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幼馴染に好かれる、なんてのは幻想です  作者: 卯佐美 佳
第二章 俺はどうあがいても目立ってしまうらしい
36/70

俺が警戒しなきゃいけない人は、一人じゃなかったようだ

「晃。負けたら承知しねーぞ」

「俺の屑運でどうにかなると思うか?」

「まあそこは気合で」

「絶対無理だ…」

健に送り出され、競技に向かう。次の競技は借り物競争だ。

正直、俺の屑運じゃ、負けるのは目に見えている。だいたいなんで俺なんだよ。健とか仁美とかの方がクジ運圧倒的にいいだろ。

『まもなく、借り物競争を行います。選手の皆さんはグラウンドにお集まり下さい』

アナウンスが響く。はぁ…。やりたくねぇなぁ…



競技が進み、いよいよ、俺の番になる。

競技の様子を見ていたが、どうやら、一組に一枚、とんでもないお題が交ざっているようだ。例えば、『猫の手』だったり、『虎の威』だったり、『あの子のハート』だったり。あの子のハートってなんだよ…

そんな訳で、俺はそのヤバいやつだけは引かないようにしたい。引きそうだなぁ…

スタート位置に並び、少し待つ。

前のレースが終わり、ついに俺番だ。やだなぁ…

「位置について、よーい」『バン!』

鉄砲の合図でスタートする。そして、数メートル先にある札を取る。そこに書かれていたお題は、


『女の子』


あ、死んだわ。ヤバいやつじゃないが、別の意味でハードルが高過ぎる。誰に声を掛けるべきか…

ここで俺は、声を掛けられそうな人物を考える。


『候補一 仁美』

勝樹がいるのに申し訳ない。よって却下。


『候補二 成瀬』

割と普通に引き受けてくれそうではある。だが、あの噂が蔓延している以上、火に油を注ぐ様な真似はしたくない。よって却下。


『候補三 鈴井』

引き受けてくれるだろうが、条件が付きそう。これ以上弱みを握られるわけにはいかない。よって却下。


『候補四 荒川』

普通に引き受けてくれるだろう。それに、変な条件とかもなさそうだ。恐らく、今まで出た案の中で、一番いい。よって採用。


(ちなみにここまでの思考時間は約一秒)


俺は荒川を探しに行く。さて、どこにいるのかしら。

「あれ?晃くんじゃん。何探してるの?」

不意に声を掛けられる。水無月先輩だ。

「いや、お題が女の子なんで、誰かいないかと」

「なるほど〜。じゃあ私がついていってあげようか?」

おっと、ここで新しい選択肢の登場だ。


『候補五 水無月先輩』

ここで先輩を選べば、荒川を探しに行くより、いくらか時間短縮になるだろう。しかし、この人の場合、何を考えているかがさっぱりだ。正直、今回も何か企んでる気がしてならない。よって却下。


申し訳ないが、ここは断らせてもらおう。

「あの、やっぱ」

「決まり!じゃあ行こっか!」

「え?いやちょっ、まっ!」

強引に腕を取られ、引っ張られる。何この人、めっちゃ力強い。

『おっと!一人目がグラウンドに帰って来ました!何やら引っ張られている様ですが、どうしたのでしょう』

俺の状況を見て、実況も少々困惑している。そりゃあそうだ。当人だって困惑しているのだから。

先輩に引っ張られながら、ゴールする。一位なのに、なんだろう、この複雑な感情は…。

「良かったね。一位とれて」

「その分思いっきり目立ったので、プラマイで言えば圧倒的マイナスですね」

「またまた〜、美女に腕取られて、嬉しかったでしょ〜?」

「しょっちゅう幼馴染に取られてたんで、なんとも思わないっす」

嘘です!本当は嬉しかったです!強がってるだけです!

「ふーん、まあいいや。私、次の競技あるから。じゃね〜」

そう言って、先輩は去っていった。ほんと、嵐みたいな人だな。



レースを終え、自分のクラスのテントに戻ると

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

四人の女子が俺を睨んでいた。怖いからそれ止めてって言ったじゃん…

「な、なんでございましょうか」

「別に、せめて一言くらい掛けてくれても良かったんじゃない?」

「相変わらず女たらしなのね。呆れを通り越して、殺意すら覚えるわ」

「晃くんて、可愛い子なら誰でもいいんだ。サイテー」

「…………」

だからなんで仁美は何も言わないんだ。怖いっての。

それからしばらく、四人の視線を受け続けた。俺が何をしたと…



『まもなく、男女混合二人三脚を行います。選手の皆さんはグラウンドにお集まり下さい』

遂にこの時が来てしまったか…。嬉しいよ?美女との二人三脚が嬉しくない訳がない。ただ、それ以上に恐怖が勝っていて、正直やりたくない。しかし…

「何をしてるの?さっさと準備しなさい」

この通り、何故か鈴井はやる気満々なのだ。これもう分っかんね〜な。

鈴井と共にグラウンドに向かう。するとそこには、

「やっほー、晃くん。晃くんも二人三脚に出るの?」

水無月先輩がいた。今日はよく会うな。

「あ、はい。不本意ながら」

「不本意とはどういう意味かしら?」

「いやだって、別に俺、お前とはやりたくなかったし」

「嘘をいいなさい。私と体を密着する事に性的興奮を覚えているのでしょう?どうせ女の子と体を重ねる機会なんて今後無いんだから、今の内に堪能しておきなさい」

「勝手に俺の未来を決めないで下さい」

最悪、そういう系のお店にお世話になります。

「へー、その子がパートナーね〜」

あ、ヤバい。先輩の目が獲物を狙う獣の目になってる。

「鈴井、逃げろ」

「え?何故?これから競技が始まるでしょう?」

「いいから。早く逃げないと」

「黒髪美少女ちゃんいただきまーーーす!!!!」

「え!?キャッ!!!」

遅かったか。物凄い勢いで鈴井に抱きつく水無月先輩。歌作れそうだな。『物凄い百合ってる水無月先輩の物凄い歌』とか。最悪レベルで酷い歌詞になりそうだからやめとこう。

「透き通るような肌!最高なプロポーション!そして何よりサラサラでこの世の物とは思えないほど綺麗な黒髪!!間違いなく、一級品の美少女ね!!!」

「い、いきなりなんなんですか!離れて下さい」

流石の鈴井も、平静を保っていられないようで、多少語気が荒くなっている。というかちょっと涙目になってね?

「ほら、嫌がってるだろ。離れてあげろ」

水無月先輩の後ろからイケメンな男がやって来て、鈴井から先輩を引き剥がす。

「ぶー。亮平のいけず」

「はいはい。文句はあとで聞くから。うちの香織が迷惑を掛けた。ごめんな。本人には多分悪気は無いんだ。許してやってくれ」

「い、いえ、そんな大した事はされてませんので。それにあなたがお気になさる事ではありません」

「そう言って貰えると助かる。ほら、お前もいう事あるだろ」

「うちに嫁にこない?」

「お前は何を言っているんだ…」

頭痛がするのか、男は頭を抑えている。

「あ、そうだ。まだ名前を言ってなかったな。俺の名前は」

「柳澤 亮平 でしょう?」

「知られていたとは、嬉しいな」

「あなたは有名人ですもの。当然です」

俺はついこの前まで知らなかったんだよなぁ。

「そういう君も、なかなかの有名人だよ。鈴井 玲華 さん」

「知っていただき光栄です」

「君のような美人を、この学校で知らない人なんざいないさ」

「…………」

鈴井は俯いてしまった。真っ向勝負で言い負けるとは。いくら鈴井でも、正統派イケメンには弱いのだろうか。

「君は、話に加わらないのかい?」

イケメンは俺の方を向いて言う。

「俺、影薄いんで、てっきり気付かれていない物だと思ってました」

「君が影が薄い?そんな訳ないだろう?君ほどの有名人はなかなかいないさ」

「鏡を見て下さい。そこにいるのが俺以上の有名人ですよ」

「生憎、鏡を見るのはあまり好きじゃなくてね」

「奇遇ですね。俺も好きじゃないです」

「嫌いなのに、鏡の事が分かるのかい?」

「知らなきゃ嫌いにはならないんで」

「どういった所が嫌いなんだい?」

「真実を映さないところです。そこに映るのは、少なくとも左右反転した虚像なんで」

「ははっ!やっぱり君は面白いな」

やっぱり?俺は初対面だと思うが。

「君の事は、灰田と香織から聞いてるよ。面白い奴がいるって」

「あの野郎…どんな紹介をしたんだ…」

「それにしても、ここまでとはね…」

「さっきの会話で、そんな面白い所なんてありましたかね」

「君は異常なほど頭の回転が早い。さっきから何を言っても、必ず一捻り加えた返答をする。普通はありえない」

「そっすかね。別に普通にいそうですけど」

「まあ確かに稀にいるだろう。けどそれは才能じゃない。膨大な経験でのみ培われる。君はそれを、いったいいつ、どこで手に入れた?」

この人はカマをかけているのか?それとも…

「適当に過ごしてたら身についたんじゃないですかね」

「…なるほど。やっぱり君は面白い奴だ。少しは本性を引き出せるかもと思ったけど、その外装は思ったより頑丈のようだ」

「本性なんてものはないですよ。これが俺の素です」

「君がそう言うなら、今は深くは詮索しないさ。ただ、いつまでも隠し通せるのもではないという事は、憶えておいてくれ」

「肝に銘じておきますよ。柳先輩」

「また会おう、白峰」

そう言って、柳澤先輩は水無月先輩を連れて去って行った。

「ねえ晃くん。さっきの話なんだけど」

「あ?別に、何でもねーよ」

「そうかしら。私には何か、あなたが隠し事をしているように見えたのだけど」

「気のせいだ。それより、二人三脚の方が大事だろ」

「……それもそうね」

鈴井は訝しみながらも、納得してくれたようだ。

それから、俺たちは二人三脚で、グループ一位を獲得した。それは喜ばしい事なのだが、どうしても、さっきの柳澤先輩との会話を思い出してしまい、他の事があまり考えられなかった。


恐らく、柳澤先輩は、俺との会話の中に僅かな違和感を感じ、カマをかけてきた。もしくは、かつての俺を知っていたのかもしれない。何れにせよ、彼が俺をマークしているのは間違いない。

しかし、何故俺に接触したのか。目的が全く見えない。彼が俺に対して、強い興味を示しているのは間違いないが。

だが、柳澤先輩、あなたには一つだけ誤算がある。あなたの探し求めているものは、絶対に見つからない。


あなたが本性だと睨んでいるものは、もうどこにも存在しないのだから。

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