第5話 平和に配信が終わることを願ってはいるが、どうも嫌な予感しかしない。
「本当にごめ〜ん!」
「うん、もう大丈夫だからそんなにくっつかないで!」
遥が少し涙目で燈哉に抱きついており、燈哉はそんな遥を剥がそうと、遥の肩をもって軽く押す。
「初めての来海ちゃんのコラボが私のせいで初っ端からカオスになっちゃったし・・・」
「本当に大丈夫ですよ!それよりリスナーさんたちが待ってるからはやく始めましょ!」
「うん、わかった。」
何故か先輩なのに後輩に泣きついて謝り、しまいには後輩に慰められるという醜態を配信で晒した遥。
その一方、この中で最も歴の長く大先輩である莉音もまた、椅子に座って深く反省しているのであった。
「はい、では本日やる企画を発表します!ミハネちゃんよろしくお願いします!」
「はい!本日やっていく企画は、"罰ゲームを避けろ!バトルゲーム王決定戦!」
「「「いえーい!」」」
いやぁ、なんか嫌な予感がするんだよなぁ。
美咲のその声に盛り上がるように残り3人は揃ってそう言った。
その中、企画内容を事前に聞いていない燈哉は何をするのか不安でいっぱいだった。
「内容を簡単に説明すると、今から様々なゲームを行なっていき、負けた人は今からランダムで罰ゲームをうけてもらいます!そして、その罰ゲームの内容なのですが、今から1人1つずつ決めてもらいます!」
「はい!私すでに決めてます!」
遥が勢いよく手を挙げてそう言う。おそらく事前に企画を知っていたので、すでに決めていたのだろう。
「はい、ではみなみ先輩お願いします!」
「私が考えた罰ゲームは、"愛の告白"です!」
「・・・?」
遥の発言を全員が理解できず、場はポカンとした雰囲気に包まれた。
「はい、質問です!その"愛の告白"とは具体的に何をするんでしょうか?」
燈哉が雰囲気を取り戻すためにも遥にそう質問する。
「あ、言葉足らずですみません!えっと、愛の告白っていうのは、この配信を見てくれているリスナーさんや、自分以外の誰かに、大好きだよって伝えるやつです。ちなみに伝える内容は罰ゲームを受ける人以外が考えます!」
よく王様ゲームとかでもよくみる結構典型的なやつか。これは確かに普通に嫌だな。特に男の俺としては皆より一回りくらい精神的ダメージがあるな。
「はい、ミハネ先輩ありがとうございます!罰ゲームを受ける人以外全員に特のある良い内容ですね。では、次にサツキ先輩お願いします!」
「はい!先生が昨日めちゃくちゃ悩んだ末に思いついた罰ゲームは、"恥ずかしいエピソードを言おう"です!」
「うわー。それなら私話題が尽きなさそうだな〜」
莉音の言った罰ゲームを聞いたが遥が苦笑いをしないがらそう言う。
これも典型的なやつか。話すエピソードに気をつけないと男だとバレる可能性があるから注意しないとな。
燈哉がそんな事を考える一方、1人が悪いことを考えた。
「先輩、私ちょっとそれがよくわからないのでサツキ先輩にお手本見せて欲しいな〜」
「はぁっ!?ミハネちゃん、先輩にそういう悪いことしちゃダメだよ!」
「いやぁ、私もちょっとわからなかったから先輩にお手本やって欲しいな〜」
流れもあるし、何より初っ端からやらかしたんだから、ちょっとくらい痛い目見てもらっても問題ないだろ。
燈哉はそう思って珍しく先輩にちょっかいをかけるような発言をした。これには流石の莉音も想定外だ。
「来海ちゃん!?貴方そんな悪い子だったの!?」
「先輩、私もわからないからお手本見たいでーす!」
「おいみなみっ!お前はさっき話題が尽きないとかなんとか言ってたんだから絶対理解してるだろ!」
莉音はそう強く遥に言うも、完全に自分が言った罰ゲームをまず自分やらされる流れは完全に出来上がっていた。
「先輩、可愛い後輩からの頼みです!お願いします!」
燈哉は自分が1番莉音が言い返しにくいことを理解して上で、莉音に向かって上目遣いで頼み込む。
「コイツらマジで後輩なのに可愛くねぇ!」
そんなことを言いながらも、椅子から立がって皆の前にいき、ちょうどカメラから中央となる位置に立った。
「はい、えっーと、先生がまだ中学生の頃の話なんですけど、先生は中学の時から今ほどではないですけど、すでに結構胸がバインバインだったんですよ。それで、やっぱ中学生の頃って皆思春期だから特に男子なんかは私のことをいじってくるわけなんですよね。
それである日、いつものように1人の男子がいじってきたんですよ。お前おっぱいだけで体重100キロぐらいあるだろ!って感じで。完全に冗談なのに、その時私は軽く真に受けちゃって、そんな私の体重ほぼ2倍おっぱい持ってるわけないでしょって叫んじゃって、クラス全員に体重知られるっていう盛大な自爆をしたことがあります」
「・・・爆乳エピソード聞かせるなんて私を馬鹿にしてるんですか?」
「いやっ!?負けてもないのに罰ゲームやらされてそれは流石に酷いよ!」
莉音は罰ゲームを流れでやらされたにも関わらず、遥に何故かキレられるという何ともいたたまれない様子に燈哉は少し申し訳なさを感じた。
「ということで先輩がいい感じに恥をかいてくれたので、本題に戻ります!」
「おいっ!この性悪女!」
莉音はそう言うも、美咲は全く気にせず話を続ける。
「次は私の番ですね。はい、では私が考えた罰ゲームはというと、"一枚服を脱ごう"です!」
あぁ、これは確かやりたいとか言ってたな。アバターの服を一枚脱がすというだけで、俺にはそんなに害はないか。
「あら、ミハネちゃんったら本当にえっちですね!」
「はいそうです!今日は皆を脱がして恥ずかしい思いをさせてやろうと思います!」
莉音の言葉に反対するどころかしっかり返事をして全肯定する美咲。おそらく事前に編集の人に頼んだりするほど、これを楽しみにしていたのだろう。
「最後に来海ちゃん、どうぞ!」
俺の番が回ってきたのか。かといって俺は事前に何も知らなかった俺が罰ゲームを何にするかなど決まっているわけがない。
俺が今から考えるのは時間がかかるし、こういう時は無難にリスナーに決めてもらったほうがよさそうだな。
「はい、私の考える罰ゲームなんですけど、ここは1つ、リスナーさんに考えて貰いたいと思います!」
「おー!それはいいですね!」
「来海ちゃんどうする?リスナーさんにマルマロ送ってもらってその中から選ぶ?」
「うん、そうするよ!今から3分の間送られてきたものからランダムで決めるので、コレして欲しいっていう案があるリスナーさんは、いつもみたい私のところにマルマロ送ってください!」
遥の提案に燈哉が賛成したことにより、スムーズにリスナーから意見を集め始めた。
ちなみにマルマロとは、配信者や動画投稿者などでよく使われている、匿名で意見を集めることができるサービスのことだ。
まぁ、そこまで酷いのは送られてこないとは思うが、ちょっとどんなのが送られてきてるか何個か見てみるか。
燈哉はスマホを取り出し、試しにランダムで1つを見てみた。すると、そこにはこう書かれていた。
ホラゲー配信。来海、逃げんなよ?
燈哉が大嫌いでずっと避けてきたものを突きつけられ、燈哉は悪寒がはしった。
これにより、燈哉は一瞬にしてリスナーに罰ゲームの内容を任せたことの重大性を感じた。
そうか、コイツらは俺たちが嫌なことをちゃんと熟知しており、匿名で無責任だから何だって言える。これほど恐ろしい存在はない。
この時初めて燈哉はリスナーに対して恐怖を覚えたのであった。