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わたしを倒す旅  作者: 星ヶ里のブタネコ


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21/37

わたしを倒す旅の十九歩。


「出られないね……」


迷路のような細道。

光も差さず、ここが一体どこなのかも把握できない。

どのくらいの時間が経ったのかもわからないけど、間違いなく夜だと思う。

ずーっと動きっぱなしで疲れちゃったよ。


「これは、アル達が来てくれるのを待つしかないかな?」


フランクが溜息交じりに答える。


「全く、困った事態だよ」

「あの怪しい女のせいだね!」

「そうだね」


今こんな場所にいるのは、わたしとフランクの二人だけ。

静かで誰もいない空間に、吸い込まれるように消えるわたし達の声。


わたしだって、こんな場所に来る気なんてなかったんだよ。


でも。あいつのせいで、わたしとフランクはこんな場所にいるのだ。

もう、怒っちゃうよ。

お菓子屋さんの目前だったというのに、あいつのせいでお菓子買えなかった。


ここにいる経緯を、ちょっとだけ思い出す。


***


みんなで集まっての相談が終わって、それぞれが取った部屋へ移動して行った。

そのあとすぐにお菓子を買いに行こうとしたわたしに、フランクも調達したい物があるからって、一緒に街に行くことになったのだ。


「ねえ、街のあちこちに落ちてる鉄板は何なの?」

「ああ、あれかい?」


街のあちこちで地面の上に鉄板が置かれているの。

あんな邪魔なもの、どければいいのに。


「あれは蓋なんだよ」

「蓋……?」

「さっきも少しこの話になったけど、この都市は魔族領に近い関係で、魔物を追い払っている最前線といってもいいんだ。何度も魔物の襲撃を受けている」

「ふーん」


確かに見回せば、城壁は高めに作られているし、街の中の家の壁が魔物の爪に削られたような跡も見える。


「襲撃の時に使える仕組みの一つに、この都市の地下に作られた施設が色々ある」

「地下?」

「この街の特徴的なものとしては、魔物の攻撃にも耐えられるくらい頑丈に作られた、ただの空洞が地下にあることだね。そこに魔物を落とすんだ。」


わたしは目を丸くした。

だって、面白いことを考えるんだね。


「すごいね」

「だろう?だが、その魔物を落とすための入口が街の至る所にあるんだ。平常時にはああやって蓋をしているんだよ」


人間は色々なことを考えるね。

なんて思っている間に、フランクが買いたい物のある店に着いて。


そこで、お菓子屋さんの場所を教えてもらったり。

街の周りの最近の魔物の様子を聞き出したり、廃都市の情報をそれとなく探ってみたり。

他にも色々世間話をして、フランクが情報収集しているのを眺めてたの。


ぼーっとしながら、わたしはお菓子屋さんで買うお菓子について考えてた。

すぐ食べるやつと、明日食べる分と、仕方ないから日持ちするお菓子を買うんだっ。

計画的に。楽しみを後に取っておいて、もっと美味しく食べる。

アルに言われちゃったもんね。

わたし、この旅で我慢するってことを覚えたと思うよ。


「おまたせ、ラヒー。じゃあお菓子を買いに行こうか」

「さっき聞いてた話だけど、廃都市なんて本当にあるの?おじさん知らないって言ってたけど」

「さあ、どうだろうね」


はぐらかすようにフランクが肩を竦める。


「でも、先々代が見つけられなかったくらいだ。何か魔法の力が働いている可能性もある。地道に探すしかないだろうね」

「ふーん」


まあ、簡単には見つからないものなのかもね。

頷くわたしは、ここで奇妙な視線に気が付いたの。


視線を走らせると、道具屋の扉の前にいたらしい人影。

深くまでフードを被っているせいで顔が見えないけど、体つきから予想するに女っぽい。

リナではなさそうだし、他の知っている人でもなさそう。


と、この瞬間。

道を歩いている人に遮られた一瞬の隙に、その人影が消えた。


……なんだったんだろう?

てか、誰なの?


「どうした?」

「ううん、何でもない」


首を傾げたわたしに、フランクが気が付いて怪訝そうにしている。


「それよりも、お菓子だよ!」

「大丈夫、今向かっているよ」


ま、どうでもいっか。

もう目の前にお店っぽいのが見えてるしね。

気持ちを切り替えた、その時。


「少々よろしくテ?」


音もなく、いきなり。

フランクの隣に、一人の女が現れた。


「困ったことがありまして……、助けて頂けませんカ?」


その姿は、さっき感じた視線の主と同じ物。

フードで顔は見えないけど、中から銀髪がチラッと覗いている。


「いいですよ。どうしたんですか?」

「物を落としてしまったのでス。小さなものだから見つからなくテ」


声は若い女の人の声だった。

けど、ちっとも困ったような声音じゃない。


「どこで落としたんですか?」

「あそこでス」


フランクもちょっと不思議そうにしながら、女の人に問うと、その人はすぐ近くの鉄板の傍を指し示したの。


フランクと二人で、その場所まで移動した、その瞬間。


「え……」


わたしは、落ちた。

いや、あの女がまた音もなく急に移動して、わたしの肩を強く押したの。


バランスを崩したわたしは、そのまま後ろへ倒れこむ。

だって、今の私は人間と同じくらい弱いから。その唐突な力に抗う術はない。


「不穏分子は排除しまス」


ちょうど後ろにあったのは穴に蓋をしていた鉄板。

一瞬前までなんともなかったはずの鉄板は、何かの刃物で切られたように切り抜かれてて。地下への穴へ、わたしは背中から落ちた。


「ラヒー!」

「……計画は目前ですかラ」


フランクの声が落ちるわたしの耳に届いて、傾くわたしの手にフランクが触れたのが分かった。


***


そして。わたしとそれを止めようとして一緒に落ちてきたフランクは、地下にたどり着いた。

途中、魔法で落下速度を緩めたりしたから、わたしもフランクにも怪我はない。


前に崖から落ちた時にフランクは怪我してたもんね。

今のわたしも人間と同じくらい弱いし、ちょっと気を使っちゃったよ。


殺したと思ったのか(普通の人間なら落ちたら死んじゃうらしい。フランクが言ってた)、あの怪しい女の影はなくて。

わたしとフランクは出口を探して、それっぽいのを見つけたから中に入ってみたんだけど……。


「ねえ、フランク。そういえば、あの女が計画とか不穏分子って言ってたの」

「計画?」

「うん。何のことだろう?」


落とされる瞬間、確かに聞こえた声。

考えてみても、言われたことに心当たりが全然ないの。


「うーん」


迷路のような場所で、出口が見つからなくて。

疲れて座り込んだわたしの隣に、腰掛けたフランク。

考え込んだ様子だったけど、しばらくしてから首を振る。


「俺たちが邪魔だと感じるのなら、魔王の関係者かもしれないけど。……計画っていうのが分からないな」


魔王の関係者?

ちょっと!わたしはそんなの知らないよ。

濡れ衣だよ。ひどい。


「そういえば、どうしてフランクは魔王と倒したいの?」


フランクじゃない他の人の理由は聞いたけど、フランクには聞いていないことを思い出した。


アルもタイチョーもリナも教えてくれた。

だから聞きたいんだ。

フランクは、どうしてわたしを倒したいの?


「俺が魔王を倒したい訳?」


フランクの顔を覗き込むと、ふっと少しだけ口角を上げたフランク。


「俺は、アルが笑えるようになって欲しいんだよ」

「アル?」


急にアルが登場して、わたしは訳が分からないの。


「ラヒーには教えてもいいのかもしれないね」

「何を?」

「アルの過去さ」


目を見開く。

わたしの知らないアルの過去。

知りたい。とても聞きたいの。


「カーリナは、アルが直接伝えるべきだって怒るかもしれないけど。アルは決して自分から過去を語ることはないだろう」


囁くように、自然と声を潜めたフランクが悲しげに微笑む。


「だから、アルが助けに来てくれるまでの間、教えてあげるよ」


期待に胸が踊るわたしをよそに、フランクが遠くを見ながら語り出す。


「アルはね、第三王子として生まれた。よく笑う、活発な男の子だったんだよ。ラヒーよりも、もう少し年若い時まで」


リナもそんなことを言っていたのを思い出す。

想像もつかないけど、アルはよく笑う子だったんだって。


「それが一変したのは、一匹の鬼のせいなんだ」

「鬼?」


魔族に鬼と呼ばれる種族がいることを思い起こす。

人間に近い体をしてるけど、耳は尖ってるし、牙や角がある。力や魔法を強化する、痣みたいな模様が腕に浮かび上がるのも特徴。

プライドが高くて、執念深いところもあるけど。味も悪くないし、おやつにぴったりなのだ。


「辺境へ、アルとその母である側妃が訪れていた時のことだ。討伐に失敗して傷を負った瀕死の鬼が、アル達の滞在する館へ逃げこんだ」

「……」

「アルは、その時周りの制止を振り切って庭に出ていたんだよ。屋敷に押し込まれるのを嫌がったんだ」


庭にいた幼い時のアル。

人間にやられて傷つき、傷を負わされたことに苛立つ鬼。

そこまでくれば、鬼がとったであろう行動も予想がつくね。


「兵は屋敷に鬼が紛れ込んだ時から探してたけど、鬼は見つかるよりも早くアルを見つけてしまった」

「アルは鬼に殺されそうになった?」

「そうだよ。嬲られた後だったようで、アルももうボロボロだったそうだ。兵が来た時には鬼は、虫の息のアルにトドメを刺す寸前だった」

「でも、アルは助かったんだよね?今も生きてるもん」


もしその時に死んでたら、今のアルはいないよね。


「アルへと振り下ろされた刃を受け止めたのは、アルを守ろうと覆いかぶさった側妃様だった。彼女が身を挺している間に、兵が鬼の元へ辿り着きやっと倒すことができた」

「アルを守った側妃様はどうなったの?」

「死んでしまったよ。手を尽くしたけど、ダメだった」


ふーん。

アルはハハオヤに守られたんだね。

本当、ハハオヤって難しい存在だなぁ。


「アルもすぐさま治療がなされた。でも、その時にある異変に気がついた」

「異変?」

「アルの腕に、倒した鬼のような模様が浮かんだ。異常なほど硬い皮膚、尖り出した耳」

「鬼の特徴?」


頷くフランク。


「医者は、鬼の血が混ざったのではないかと予想していたよ。瀕死で傷だらけの鬼の血が、ボロボロだったアルの傷から体の中に入ってしまったのだろうとね」

「血が混ざる……?」


アルは人間だったはずなのに、鬼の特徴が突然出始めた。

そんなの、聞いたことない。

魔族の血が混ざった人間なんて、見たことがないよ。


「目が覚めたアルは、母を殺した魔物全てを恨んだ。そして、自分の体に現れた異常を憎んだ」


アルは言ってた。

魔物が憎いって。だから魔王を倒すって。


「それからアルは笑わなくなったよ。鬼の特徴も、いつの間にか制御するための力を得た。貪欲に、強さを求めていた」

「制御なんて出来るの?!」

「普段のアルの耳は尖ってないだろう?鬼の力の一端で、魔力も力も常人より強い。五感も鋭い。その力を、一人で自分のものにしたんだ。誰にも頼らずね」


苦しげに目を細めたフランクは、囁き声のまま続ける。


「鬼の力を解放すれば、アルはいつも以上の力が使える。その能力を使って、魔王を倒すつもりなんだよ」

「アルは、まだ強くなるんだね」

「絶対に倒すつもりなんだよ」


アルは魔王を倒したい。

そして。フランクの叶えたいこと……。


「魔王を倒したら、アルは笑える?」

「きっと、ね」


フランクが、わたしの頭を撫でた。


「だから、俺達も一緒に頑張ろう」

「……うん」


わたしを倒した時、アルは笑えるようになる。

わたしは、アルの笑顔を見ることが出来るかな?

わたしは、アルの笑顔を見られないのかな?


「アルはどんな姿でも、どんな力を持っていてもアルのままだから。驚かないで、嫌わないでほしい」

「大丈夫だよ」


心配そうにこちらを伺うフランクに、わたしは不思議な気持ちで返事をする。

リナも同じようなこと言ってたのを思い出す。


もっと強くなったアルなんて、すごくすごくワクワクする存在だもん。

嫌ったりなんてするわけがないのに。


「安心した。きっとラヒーなら大丈夫だと思ってたけど」

「うん」

「外はきっと夜だろうからね。アルが心配して探しに来てもおかしくない」

「ん?心配……?」


夜になると、アルが心配するの?

なんで?


「大事な仲間が、何の音沙汰もなく帰ってこないんだ。きっとリナはラヒーを心配して大騒ぎしているだろうし、アルも仏頂面でそわそわしているよ」

「そうかな……?」


想像できないなぁ、と思っているわたしの顔を見て、フランクが柔らかく笑った。

今もしかして、わたしちょっとバカにされてる?


「ラヒーは人の気持ちにちょっと鈍感だね。アルは優しいから、きっと心配しているよ」

「うーん?」

「探しに外へ出て、それでも見つからなくて。きっとアルは持てる能力を全力で使って探してくれる」

「全力で?」

「鬼の力を解放すれば、人探しなんて容易いはずだからね」


フランクは、アルが鬼の力を使って探していると思っているの?

そこまでして、アルはわたし達を探すの?


「……フランクはどうして、わたしにその話をしてくれたの?」

「さあ、なんでだろうね」


わたしに、わたしの知らないアルの過去を話したり。アルの力の秘密を話したり。

全ては、アルの力の根源を教えるため?


フランクがどこまで考えて、この話をわたしにしたのか。

分からないから、困惑してしまう。


「どうやら、迎えが来たみたいだね」


フランクが首を回して、小さく聞こえる足音の方を示した。

フランクがすっとその場を立ち上がって、わたしの前に立つ。


その音は、どんどんと大きくなって。


「見つけたぞ」


フランクの背中からこっそり覗き込めば。

すぐ近くの曲がり角から顔を出したのは、本当にアルだった。


でも、いつものアルじゃない。


乱れた髪から覗く尖った耳。硬質そうな爪。

あの、ゾクゾクしたを感じた、真っ黒の霧の、底無しの暗闇のような魔力。その魔力が、アルの体から溢れ出ている。


「ありがとう、アル。出口が見つからなくて困ってたんだ」

「フランク、面倒ごとを増やすな」


両手で、お菓子を入れるために持ってきたカバンを抱きしめる。

だって、ゾクゾクしちゃうんだもん。

お菓子入ってないカバンには、メルに貰った魔石だけが入ってる。


笑っているであろう顔を隠すために、魔石入りのカバンを抱いて、俯いて表情を隠す。


こんなに、楽しい人間がいたなんて……。

ああ、どうしてこんなに素敵なんだろう!

こんな素晴らしい状況に、ワクワクしないなんて無理だよ。


「フランク、ラヒーは?」

「何言ってるんだよ。後ろにいるだろ?」

「そんなわけあるか。人間の匂いはお前だけ……」


必死で表情を取り繕って、顔を上げたわたし。

それと、フランクが一歩横へ退いたのが同時で。


アルとわたしの視線が交わる。


アルの目はゆっくりと見開かれ、声なく口が動いた。

その唇で、何を言ったのか。わたしには分かってしまった。

アルと長く一緒にいるようになったからかな?



お前、何者だ?



動いた唇から、声なき言葉を読み取ったわたしは思ったんだ。


ああ。……どうしようかな?

人間じゃないってバレちゃった。


……もうわたし、皆と一緒にいられないのかな?



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