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わたしを倒す旅の三十二歩。

指折り、ただ待った。

王座で足をパタパタさせたり、お城を訳もなくウロウロして。

お城の窓から外を眺めては、アル達の姿を探した。


「いつ来るかな?」って。

わたしはウィリアムに毎朝問いかけた。


「何してるのかな……?」って。

おやつを食べる前に、そっと思いを馳せた。


「今どこにいるだろうね?」って。

毎日、一日の終わりにそっと呟いた。



そして、やっと。

やっと……───



「あの人間達は、もうすぐこの部屋に来るようですよ」


ウィリアムが三日前から、わたしに教えてくれていた通り。

アル達は、ここまで来てくれた。


「ワクワクだね」

「ラヒー様が喜んでおられるようで、なによりです」


やっと、ここまで来てくれた。

ちゃんと来てくれた。


ウィリアムに教えてもらった時から、ずっとそわそわしてた。

迎えに行こうかなって、何度も思った。

けど、グッと我慢したんだよ。

我慢した方が美味しくなるんだもんね?


「道中、鬼族を含むいくつかの魔族の集落などを潰してきたようですよ」

「そっか、そうなんだね!きっともっと強くなったんだね」


わたしの頭の中に自然と、みんなの顔が浮かんでくる。

笑った顔、怒った顔、戦う時の真剣な表情。

沢山、いっぱい。


「ああ。どうやら、いらしたようですよ」


ウィリアムがこの王の間の、開いたままの扉の方を向く。

それにつられて、わたしもそちらを一瞥して。


スッと視線が合った。


「アル、久しぶり」


力強い眼差し。

最後に別れた時よりも身に付けている装備は傷付いているけど、もっと屈強な肉体になったみたい。

雰囲気が研ぎ澄まされて、とても良い感じがするの。


「他のみんなも」


アルと並ぶ、フランクやタイチョーも同様で。

リナはちょっと魔力が増したのかな?人間の中でのトップクラス以上の、大きな魔力を秘めているのが分かるの。


「本当に……、ここにラヒーちゃんがいるのね」

「俺たちは、ここまで来る道のりで、何度も違っていて欲しいと思ってた」


リナとフランクが悲しそうな声を出した。


そんなリナの足元にしがみつく虫が一匹。

リナの後ろで隠れながらじっとこちらを伺っているのが見えた。

わたしは知らない。

わたしと一緒に旅する期間には存在しなかった、異物。


「あ、それが途中で拾ったってやつだね?」


ウィリアムの方に振り向くと、ウィリアムが小さく頷く。

うんうん。やっぱりウィリアムからの報告にあったお邪魔虫だ。

当たったね!


「彼らが道中、妖狐の隠れ施設を見つけ、唯一連れて来れた戦利品です」


ウィリアムが後ろから説明してくれる。


「無力な生き物を、この魔族領に放置するわけにもいかず、そのまま連れ歩くことになったようですね。お優しいことで」


ちょっと嘲笑混じりに。


「妖狐はよほど魔王の座が欲しいようで。色々と、よく考えつくものです」

「狐って執念深いね」

「ええ。ですが、ラヒー様の良いおやつ兼玩具ですからね。絶滅はさせませんよ」


アタリスで、狐を見掛けたけれど。

どうも妖狐は人間を攫った伝承を調べて、拾った人間で色々実験していたらしい。

この城に帰ってきてから、ウィリアムに教えてもらった。


わたしの知らないところで、色々と策を張り巡らせているんだって。

わたしは知らないけど、ウィリアムは動きを把握してるみたいだけどね。


「ま、いっか」


こちらを震えながら見ているのは、ただの無力な人間の子供。

どんな実験に使われてたのかは知らないし、調べるつもりもない。

魔力も持っていなければ、戦えるような筋肉も持っていない、無力で無価値な虫。

正直居ても居なくても変わらないし。


払えば吹き飛ぶような、虫一匹に興味なんてないのだ。


「そんなことよりもっ」


ずっと笑顔が止まらないの。


「みんな会いたかったよ!」


ホント嬉しくって仕方ないんだ。

ワクワクして、ドキドキなの。

こんなに興奮しちゃうなんて、想像もしてなかった!


ああ。楽しみは取っておくと、もっと楽しくなるって、本当なんだね!

この旅のおかげで、わたしはずっとずーっと辛抱強くなったと思う。

我慢することで、もっと熟して美味しくなるなんて。

旅をしなきゃ、考えることもしなかったと思うしね。


「ラヒー。戦わずに儂等と話し合いに応じる気はないか?」


タイチョーが、王間に足を踏み入れることなく大声を出した。

そんなに大声出さなくたって、わたしちゃんと聞こえるのに。


「タイチョー、話し合いって?」


何を話せばいいのかな?

わたしが抜けてからの、ここまでの旅の話でもする?

結構ウィリアムから色々聞いちゃってるけど、タイチョー達から直接聞くのも面白いかもね!


「和平を結ぶ。そうすれば、俺達勇者一行は魔王を倒す理由をなくす」


アルが一歩前へ進み、この王の間に足を踏み入れた。


「ワヘイ?」

「そうだ」


今、"倒す理由をなくす"って言った?


耳を疑ったわたしは、楽しい気持ちが急激に萎んでしまったの。


「……なんで?」


声が震えてしまう。


アルは、わたしと戦う気がないの?

みんながここに来たのは、魔王を倒すためだったよね?

どうして、倒さないの?

みんながここに来たのは、わたしを倒すためでしょう?


「どうして?」


たっくさんの疑問で埋め尽くされるの。


「なんで?どうして、そんなこと言うの?!」


わたし、ちゃんと待ってたのに。

ここでみんなが来るのを待ってたのに。


「ラヒー?」

「魔王を倒すんだよね?旅の目的は、わたしを倒すためだったよね?」


そのために集まった勇者一行だったでしょう?

そのために集まった人間なのでしょう?


どうして戦わないの?

どうして戦ってくれないの?


「ラヒーちゃん、できないわっ!あなたは、私達の仲間でしょう?!」

「俺達に、剣を抜かせないでくれ」


リナやフランクが苦しそうに声を張り上げる。


それを見ながら、わたしは考える。

どうして、戦ってくれないのって。


アル達は勇者だから。

目的を果たすために、魔王を倒そうとしてくれるって信じてた。

なのにどうして、こんなにも躊躇するの?

どうして、わたしが想像していたように、わたしを殺そうとしてくれないの?


「あっ、そうか」


わたし気が付いちゃった。


「誰かが余計なことを吹き込んだんだね」


だから、みんながちゃんとわたしに向かってきてくれないんだ。


これまで旅の途中にいた魔物に、誰かが躊躇うことなんてなかった。

時には人間相手にだって、剣を抜いたというのに。

みんなで力を合わせて、魔族である妖狐も討伐できた。

相手が何であろうと、みんなは目的のために全力で戦える。

そのことは横で見てきたわたしが、ちゃんと知っている。


「邪魔──」


わたしが一緒に旅した時に、そんなことを吹き込む奴はいなかった。

吹き込んだ犯人は、わたしがいなくなってから、アル達を誑かしたんだ。


……そんな余計なことをしたのは、きっとそこにいる無力な人間。


「──しないでっ!」


犯人を排除する。

王座に座ったわたしの右足が根となり、ドリルのような先端が槍のように子供の胸を貫いた。


「……っかハ」


根を戻して、うめき声をあげながら小さく痙攣してそのまま力が抜けた子供を打ち捨てる。

間違いなく死んだ。

余計な真似をした人間を、わざわざ枯らしてあげる慈悲も与えるつもりはないの。

無力な虫だと思ってたけど、立派な害虫だったんだもん。

ああ、清々した。


「ラヒーっ!!」


アルが、わたしに殺気を向ける。

とっても怒っている顔をしてるの。

激昂して、興奮しているアルに、わたしはあえて嘲るような微笑を投げる。


「どうして……、どうしてなの、ラヒーちゃん」


一筋の涙を流したのはリナ。

呆然と、血が流れ出る死体を見つめている。


「君は優しくて優秀で、ちょっと世間知らずな女の子。けど、……ここにいるのは、俺達の知らないラヒーだ」


そんなリナを背中で庇うように、一歩前に出たのはフランク。

表情は悲しそうだけど、スッと戦いの気配を纏ったの。


「分かり合えは、しないんだな」


大剣に手をかけたのはタイチョー。

タイチョーも一瞬悲しそうな表情をしたけど、すぐに顔から表情が消えた。



嘲笑を向けながら、わたしは思うの。

ほらねって。

やっぱり、あの子供が何かをしていたんだ。


あの子供がいなくなった今、タイチョーやフランクが武器を手にかけてわたしを見つめてる。

アルに睨まれたリナも涙を拭いて、杖を握りしめた。

やっと、みんながあるべき姿を思い出してくれた。


「みんな」


アルが、剣を抜いて、切先をわたしに向けたの。

わたしは、王座から立ち上がって、両手を広げた。


「さあ──」


息を吸い込んだわたしは、ニッコリと浮かべていた笑みを深める。


「殺しあおうよ」


ここに来た目的を果たしてよ。

わたしを倒すという、目的を。


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