑った。
「妃殿下を煙たく思う人なら、そんな顔はしないはずです。あなたは真実、妃殿下に誠を尽くしてたんですよね。だったら、妃殿下は独りじゃないです」
「そんな、わたくしごときが」
レイチェルの顔が歪む。主を支えきれなかったことを罪だと、自分を責め続けてきた彼女を見て、思う。
ああ、彼女も、また。
「あたし、ずっと独りだと思ってたんです」
特に声を張るでもなく、歩きながら、まるで天気の話をするような、雑談めいた気軽な調子を意識して、リアは口を開いた。
「大切な人を失って、信じていた唯一の味方とも拗れて。そんな時、あなたたちの王子に出会いました」
懐かしさに目を伏せる。
「たくさんの縁がありました。初対面が最悪な人もいたし、逆に話す前から嫌われてしまうこともありました。だけど、それ以上の素敵なことが、本当にたくさんあって」
そして気づいたことがある。
「最初の頃は、ここはなんて素晴らしい楽園なんだろうって感動しました。だけど少しずつ考えるようになったんです。ここにいるから幸せなのかなって」
「……どういうことですか?」
レイチェルが静かに聞いた。リアも努めて平静を装い続ける。
「もといた場所で、あたしはずっと独りだと思い込んで、籠の中にいたんです。もっと話せばよかったのに。ちゃんと愛してくれていた父親のこと、蔑ろにしてました。そのことを、離れてから半年以上経ってようやく理解したんです」
母アルナと出会い運命の恋をした父ギルバード。妻の形見である娘を、大切に慈しんでくれた。そうでなければ、リアはとっくに継母の策略で屋敷を追い出されていただろう。
「そばにいる、いてくれる人を大切にしよう。うん、したいと思いました。それができなければ、きっとどんなに美しい場所で優しい人たちに囲まれても、あたし自身は何も変わらない。それができないうちは、誇れる自分になんてなれない。今までの自分は一方的に欲しがってばかりの、ただの甘ったれた依存しか知らなかったんだって気づけた。……あたしは皆のことが大好きだから、自分自身と向き合う決意ができました」
だから、と少し俯く。
我ながら生意気なことだと思いながら。
「妃殿下も、いつかきっとわかって下さいます。いえ、本当はもう、気づいておられるのかも」
「え?」
「レイチェルさんや、たくさんの人に支えられていること。生かされていること。本当は、もう自覚しておられるのかも」
そこまで言い切って、リアはようやくため息をついた。
顔が、熱い。
人の事情に首を突っ込んでいる余裕があるのかと言われたら反論できない。しかし相手がジャスの母なら話は別だ。だからといって、親子ほど年の離れたレイチェルに自分の想いを話すのは、予想以上の勇気を要した。
「……お優しくていらっしゃるのですね」
楽観的だと言いたいのだろうか。確かに、所詮リアは狭い籠のなかで甘やかされた小娘であり、レイチェルからすれば綺麗事にしか聞こえないかもしれない。半ば想像通りの反応でもあった。
「優しくないです。ただ」
「ただ?」
「気になっていることがあるんです」
そう、ずっと前から。
ジャスーージャスティス・ラゾーディアの名前を聞いてから、ずっと。
「少し、確かめたいことがあります。後で、あたしと妃殿下を二人きりにしていただけますか?」
結果として、二人きり、とはならなかった。
ヒルダが頑なに頷かなったのだ。ノアリスと紅夜も、彼女ほどでないにしろ難色を示していた。
折衷案として、寝台で眠るレメリーの側にはリアが付いたが、そのすぐ脇の物陰にヒルダ、少し離れた壁際にはレイチェルが配置された。扉の向こうにはノアリスと紅夜、更に次の部屋にはヒースが待機している。
『お姫様、いーい? 少しでも危険だと判断したら、話の途中でも僕はその場で割って入る。殿下の母親だからという気持ちは分からないでもないけど、だからってお姫様が無理して抱える問題でもないんだ』
顰めっ面で言ったヒルダからは、リアを心身を案じてくれている気持ちが伝わってきた。だからこそ、リアは笑って答える。
『ありがとう。でも、無理なんてしてないの。少し確かめたいことがあるのよ』
ヒルダは不満げだったが、リアに譲るつもりがないと察してか、渋々付き合ってくれている。ただ、その手は未だ剣の柄を握っていて、必要とあらばいつでも抜き放つ腹積もりであることはよくわかった。
(意外な流れだわ)
チュニアールでジャスと最後に顔を合わせた夜以来、事態は常にリアの想定外の方向へと転がり続けている。今の状況ですらほんの僅かな仮初めの平穏であると、直感が告げていた。
だから、きっとこれは最後の機会だ。
彼女の話なら何度も聞いた。どれも良い印象を受ける内容ではなく、今の厳重な対応もそれを裏付けている。実際、リアも殴ってやりたいという衝動にかられたのだから。
だが、それを飲み下すと、別の感情が首をもたげてくるのだ。
きっと半分以上は、哀れみだと思う。
そしてーー残りの、この胸を占める感情の名前を、リアは知らない。決してまっさらな、綺麗で高尚なものだけではないのだ。苛立ちも嫌悪もある。それでも、歩み寄って抱き締めたいと思うのは、間違いなく情だった。
(よく似てる)
国王の顔は知らないが、ジャスやノアリスはほぼ間違いなく母親似だろう。静かな寝顔は、見慣れた恋しい男を連想させるには充分なものだった。
「ん……」
その口唇から声が漏れる。リアは自然と腹に力が入った。
「お目覚めですか」
「……ええ」
レメリーは静かに答える。さて、とリアは注意深く、その様子を観察した。
側に仕えるレイチェルによれば、ここ最近のレメリーは様々な年齢に記憶が逆行するらしい。大抵は少女時代と現在を行ったり来たりしているとの事だが、今回もその限りと楽観してはいけない。緊張するのもしかたがないだろう。
「あたしのこと、覚えておいでですか?」
「リアさんでしょう。覚えているわ」
淡々とした口調に、ピンとくる。
今の彼女は間違いなく、年齢層通りの人格だ。
「ここは陽翼宮なのかしら」
「ええ。時刻が時刻でしたので、まことに失礼とは存じますが、わたしが殿下よりお借りしたお部屋にお連れさせて頂きました」
「……あの子が? あなたに?」
身を起こしたレメリーは驚いた様子だったが、ふと口をつぐむ。
「そういえば、確かにあの子たちを知っている口ぶりだったわね」
「はい。先程はとんだご無礼を」
頭を下げる。ややして、構わない、と声がかかった。
「あなたは、どちらと親しいの?」
「ノアリス殿下にも本当によくしていただいておりますが、先にお会いしたのはジャスティス殿下です」
「そう」
それきり、レメリーは俯いて黙り込んだ。リアは少し迷ったが、ややして決断を下す。
話すならば、今しかない。
「王子殿下の御名には、二つの古語が含まれていますね」
レメリーの顔が強ばった。予想していた反応に、リアは言葉を重ねる。
「代々王太子に与えられてきた称号である“ジャスティス”は、正しい心、正義を示していると、殿下ご本人にお聞きしました。国の未来を正しく導く担い手となるように、と祈りが込められているのですよね」
他に男児がおらず、生まれた時に王太子となることが半ば確定していたジャスは、この称号をそのまま名前として与えられた。これは彼の立場を守るための措置でもあったのだろう。
そして。
「“ラゾーディア”って、どなたが名付けたのですか?」
レメリーが更に俯く。怒りとも悲しみとも違う横顔に、リアは確信を抱くことができた。
「妃殿下ご本人が、名付けられたのですね」
「……だったら、なんだというの」
絞り出すような声だった。苦しそうな瞳。
母親とは、どうしてこうも厄介な生き物なのだろうなと、ぼんやり思う。
「“Dear”……でしょう?」
古い言葉。その意味は「親愛な」「可愛い」そして「愛しい」だ。
「王子でない、ただの息子のための名前なんですよね」
親愛なるラズ、可愛いラズ、愛しいラズ。
いつか彼は言った。
生まれるまでは、母も自分をちゃんと愛してくれていたと思えると。
(違うわ)
生まれてからも、愛していたのだ。
一生を縛られることが定められた息子に、この名前を贈ったのだ。
王子でなくても貴方を大切に想うと。
「……そんなに綺麗な気持ちだけではないわ」
「え?」
レメリーの顔がリアの方に向けられるが、目線はやはり合わない。
「どういうことですか?」
「……私はノアリスにとって、少しも良い母ではなかった。だから、怖かった。せめて息子を大切にして、ノアリスとも少しずつ親子らしくなれたらと思う一方で、いつか息子さえ疎んでしまうのではないかと考えたから」
それだけ自分に失望していたのよ。そう語るレメリーの目から、透明な雫がゆっくり伝い落ちる。痛々しいのに、どんな宝石よりも美しかった。
「祈ったわ。誰でも良い。本当に、誰でもいいの。お願いだから、この子を愛してって。これはそんな名前でもあったの」
いつか、親愛なる誰かへ。
私が愛してあげられなかった息子を、母など要らぬと笑えるくらい慈しんで下さい。
息子の傍にいる、遠い未来の君へ。
「……それは」
「ひどい母親でしょう。愛しいと名付けておきながら、その舌の根も乾かぬうちから、もう誰かに責任を委ねているのよ」
ようやくレメリーと目が合った。彼女は笑っていた。自分自身を嘲笑っている表情だった。
「あの子たちが何の罪を犯したわけでもないのに。ただ、腹のなかで大きくなっていく強い魔力に、生まれもった色彩に、私は恐怖した」
「……“魔女の児”の特徴だからですか? それは」
リアは迷った。
チュニアールを出る前、ルフィスから教えられた事実を思い出す。
『トロナイル王室こそ、伝承の起源である魔女の血を引く一族なのよ』
公になれば王家転覆さえ起こりかねない話は、ジャスやノアリスを知らなければただの荒唐無稽な作り話として聞き流すこともできた。しかし、逆に彼らを知るリアは、ルフィスの言を疑うことができない。
レメリーは知らないようだった。知らず知らず魔女の一族に嫁いだ彼女は、何故自分の子が呪いの子であるかを理解できず怯え、壊れてしまったのだ。
そして、国王の判断も間違ってはいないのだ。こんな不安定な王妃に、真実の歴史を伝えれば、それがいつどこで漏れるか知れたものではない。
ちらりとヒルダを伺う。静かに首を横に振る姿から、彼女も概ね事情を察しているのだと知れた。
(どう言えばいい?)
自分にはサズがいて、父がいて、マリアがいた。全てを失ったと勝手に思い込んでいた時も、ジャスが暗闇から連れ出して、たくさんの出会いを与えてくれた。母の想いも、その中で知ることができた。
彼女の息子に救われた自分はーー。
「……あたしは自分を望まれない子だと思ってました。だけど、それは勘違いで、本当は母にとても愛されていたんです」
小さく呟くように言うと、レメリーが悲しげに微笑んだ。
「良いお母様なのね」
「岩にも負けない頑固者のようでしたけれど、やっぱり愛されていたと知れた時は、嬉しかったです」
「そう……」
また、レメリーが俯く。自分と比較しているのかもしれない。しかしリアには、アルナが正しくてレメリーが間違っているとは思えなかった。その逆も然り。そもそもリア自身、母アルナについて誰かに語ったことがなく、言葉が上手く纏まらない。
「……なんて言うか、あたしは」
「?」
急に頼りない声になるリアを、レメリーが不思議そうに見つめる。
「愛情というのは、赦しに似ていると思うんです」
「赦し……?」
「はい」
誰かを好きになるのは、そしてその気持ちを認めるのは、自分や何かをひとつ赦すことに似ていると、リアは思う。レメリーが憎んでいるのは実子を愛せなかった自分自身だが、その葛藤こそが愛ではないのだろうか。
「あなたは、愛しているんだと思います」
ジャスは母親似なのだろうなと思う。不器用な想い方。深い思いやりと馬鹿みたいな誠実さは、母親から受け継いだのだ。
「……赦されていいはずがないわ」
低く呟く声は震えている。リアはゆっくり問いかけた。
「どうしてですか?」
「だって私のせいだもの。それなのに、さもあの子たちが悪いように逃げ回って。赦されて良いわけがないわ」
レメリーの両目から涙が溢れる。拭おうとして、しかしリアはその手を下ろし、静かに耳を傾けた。
「ちゃんと産んであげられなかった。一緒に死ぬ勇気もなくて。残酷な運命と苛烈な人生を与えてしまった! それなのに、それなのに寄り添い慰めることもできない、これのどこが母親だというの!」
とうとう顔を覆い嗚咽を漏らす王妃に、リアより先に反応したのはヒルダだった。
もう彼女は、剣の柄を握っていない。その目は王妃の丸くなった背中に向けられていた。
ヒルダも自分と同じ気持ちなのかもしれないなと、ぼんやり思う。
「あたし、好きな人がいるんです」
静かに目を伏せる。色鮮やかに甦る記憶の中に、いつだって彼は笑ってくれていた。
「その人を好きになって、たくさんのことを知りました。初めてのことばかりでした。そのどれもが美しかった」
空から見た朝焼け。雪を被った山陵が眩しく輝いた。他国を巡る馬車の旅、青い海と港町。船旅の果ての理想郷。
己の愚かさに気づけた。知らなかった愛に触れた。その全てが大切で、与えてくれたのは彼女の息子なのだ。
いつか、親愛なる誰かへ。その言葉に応えよう。
「このあたしから、親愛なる、あなたへ。いつか、届きますように。……大好きです。みんな、もっと沢山の人たちに、あなたの息子は今も愛されています。これからも愛され続けていきます」
ゆっくり言葉を紡ぐ。レメリーが驚いた顔でリアを見ていた。
「リアさん、あなた」
「殿下はあなたがいなくたって、このお姫様やたくさんの友達に、たっぷり愛されてるんだよ。もちろん僕や僕の家族も、ヴァレンティノワ家の人たちからもさ! だから馬鹿な自己嫌悪はやめて、はやく開き直りなよ」
被せるように言うのはヒルダしかいない。驚いた顔から圧倒された顔になるレメリーに、リアは密かに同情する。
(こんな風にズケズケ言われたことないわよね、きっと)
ついつい苦笑した時、室内にノアリスが入ってきた。レメリーの顔が強ばる。
「ノアリス」
「あのね、王妃さま」
ずんずん寝台まで歩み寄るノアリスの傍に紅夜の姿がない。ここが寝室だからと、律儀に外で待機しているらしい。
「きっと王子さまはあなたを赦す。だけど、わたしはあなたを赦さない」
弟が母親を赦しても自分は赦さないーー愛さない。
「だから、あなたはもう、自分を赦していいよ」
ノアリスは母親をまっすぐ見つめている。
「わたしだけは赦さない。あなたの代わりに赦さない。だからもう、笑って良いよ」
言いきるや、ノアリスは素早く踵を返した。リアもヒルダも、そしてレメリーも、その後ろ姿を見送るしかできなかった。
ややして込み上げてくるのは、よくわからない気持ちだった。温かなそれは、泣き笑いのような衝動をリアに与えてくる。
ーーその言葉こそが、赦していることになるのではないだろうか。
「妃殿下、王子殿下に会いませんか?」
「えっ」
ぽかんとノアリスを見送っていたレメリーは、リアの言葉に文字通り飛び上がった。
「いきなりは無理だわ」
「はい。もちろんです」
「会う資格がなーいとか言わないだけ御の字だねぇ」
ヒルダがにやりと笑う。リアは頷き、まずは、とレメリーの視線を壁際のレイチェルへ促した。
「ずっとあなたを待ってた方が、ここにもう一人いるんですよ」
壁際に立つレイチェルは、声もなく泣いていた。




