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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第二章
45/74

45:ねぇ知ってる? 船って突然止まれないんだよ

よろしくお願いします!

 翌日。

 クレハとフレアとブラスは、宿屋に楓とティオとカノンがいないことに気が付くと、あわてて宿屋の店主に話を聞きに行った。

 もちろん、楓がどこにいるのかを、ものすごい剣幕で聞いていた。

 周りの人たちは、ブラスの表情に若干引いていたが、店主のひと睨みにより、いきなり土下座をするブラスを見て哀れんだ。

 店主もえげつないことするなぁと関心するフレア。

 そんなカオス的状況の中で、クレハだけは楓の居場所について聞いていた。


 健気なお嬢ちゃんなこと、などと呟いた店主は、クレハに楓の居場所を教えた。

 その時、ブラスは、宿屋の店主に頭を踏みつけられていた。

 フレア、大爆笑。


 カオスな状況を振り切って、楓たちが向かった先、冒険者ギルドに向かったのだ。


「楓!」


 息を切らせながら、勢いよく冒険者ギルドに入るクレハ。

 楓の名を叫んでしまったため、他の冒険者の視線が集まる。

 若干顔を赤らめつつ、クレハは冒険者ギルドを見渡してみたが……

 楓の姿はどこにもなかった。


「もう、勝手にどっか行かないでよ……」


 まるで、捨てられ子犬のような哀愁を漂わせるクレハのもとに、一人の受付嬢があわられた。


「あの、クレハさんでよろしいですか?」


「……はい、そうです」


「あの、楓さんから、いきなり叫んだらと思ったら、まわりを見渡して、落胆し、捨てられた子犬のような哀愁を漂わせる、クレハという冒険者が現れるからと伺っていたのですが……

 まさか、本当に来るなんて!」


 受付嬢が何やら驚いているようだが、クレハはそれどころではなかった。


「楓はどこにいるんですか!」


「えっと、冒険者ギルドの船乗り場ですよ。

 あの化物を討伐するらしんですけど、本当ですか?」


「え、うん、本当だよ……たぶん」


 海での戦いが初めてなので、クレハは若干不安だった。

 でも、楓のことだから、大丈夫だろうと思った。

 何事も諦めず、自分の技術力によりに、困難に打ち勝って来た楓だからこそ、今回も何かしてくれるだろうと期待した。


 だけど、クレハの期待以上のモノあそこにはあった。


「お、クレハ。やっと来たか」


 冒険者ギルドが保有している船乗り場には、大きな鉄の箱が海に浮かんでいたのだ。

 クレハだけで無く、ブラスとフレアも開いた口が塞がらない。

 魔法や聖法を使ったとしても、こんなことをするのは不可能だろうと、クレハは感じた。


「か、楓。あれは一体なんなのよ」


「いや、なんなのって言われても……見れはわかるだろ。船だよ、船」


「ええ、あれが船ですかぁぁぁぁぁ」


 一緒についてきた受付嬢すらも、驚愕した。

 というより、楓の周りにいる技術者風の人達ですら、何かを諦めたような顔をしていた。


「お兄さん、どうしたんですか?」


「お、ティオ。作業は順調か?」


「うん、もう大丈夫だよ。いつでも動かせるよ。ね、カノン」


「がうがう」


 ティオとカノンが楓の横にピッタリとくっつくと、クレハの顔を見て落胆した。


「ちょ、ティオ!

 なんで私の顔を見て落胆するのよ!」


「お兄さんとの楽しい時間が……」


「え、ティオってアレなの。まさかアレなの。

 ブラスと同類なの!」


 ブラスもクレハの横で、マジが! というような表情をしていた。

 そんな二人を、楓はハリセンで叩く。

 痛いと言いながら、涙目になるクレハだったが、ブラスはなぜか喜んだ。

 ブラスが怪しげな道に進み始めているため、若干恐怖を覚える楓だが、今は化物退治を優先したいため、無視することにする。


「で、みんなが疑問に思っているあれは、俺がちょっと手を加えた、ただの船だ」


「お兄さん、あれは手を加えたんじゃなくて魔改造したって言うんだよ。僕、あんなすごい船知らないよ?」


「俺の世界じゃ、既に朽ちた技術を応用しただけなんだけどな。船の技術にカオティックアーツの技術を複合させたやつだ」


「それでもすごいよ。僕、あんな船初めて見た!」


「ああ、化物を討伐するために、やれることはやったさ。ほら、化物退治に行くぞ!」


 楓は、ティオを連れて、船らしい何かに入っていった。

 クレハはあわてて、未だ唖然としていたフレアと、よくわからないけど悶えていたブラスを引きずって、中に入っていた。

 クレハたちが中に入ると、自動で扉が閉まり、出航した。


「え、え、なんで勝手に動いているのよ」


「ま、まさか大規模な魔法なのか!」


「フレアさんでもわからないの!」


「わかるわけないだろう。いつも楓には驚かされているけど、今回はあり得無さ過ぎるだろう!」


 未だ悶えているブラスを蹴っ飛ばし、フレアとクレハは船上に出ると、鉄でできているはずの船が、ありえない速度で進んでいた。

 船が進む度に、風を切る音が耳に響く。


 激しい風のため、目を開ける事すら、ちょっと辛い。


 クレハがうんうん唸っていると、楓がやってきて、腕に何かを嵌めた。

 その瞬間、激しい風が嘘のようになくなった。


「楓、これは一体……」


「ああ、これは。ちょっとしたおもちゃだよ。

 【風切りリング】って言ってな。スリルを楽しみたい奴らが作った、マッハを超える速度で移動しても、体が無事でいられる、耐風のカオティックアーツだ」


「もう、そんなのがあるなら、早く出してよ!」


「まぁ、いいじゃないか。でも、これは一個足りないんだよな」


 楓の一言で、フラフラとやってきたブラスに視線が集まる。

 ブラスは、一体何事かと思ったが、激しい風により、身動きがうまくとれず、よくわからない苦戦をしていた。


 船上で最終打ち合わせをしながら、化物が出たというポイントにやってきたが、予想外の出来事が起こった。


 船の前に、突如化物があらわれたのだ。

 急にあらわれた為、化物をかわす事もできず、船のスピードが落とす事もできなかった。

 このままでは衝突すると判断した楓は、船を守るための機能として取り付けた、障壁のカオティックアーツを起動させる。

 すると、船を包み込むように、超高密度のエネルギーにより構成された、透明の膜が張られる。


「みんな、しっかりつかまれぇぇぇ」


 楓の掛け声で、全員が、絶対に振り落とされてなるものか! という思いで、船にしがみついた。



***



 化物は驚愕していた。

 海の中で、何かの気配を感じた。

 今まで戦ってきた聖法とやらの感じは全くしない。

 むしろ、ご主人様の力にそっくりの波動を感じた。

 だから、ご主人様がやってきてくれたんだと、喜んで海面に出てみれば。

 巨体にも関わらず、高速に移動する鉄の塊があったのだ。

 ありえない光景に硬直してしまった化物。

 どうすればいいかわからなかったので、ご主人様を呼んでみる。

 でも、一向に反応がなかった。

 それは当たり前のこと。

 だって、その場に、化物のご主人様はいないのだから。


 目からポロリと涙がこぼれる。

 当たったら痛いだろうな~ と諦めた表情をして、高速でやってくる鉄の塊を受け入れた。


 「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


 化物は、今まで感じたことがない痛みに悶え、化物の中に何かに芽生えたのだった……

読んでいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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