第12話 温泉旅館
登場人物紹介
野治燈哉(偽名:佐藤綾芽) ⇆明野来海(4期生)
男であることを隠し活動するVmove's所属のVTuberの中の人。アバターは銀髪で白衣の研究者風な見た目の美少女。
大政美咲 ⇆法々ミハネ(4期生)
実は現役JKの明るく元気な子。アバターは少し青みを帯びた黒い髪で、黒いローブなどを纏い、法律家のような見た目をしている。
稲葉遥⇆早坂みなみ(3期生)
燈哉と同い年の可愛らしい美少女。隠キャでコミュニケーションがあまり得意ではない。アバターは真っ白い髪で、生徒会長のような見た目をしている。
大村莉音 ⇆神楽阪サツキ(1期生・九帝)
長くVTuberを勤める燈哉たちの大先輩。アバターはとてもスタイルの良い美人な先生の見た目をしているが、本人がエロいことが好きなため、その旨の発言が多い。
? ⇆九頭如ソロモン(1期生・九帝)
アバターは葉っぱでできた水着を来た南国の歌姫のような褐色の肌が特徴的な美女。
? ⇆北東南西ソラ(1期生・九帝)
アバターはスーツに身を包んだ赤紫の髪が特徴的なイケメン美女。スタイルは抜群。
? ⇆犬神クロコ(2期生)
アバターは黒い髪にフワフワなケモ耳を携えた美少女。背が小さく可愛らしい。
来海の誕生日配信を終えてから数日が経過し、四月ももう終わりが近づいてきた。
燈哉は暗い部屋の中でスマホ片手に通話をしていた。通話相手は叔父であるVmove'sの社長であった。
「この時期は毎年新人VTuber同士の親睦を深めるためにちょっとした社員旅行をやってるんだ。さすがに去年は参加させなかったが、今年から参加してみるのはどうだ?いい休暇になるぞ?」
「休暇?別にいらないですよ。というかそんなものに参加したらバレる可能性高いですし」
今まで引きこもってひたすら配信をしていたせいか、平日と休日の区別がつかないような生活を送っており、燈哉にとってそもそも休暇を取るという意識すらないのだ。
「まぁせっかくだから来いよ。二泊三日で熱海の温泉旅館に行く。経費は会社がほぼ負担かつちゃんと一人一人に個室の部屋を与えてやるつもりだ。どうだ?こんな機会はそうそうないぞ?」
「・・・参加メンバーは?」
「えっと、確か一期からはソロモン、ソラ、サツキ、コノハの五人。二期からはスイ、クロコ、サエの三人。三期はみなみ、ケイ、ソフィアの三人。そして四期は今のところミハネ、おうちゃま、キララの三人。五期からは志穂ちゃんの一人だけ、計15人が行くことが決まっている。もう全員に参加するかどうかは聞いたからこの15人は変わることはなくてあとはお前だけだ」
「15人・・・」
一応知り合ったメンバーが何人もいるものの、14人を三日間騙し続ける(遥はすでにバレているのでノーカウント)というのは至難の業だ。しかも旅館に泊まりにいくということで、気が抜けやすくなるのも間違いない。
申し訳ないが、丁重にお断りするか。
「申し訳ないのですが、やはり参加はしないということでよろしいですか?」
「まぁ三日間も女のふりをし続けるのはキツいかぁ」
「そうですね。ということで今回は私の参加はなしということでお願いします。では失礼・・・」
「遥ちゃんと美咲ちゃんの頼みだと言ったらどうする?」
「え?」
「本当はこの社員旅行自体は一ヶ月前に決まったことで元々君を参加させるつもりはなかったんだけど、一昨日急に二人がどうしても君を参加させてくれっていうから旅館に無理を言って部屋を一つ増やして貰ったんだ。あーあ。部屋も一個無駄になっちゃうし、二人も悲しむだろうなー」
丁重に断り、電話を切ろうとした燈哉に社長は揺さぶりをかけ始めた。
「あの二人の頼みかつ部屋をもうすでにとってある?それは卑怯じゃないですか?」
「私としても君にはいい交友関係をもっと築いて欲しいんだよ。」
「・・・はぁ。バレたら困るのは私だけじゃなくて社長もですよ?」
「君ならきっとバレないよね?私は君を信用してるよ?」
「・・・まぁ最善は尽くします。」
「じゃあ来海ちゃんも参加ということで!」
社長の少し嬉しそうな声が聞こえる。そんな社長に対し、燈哉は少し呆れている様子だ。
「燈哉くん、バレてはいけないから気が抜けないかもしれないけど、思う存分楽しんできなさい。そうすればきっといい思い出になるよ」
「わかりましたよ。じゃあ失礼します」
「はい。ありがとうね」
社長は最後に社長としてではなく、一人の親として優しくアドバイスすると、通話が終了した。
「4月28日から30日の2泊3日。あと一週間もないじゃないか・・・」
会社からの業務連絡のツールから今回の社員旅行の内容を確認していた。書かれている内容として下記の通りだ。
令和6年度 社員旅行について (配信者の部)
開催日時 4/28〜4/30 (2泊3日)
開催場所 熱海松璃旅館
参加条件 本社所属で配信者として活動している方
4月28日当日午前10時にて現地集合
・交通費、旅館費用(飯代込み)のみ本社が全額負担致します。
・本行事は社員同士の親睦を深めることを目的としています。
・本行事において怪我などを負った場合において本社は一切保証致しません。
本行事の詳細については以下のPDFをダウンロードしてご確認ください。
・R6社員旅行(1).pdf
「経費ほぼ全額負担は本当なのか。中々太っ腹な会社だな・・・」
燈哉はそう口ずさみながら社員旅行についての情報を確認する。
燈哉は数分かけて一通り目を通した後、旅行に向けて準備を始めた。
"絶対にバレてはいけない温泉旅館"が今、幕を開けようとしていた。
4月28日午前9時。燈哉は集合時間の約一時間前に早々と集合場所に到着した。
目の前には今回燈哉たちが泊まる宿があった。
熱海市の中心地から少し離れたところにあるこの宿は和風なつくりが特徴的であり、燈哉が今いる場所からは大きく"松璃旅館"と旅館名が書かれた木の板が張り出されているものと、周りに生えた数本の松の木が目に入った。
ちなみに一時間前にも関わらず燈哉は三番乗りであり、燈哉より先にいた先客二人が仲良さ気に喋っていた。
「今回の宿すごくない?前回よりめっちゃ和って感じじゃん」
「たしかにそうだね。まぁ僕は居心地が良くて、ご飯が美味しくて、温泉が気持ち良ければ和風でも洋風でもなんだっていいんだけどね」
「そういえばあんたは内面ばっか気にするタイプだったね。てか配信以外は僕呼びじゃなくていいんだよ?」
「僕は配信で素を出さないようこうしてるんだよ。君こそ配信中にいつも使ってる一人称の"うち"が出たせいでリスナーに笑われたのを忘れたのかい?」
「うっ、だからあれから日頃でも一人称を私にするよう頑張っているのよ・・・」
「なんだ君も同じじゃないか」
「違うわ!日常会話で僕呼びする女の子なんてあんまりいないでしょ!」
「決めつけはよくないよ。僕以外に女だけど僕呼びする子だってきっといるのに」
二人は話が盛り上がっており、かつ燈哉の見たことのない顔であり、とても話しかけづらい。
また、全く関係ない人という可能性も否定は出来ず、それもまた燈哉が話しかけるのを躊躇う要因となっていた。
まぁ、話しかけられるのを待てばいっか。
結局燈哉は話しかけるのを諦め、ポケットからスマホを取り出す。
ちょっとした余談だが、燈哉はわざわざ今回のためにスマホのケースを男女どちらが使っていてもおかしくないグレーに透明で本体が透けて見えるようなものに新調していた。ちなみに透明の部分からは本体の色のホワイトが透けて見える。
そんなスマホを燈哉がイジろうとした瞬間。燈哉の背中側から何やら燈哉に向かって真っ直ぐ駆け寄ってくる足音が聞こえた。
それを察知した燈哉はすぐにスマホをしまい、足音の方向を向く。
「あ、莉音先輩、お久し・・・」
「あ、ちょっと待っ・・・!」
足音の正体は莉音だった。莉音は後ろから燈哉に飛びつこうとしており、かなりのスピードで燈哉に向かって走って、飛びつきにきており、軽く地面から足が離れていた。
それに対し燈哉が急に振り向いた。
さて、どうなるだろうか。
まず、おんぶの体制になろうとしていた莉音がの腕が燈哉の肩にかかる。
それによって後ろに倒れそうな燈哉は片足を後ろに踏み出し、なんとか倒れないようにする。
だが、倒れそうなことに意識を持ってかれた燈哉は目の前に近づいてくる莉音の顔を避けることができないかった。
そう、二人はだいしゅきホールドでキスをかましてしまったのだ。
「は、離れてください!」
「ご、ごめん綾芽ちゃん!」
燈哉は急いで莉音の顔を振り払い、それと同時に莉音も腕を振り解き、二人は少し距離をとった。
突然の出来事に燈哉と莉音の二人は混乱した。そしてそれは会話に夢中だった二人もあまりに突然の出来事に目線を奪われており、先ほどのキスもしっかり見られていた。
「莉音!?アイツ何やってるの!?」
「まさか莉音って百合だったとは・・・」
なんで初っ端からこんなことになるんだよ!
燈哉は顔を真っ赤になり、顔に手を当てる。
「ほ、本当にごめんね!悪気はなかったんだよ!」
「いや、謝る必要ないです。どうしようもない事故みたいなものでしたから」
「いや、私が綾芽ちゃんを驚かそうなんて悪巧みしちゃったから・・・」
「いや。本当にただの事故なんで仕方ないですよ」
真っ赤な顔に手を当てて隠す燈哉に対し、莉音は反省して謝る。
結局、その後は会話していた二人が燈哉と莉音の元に近づき、事情を聞いたことで一度事態は収拾した。
「まぁ、ただの事故だ。莉音も反省していることだし、綾芽君も気を取り直さない」
「ご迷惑かけてすみません。私はもう大丈夫です」
「全く莉音ってばすぐにやらかすよね〜」
「うっ・・・、誠にすみません」
紺のシャツにカジュアルなベージュのズボンを履いている、マッシュの髪型をした、まるでホストにいそうなカッコ良さのある美少女が燈哉に優しく声をかける。
そう、彼女こそ先日の配信でコラボしたうちの一人。北東南西ソラの中の人、海道由紀である。
その一方、莉音に呆れた口調で話す、サラサラとした長い茶髪に、大きな胸とくその部分が強調された夏仕様の薄手の服に身を包む、お姉さん味を醸し出す女性。
彼女が九頭如ソロモンの中の人、中州朱里であった。
ちなみにスタイルはソロモンと同じで、さらに本人も美形であるため、肌を少し焼いて、コスプレをすれば本物のソロモンを現実世界に持ってかれるだろう。
二人は今回社員旅行を行うメンツの中でも一番先輩であり、引率を任されていたため、早々と集合場所に来ていたのだ。
「まぁあんな面識も薄い30半ばのおばさんとキスなんてわたしなら絶対に嫌だわ〜」
「確かに・・・。本当にごめんね、穢すようなことをしちゃって」
朱里のその言葉に莉音は燈哉に対して申し訳なさそうに謝る。
「け、穢す?私はただ綺麗な先輩にキスされて照れていただけですよ。なのでもう謝らないでください!」
燈哉は少し照れながらはっきりと自分が思ったことを正直に述べる。
燈哉のその言葉に莉音は急に質問をし始める。
「え、えっと、それはつまり私とキスしたっていう事実が嫌だっていうわけではないの?」
「だから照れてるだけですって・・・恥ずかしいので言わせないでください」
「え、私とのキスに照れてるってこと!?」
「だからそうだっていってるじゃないですか!言わせないでくださいよ!」
何この子可愛い!
莉音は心の中でそう叫ぶと調子を取り戻して嬉しそうに喋り出す。
「綾芽ちゃん可愛すぎ。もう一回キスしよっか?」
「や、やめてください!先輩は恥ずかしくないんですか!?」
「可愛い綾芽ちゃんになら何回だってキスできちゃうよ〜」
え、やはり莉音は百合だった!?
目の前で百合展開を見せつけられた朱里と柚木の二人はそう思わざるを得なかった。
まだ始まってすらいない2泊3日の社員旅行。この調子で果たして燈哉は乗り切れるのだろうか・・・。
社員旅行参加メンバー
一期
九頭如ソロモン (中洲朱里)
北東南西ソラ (海道柚木)
神楽阪サツキ (大村莉音)
古屋コノハ
二期
浜辺スイ
犬神クロコ
千羽サエ
三期
早坂みなみ (稲葉遥)
吉寧ケイ
ソフィア・ピュアライト
四期
明野来海 (偽名:佐藤綾芽 本名:野治燈哉)
法々ミハネ (大政美咲)
蒼山キララ
魂盛おうちゃま
五期
極同志穂