「カップリング」
※A案(引き分け→来海の保留宣言)採用。字数:約3,800字(本文のみ)
※遥の叫びは「来海ちゃん」表記を採用(平仮名「くるみちゃん」案も可。お好みで差し替えます)
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(か、か、カ、カップル!?)
固まる綾芽の頭の中を、会社のルールが猛スピードで駆け巡る。恋愛は厳禁。バレたら殺されてもおかしくない。なのに人生初の告白が、よりによって同じ会社の後輩から——
「……あの、綾芽さん? なんで顔面蒼白なんですか」
「え、いや、だって、カップルって、その」
「——もしかして、"本物の"カップルだと思いました?」
静は、心底不思議そうに首を傾げてから——ぷっ、と吹き出した。
「カップリングの話ですよ! ファンの人たちが呼ぶ、公認コンビのこと! ほら、これ」
差し出されたスマホには、切り抜き動画。『お姉様カップル爆誕!ソロモン×サツキ、月一コラボ決定』の文字が躍っている。
「定期的に『カップル名+配信』をやるのが第一条件で、あとは本人同士が認め合えば成立。うちの会社にも何組かいるんです。……何を想像したんですか、綾芽さん?」
「な、何も!?」
(あ、危ねぇ……。心臓が止まるかと思った……)
命拾いした——と、安堵しかけて、燈哉は気づく。
(いや、待て。カップリングってことは、定期コラボ。つまり……バレるリスクの、恒常化では?)
「私、来海さんと組んで注目を集めます。人気者と組むのが一番の近道ですから。——それに」
静は、少しだけ目を逸らして付け足した。
「……初めて、本音でぶつかってくれた人と、一緒にやってみたいなって。……ダメ、ですか?」
(——戦略と本音の二段構え。これ、断れるやつじゃないだろ……!)
「か、考えさせてください……」
◇
翌朝。二日目の朝食の広間に、静の高らかな声が響いた。
「皆さんに報告します! 私、来海さんとカップルになります!」
「はぁ!?」「新人ちゃんが来海ちゃんと!?」「攻めるね〜!」
ざわめく広間。当の綾芽は味噌汁を持ったまま硬直している。
(考えさせてって言ったよね!?)
「カップル名は『極楽カップル』を予定しています」
「極道と博士で極楽って、物騒すぎない!?」
一同が笑いに包まれた——その時。
ガタッ。
椅子を鳴らして、遥が立ち上がった。
「く、来海ちゃんは……ワタシの!!」
——静寂。
一秒後、広間は今日一番の大歓声に包まれた。
「てぇてぇーー!!」「みなみちゃんの独占欲!?」「隠しカップルいたじゃん!!」
「ち、ちがっ……! ワタシの……大切な、後輩! だから!」
真っ赤になって軌道修正を試みる遥。信じる者は、一人もいなかった。
——ここで、注釈を入れておく。周囲はこれを"てぇてぇ"として消費している。だが、この場でただ一人、遥だけは知っているのだ。来海の中身が、同い年の男の子だということを。つまりこの胸のもやもやの半分は、女の子としての、本物の——
……なのだが、当の本人が一番気づいていないので、続きは今後の物語に譲る。
「……なるほど。みなみ先輩も、来海さんが欲しいんですね」
静の目が、すっと細まった。元ヤンの目である。
「なら——白黒つけましょう。先輩」
◇
かくして、温泉旅館名物・卓球場に全員が集結した。
『さぁ始まりました、カップル権争奪・卓球一本勝負! 実況は私、大村莉音! 審判は朱里ちゃん、胴元は柚木ちゃんでお送りします!』
「胴元って言うな。……ちなみにオッズは静ちゃん有利だ」
台の横には、賞品として立たされた綾芽。
「……あの。私の意思は?」
「「「ないよ(ですね)」」」
「ないんだ」
試合は、予想外の大接戦となった。
元ヤンの反射神経で強打を叩き込む静。対する遥は、意外な粘りでことごとく拾い続ける。
「な、なんで届くんですか、今の!?」
「ふっ……ぼっち時代、壁打ちで鍛えたの……! 壁は、裏切らないから……!」
「実況席から失礼、悲しい特訓すぎる」
一進一退、デュースにつぐデュース。そして迎えたマッチポイント——静の渾身のスマッシュを遥が奇跡的に拾い上げ、ふわりと浮いた球へ、二人が同時に飛び込んだ。
バチンッ!!
両者のラケットが同時に直撃した球は、空中で真っ二つに割れ、左右のコートへ同時に落ちた。
「「……」」
「し、審判!? これどっち!?」
「判定不能。……つまり、引き分けだ」
「「えぇぇーー!?」」
収拾がつかなくなった卓球場に、凛とした声が響いた。
「——あの!」
賞品席の綾芽が、手を挙げていた。
「わ、私は……まだ、誰ともカップルになりません!」
「「「えぇぇーー!?」」」
「だって私、まだ皆さんのことを全然知らないから。カップルって、仲良しの公式化なんですよね? だったら順番が逆です。……まずは、皆と、ちゃんと仲良くなってから! だから——これから、いっぱいコラボします! 皆さんと!」
一瞬の間のあと、広間は今日二番目の大歓声に包まれた。
あの「コラボしない来海」の、実質的なぼっち卒業宣言である。悪い気がする者など、一人もいなかった。
「……ふん。なら、一番に仲良くなった者勝ちってことですね」
「の、望むところ……!」
静と遥が、火花を散らして睨み合う。賞品はそっと目を逸らした。
(俺は、いつ休暇を取れるんだ……?)
◇
その夜。
騒ぎの余韻が残る廊下の隅で、一人の女が浴場帰りの喧騒を眺めていた。黒いセーターの——上原智恵である。
「……カップリング、ね」
誰にも聞こえない声量で、彼女は呟いた。
「——使えるかも」
同じ頃、自室の布団の中では遥が悶絶していた。
(私、皆の前で、なんてこと言っちゃったのぉ……!!)
そして燈哉は、天井を見つめながら、自分に課された看板がミシリと軋む音を聞いた気がした。
——"絶対に恋愛のできない男"の周りで、何かが、静かに動き始めていた。




