24話 ワイルドコック
いい具合にお腹も満たすことができた。
やっぱり、自然の中で食べる食事は良いものだな。
皆の表情も、心なしか明るく感じる気がする。
ワイルドコックが何か、なんとなくは知っているモノの、
実際に動いている所を見たことはない。
以前、村の肉屋で、おっちゃんが解体する、
直前のワイルドコックを見たが事があるが、結構大きかった気がする。
ビッグラビットより、一回り大きい印象を受けた記憶がある。
「カイル、ワイルドコックを狩ったことはあるんだよね」
「あるぞ! あいつらは移動する時は集団で動いているけど、チームワークみたいなものは無いからな。
俺達はいつも、孤立しているヤツを狙うんだ」
なるほど。3人で1匹を狩るスタイルのようだな。
確かに、その方法であれば、余程のことがない限り問題ないと思う。
俺たちは、ビッグラビットを狩っている経験もあるし、
冒険者ギルドで提示されているランクも同じだった。
見縊っている訳ではないのだが、カイル達が狩れる敵なら、そんなに強くは無いはずだ。
カイル達のパーティ構成を見ても、カイルは前衛1、後衛2で、
カイルは特別剣術の指導を受けているわけでも無いらしいし、アニーも街の狩人に弓を習った程度らしい。
イオは少し特別で、孤児になる前は、魔術に精通する家系だったらしい関係で、回復術士らしいけれど。
仲間が怪我をしたら治癒を行う立ち位置だろうし、戦闘向きではないだろう。
それに対して俺達は、前衛2に後衛1だ。
ティアは盾役をこなす。
臆すること無く敵を引きつけ、攻撃を去なす事が出来るようになっている。
兄の枠周りは攻撃と言えば良いのだろうか。
隙きを見て敵へ致命的を与えたり、止めを刺す役割だ。
よく動き、一回の戦闘程度だったら楽々こなす様になっており、攻撃力も上がっているのか、ビッグラビット程度であれば、
ほぼ、一撃で仕留められるようになっている。
俺の役割は中衛から後衛を担当している。
主に、氷魔術で魔物の動きを鈍くしたり、危険だと感じたら、風魔術で吹き飛ばしたり。
兄とティアのサポートの重視している。
でも、剣術もある程度こなすことが出来るから、前衛の役割が出来ないわけでもない。
オールランダーだ。
器用貧乏と言い換えることも出来るのだけれど。
どの役回りも中途半端だから。
現状、兄とティアの実力を上げるために、魔術の威力を抑えているけど、制限を無くしてしまえば、もう少し大きい魔物だって相手も出来るはずだ。
そう考えると、贔屓目無しに考えても、パーティとしてもバランスは悪くない。と思う。
実際、ビッグラビット程度だったら、二人とも一対一で相手が出来る実力だ。
Fランク程度の依頼だったら、問題無くこなせると考えても良いと思う。
ただ、ワイルドコックは初見の相手だ。
驕らず、慎重に相手をするべきだ。
経験者のカイル達も居ることだし、悪いけど相手の動きを観察さてもらって、参考にさせてもらおう。
(む。主様、前方に魔物の気配です。相手は一匹ですね。
ただ少し離れた所に、何匹か気配がするので気をつけて下さい)
敵が近い。
俺はケット・シーにそれとなく目線で頷き、自分を奮い立たせる。
「前の方に魔物の気配がするかも。みんな気をつけて」
「そうなのかい? みんな慎重に行くのさ。アニー」
「分かった」
どうやらアニーは斥候役らしい。
敵の状況を確認するんだろう。
アニーが一人前方へ進む。
さすが、今まで依頼を受けて来た冒険者の先輩だ、足音と気配が薄くなった気がする。
アニーが10メートルほど進んだ頃だろうか、俺が、アニーの様子を見て感心していると、
カイルに着いてくるよう合図さた。
みんな、カイルに着いて行く。
緊張する。
よく知らない場所で、初めて対峙する敵との戦い。
いつもより、心臓の音が大くなっている気がする。
自分を落ち着かせるため深呼吸をする。
木々の葉音、どこからか聞こえる鳥の鳴き声。
皆から聞こえる、微かな衣擦れの音と、足音。
隣にいるティアの呼吸が聞こえる。
ちらっと兄とティアの様子を窺う。
緊張しているんだろう。
表情がとても固い。
暫く進んでアニーが止まった。
それと同時に、俺たちも動きを止める。
少し経った頃、ハンドサインだろうか、アニーがこちらに合図を送ってきている。
「うん。問題無さそうさ」
小声でそう言ったカイルを、皆が慎重に後を追う。
アニーが身を隠している草むらに到着した。
アニーが目線を送っている先を見る。
そこには、ワイルドコックが一匹。
俺達が居る場所は、段差の少し上に位置しており、草むらから見下ろす形だ。
皆、伏せてそのワイルドコックの様子を伺っている状態でいる。
ワイルドコックがいる場所は、先程休憩をした、石がゴロゴロした川岸に場所に似ている。
ワイルドコックは、川辺の虫か何かをついばんでいる。
こちらには全く気付いていないようだ。
ワイルドコック。
そいつは鶏に似ているが、胴体がまん丸としており、足の筋肉は発達しているようで、今の俺の足よりは2倍ほど太く見える。
鉤爪で攻撃されたら軽症では済まないだろう。
実際に動いている所を見たら結構怖い。
魔物って呼ばれる理由も何となく分かる気がする。
動物園で見るような、小型の鳥類とは段違いだ。
素手だったら勝てる気がしない。
軽く恐怖すら覚える。
「よし。じゃあ俺達が先に当たるから、ヘリオス達はその後出て来るんだ。
逃さないように周りを囲うように追い込もう。
あいつらの攻撃は、直線的で単調だから、焦らずやればあっという間に片がつくさ」
「わかった」
俺達はカイルの指示通りに動くことにした。
いざとなったら、いつもやってるように、俺が魔法で足止めして、止めは兄とティアに任せれば問題ないだろう。
「アニー、やってしまうのさ」
そう言われたアニーは、草むらから身体を上げ、短弓を構えて弓を引く。
「行って」
アニーの掛け声とともに、弓が放たれる。
それと同時にカイルが飛び出し、その後追う様に、アニーとイオが草むらから飛び出す。
放った矢は、ワイルドコックの背中に当たったようだ。
ワイルドコックは驚いたように、軽く悲鳴のような鳴き声を上げた。
だが、アニーの弓は短弓で、威力もそこまで高くない為か、ワイルドコックの羽毛に邪魔された為か、矢は深く刺さらず致命傷には至ってないように見える。
俺たちは一足遅れ、草むらから飛び出す。
既にカイル達はワイルドコックに迫っており、カイル一人と、アニー、イオの二人組に別れ、2方向から囲んでいる陣形だ。
「二人とも、こっち」
ワイルドコックの側面には川があるためそちら側には行かないだろう。
俺達は逃がすことの無いよう、その川を挟んで対称側に陣形を組む。
ワイルドコックは逃げるような素振りは見せず、
カイルを睨むように対峙している。
魔物は基本的に、逃亡を選択しないように感じる。
ビッグラビットは逃した記憶もないし、こちらが攻撃を仕掛けたら、最後まで全力を尽くして戦っていたように感じる。
魔物というものは、非常に好戦的な生き物なのだろうか。
しかし、ワイルドコックを近くで見ると大きい。
あいつの顔の位置は俺のヘソくらいあるんじゃないだろうか。
「いくぞ!」
カイルがワイルドコックに攻撃を仕掛けた。
カイルの装備は、ティアと同様ショートソードと木製の円盾だ。
カイルは、ワイルドコックの攻撃を上手くいなしながら反撃をしているが、
片手で振るうショートソードは深く切りつけられず、
勝負を決めるまでには至っていないようだ。
アニーは隙きを狙って攻撃をしているものの、
カイル同様、持っているナイフでは深くまで傷つけられず、ほとんどダメージを与えられていないようだった。
だが、状況はあまり逼迫しているようには感じられない。
これなら、兄とティアの訓練になるんじゃないのか。
「兄さん、ティア。カイル達を援護してあげて」
「わかった」
「まかせてっ」
兄とティアが戦闘に参加し、ワイルドコックの前に立つ。
ワイルドコックはティアを一瞥した後、狙いを定めたように、ティアへ突進するように攻撃を仕掛けた。
ティアはそれを難なく盾で防ぎ、剣で切り返す。
深手を負わすことは出来なかったものの、首筋に切り傷を与える事が出来たようだ。
ワイルドコックは少し怯んだように見える。
兄はその隙きを見逃すまいと、果敢に懐へ飛び込む。
ワイルドコックは驚いたのか、羽を大きく広げ、その場から飛び上がるように羽ばたいた。
兄の攻撃は上手く直撃はしなかったものの、足を傷つけることに成功したようで、ワイルドコックの鮮血が舞った。
「みんな上手さ! このまま追い込んでしまうのさ!」
カイルの言う通り、あと数手で方が付きそうだ。
ワイルドコックは明らかに疲弊している。
時間の問題だろう。
このまま、いつも行っている戦術通り、ティアが盾を構えつつ牽制し、隙きを見て盾で体勢を崩す。
そこを兄が渾身の一撃で止めをさす流れで決められそうだ。
(主様! 後ろ! 魔物の気配です!)
ケット・シーに言われ俺は後ろを振り返る。
少し見上げる段差の上に何かが居る。
一見ワイルドコックに似ているが、身体は一回りは大きく、頭はハゲタカのようで、胴体は光沢がある黒い羽を纏っている。
七面鳥をさらに筋骨隆々にしたような風貌の魔物が居た。
そいつから感じる恐怖。
ワイルドコックと異なる、何段階も強い威圧感。
「みんな! こっちに魔物が!」
俺は声を張り上げ、剣を構える。
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