第102話 咆哮
「五秒下さい」
絶賛重症中のタクトの一言は到底許可出来るものでは無い。
「ダメです!絶対にダメ!!」
ルティアは冷静。あの状況は確かにピンチだが詰みではないのだ。
まだ手の打ち様はある。
そう信じているからこそ、戦いなど全く知らない彼をそっちの世界に行かせてはならないと彼女に強く訴えかけてくる。
ましてはオリアーナが敵にいる以上、[楽園]に入った瞬間瞬殺される可能性だってあるのに……
「頼みます!!」
「本当にダメ!!」
タクトは一向に引き下がらない。その鼻と目から血を流しながらも彼の意志は曲がらない事を悟った。
「何か秘策でもあるんですか?」
「僕みたいな凡人は前線には出られない。そしてルティアさんがオリアーナさんのいる[楽園]に接続してた時、凄く辛そうだったんですよ!」
ハッとした表情を見せるルティア。
自分でもあまり気づかなかったが、確かに魔力が削られているのだ。
「……いや、私の事よりなんでそんなに──」
彼女が言い終わる前に、タクトは続ける。
「もしかしたら、凡人の作戦で全てをリサさんを救うだけに留まらず全てを変えられるかもしれない!」
オリアーナの魔力を持ったタクトがルティアに触れた事により、一時的に出来た“家族の繋がり”が彼女の魔力総量を直感した。
理論的にそれが出来た訳でも、誰かに聞いた訳ではない。
“自分の仲間の一人”という強い自負が今の彼を突き動かすに至った。
「約束します。絶対死にません」
元より根性はあった彼は、レノア達の戦いに感化されたのか、勇気さえも芽生えたのかもしれない。
暫く黙った彼女はその重い口を開く。
「………作戦は…成功するんですよね」
「はい。」
戦えない者を戦地に送り出すなどもっての外。
だが、勝利への渇望と、溢れ出る彼の自信。
賭けてみたくなった。
「……ゲートを開きます。五秒だけです。そして…絶対死なないで下さい!!」
開いたゲートに入る直前、ルティアの方を見てタクトは一言────呟く。
「了解!!」
こうしてオリアーナから少し遠くへと転移した。
今ある勇気のままタクトは駆け出し、そして地面にあった石ころを広い───
「ッ……!!」
怖い。三人を警戒しているのかまだオリアーナの視界には自分は入っていない。
少なくともこのまま声を出さなければ五秒…経つ。
時間がとてもゆっくりに感じる。
常に走馬灯が流れる様な……そんな感じ。
手の震え、足の震え、夢の中で誰かに逃げている様な…そんな感覚に呼吸も荒くなってしまう。
(クソ……出ろ!…声ェ!!)
臆病な自分が嫌になる。このまま何もせず五秒経たせて逃げるつもりか?
そんな事は絶対に許されない。
自分は…リサを救い、状況を好転させる為に来たのだから!!
「…僕は!!」
走馬灯を吹き飛ばし、タクトは大きく息を吸う。
「勝負だ!!オリアーナァァ!!!」
その“咆哮”に全員、気づく。
レノア達がタクトの方を見た時には既に彼は投擲体勢。
魔力による身体強化と、魔力を石ころに込めたその投擲はオリアーナの上空へと舞った。
それを攻撃と見るか、もしかして能力?魔法の一部?様々な思念の中、オリアーナはそれを無視。
レノア達もそれを無意味な攻撃と思っていた。
一人を除いて。
「[操作]」
投げられた石ころへ指を指し、丁度オリアーナの背後へと舞っているそのタイミングで、リサは能力発動。
本来当たっても取るに足らないその一撃だが、リサの能力によって“最大加速”された一撃は、オリアーナの風魔法と大差ない。
それを一度。見せていた。
「……ッ…!!」
リサのトドメよりも先に、彼女は手刀による防御体勢へと移ろうとしたその時にはもう…
「助かったぞ、タクト!!」
フレアがいる。
彼女の下へと接近し斬りかかろうとするフレアに、オリアーナは確信していた。
(この石を弾いて、リサにトドメを刺す!)
まだ距離は離れているし、彼女の剣による斬撃など身体強化で簡単に防げる。
さっさとあの石を………
一秒…
二秒…と
時間が過ぎる中、オリアーナは異変に気づく。
(───…来ない!?)
「単純だけど、ひっかかるよね?初見は」
首を掴まれながら、リサは狂気的な笑みを浮かべ、言葉を溢した。
[操作]は、彼女の魔力を中心に遠距離からコントロールできるもの。
タクトの魔力が込められたこの石は[操作]対象外。
(馬鹿な──)
そんな数秒の間で、既にフレアはいる。
「あなたの剣如きで、私の手は斬れない…!」
真下に振り下ろしたフレアの剣を真正面から受け止めたオリアーナ。
能力頼りの彼女の剣は他の『五傑』と比べれば弱い。
なら何故彼女は強者であるのか?
(答えはシンプル)
彼女の不死の炎。その炎が消えぬ以上、彼女に死は訪れない。
炎を纏ったフレアの剣がオリアーナを押していく。
その重さで後ろに引き摺られている事に気づいたオリアーナは出力を上げる。
「………終わりだ」
手刀により、フレアの剣が折れた。出力では勝てない。
| 出力では。
刹那、
フレアの片翼が高速に縦に移動、リサを掴んでいたオリアーナの右腕を切断した。
(……武器に転用できたのか)
手刀で彼女の翼を貫いた時は、水の中に手を入れた様な感触に包まれ、自在に飛ぶ為に軽量化をし、攻撃には転用できないと思っていたが……
「“邪魔”な翼にも、役割があるんだよ」
ニヤリと笑ったフレアにオリアーナは驚愕の表情。舐めてかかっていた訳でも、みくびっていた訳でもない。
ただ単純に、皆がオリアーナの予想を上回っただけだ。
「ッ…!?」
タクトの足元に結界の綻び、“穴”が開いた。
五秒のタイムリミット、ルティアが施した時間制限今…終わった。
彼が落ちる瞬間、リサとタクトしか聞こえない声で彼女は呟く。
「…助かったわ。タクト…!!」
返事をする間もなく、タクトは元の世界へと帰還。
命を賭した彼の咆哮により状況は好転の兆しが見えてきた。
──────────────
[場所は大聖堂]
「ッ!!」
空中から結界の“穴”が開き、尻から落下。そこそこの高さから落ちた為かなり痛そうだ。
「あ!ごめんなさい!雑になってしまいました…」
頬を赤ながら答えるルティアに大丈夫大丈夫と答えるタクト。
オリアーナに追撃される前に、帰還する事が出来た。
「タクトさん、ありがとう」
「え?」
「あなたのお陰で状況は変わりましたよ!」
嬉しそうに少しだけ微笑んだタクトはそのまま気絶。二度限界を超えて体を動かしたのだ、当然である。
(………勝てる!)
そう心の中で呟いたルティアだった。
─────────────
[場所は楽園]
「…………………」
一瞬で腕を再生させ、レノア達一人一人を見据えるオリアーナ。
何度も出し抜かれる中このままダラダラと戦い、勝ったとしても、正面から自分が[永劫]を切った理由がない。
彼の意志を尊重して、今この場の“謁見”を許可したのだ。
「…………フフッ」
軽くそう笑った彼女に、再び構えるレノア。先程から感じられた不気味な気配が消え、
今、新しいナニカになろうとしている。
「良いだろう。驕りも…侮る事もなく……今…この瞬間に…全てをぶつける」
何の前触れなく、彼女は空間を捻じ曲げ、そこから出来た穴に手を突き刺し、二つ。“武器”を取った。
レイピア『天聖』と盾『神天』。
オリアーナが神になる前から所持していた武器。
本気…彼女の本領。
「蹂躙だ…!!」
レノア達は深い集中に落ち、鈍く、重苦しい緊張が走った。
──────────────
[同時刻:場所は『ケイの楽園』]
そんなレノア達の喧騒とは程遠い、平和で、のどかなこの楽園では、ケイとオリアーナが対話中。
(…と言っても何を聞き出し、何を知るべきかイマイチ良く分かんないな)
つくづく思うが、初めて会ったオリアーナとはまるで別人だ。
話し方、雰囲気、性格、なんなら考え方すら違うかもしれない。
「オリアーナ、お前は何者なんだ?何故こんな所に?」
ここが自分の[楽園]だとするなら、自分はオリアーナとの会合を心の底から求めていたと言う訳か?
(いやいや、ないない)
理由は単純明快、細やかな記憶を持たない自分だからこそこんな変わり映えのない景色が映し出されているのだろう。
「う〜ん、そうだねぇ……その前に、私を知りたい?私に惹かれちゃった?」
「まぁ、ある意味惹かれてはいる」
“女性”というより、一人間として興味ある人物だ。本当に。
本物?偽物?も共通している所がある。
話が通じない所だ。
「実はね…」
ステップでこちらに駆け寄ってくるオリアーナはケイに隠し事をする様に顔を耳によせる。
「今の私は神なんて呼ばれているけど、実際はこ〜んな!大きい街とは一切関係ない森にポツンと佇んだ村生まれなんだよね!」
再びケイの耳に息を吹きかけるが、彼は特にそれに対して驚いた様子はない。
「ありゃ?イタズラ失敗?」
「その発言に驚きすぎて、息吹きかけられた事を忘れたよ」
呆れた様に返すケイに、どこか残念そうな彼女。
そんな事より、オリアーナは神じゃなかった?
(じゃあ何故今、神と呼ばれているんだ?)
彼女に繋がる道が少しずつ垣間見えてきた瞬間だった。
「ゆっくり話そう?ケイくん?」
「………あぁ」
ここの楽園とレノア達がいる楽園とは、時間の流れが遅いらしい。
「私を…知ってくれる?」
ただ不安に駆られると、彼女に揶揄われて終わりだ。
冷静に、淡々と話すと誓うと心に秘め…
「付き合うよ」
この不思議な『少女』の話に付き合うと決めたケイだった。
オリアーナ・シェイン
身長 185cm
体重 ??
特技 ??
才 魔法使い
この圧倒的な“癖”…みなさんも分かってくれますよね?




