#83 女優
彼女がキャラを演じていたことの整理は、まだついていないけど、本当に本当に本当に、彼女がキャラを演じていたことの整理は、まだついていないけど、マジでマジでマジで、彼女がキャラを演じていたことの整理は、まだついていないけど、彼女が女優として活躍していることは、うれしいに決まっている。
僕の方が彼女よりも重症だったことは、言うまでもなくて、重賞制覇とか、世界的賞授賞とかとかよりも、重症になる確率の方が低いと思っていたから、ショックでショックでショックで、ぶつけていないのに、右くるぶしが赤みがかってきそうな気がしている。
半年住んでも、住所を覚えられないくらい重症なときもあった僕だから、キャラがたくさんあっても不思議ではなくて、不思議と不死身だなみたいに、普通に思ってしまっても普通、みたいに思ってしまったこともおかしくはなくて、とにかくもう、変な考えを巡らせることは、やめようと思う。
彼女が帰ってきたら、話すしかないと思っていて、鼻筋がきれいな彼女が帰ってきたら、きれいな鼻筋に話す感じで、話そうと思っていたが、今はどんな状況かも、何を話せばいいのかも分からないくらい、パニパニックパパニック状態が、ずっと続いているから、よく分からない。
玄関のドアがガタンとなって、カギを入れた音がズウィーと鳴って、解錠される音がガチと鳴って、バタンとドアが開いて彼女が帰ってきて、広げられたあのノートを見て、彼女は、コクンコクンコクンコクンと、軽くうなずいた。
別れを切り出される状況に、今いるのかさえも、よく分からなくって、今の状況を何かに例えるなら、突然ポンッて鳴って、目の前に何かが落ちてきて、何かなと思ったら、オンオフをスイッチ一つで切り替えできる延長コードの、ひとつのスイッチがなくなっていて、そんなことが前にあったのだが、それに今は似ている。
色々と話したかったから、色々と話そうと、そのまま言葉にしようとしたけれど、何も言葉が出てこなくて、あっちからも、何も言葉が出てこなくて、他のものや自然からも、何も音が出てこなくて、何も音が出てきてないや、何も音が出てきてないやと思った。
色々話したいとは言ったけど、未だに何も思い浮かばなくて、色々が何種類くらいなのかもわからなくて、色々考えても、顔をひょこっと出してくれる話したい事柄はいなくて、イロイロイロイロ言っている間に、彼女は目をつむって動かなくなっていて、彼女は素もやっぱり変だったんじゃないかと、思い始めた。
彼女はずっと、目をつむってつむって、つむりまくっていて、黒目も白目も見えないくらい、目をずっとつむっていて、今はずっと、つむってだと思っていたが、つむってではなくて、つぶってかもしれないことに気づいたが、そんなことを考えている暇は、少ししかない。
僕は、これはこうだからこれはこうで、みたいなことを言うと、彼女はまだ停止していて、あれがああなってそれがこうこうこういうことで、みたいなことを言うと、ああねああね、と彼女が言うことなく、前と変わらぬ彼女だった。
もしかすると、学校の朝礼とか、定期集会とかで、校長のあいさつのときに、校長先生がおしゃべりが止むまで待っている、例のアレみたいな感じかなと思い始めていて、絶対アレだよ、絶対アレだよ、絶対アレだよみたいに思って僕は、だんまりだまだまを決め込んだ。
彼女はようやく喋り出してくれて、僕は独り言がまだ多いらしいが、普通に近づいていると言ってくれて、何も変わっていないのにと思ったのは思ったけども、まだ目をつむってつむってつぶってつぶって、つぶったままでいる彼女の前では、僕の思考も開ききってはいなかった。
彼女が僕に、ずっと楽しく一緒に過ごしていこう的な言葉を投げてきて、ずっと楽しく一緒に過ごしていこう、という言葉は、普通のキャラや関係に戻ってスタートみたいな意味もあるだろうけど、プロポーズかもしれないと思ってきて、彼女を見ると、左手を腰の後ろにして、右手は天井を指差していて、よく知らないけど、プロのポーズなんだなと思った。
今日は世界初の、【結婚したい】と【血痕死体】が上手く交わる日になってしまうんじゃないか、なんて思うわけはなく、怖さはなく恐さはなく、幸せにシュルシュルシュルリと、入っていくそんな想像しか、今の僕には出来なくて、出来なくて、出来なかった。
結婚してくださいと、結婚を彼女から申し込まれて、その刺激で、僕の身体から、ちいさなちいさな星の数くらいの魂のようなものが、ピューピューピューピュー抜けていったような気がして、悪いヤツが抜けたのかな、人格がゴッソリ別れを告げたのかな、みたいに思った。
スッキリとして、彼女のプロポーズにOKの返事をしたけど、ハイハイと、2回のハイを言ってしまったことで、彼女は苦笑いしていて、まだまだ乗り越えるべき壁と、僕に潜んでいるキャラクターの数は、数えきれないんだなあと、改めて改めて、改めて改めて思ったのだった。




