俺は鈴井には勝てないのかもしれない
本編に入れようか迷ったんですが、ストーリーにはそこまで深く関係しないので、番外編という形を取りました。
晃と鈴井のイチャイチャです。
とある土曜日、いつも通りゲームをやっていた時、事件は起こった。
『明日、空いているかしら?』
べるりんさんこと鈴井からチャットが送られて来た。
ちなみに、ふしびの正体が俺だと分かるや否や、チャットの言葉遣いが凄く雑になった。まあ、いいんだけどね…
明日?明日ってなんかあったか?
『一応空いてるが、急にどうした?』
『明日はこのゲームのリアルイベントでしょう。まさか知らなかったの?』
あ〜、そういや明日だったか。行く気なかったからすっかり忘れてたわ。
明日は、俺達がやってるゲームの初のリアルイベントが行われる。どうやら鈴井は、それに行く気のようだ。
『なんで俺が行く必要があるんだよ。一人で行けばいいだろ』
『手伝って欲しい事があるのよ。じゃなかったらあなたに頼まないわ』
手伝って欲しい事が何か分からないが、それ、俺である必要があるか?
『俺じゃなくても、荒川とか成瀬とかに頼めよ。結構快く引き受けてくれると思うぞ』
『あなたじゃないとダメなのよ。他に頼めそうな人もいないし』
何故俺じゃないとダメなんだ…。益々内容が気になる…
『しょうがないわね。交換条件といきましょうか』
『交換条件?』
『あなたが来てくれる代わりに、私があなたの言う事を何でも聞くってのはどう?』
『ん?今何でもって?』
何でもって事は何でもって事ですよね?最高じゃん。
『ええ、私に出来る事ならね。流石に、死ねとか言われたら断るけれど。それで、受けてくれる?』
そうまで言われちゃしょうがない。俺は優しいからな。受けてあげようじゃないか。
『分かった。一緒に行ってやるよ』
『ありがとう。あなたならそう言ってくれると信じてたわ』
それから、明日の集合場所、集合時間などを話し合った。集合場所は俺の家からの最寄り駅、集合時間は六時に決まった。
『それじゃあ明日、よろしくね』
そう残し、彼女はログアウトした。
正直、明日はめんどくさい。しかし、何でも聞いてくれるとなるとこちらとしてもやぶさかでない。鈴井に何を要求しようかしら。
――――――――――――――――――
翌日午前六時十分、集合場所に鈴井は来ていない。あいつが遅刻とは意外だ。時間とか相当厳しそうなのにな。
いや、今度こそのこのこ集合場所に来た俺を嘲笑っているのかもしれない。騙したな鈴井この野郎。
「ごめんなさい。お待たせしてしまったわね」
俺が鈴井に対して怒りを覚えていると、後ろから透き通る様な声が掛かった。
「おせーぞ鈴井。また騙されたかと思ったじゃねーか」
「あら。私が騙す様な人間に見える?」
正直めちゃくちゃ見える。俺の事を馬鹿にしている様子が目に浮かんだ程だ。
「…あなたには少し教育が必要みたいね」
「すいませんでした…」
俺は深々と頭を下げる。
そういえば鈴井さん、俺の思考読めるんでしたね。迂闊な事考えられねーな…
「ところで、何で遅れたんだ?」
「少し…準備に手間取ってしまって」
「準備ね〜」
服装は前と同じ様な感じだ。もうちょいこう…大人しめな服装の方がいいと思いますけどね私は。
ただ前回と違うのは、何か色々入ってそうな二つの大きめの紙袋を持っているところだ。恐らく、これが原因だろう。
「その紙袋って何が入ってんだ?」
「これは…いずれ話すわ」
「さいですか…」
めっちゃ気になるんだが…
まあ、女子に重い物を持たせたままなのもなんか悪いし、持ってやるか。
俺は鈴井の持つ紙袋の方に手を伸ばす。すると鈴井は、首を軽く傾げた後、何故か俺の手を握ってきた。細くてすべすべであったかいにゃ〜…って違う!
「鈴井、そうじゃなくて紙袋をだな」
「あ…そ、そ、そうね。失礼したわ。ありがとう…」
鈴井さん意外と天然なとこあるんですね。普通に可愛かったです。
鈴井から紙袋を受け取る。思ったより重くない。待て?今覗けば中身分かるんじゃね?
「ちなみに、覗いたら分かってるでしょうね?」
残念ながら、鈴井は俺の考えなんてお見通しのご様子だ。ちくせう…
電車に乗ると、意外と混み合っていた。ヤバい!鈴井を痴漢から護らなければ!
しかし、その心配はどうやら杞憂で、鈴井が乗ったその周辺から、人が何故か距離を取っていた。何でぇ!?
『何だあの子。すげー美人』
『お、おい。お前。声掛けてみろよ』
『無理だって。相手にされるわけねーよ』
どうやら鈴井が放つオーラ的な物が、周りを圧倒している様子だ。学校外でもその効力は健在というわけか。恐ろしい…
「なあ鈴井。昼どうする?」
「昼は持ってきたわ。昼も夜も外食という訳にはいかないでしょう」
「夜までいる気満々かよ…」
「当たり前よ。むしろ夜からが本番じゃない」
「そっすね…」
夜からは、ゲームの最新情報発表だ。俺は家でゆっくりとライブで見る予定だったが…まあいいか。
電車に揺られる事一時間、二度の乗り換えを経て、ようやくイベントホールに到着。
まだ七時半で、開場まであと一時間半もあるというのに、既に人でごった返していた。すげーな。
俺は入場の列の最後尾に並ぼうとすると、紙袋を持っていない左手を何かに掴まれた。振り返ると、鈴井が俺の手を握っていた。
「逸れると合流が大変でしょう。しかたなくよ」
「お、おう。そうだな」
女子と手を繋ぐなんて、いつになっても慣れないな。手汗とかかいたら、絶対馬鹿にされるし、気持ち悪がられるな。
あと、周りからの視線が物凄く痛い。一体どんな風に見られてるのだろうか…
そもそも、こんな男共がこぞってやってるゲームのイベントに、鈴井みたいなやべー美少女がいる事自体が間違っているというのに、それが男と手を繋いでいるとか、俺だったら、そんな奴みたら舌打ちしてるな。今はされる側なんだが。
しかし、周りをよく見ると、意外と女性が多いな。三割くらいといったところか。
「意外と女性プレイヤー多いんだな」
「知らないの?あのゲームの約四割が女性プレイヤーよ」
「え?そうなのか?」
「ええ。キャラメイクや衣装や装備の着せ替えが面白いって、SNSなどで結構話題になってるのよ。私も、きっかけはそれなのだけど、やってるうちに、すっかりはまってしまったわ」
「なるほど。確かに可愛いキャラとか装備とかあるもんな」
というか、鈴井も初めは可愛い物目当てだったのか。なるほど、アーチャーっていう、可愛い感じの装備が多い職業を使っている訳だ。
「実はあなたの事も、初めは女性と思っていたのよ」
「え?何でだ?」
「ランサーも、アーチャーに次いで女性人気が高い職業なの。それに、あなたの言葉遣い。女性かと思うには十分だと思うわ」
「ネカマの線も疑えよ…」
「勿論疑ったのだけれど、私が知ってる女性プレイヤーと同じ様な対応だったから。すっかり騙されたわ」
「別に騙すつもりはなかったんだがな」
「なら操作キャラを女性にするのはやめてもらえないかしら。それともあなた、そっち系の人?」
「ちげーよ。自分が操作するキャラって、一番長い時間見る事になるだろ?何でむさい男を見なきゃいけないんだよ。どう考えたって女の方がいいだろ」
「言い分が性欲丸出しのお猿さんじゃない」
そんな事ない!とは言い切れないのが辛い…
列の最後尾に並び、係員の指示に従って、地面に腰を下ろす。鈴井は、小さいビニールシートの上に腰を下ろしていた。勿論俺の分はなかった。うん、何も期待してないよ。
「…暇だな」
「私という美少女を隣にして、失礼な人ね。普通は幸せで何も考えられないと思うのだけど」
「自分を美少女と言う奴もどうかと思うがな」
「私は自分に自信を持っているの。謙遜は自分の価値を下げるだけよ」
「お高くとまってるとか思われるぞ」
「そういう人達は、自分を磨かずに私に嫉妬しているだけよ。そういう人達とは付き合わなければいいだけ」
「友達いなくなるぞ…」
「…す、少しはいるもの…」
まあ、俺が以前成瀬に言った事と似たようなもんだし、考え方としては間違ってないけどな。
「私には、ちゃんと私を分かってくれる人達だけで十分よ」
「まあ確かに、全員と仲良くなる必要なんてないよな」
俺だって、友達が多い方じゃないし、同じ様なもんか。
………………
話が途切れた…。前から思ってたんだが、俺って話のレパートリー少ないよな。
「そういやこの紙袋ってなんだ?そろそろ教えてくれてもいいだろ」
「まだ駄目よ。その時が来たらちゃんと教えてあげるから」
「いや、もう気になって仕方がないんだが」
「あなたは待ても出来ないの?犬の方がよっぽど利口よ」
「人間はお預けをくらうと、冷静な判断が出来なくなるもんだぜ。お前も気を付けた方がいいぞ」
「そうね、それは困るわね」
…………え?それだけ?
「いいのか?俺が間違いを犯すかもしれないんだぞ」
「そうね、とても怖いわ」
…………え?だからそれだけ?
「い、いいのか?お前、身の危険に晒されてるんだぞ?」
「そうね、今襲われたら、抵抗出来ないかもしれないわ」
…………え?何言ってんのこの人…
「そ、それは、お、襲われても構わないと?」
「違うわよ。恐ろしくて腰が抜けて動けないの」
…………え?何で俺が有利になる情報教えちゃうの?何?襲われても構わないって事?意味わかんないんだけど。え?鈴井ってそういう性癖もってん
「責任、取ってもらえる?」
「!!!?」
耳元で囁かれた!?腰抜けてんじゃないのかよ!
鈴井の方を見ると、愉悦に浸っている表情をしていた。
「言ったでしょう。私を辱めようなんて百年早いと。必死になっているあなた、最高だったわ」
やっぱりそうだったか〜。俺の魂胆見抜かれてたか〜。完全にしてやられたわ〜。
何かもう全身の力が抜けてヤバいわ。今襲われたら抵抗出来ないですね。誰も俺の事なんて襲わないだろうけど。
なんか後ろから舌打ちが聞こえる気がする。ほんと、申し訳ありません。公共の場で大変失礼な事をいたしました事を、深くお詫び申し上げます。
それから、開場までの一時間、何も考えられず、ぼーっとしている事しか出来なかった。
鈴井 玲華 、本当に許さない…
ゲーム内の設定は適当です。申し訳ない。




