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L.E.O.N.-鋼のマリオネット-  作者: 逆凪
【第1章:檻の世界と無垢のぬくもり】

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1/5

鋼のマリオネット

本作は毎週【月・金】の20時に更新予定です。

遠く、果てしなく深い奈落の底から、それはやってくる。


――ピキィィィィィン――


脳を焼くような、無機質で鋭利な電子音が頭蓋の内側で炸裂した。鼓膜を震わせる音ではない。魂の髄へ直接、冷徹な楔を打ち込むような強烈な意識の強奪。その不快な高周波が響いた瞬間、レオンの暗闇は強制的に剥ぎ取られた。


(また、この時間が来た)


それはいつも突然にやってくる。レオンの主権は無慈悲に剥奪される。

視界が急速に明度を増していく。だが、それは彼が自らの意志で瞼を開いたからではない。肉体をハッキングした『天の声』――雲の遥か上に潜む何者かが、彼の肉体の起動スイッチを無理やり押し入れたのだ。


視界の右上、網膜の裏側に、忌々しい緑色の光が滲み出す。

それは文字の形を成さない、しかし「侵入完了」を告げる、粘つくような緑の残像だった。まるで瞳孔の奥に直接埋め込まれた異物が、体温を吸って不吉に脈打っているかのような錯覚。網膜に焼き付いた呪いの紋章が、彼が何者かの絶対的な隷属下にあることを、音もなく、執拗に主張し続けていた。


レオンの魂は、自らの肉体という牢獄の最奥、ほんの一坪ほどの狭い暗がりに押し込められていた。そこから見える景色は、まるで分厚いガラス越しに眺める劇場のステージのようだった。


カチリ、と頭の中で何かが噛み合う音がした。


直後、レオンの意志を完全に無視して、その肉体が動き出す。

ベッドから跳ね起きる一連の動作には、人間らしい「目覚めの気怠さ」など微塵もなかった。重力を無視したかのような滑らかさで直立し、枕元に置かれた漆黒の大剣へと右手が伸びる。


(動くな……! 止まれ……!)


レオンは内側から全力で叫び、自らの右腕の筋肉に命令を送った。自分の指を、自分の意志で、ほんの数ミリだけ曲げようと抗った。


「ブブッ――」


その瞬間、首条の筋肉から背骨にかけて、不快な電気抵抗のフィードバックが走った。ジリジリと肉が焦げるような、神経を逆撫でする拒絶反応。肉体が激しくきしみ、レオンの必死の抵抗により、大剣を握る肉体の挙動が、ほんの一瞬、数ミリだけ引きずられるように遅れる。

だが、それだけだ。

網膜の奥で不可視の何かが瞬き、レオンの抵抗などなかったかのように、肉体の遅延は完璧に補正された。大剣は一分の狂いもなく鞘に収まり、肉体は流れるような足取りで宿屋の部屋を飛び出していく。


「僕の体なのに、僕が動かせない」


その絶望は、回を重ねるごとにレオンの心を摩耗させていった。かつて、自分が自分の意志で呼吸し、自分の足で大地を踏み締めて生きていたはずの記憶が、霧のように薄れていく。今や彼は、大剣士レオンという名の「冷酷な戦闘マシーン」の内側に閉じ込められた、ただの無力な観客に過ぎないのだ。


夜の静寂に包まれた街を、レオンの肉体が疾走する。

目指すは、街の外に広がる禍々しい魔獣たちの巣窟だ。街の防衛線を守る兵士たち――この世界で本当に生きている人間たちの脇を通り抜ける瞬間、レオンの肉体は彼らに視線すら向けない。ただ、あらかじめ最短と決められたルートを、不気味なほど一定の歩幅で突き進んでいく。


やがて、暗闇の向こうから、鋭い爪と牙を持つ狂暴な魔獣の群れが姿を現した。

かつてのレオンなら、その悍ましい姿を見ただけで足が竦んだだろう。しかし、彼を包む「殻」であるレオンの肉体は、恐怖などという高等の感情を持ち合わせてはいない。


神速の暴力が、幕を開ける。


天から脳髄に突き刺さる見えない指先が、彼の四肢を乱暴にかき混ぜる。

筋肉の強制連動がもたらす、人間の限界を超えた、最適化された神速の暴力。

一撃目が魔獣の脳天を叩き割り、その反動を利用して肉体が独楽のように回転、二撃目が背後の魔獣の胴体を真横から両断する。無駄な動きは一切ない。呼吸の乱れすら、見えない呪いの糸によって完璧に制御されていた。


(やめろ……もうやめてくれ……!)


レオンはガラスの向こうで、飛び散る魔獣の肉片と、どす黒い返り血を見つめながら吐き気を堪えていた。自分の手が肉を断つおぞましい感触だけが、神経を通じてドロリと脳に流れ込んでくる。しかし、彼の感情がどれほど激しく揺れ動こうとも、肉体には1パーセントも伝わらない。

それどころか、魔獣の首を冷酷に跳ね飛ばした瞬間、レオンの口元が不自然につり上がった。


(な、んだこれ……?)


端正な顔立ちの唇が、左右対称に、プラスチックの人形のように不気味な角度で固定される。それは、戦闘勝利を飾るために、肉体に強制された「冷酷な笑顔」だった。

心の中では絶望と生理嫌悪で狂いそうになっているのに、自らの顔面は、楽しげに獲物を屠る狂戦士の笑みを浮かべている。その凄まじいギャップに、レオンの精神は引き裂かれそうだった。


網膜の奥に焼き付いた消えない光の紋章が、得体の知れない数値の束を高速で吐き出し、レオンの視界を緑色に汚していく。

どんなに美しい技を繰り出そうとも、どれほど鮮やかに敵を殲滅しようとも、そこにあるのは命の営みではなく、ただの無機質な強制労働だ。


レオンの意志とは無関係に、大剣は返り血を払い、機械的な仕草で鞘へと戻された。

肉体はすぐさま反転し、次の目的地へと向かって再び走り出す。


夜明けまでは、まだ遠い。レオンは暗闇の底で、己の肉体が完璧な挙動で世界を蹂躙していく様を、ただ呪いながら見つめ続けるしかなかった。

Status: [CONNECTED]

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