第14話 静
登場人物紹介
野治燈哉(偽名:佐藤綾芽) ⇆明野来海(4期生)
男であることを隠し活動するVmove's所属のVTuberの中の人。アバターは銀髪で白衣の研究者風な見た目の美少女。
大政美咲 ⇆法々ミハネ(4期生)
実は現役JKの明るく元気な子。アバターは少し青みを帯びた黒い髪で、黒いローブなどを纏い、法律家のような見た目をしている。
稲葉遥⇆早坂みなみ(3期生)
燈哉と同い年の可愛らしい美少女。隠キャでコミュニケーションがあまり得意ではない。アバターは真っ白い髪で、生徒会長のような見た目をしている。
大村莉音 ⇆神楽阪サツキ(1期生・九帝)
長くVTuberを勤める燈哉たちの大先輩。アバターはとてもスタイルの良い美人な先生の見た目をしているが、本人がエロいことが好きなため、その旨の発言が多い。
中洲朱里 ⇆九頭如ソロモン(1期生・九帝)
アバターは葉っぱでできた水着を来た南国の歌姫のような褐色の肌が特徴的な美女。本人は長い茶髪が特徴的な美女で、肌を焼くとアバターに凄く似ている。
海道由紀 ⇆北東南西ソラ(1期生・九帝)
マッシュの髪型が特徴的なホストのようなカッコ良さを
美少女。アバターはスーツに身を包んだ赤紫の髪が特徴的なイケメン美女。
? ⇆犬神クロコ(2期生)
アバターは黒い髪にフワフワなケモ耳を携えた美少女。背が小さく可愛らしい。
社静 ⇆極同志穂(5期生)
静が部屋を走って離れた後、部屋には燈哉、遥、美咲の三人が残っていた。
「私、静ちゃんのところに行ってきます」
「えっ!?綾芽ちゃん行くの?」
「きちんと話さないお何事もわからないでしょ?」
「そ、そうだけど、向こうの勝手な行動に綾芽ちゃんが付き纏わなくたって・・・」
「まぁそうかもしれないけど、私がいかなきゃ誰が行くの?」
美咲は燈哉が静の元に行くということに対し、あまり納得がいっていない様子だ。
だが、燈哉は一度決めたことを曲げるつもりは一切ない。
「多分わたしが行っても邪魔だよね。ここは頼んだよ、綾芽ちゃん!」
遥は燈哉にそう言うと、燈哉は「うん、行ってくる」と言葉を残し、部屋から出て行った。
部屋から出て行った燈哉はスマホで静の部屋の位置を確認すると一直線にその方向へ走っていた。
「遥先輩、綾芽ちゃん送り出しちゃったけどいいんですか?綾芽ちゃん何も悪くないのに」
「そもそも私たちだってずっと綾芽ちゃんとばかり喋っていて新人のあの子に見向きもしなかった。それって私たちにも責任あるでしょ?そんなわたしたちを代表して綾芽ちゃんが行ってくれているんだよ?」
「た、確かに先輩の言う通りです・・・」
「じゃあ、私たちが戻ってきた二人にどうすべき?」
「静ちゃんには謝罪、綾芽ちゃんには感謝する」
「そうだね!じゃあ私たちはあの二人が戻ってくるのを待とっか!」
遥は美咲に笑いかける。遥の超ハイスペックな顔から放たれる可愛いさの半端ない笑顔に美咲は女でありながら胸をキュンとさせた。
「せ、先輩!二人でコンビニに行きませんか?お礼と謝罪を兼ねて沢山お菓子を買って二人を驚かせましょうよ!」
「うん、行こう!」
美咲の提案に遥たち二人もまた一時的に燈哉の部屋から出ることを決めた。
頼んだよ、燈哉君。私は信じてるから。
遥は心の中で燈哉を応援する。これもまた、遥の燈哉への信頼の現れなのだろう。
燈哉はそんな遥の信頼にしっかりと応えることができるのか・・・
本当に最悪だ。ろくに先輩とコミュニケーションもとれない私が悪いのに、綾芽さんにあんな酷いことを言ってしまうなんて・・・
静は自分の部屋のベッドの上に腰をかけながら、先ほどの行動を後悔していた。
「せっかく私に居場所を提供してくれたのに、すぐにダメにしちゃうなんて。社長、本当にごめんなさい・・・」
静はそう呟くと、顔に手を当てて、俯く。
一時の感情に任せてとった行動が上手くいくことはほんとんどなく、このように後になって後悔するというのはよくあることだ。
また、一度このように落ち込んでしまうと、一人で立ち直るというのは心が強くない限り、そう簡単にできるものではない。
静は残りの旅行をそのままずっと一人で部屋に困り続ける・・・
・・・なんてことにはさせない。
「ガチャ」という音とともに燈哉が部屋に顔を覗かせる。
そしてベッドの上で俯きながら座る静がいることを確認すると、そのまま無言で静の元に近寄り、静のすぐ隣に腰をかける。
「ねぇ、話し合わない?」
「・・・私のことは気にかけなくて大丈夫。綾芽さんは戻っていいですよ」
「そう言わず、ちょっと話さない?」
「いや、本当に結構です。私は大丈夫ですから」
「そっか・・・」
燈哉の「話し合おう」という提案を全て受け流す静。
そんな時、燈哉の言葉は一瞬にして豹変した。
「おい、一回顔上げろ」
先ほどとは違う女性のヤンキーのような力強い声のトーンで喋り始めた。
その声は普段配信や女装中に使うものとも、地声の男の声ともかけ離れており、まるで別人が話しているようだ。だが、声の主は燈哉であることに間違いない。
そう、燈哉は地声と配信で使う声の他にも様々な声を出すことが出来たのだ。
「えっ・・・」
燈哉の急な豹変っぷりに静は驚いて顔を上げる。
「私はお前を気にかけてここにきたわけじゃない。さっきのお前のとった行動について色々言いたいことがあったから来たんだ。そして話しかけられているんだから顔ぐらい私の方を向け!」
「わ、わかりました!」
燈哉の言葉に静はしっかりと燈哉に顔を向ける。
ち、近いな!?
癖っ毛のあるフワッとショートの髪に赤と緑の二つの髪留めをおでこの左側あたりにつけ、旅館で借りた浴衣に身を纏う、目つきは少しキツいが、正真正銘美少女の静。
そんな彼女とすぐ横に肩を並べ、顔の距離がとても近くなった燈哉は、場の雰囲気を無視して、変にドキドキしてしまう。
だが、先ほど顔をこっちに向けろと言ったばかりなのにドキドキするからといって顔を背けるというわけにはいかない。
結局、燈哉はそのまま顔を向けたまま話を続ける。
「いいか?勝手な逆恨みで怒鳴りつけて、そのまま走り去って、優しく言っても話し合おうともしてくれない。いい加減にしてくれよ。なんか言いたいことあるなら言い返してみろよ!」
燈哉のこの言葉に静はベッドから立ち上がり、まっすぐ燈哉に顔を向けたまま、言い放つ。
「わ、私だって皆、綾芽綾芽綾芽綾芽うるさいくて、先輩は皆取られて、新人同士で比較されて、うんざりだったの!人気者の貴方にはわからないでしょ!?」
「あぁ、わからないさ。逆にこっちは先輩にずっと付き纏われて、ずっと先輩に会話を合わせなきゃいけなくて、しまいにはお前に怒鳴られる。社長、これのどこが休暇だよ!?社長が無理に勧めるから仕方なく来たけど、結局来なきゃ良かったってお前以上に後悔してるんだよ!」
「社長は貴方のことを思って言ったんでしょ!?まるで社長が悪いみたいに言わないでよ!」
「実際あいつが言わなきゃ私もこんなのに参加しなかったし、私が参加しなきゃ、お前は普通にこの旅行を楽しめてただろ?あいつが元凶なのは間違い無いだろ?」
「それでも社長は一切悪くない!あの人はいつも皆のことを考えて行動してくれる人だから、貴方のことを思って参加させたに決まってる!」
「だとしても結果はこのとおり最悪なんだよ。というかそもそもお前の力不足もあるんじゃないのか?」
「そうだよ!貴方みたいにまだ人気もないただの新人、それが私。私だってあんたみたいに早く一人前になって、稼いで、会社に貢献できるようになりたいのに!」
悔しそうに拳を握りしめながら、言い放つ静。
唇を噛み締めながらも、燈哉のほうにずっと顔を向け続けている。
静に向き合う燈哉にも静の悔しさというものは存分に伝わる。だが、これはただ自分と比較されたからというだけのものではないと燈哉は感じた。
「そこまで静ちゃんが悔しがる理由、聞かせてくれる?」
燈哉はいつもの女性の声で突然優しく静に話しかける。
「・・・やっぱり。綾芽さんには敵いませんね。でも、話したことは他の人には言わないでくださいよ?」
「わかってるよ。静ちゃんこそ、私があんな声で喋ってたことは他言厳禁だからね?」
「わかりました、じゃあお互いに他言無用ということで。で、話すと言っても少し長くなると思うんですけど、良いですか?」
「一切気にすることないよ。だから早く話してみて」
燈哉は静に笑顔を向ける。燈哉の温かさを感じ取った静も自然と眉は下がっているものの、口角をあげ、少し笑顔を取り戻す。
「・・・私、実は昔、ヤンキーだったんです」
「女の子でヤンキーってこの時代にしては相当珍しいね」
「まぁそうですよね。でも、私の高校ではそこまで珍しくはなかったんです。私は昔から勉強が本当に苦手で、なのに勉強から逃げてばっかり。
だから中3の頃、馬鹿な私立にお金払うくらいだったら最底辺の県立の高校に行った方がマシだと思って、そこに進学を決めたんです。
そしたらそこは、地元でも悪評高くて、県立なのに定員割れるようなところでした。
そこでできた交友関係が理由で私はヤンキーとなりました。悪さばかりして、色んな人に迷惑かけて、親にも呆れられました。私って本当に最悪ですよね。」
「若気の至りなんだし、そこまで過去の自分を否定することはないと思うよ」
「お気遣いありがとうございます。でも、そのせいで高校卒業した途端、進学先も就職先も、やりたいことや夢もなかった私は完全に路頭に迷い始めました。親からは「容姿がいいから嫁にでも行け」と言われたけど、私が変にプライドが高いせいでそれも拒否して、家からは出て行き、アルバイトでなんとか食い繋いぐような生活を送ってました。」
「親に人生決められるのも、他人に養ってもらうだけの人生を送るのも嫌だよね。その気持ちはよくわかる」
「アルバイトで月20万以上稼ぎながら生活して、2年。そこで私はこの会社の求人を見つけたの。」
「たしかにうちの会社は資格不要、学歴不問で、人柄と配信者としての素質だけを見るもんね」
「そう、だから私みたいなやつでも選考対象になれた。でもその分倍率は高い。200人の中からたった一人だけ。しかも皆選ばれるために声や知識などいろんな武器を身につけている。
そんな中、勢いと気合いだけしかない私を社長は選んだの。選ばれた時は、夢かと思ったし、今でも奇跡だと思ってる。
だから私は少しでも恩返しがしたくて、今は活動しながら、配信について毎日色々勉強してる。
でも全然上手くいかない。せっかく与えられた居場所も、今日みたいに自ら壊してしまう。今も昔も、結局私って本当に最悪ですよね。」
静は下に向ける。燈哉からにはあまり見えていないが、静の目元には少しばかり涙が滴っていた。
「私は「貴方は最悪じゃないよ」って宥めるつもりはないよ。そうやって言ってもらったところで静ちゃんはきっと何も変わらないでしょ?」
そんな静に対し、燈哉は同情は一切なく、ただ思ったことをそのまま言葉にする。
「うん。私だって慰めの言葉を求めてるわけじゃないし、同情してもらうためにこんな話をしているわけじゃない。だからその上で聞かせて。私はこれからどうすればいいの?」
「・・・知らない。静ちゃんがやりたいようにやればいいんじゃない?」
「やりたいようにって言われたって・・・」
「わからないならとりあえず自分なりに精一杯頑張ってみればいいじゃん。それでダメなら気持ち切り替えればいいじゃん。もう気持ち切り替えられないなら逃げればいいじゃん。まぁ、逃げるのはあくまで最終手段だけどね」
「何が言いたいの?」
「静ちゃんの今の理想を教えて。なんだっていいし、どれだけ強欲だっていい」
「見返したい。」
「・・・見返す?」
「いっぱいお金稼いで、皆の人気者になって、今まで私を下に見てきた人も、軽く見てたら奴等も全員を見返してやりたい!」
「うん、いいじゃん。じゃあそうなれるよう頑張ろうよ。私も一緒に頑張るから」
「ありがとう。でも、私は貴方のことも超えてこのVTuber業界でトップに君臨するつもりだから、「私も一緒に」とか言ってる余裕はないからね!」
いつの間にか静の顔は清々しく晴れていた。
ちょっと上手くいかなかっただけなのに、あんなに変に落ち込むなんて、私ってば本当にどうしちゃったんだろう。さて、いつもみたいに気持ち切り替えて頑張ろ!
静は先程まで何故あれほど落ち込み、自暴自棄になりかけていたのかわからなかった。
静自身が気づいていない落ち込んだ理由。それは、ただ与えられた居場所を失うことを恐れただけだった。
急に社会にでて、バイトでなんとか毎日必死に食い繋ぐ。そんな日々を二年間。それは知らずに静の心に相当なダメージを与えていた。
そして今回、与えられた居場所を失い、あの日々に戻るという未来の可能性が頭の中に現れた。そのちょっとした考えは頭にこべりつき、いつの間に弱っていた静の心の中を蝕んでいた。
燈哉は少し不自然に思えるほど急な立ち直り、先程までのあまりの落ち込みっぷりに静の心が相当弱っていることに気づいていた。
そしてその原因がおそらく慣れない社会進出によるものだということもなんとなく理解していた。
「私も負けないようにに頑張る。だけど、少しでも何か不安に思うことがあったり、悩んだりしたら私のことをちゃんと頼ってね!」
静のことだからこの会社に勤めていれば、いずれ心は強くなるだろう。
燈哉はそう言うと、静に向かって手を差し伸べる。
静はその手をとり、にっこりと笑う。
「ありがとう!じゃあ早速だけど、私とカップルになってくれる?」
「もちろん、・・・は?」
にっこりと受け答えようとしていた燈哉も突然のカップルという発言に驚く。
「綾芽ちゃんが私から先輩全員取った責任として、私とカップルになってくれるくらいいいよね?」
か、か、カ、カップル!?
こうして燈哉は人生初めての告白?を受けたのだった。
社員旅行参加メンバー
一期
九頭如ソロモン (中洲朱里)
北東南西ソラ (海道柚木)
神楽阪サツキ (大村莉音)
古屋コノハ
二期
浜辺スイ
犬神クロコ
千羽サエ
三期
早坂みなみ (稲葉遥)
吉寧ケイ
ソフィア・ピュアライト
四期
明野来海 (偽名:佐藤綾芽 本名:野治燈哉)
法々ミハネ (大政美咲)
蒼山キララ
魂盛おうちゃま
五期
極同志穂 (社静)