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わたしを倒す旅の十歩。



それは普通にフランクとリナとお話しした時だったの。

わたし達は木の下で休憩していたんだよ。


「私はね、魔王を倒して素敵な恋がしたいのよ。魔物に怯えなくてよくなれば、皆心に余裕ができて恋愛を楽しめるようになるわ。そうすれば私の目の前にだって素敵な人が現れてくれるはず」

「なんだそれは。第一、魔王を倒さなくったって素敵な恋愛をしてる人はしているよ。カーリナに相手がいないのは君自身に問題が--」

「フランク、黙りなさい」


わたしはリナとフランクになんで魔王を倒したいのか聞いたら、リナが頬に手を添えて答えた。

フランクは呆れてるみたいだったんだけど、今目の前でリナに睨まれて口を閉ざした。

なんだかリナの目つきが怖いよ。


「そもそも、そんなこと言うフランクはどうなのよ。なんであんたは旅してるわけ?」


リナが低い声のままフランクに尋ねた。

なんでだろう。木陰だからかな。なんだか、寒気がするよ。


「俺は……」


フランクが答えようとした時、フランクの後ろから物音がして、視線をそちらへ向ける。


音の原因は難しい顔したタイチョーとユウシャだった。


「おい、休憩は終わりだ」

「さっき行商人から奇妙な話を聞いた。移動するぞ」


リナとフランクの顔つきが変わる。二人とも俊敏に身を整えて、いつでも動ける態勢を作る。


一方のわたしはゆったりとその場に立ち上がった。

だって、せっかくの休憩時間だったのに。まだ休み足りないんだよ。

それにわたし、甘い物が食べたい。疲れた時は甘い物ってリナが教えてくれたもん。でも甘いものはこの場にないから、やる気が出ないの。


「チビ、早く来い。行くぞ」


あの町に寄って以来、ユウシャがなんだか変。

口が悪いのは変わらない。相変わらずいけ好かない。

でも、ユウシャはわたしを睨まなくなった。


なんでだろう…?


考えても仕方ない(そもそも、一生懸命考えても疲れちゃう)し、ポイっと思考することを放棄する。


大事なのは今だよ。

楽しいか、楽しくないか。それだけ。


「うん」


ユウシャはわたしがついて来るのを確認してから前を向いた。


タイチョーが先頭を切って、申し訳程度に整えられている道を突き進んで行く。

そのすぐ後ろにはフランクがくっついていた。


「隊長、奇妙な話というのは?」

「この先には今は使われていない鉱山があるらしい。そこは随分前から魔物の住処になっているようなのだが、その魔物の様子が最近おかしい、と」


フランクが難しい顔をして頷いた。


それを尻目に、リナはユウシャに話しかける。


「鉱山って、昔は何が採れたの?」

「魔石らしい。だが今は採り尽くしたせいで魔石の成り損ない程度しか残されてないようだ」


わたしはそれぞれの会話を聞き流しながら考える。


魔石ってアレだよね?前に美味しい蜘蛛さんが守ってたようなやつ。

あ、魔石の成り損ないは、タイチョーがどこかで子供から買った時もあったね。

魔族領では、見たことないから人間領特有の物なんだと思うんだ。多分。

なんでもしてくれるウィリアムから聞いたこともないし。


「隊長、おかしいとは具体的には?」

「それがなあ……」


フランクとタイチョーの話し声で、わたしは考え事から現実に引き戻された。


タイチョーが珍しく言い渋っている。

なんだかとっても言いにくそうなの。

あんなタイチョー、珍しいね。


「魔物の姿が変わった、と言っとったんだ」

「姿が、変わった?」


意味が分からないと、フランクが眉を顰める。

それに、タイチョーの台詞を聞いていたリナやユウシャの顔も変わる。

ユウシャはどこかを睨みつけてるみたいな表情になったし、リナは口を開けて半信半疑っぽい。


わたしは、あんまり驚かない。

だって、姿を変える魔物もいるよ?


わたしはラダヒー。

わたしも今は人型だけど、もともとは花だしね。変身しちゃうよ?


あんまり不思議じゃなくない?


「いや、正確には、大きさが変わったと言っとった」

「大きさが変わっただけなら成長しただけなのでは?」


大きくなったならそうだよね。

魔物だって成長はするよ。


「そうだと良いんだがな。行動も少し変わったようで、少し気がかりだ。多分行けば分かるだろう」

「はい、分かりました」

「鉱山はそう遠くない。やや急ぐぞ」


タイチョーが話を打ち切って、皆気を引き締めたように無言になる。

周囲への警戒はそのままに、タイチョーについて行くようにして私たちは歩を速めた。

子供の大きさのわたしはこの速度だと足が縺れるから、この前みたいにタイチョーわたしのこと抱っこして運んでくれないかなー?




「……なによ、これ」

「やはり、そうか」


呆然に呟いたリナの台詞は皆の気持ちを代弁していた。

タイチョーは考えが当たっていたみたいで、納得するような台詞を漏らした。

わたしもね、流石にちょっとビックリしたよ。予想してなかった光景だったから。


鉱山の入り口。

洞窟のように山肌と掘り取られた入口は、何も通過できないくらいに魔物がすし詰めになって蠢いている。

奥が真っ暗なわけではなくて、入口に集まった魔物のせいで入口が真っ黒に見える。


異常なのは数だった。


「この鉱山に住み着くのは吸血蝙蝠という魔物だ。体長は人の身長の半分ほどと大きく、暗闇を好む。住処では群れるが、行動するときは群れない。大きいせいで攻撃力は強いが、一匹相手なら村人数人がかりで対処できてる程度だ」


淡々と説明してくれるタイチョーの言葉を聞きながら、ユウシャとフランクが前に出て油断なく入口を睨みつける。


対する吸血蝙蝠達は、鉱山の中の暗がりから目を光らせてこちらを注視している。

うえぇ、こっちを見てる目が多すぎて気持ち悪い。

入口にぶら下がった吸血蝙蝠は、仲間にぶら下がって、天井から地面すれすれまでギッシリ詰まってる。

蝙蝠達は本当にホントにたーくさんいる。数えるの嫌になっちゃうくらいだよ。


「それが、ここ最近、蝙蝠共が群れて人間を襲うようになったそうだ。しかも大きさが今までの半分以下にまで小さくなって」

「まさかっ、突然変異ですか?しかもこれ全部?!」


フランクが驚いたようにタイチョーの方を振り返った。


「突然変異……?」


どこかで聞いたことがある単語。

それは、そう。わたしの発生の原因。


アレは、わたしと一緒?

変異種の発生は非常に稀なことだとウィリアムから聞いていたわたしは、無意識のうちに呟きを漏らしたの。


「ラヒーちゃんは知らないかしら。突然変異した魔物のことを」


隣でやはり、いつ襲われてもいいように構えていたリナが、わたしの呟きを拾い上げた。


「変異する原因は分かってないのだけど、時々手に負えない魔物が発生することがあるの。それが突然変異種」

「うん」

「今までの魔物と比べて総じて強力で、賢くなっているわ。しかも今回はあんなに大量にいる。くれぐれも気をつけてね。油断すると死ぬわ」


小さな体が隙間なく並んでいるせいで、入口を塞ぐ蝙蝠以外に様子を知ることもできない。

奥にも同じくらいの吸血蝙蝠がいるのかな?この入口の魔物で全てなのかな?

奥が見えないから全く分からないけど、今見えているだけでも相当数いる。


わたしは胸が高鳴るの感じたの。

わたしがこんなのにやられて死んでしまうとは思えないけど、それなりに骨がありそうで楽しそう。面白そう。やる気いーっぱいだよ!


こんなにいるんだもの。終わった後で、いくつかつまみ食いもしてもいいと思わない?

どんな味がするだろう?美味しいかな。

ああ、想像するだけでドキドキしてきちゃったよ。


「夜になれば、俺らが不利だ。一気に殲滅する」


ユウシャが声を張り上げる。

わたしのウットリタイムが邪魔された。


「カーリナ、魔法であの群れの一部を切り崩せるかい?」

「ラヒーちゃんとタイミングを合わせれば結構な数ヤれると思うわ」

「なら、ラヒーとカーリナが最初の一撃を見舞ったら、俺とアルが突っ込む」


フランクとリナの会話で、わたしも魔法の準備をする。

といっても、魔法なんて息をするくらい簡単に打てちゃうんだけどね。


「儂はこの二人に襲ってくる蝙蝠を切り倒そう。敵はあの数だ。後衛をこの場に無防備に放置は出来ないからな」


タイチョーはわたしとリナの前に仁王立ちした。

ちょっとだけわたしの方を振り向いて、口角を小さく上げて見せる。

タイチョー、何か企んでそうな悪そうな笑顔が素敵!


「ラヒーちゃん、いいかしら?いくわよ」

「うん」


リナの息遣いに合わせて、わたし達は魔法の呪文を唱える。


「炎よ、焼き尽くせ」

「風の刃よ、切り裂け」


それを開始の合図に、吸血蝙蝠が黒い波のように、わたし達目指して襲ってくる。

その中で剣を振るフランクとユウシャ。


ユウシャは、今日は最初から前にも見せた黒い靄を剣にまとわせて戦っている。

ユウシャが一振り剣を振るう度に、ユウシャの周りの蝙蝠が地に落ちる。光を吸収するような漆黒が、蝙蝠に絡みついて逃がさない。


フランクの剣は素早く、数匹を一度に切り伏せる。逃れられない速度で剣が踊る。

二人の近くだけ、面白いくらいに吸血蝙蝠の死体が地面に積み重なる。


ああ、ゾクゾクするよ。

人間って面白い。ユウシャって面白い。

とっても知りたい。知ってみたい。


わたしは湧き出す好奇心で気分が高揚したのを実感した。

適当に吸血蝙蝠を魔法で倒して、終わることのないと錯覚しそうになるこの戦いを続けながら、何度もユウシャの姿を目で追ったの。




「ああ、今日は疲れちゃったわ。早く寝ましょう」

「そうだな。幸い誰一人大きな怪我を負わなかったが、体は疲れているからな。儂もさすがに疲れたぞ」


数時間にも及ぶ戦いだったけど、吸血蝙蝠の群れは殲滅したんだよ。

戦い終わる頃には日も暮れて夜になっていて、わたしもクタクタだ。


今日のわたし達は鉱山の中で野宿をすることになったの。

中からずっと絶えず出てきてくれたから、戦ってた場所は鉱山の入り口で、内部は綺麗なままだったから中で野宿。

入口は血とかの処理はしたけどさすがにヤダってリナが猛反発してたから。


死体は鉱山のずっと奥の方に集めてあるから明日処理するんだって。

流石にそのままにしたらマズイくらい沢山あるからね。


横になって目を瞑って待っていれば、周囲から静かな寝息が増えていく。


皆が寝静まったら、ちょっとだけつまみ食いしに行くんだ。

わたしが食べたら簡単に跡形もなくなって怪しまれちゃうから、全部食べたらダメなんだけど、少しならきっと分からないから大丈夫!

あんなに死体があるんだもん。数匹分なくなったところで分かりっこない。


頃合いを見計らって、上半身を起こす。


周りはどうせ眠っているんだろうから、気にせずに行ってきちゃおうっと。

わたしは周囲を見渡すことなく、寝床を後にした。


鉱山だったからか、足場は比較的ならされてて歩きやすい。

暗くったってわたしには見えちゃうし、どんどん奥へ進む。

明りは持って来てない。光が差し込むこともないから、普通の人間なら進めないだろうけど。


と、死体が近づいてきた時に、先の方が明るくなってきた。


「っげ」


なんだかおかしいなって思ってたら、死体の山の前に明りを携えたユウシャがしゃがんで死体を見分していた。

あいつがいるとわたし食べられないじゃんか。むー。


「なんだ、チビか。何の用だ、何しに来た」


首を回したユウシャは、わたしを見ると眉を顰めて不機嫌そうにぶっきらぼうに言った。


「なんでもないし」


唇を尖がらせる。

だって、ユウシャがここにいると思わなかったんだもん

寝床を出る時にちゃんと周りを確認してくればよかった。


「何してるの?」

「変異の原因が分かればと思っただけだ」

「ふーん」


そういえば、リナが突然変異の原因は分かってないって言ってたね。

死体から何か分かるのか知らないけど、蝙蝠を何匹か並べてユウシャが色々死体を弄ってた。


「ユウシャ、何か分かったの?」

「いや、何も」


ユウシャの横にしゃがみ込んで、わたしも蝙蝠の解体を見守る。

あーあ。目の前におやつがあるのに、おあずけだね。つまんない。


「おい、チビ」

「なに?」


膝に手をついて頬杖しながら見てたら、ユウシャの声が響いた。


「お前はこの旅に対して文句を言わない」

「は?急になんなの」


ユウシャがわたしとは逆の方向に首を回しながら、低い声で続ける。


「魔法の技量はカーリナと同等かそれ以上だ。昼間の戦いでも途中でヘバることなく役目を全うした。まあ、口は悪いし、食い物もまともに食わねえが」

「ユウシッ――」


問いかけようとしたら、いきなり頭にユウシャの手が乗って、わたしの頭を押さえつける。

そのせいで不自然にわたしの言葉が途切れちゃったんだけど。なにすんのよ、まったく。


「アルだ」


わたしの頭を押しながら、ユウシャが立ち上がる。

力負けしてるせいで上を向けないから、首を横に傾げる。


「アルと呼べ」

「え?」


横に逃げたことでやっとユウシャの手の呪縛から逃れたと思ったら、ユウシャが変なことを言う。

見上げれば、こっちを見ることなくそっぽを向いたままのユウシャの横顔。


「戻って寝るぞ、チビ」


ユウシャがわたしを置いて、明りを持って数歩歩きだす。

訳の分からないわたしはその場でユウシャの後姿を見つめた。

だって、今のどういうこと?


このわたしを混乱させたまま、ユウシャは一度立ち止って振り返った。

難しい顔をしたまま、ユウシャが口を開く。


「早くしろ」

「う、うん」


わたしはユウシャの後を追う。

わたしがついて来るのを確認したユウシャはそのまま振り返らず、でもわたしの半歩前を歩いて行く。


わたしはそのユウシャの背中を追いかけながら思い出すの。


前に、タイチョーが言っていた。

名前で呼ぶのはシタシミを込めるんだって。


ユウシャとわたしの間には今までシタシミなんてなかった。

でも、今は?

今はシタシミがあるのかな?



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