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わたしを倒す旅  作者: 星ヶ里のブタネコ


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13/37

わたしを倒す旅の十一歩。

ちょっと修正加えました。

ストーリー自体は変わってないです。


「アル、この先は迷いの森と呼ばれる場所があるそうよ」

「そうか」


リナがユウシャ……じゃなかったアルに報告をしている。


わたしはユウシャのことをアル、と呼ぶことになった。……らしい。


わたしとしてはユウシャはユウシャって呼び方のままで良いと思うんだけど、リナにあの洞窟での出来事を話したら大興奮で喜んだのだ。

吸血蝙蝠を倒した後の洞窟のやり取りをわたしから聞いたリナは、わたしがユウシャのことをユウシャと呼ぶと目を吊り上げて怒る。もうどうしてそんなに怒るのか理解できないくらい、激怒する。

だからわたしはユウシャをアルと呼ばなくちゃいけなくなった。


こんなことになるならリナに話すんじゃなかったよ。


「迷いの森と呼ばれるってことは、方向感覚が狂いやすい場所なのかい?」

「そうみたい。森全体に不思議な魔法がかかっているそうなのよ」


フランクがリナに尋ねると、リナは困ったように肩をすくめた。


「でもそんな大規模魔法なんて、私は聞いたことがないのよね」

「カーリナにも分らんなら、儂らじゃ対処のしようがないだろうな」


タイチョーも困ったように頷いた。


「ラヒーちゃんはこの魔法について何か聞いたことあるかしら?」

「……知らない」


正直に言うと、しっかり知ってる。

けど大規模魔法っていうほどすごい魔法じゃなかったはずなの。

結構簡単な魔法だし。


でも、人間が言う大規模魔法の定義が分からなかったから、口を噤んだ。

ちょうど良い機会だし、人間が言う大規模魔法についてリナに聞いてみようっと。


「ねえ、リナ。大規模魔法って?」

「ラヒーちゃんは初耳かしら。大規模魔法っていうのはね、一人の人間からでは到底発動もできない魔法のことを言うのよ」

「例えば?」

「そうね……。身近なものだと街全体に掛ける結界魔法も魔法使いが十数人集まって行う大規模魔法よ。他にも色々あるけれど、本当に存在しているのか分からないような凄いものになると即死魔法なんかもあるわね」

「ふーん」


即死魔法は、弱いのに数が多くて、美味しくない魔物の掃除に重宝するんだよ。結構便利なの!

けど、それは言ったらマズそうだから言わない。

最近クウキヲヨムってことができるようになってきたんだよ!

すごいでしょう。


と、この時アルが咳ばらいをしたことで、わたしも思考を瞬時に切り上げた。

アルはパッとみんなの顔を見渡すと、はっきりした声で告げる。


「はぐれないよう慎重に進むことにしよう。森に入る前に一度休憩をして体力を回復させるぞ。各自武器の整備もしておけ」

「分かったわ」

「了解」


体力は別に減ってない。

わたしは魔法使いだから武器も持ってない。


あれ、わたし何してようかな?


他の人たちはそれぞれが準備や整理をしているのが見える。

一周ぐるっと見渡して、わたしはちょっと周りを散歩してくることに決めたの。


甘いものはもう手元にないけど、何か見つかったらいいなぁと思って。

探せばこの前タイチョーに教えてもらった花の蜜があるかもしれないし。

果実でも木の実でもいいから、甘いものがないか探して来ようと思うんだよ。


てことで、出発。

わたしはそっとこの場を離れた。




「甘そうなもの何もないよ」


不満が口をついた。

だって本当に何もないんだもん。


リナやフランクの姿が見えなくなるくらいまで歩いたのに、何もない。

あるのは木とか草ばっかり。

土や石を食べたところで美味しくないだろうし。あーあ、つまんない。


あそこに見える巨木まで行ったら戻ろうかな。

と、適当に目印になりそうな木を目指してわたしは歩き出す。

あの木の根元まで行ったら戻る。うん、決めたよ。


あーあ、あの大木の裏手にでもキノコか何か生えてないかな。

甘いキノコ探しはまだ実行に移せていないのだ。


真下の足元に視線を落として、何か落ちてないか探す。


ああ、もう!

緑の草ばっかりでイライラしちゃうよ。

半ば八つ当たりのように、足で背の低い草々を蹴散らしていく。


と、足が木の根にぶつかったの。


見上げれば、目標としていた巨木が聳え立っている。


「この木の周りを一周回ったらそのまま戻ろうっと。多分そろそろ時間だもん」


わたしの腕を伸ばしたって、到底手が回らないと分かるくらい太い幹。

わたしが二十人くらいに分身して手を繋いだら、一周できるかもしれないくらいの大きさである。


だからこそ反対側が見えない。

甘いキノコないかな?


幹に手をつきながら、わたしはゴツゴツと上下している木の根を乗り越えながら回る。

さっきいた側の反対側である、幹の向こうの景色が見えた時わたしは目を丸くした。


「うわぁ。花がいっぱいなの」


差し込んでいる日光が一筋降り注いでいる。

そこに照らされるように、小さいながらも密集して群生している白い花。

花弁はラダヒーそっくりだけど、背は低くて地面すれすれまでの高さしかない植物。


思わずわたしはその花に駆け寄って、しゃがみこんで覗く。


こんな花が人間領にはあったんだ。

ラダヒーみたいに茎や葉も白いわけではないし、ラダヒーは背もこんなに低くないけれど。

花の部分だけは、わたし達そっくり。


感心しながら、わたしは群生しているうちの一つの花びらを撫でる。


同族を見てる気分になってくる。

だからなのかな。なんだか魔族領が懐かしくなってきたよ。

帰ったら同族が咲いている姿を見に行こうかな。いや、いつかみたいになってるかもしれないから行かなくていっか。

ああ、そうだよ!美味しい種族狩りをしよう!おやつ、おやつ。

そうそう、そういえば。ウィリアム元気かな?まあ、ウィリアムなら何の変化もないと思うけど。


いつまでそうしてたのか分からない。

時々吹き抜ける風に心地よさを感じながら、日光浴を楽しみ、花弁を撫でる。


「っ、やっと見つけた。このチビ!勝手に消えてんじゃねえよ。もうとっくに時間だ。さっさと行くぞ」

「あ、ユ……じゃなかった、アル。あれ、もうそんな時間?」


しゃがんだまま首を回せば、巨木の横に汗を拭っているアルがいた。


「……お前、何してたんだ?」


花に手を伸ばし続けるわたしを見て、怪訝そうにしたアル。

見れば分かるでしょ。


「この花を見てたの」

「何かあるのか?その花に」

「何かって?」


わたしは、ただ見ていた。

それだけだよ?


「何かしら見てた理由があるんだろ?お前生意気だし言うことは聞かねえが、今までこんなに時間に遅れるようなことはなかったからな」


顔をしかめながら、アルはゆっくりわたしの方へ歩いてくる。

そしてわたしの横まで来ると、立ったままわたしと花を見下ろした。


「理由……」


わたしはアルから白い花に視線をずらして考えた。

なんでこの花に、こんなに熱心に魅入っていたんだっけ?


「……ああ、そっか。わたしは思い出してたんだ……、同族を」


理由に思い当たった。

その時どうしてか知らないけど、胸の奥の方で鈍い痛みみたいなものを一瞬感じたの。


なんだったんだろう、今の。

気のせい……かな?


「ん?何って言った?」


小声の呟きはアルに聞こえてなかったようで聞き返してきた。

別に大したことじゃないんだけどね。

でも、なんとなく。わたしはゆっくり整理するように、声に出して説明してみる。


「昔ね、一緒にいた兄弟達がいたの」


わたしが自我を持つ前から、ずっとわたしが咲いていたあの場所はラダヒーがたくさん咲き誇る所だった。

たくさんの死体が捨てられた地だった。たくさんの死体が集まってくる土地だった。


「わたしは兄弟達のいる場所から出て行ったけど、ある時気まぐれにあの場所に帰ったことがあるんだよ」


自我を持ち、美味しいものを求めて。

わたしは一人、楽しいことを探しに行った。彷徨い漂うように、あてもなく。

けど楽しかったし、美味しいものもたくさんあったよ。わたしはたくさん強くなった。


あのラダヒー畑から旅立って何年経った時かはもう覚えてない。何十年経ってたのか、百何年か経ってたのかもしれない。


わたしはフッと同族を思い出したの。だから何の理由もなくフラフラとあの地に足を運んだんだ。


「けど、何も無かった」

「無かった?」

「兄弟の姿はなく、荒れ果てた跡と兄弟のものだと思う残骸しか残ってなかったんだよ」

「っ!それって」


あの時わたしが見たのは、たくさんあったはずの死体すらない、抉り取られたような大地。

そしてそこに小さく、半ば埋まるように残っていた茶色く変色してしまった、茎のような細い何か。


「多分食べられちゃったんだと思う」

「魔物に、……か?」

「うん」


あれだけ大地が抉れてたから、多分大喰らいな魔物か何かにまとめて食われてしまったんだと思う。

わたし達にとって養分となる死体は、他の魔物から見ても餌になり得るから。


身を守る術を持たない植物。


長くラダヒー達の楽園だったあの場所は、魔族領にあるのに似つかわしくないほどの平穏を維持していたように思うの。

だってわたしが長年かけて貯めた魔力で変質してしまえるくらいだったのだから。


でも、その平穏な時間は永遠じゃない。

平穏なんて退屈なもの、所詮すぐ終わりを告げるものだよね。


「この花を見てると、兄弟達を思い出す。だから見てたの」

「……兄弟との思い出がある花だったんだな」


今まで誰にも聞かれたことがなかったから、初めて誰かに教えた過去の現実。


強さだけが全ての魔族にとって、過去に興味を抱く者なんていなかったもんね。


弱肉強食だから、ラダヒーが食われたって知っても何とも思ってなかった。

すぐに他のことを考えて、他の種族を食べに行った。


でも、なんでだろう。

今は胸の奥が苦しい。気のせいなんかじゃないみたい。


話をしたんだから口が疲れたなら分かるのに、何もしてなかったはずの目が熱い。

どうしてなの?


「もう時間なんだよね?なら行こ――」

「ああ、本当に可愛げのねえガキだな」


気分を変えるべく、笑って立ち上がろうとしたわたしの頭を、アルが鷲掴みにして押し付ける。

わたしはそのせいで立てなくて、アルを睨み上げた。


「泣きたい時は泣けばいいだろ。辛い時に立ち止まってたって俺達は別にお前を責めねえよ!それを待ってやるくらいの度量はある」

「泣く……?ツライ?」

「そんな顔して辛くないだなんて、見え見えの嘘吐くなよ」


顔?

わたし今どんな表情をしてるの?


「誰一人欠けることなく、このメンバーで魔王を倒すんだ。先を急ぐ旅ではあるが、その時に決してパーティーメンバーを置いてくことはしない」


アルがわたしを真っ直ぐに見つめる。

わたしも不思議とその瞳から視線を外せない。


「悲しいのも辛いのも、我慢しなくていい。お前はまだガキだからな、別に泣いたって笑ったりしねえよ」


アルの姿がゆっくり歪む。

目の前の景色が歪んでいく。

魔法の気配はしないのに。


片方の瞳から、わたしの頬に何かが落ちた。

反射的に手で拭うと、指についた水滴。


……これは、涙?


「アル、わたしなんで泣いてるんだろう?」

「悲しいんだろ。今お前の胸の奥が痛くて苦しいなら、それが悲しくて辛いってことだ」

「そっか……」


話をしながら感じてた胸の違和感。

それはカナシイって感情だったんだ。

カナシイもツライって感覚も、今までずっと名前を知らなかった。


今、わたしはカナシイ。


今までのわたしはずっと“楽しい”だけを探して、退屈を紛らわせてきた。


人間領に来て、アル達と行動をするようになって、わたしは色々なことを知ったんだよ。

知識ばかりを増やしたつもりになっていたけど、わたしは感情の名前も教えてもらったみたい。

ここに来なければ、わたしはこの感覚を知らなかった。


「アル、ありがとう」


わたしはもっとたくさん知れることがある。

それはきっと“楽しい”に繋がる。

そんな予感がするんだよ。



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