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今日一日、鈴井に翻弄されるんだろうなぁ…

本編進めろ?すいません。これ、楽しいんです。

九時になり、ようやく入場が開始された。

鈴井とはやはり手を繋いでいる。それとなく離そうとしたが、思考が読まれているのか、俺の手が鬱血するくらいの力で握られているので、どうしようもない。


十五分後、会場に入るや否や、鈴井は俺の手を引いて、真っ先に物販の方へ向かった。必死だな…


しかし、同じ事を考えている人は多く、物販は既に長い行列が形成されていた。


「目当ての物、売り切れないといいのだけど…」


目当ての物が何かは分からないが、相当必死だということが伝わってくるな。可愛いとこあるじゃん。


ただ、物凄い力で俺の手を握りしめているか細い手は全く可愛くない。どっからこの力出てくるん?


列が進むたびに、鈴井の握る力が強くなる。痛い、痛いです。流石にちょっと我慢できなくなってきたわ。


「鈴井」

「なにかしら」

「痛い」

「我慢しなさい」


…………へ?


「鈴井さん?」

「なにかしら」

「痛いです」

「我慢しなさい」


えぇ…(困惑)

どうやら鈴井お嬢様は、目当ての物が無くならないか心配過ぎて、他の事に気が回せないようです。真剣になり過ぎだろ…


つまり俺はもう少しの間、この痛みに耐えなきゃいけないようです。辛たん…


十分後、ようやく俺らの番が回ってきた。もう手の感覚無いんですけど…。

鈴井は急いでカゴを持ち俺の手を引き、一目散にとある場所に向かう。向かった先には、恐らく鈴井の目当ての物であろう、ゲームのロゴが描かれたピンズがあった。それは既に残り少なく、もう少しで完売というところだった。


「良かった…。まだあった…」


安堵の表情を浮かべる鈴井。必死でしたからね。


「でもこれ、後日通販とかで販売あるんじゃないか?」

「これだけ何故か会場限定、しかも今回限りなのよ。転売だといくらかかるか分からないし、是が非でも欲しかったのよ」

「なるほどね〜」


そんだけ貴重な物なら俺も一つ買っていこうかな。ピンズを手に取ると、何故か鈴井は俺と自分の物を交互に見ていた。


「…………」

「あの…鈴井さん?」

「!?……なにかしら」

「いや、なんかぼーっとしてたし」

「気のせいよ」

「いや、してたからね?声掛けたらビクッ!とかなってたからね?」

「気のせいよ」

「あ、はい」


どうやら気のせいだったみたいです。


それから鈴井は、とにかく色々な物をカゴにいれていた。Tシャツ、クリアファイル、スマホカバー、タオル、アクリルジオラマ、フィギュア…ちょっと買いすぎじゃない?


俺なんて他にスマホカバーしか買ってないよ。勿論鈴井とは別の種類のやつ。


買い物を終えると、鈴井は満足げな表情を浮かべていた。ピンズは既にカバンにつけていた。ドイツの国旗の缶バッジの横に。早いよ…


ところで俺は何のために呼ばれたのだろう。荷物持ちとしてかしら。確かに成瀬や荒川じゃ、荷物を持たせるのは気が引けるか。じゃあその使命を全うした方がいいな。


鈴井から買った物を受け取ろうと手を伸ばすと、鈴井は何故かまた、手を握ってきた。細くてすべすべであったかいにゃ〜…って違う!


「いや、だから違うって。荷物をだな」

「あ…いえ、その…」


何故か鈴井は目を逸らす。どうしたのかしら。


「…あなたのそういうところが嫌い…」


どういうところかは分からないが、えらく嫌われたもんだ。泣きたい…


「えっと…とりあえず、それ渡してくれ」


俺が言うと、鈴井はちょっと笑って答える。


「大丈夫よ。あなたには既に別の物を持たせてしまっているし、これ以上は悪いわ。気持ちだけ、ありがたくいただくわね」


本人がそう言うなら、俺もしつこくはできないな。

それより手、離してもらえません?手汗とかかいて、気持ち悪がられたくないんですが…


「ねえ晃くん、やりたい事があるのだけど、いいかしら?」

「あ、ああ、構わないが、それより」

「ありがとう。それじゃあついてきて」


鈴井は、俺の言葉を遮り、俺の手を引き何処かへ向かう。あの…手…




鈴井に連れられ、何故かロビーまで戻ってきた。


「ちょっとここで待ってて貰える?」


ロビー横の長椅子のところに誘導され、言われる。


「待つのはいいが、何でだ?」

「それは私が戻ってきた時のお楽しみよ」


ううむ…。一体何をしようと言うのだろう。


「それと、その紙袋、渡して貰える?」

「ん?ああ、これか。何なんだよこれ」


俺が紙袋を渡すと、鈴井は中を確認し、片方俺に返してきた。


「私が戻ってくるまで、絶対に中は覗かないで。覗いたら…」

「へいへい。分かってるよ」

「返事は『はい』、それと一回だけでしょう」

「はーい」


そうして、彼女は何処かへ向かった。はぁ…暇になったな…



鈴井が何処かへ行ってから、十五分が経った。遅いな。暇過ぎて二万文字くらいのウェブ小説の短編読み終わっちまったよ。俺って読むペース早い?


そういやさっきまで読むのに集中してて気づかなかったが、人だかりが出来てるな。ん?なんかこっちに近づいてきてね?

まあ興味ないし、どうでもいいや。次のやつ読もう。


「お待たせしたわね」


俺が次のを読もうとすると、透き通るような声が掛かった。


「おせーよ、待ちくたびれちまっ…!!?」


文句を言おうと顔を上げると、言葉を失った。


「少し道が混んでたのよ。それより、どう?」


俺の目の前には、見た事の無いようなほど、美しいアーチャーがいた。SNSとかでたまに回ってくるようなやつとは比べものにならないくらい。


へそ出しTシャツに羽織るような形で着ている上着、またショートパンツによって晒されている太もも。ブーツによって膝から下は隠されているが、その分、エロさが倍増している気がする。やべーなこれ。


「聞いているの?遂に言葉が発せない程退化してしまったのかしら?」


人間、素晴らしい物を見ると言葉を失うと言うが、正に今、俺はそれを体験している。

ただのコスプレのはずなのに、俺には神聖な物にしか見えなかった。


「ちょっと、いい加減一言くらいあってのいいのではないの?」

「あ、ああ、すまん。本気で見惚れてたんだ」


ようやく我に返る事が出来た。ただのコスプレなのにこの破壊力…恐ろしい…


「そう。それならいいわ」

「あの紙袋、コスプレ衣装が入ってたんだな。その弓はどうしたんだ?」

「更衣室の横に、小物を貸してくれる所があったのよ。そこで借りたわ」

「荷物とかは?」

「コインロッカーに入れてきたわ。持ってるのは財布と携帯だけね」

「なるほどな」

「それより、私がコスプレしてあげてるのよ。感想はないの?」


ちくしょう…。避けてた事を聞いてきやがって…。適当な事を言って誤魔化そうか。いや、確実に見抜かれるな。どうしよう…


「え、えっと…。すげー似合ってると思うぞ…」

「そう。ありがとう」


どうやら合格ラインのようで、それ以上は追求してこなかった。良かったです。


「ん?じゃあこっちの袋はなんだ?」

「それはあなたの衣装よ」

「え?俺の?」

「ええ。あなたなら似合うと思うわ」


中を見てみると、ランサーの衣装だった。俺がよく使ってる装備に似ている。…ていうか、これ、女もんじゃね?


「あの…俺男なんですが…」

「大丈夫よ。少しアレンジしたから、多分男性が着ても違和感が無いようになってると思うわ」

「え?お前が作ったの?」

「ええ。あなたの事を考えながら作ったわ」


…待て。反応するな。それこそ奴の思う壷だ。奴は俺の狼狽える姿を見て、悦に浸る女だ。ここは無反応が吉だろう…


「お、俺が着るのか?」

「言ったでしょう。あなたのって。着て貰えると嬉しいわ」


マジかよ…。

でも折角作ってくれたのに、着ないってのも申し訳ない。しかし、コスプレとか凄く恥ずかしい。どうしようか。


「一人だと着方が分からなくて不安なのね。私が着替えを手伝ってあげるわ」

「喜んで一人で着させていただきます」

「そう。着たいなら初めから素直に言えばいいのに」


女子に着替えを手伝って貰うとかどんな拷問だよ。さっさと着替えてこよ。


「荷物はコインロッカーに預けるといいわ。確かまだ空きがあったから。あと、ちゃんとランス借りてくるのよ」

「へいへい。分かってるよ」

「返事は『はい』、それと一回だけでしょう」

「はーい」


相変わらず細かいな。まあ、それが鈴井だし、いいか。



「すげーな…クオリティ高過ぎ…」


本来は女キャラ用であるローブ系の装備が、男の俺が着ても違和感がない。鈴井の技術に頭が下がるな。


ローブ系なので、多少ごまかせるとはいえ、丈がピッタリなのには驚いた。俺の身長知ってたんかな。採寸してないからか、胴回りは少し余るが、それもそんなに気にならないレベルだ。凄い。

あ、勿論ズボンは履いてますよ。捲ったら見えるなんていうサービスはありません。


荷物をロッカーに入れ、ランスを借りる。係員の人に絶対に振り回さないようにと釘を刺された。まあ危ないしな。


鈴井の所に戻ると、物凄い囲まれていた。写真とかめっちゃ撮られてるし。

何とか人をかき分け、彼女の元へ向かう。


「遅かったわね。連絡くれたら手伝いに行ったのに」

「余計なお世話だ。大体、お前の連絡先知らんし」

「そういえば、そうだったわね」


お互い連絡先を聞かないため、未だに知らないままだ。まあ、使う機会あんまないし、ゲーム内で話すし無くても困らないんだよな。


「そんな事より、気に入ってくれたかしら?」

「ああ、すげークオリティ高くてビックリしたわ」

「そう。それは良かったわ。ところで、もう一つアクセサリーをいれてたのだけど、付けてくれなかったの?」

「やっぱりあれわざとかよ…」


触れなかったが、何故か猫耳カチューシャが入っていた。どこで用意したんだよ…


「似合うと思っていたのだけど。残念だわ」

「その様子を写真に撮ってゆするつもりだっただろ」

「あら。私の事よく分かってるのね。私の事好きなのかしら?」

「だからそれ俺の。ちゃんと俺に許可とって」

「そうだったかしら」


そろそろこのネタの特許取ろうか迷ってる。取れねーな。


「それより、そろそろ移動しましょう。暑苦しくて仕方ないわ」

「そうだな。囲まれたままじゃ、居心地が悪い」


鈴井のおかげで人がとにかく集まる。目立つのがあまり好きじゃない俺にとっては地獄だ。


「それじゃあ、お願い出来るかしら?」


そう言って、鈴井は俺に手を差し出す。


「もしかして、お前が俺を呼んだ理由って…」

「さあ。どうかしらね」


絶対そうだ。人除けのためだ。まあ確かに女子じゃ難しいよな。成瀬だとむしろ人集めに拍車を掛ける気がする。


俺は鈴井の手を取り、彼女を誘導する。


「はいはーい。退いて下さ〜い。通りまーす」


強引に人をかき分け、道を作る。イベント広場に行ってしまえば、目立つ事もなくなるだろう。


はぁ…。これがあと何回訪れるのだろうか…。疲れるなぁ…


コスプレ衣装に関しても適当です。触れないで下さい、お願いします、なんでもしますから。

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