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*** 8 ***

「ところでこのギルドにはメンバーさんは何人いらっしゃるんですか?」

 ギルドマスターに説明を終えたひかりちゃんが聞く。


「そうさなぁ。全部で三百五十人ほどの野郎どもがいるが……

 その三百五十隻の宇宙船のうち百五十隻ほどが修理中かな」


「そんなに……」


「あのなお嬢ちゃ……お嬢さま」

 エリザベートが手を置いていたソファのひじ掛けをみしりと握りつぶしたので、ギルドマスターが慌てて言い直した。


「あ、あのな。

 バウンティーハンターの仕事ってぇもんは、巷のイメージと違って実に地味なもんなのよ。

 聞き込み捜査をしようにも現場に人はいねぇしな。


 だから行方不明者たちが出してあるであろう通常空間救難信号を探して、あちこちの宙域に信号中継装置を敷設していくのよ。

 だから重層次元と通常空間を激しく出入りするんで機材の痛みも激しいわけだ。

 そうやって微かにでも信号を捉えたら、だんだん捜索の範囲を狭めていくのさ。


 このときも頻繁に重層次元と通常空間の出入りをするから、さらに重層次元航法装置や推進機が痛むな。

 無理しすぎると、野郎どもの重層次元航法装置もイカれて、やつらも行方不明になっちまうのさ」


「そうだったんですか……」


「だから航法装置の予備も要るし、だいいち敷設する中継装置も膨大な数が要るしなぁ。

 なにしろ銀河は広いし、しかもこの第八象限はさらに広大だぁ。

 なにしろ一辺三万光年立方だからなぁ」


「そうだったんですね。だから……」


「おうよ。だから高額の経費が必要になるのよ。


 おかげで巷じゃあ、俺っちが必要経費だけふんだくってサボってるってぇ噂もあるがな。

 だが銀河辺境の行方不明者捜索ってぇもんは、途方もねぇ費用がかかるもんなのさね。


 おまけに自分も行方不明になっちったときのために、コールドスリープ装置も資源も食料もけっこうな量積みこまにゃあなんねぇ。

 それにいくら装備があっても命がけの仕事であることに変わりはねぇし……」



「あの。その中継信号装置って、どなたからの救難信号でも捉えられるんですよね」


「ああ、もちろんそうさ。依頼者がいるかいねぇかの区別も無え。

 ま、まあ、依頼者がいない野郎の信号だと捜索が後回しになるかもしらんがな」


「ということは、中継装置と航法装置の予備がたくさんあって、そうして全ての行方不明者の方々にわたしが賞金をつけたら、たくさんの人々が発見してもらって救助してもらえるかもしれないんですね」


 ギルドマスターはちょっと仰け反っている。

(こ、この娘っこは何を言い出したんだ?)


「ひとりのギルドメンバーさんにつき、報酬は一日おいくらですか?

 それから行方不明者の方の救助賞金はおいくらですか?」


「あ、ああ…… 報酬は経費込みで、一日一千クレジットだ。

 賞金はヒューマノイドひとりにつき十万クレジットだが」


(地球円でたったの百円と一万円か……

 だからソフィアーノもおとうさんから貰ったお小遣いで依頼が出来たのね。

 それであんなに喜んでたんだ……)



 ひかりちゃんはエリザベートを振り返った。


「ねえエリザベート」


「はいお嬢さま」


 エリザベートはさっきまでとは別人のような様子で清楚に控えている。


「航法装置と信号中継装置っておいくらぐらいするの?」


 エリザベートは、それをギルドマスターに聞かずに自分に聞いたひかりお嬢さまの賢さに微笑んだ。


「はい。航法装置は一万クレジットほど、信号中継装置は五百クレジットほどでございます」


(航法装置って地球円で千円か…… 信号装置に至っては地球円で五十円か……)

 そう思って微笑んだひかりちゃんはさらにエリザベートに聞いた。


「今あなたが持っている資源で、航法装置と信号中継装置はいくつ作れるの?」


「はい、お嬢さま。

 重層次元航法装置は三万個ほど作れます」


「さ、さんま……」

 ギルドマスターが仰け反っている。


「さらに信号中継装置は一億個ほど作れますが」


「い、いちお……」

 ギルドマスターは盛大に仰け反った。

 手を広げて上にあげ、バンザイの姿勢である。


 ひかりちゃんは微笑んだ。

「でも航法装置はともかく、信号中継装置はそれじゃあ足りないわよねえ。

 なにしろ銀河宇宙は広いもの」


「それではお嬢さま。

 中継装置はおとうさまにおねだりされてみられたらいかがでしょうか。


 ひかりお嬢さまのおねだりであり、かつその目的が行方不明者を探すという尊いものであれば、きっと旦那様はたくさんの信号中継装置を作って送ってくださると思いますわ」


 エリザベートはにっこりと微笑んだ。

 きっと旦那様も大いにお喜びになることだろう。


「それじゃあ今おとうさんに通話してみましょうかしら」


「はいかしこまりました、ひかりお嬢さま」



 ひかりちゃんは、エリザベートが展開してくれた大型スクリーンに向かっておとうさんに話しかけていた。


「おとうさん。だいじなお仕事があるのに通話なんかしてごめんなさい」


「なにを言うんだひかりちゃん。

 ひかりちゃんからの通話以上に大事なことなんか無いんだよ」


 微笑んだひかりちゃんはおとうさんにおねだりの内容を伝えた。


 途中からおとうさんはぼろぼろ涙をこぼし始めた。

 ギルドマスターとそのAIは、英雄KOUKIの姿を見てまた盛大に仰け反っている。

 AIもバンザイ姿になっている。


 ひかりちゃんが説明とおねだりを終えると、英雄KOUKIはまだ泣きながら言った。


「ひかりちゃん、よく気づいてくれたね。

 その事業は、おとうさんたちがとっくにやっておかなきゃならなかった事業だね。


 わかった。今からすぐに、一兆個の信号中継装置を作ってそこに送るから、それで足りないようだったら言ってね。

 またすぐ作って送るから」


「い、いっ兆ょ……」

 ギルドマスターは仰け反り倒れた。

 正面にいるひかりちゃんからみると、首から上が後ろに倒れていて見えず、まるで首無し死体だ。


 ひかりちゃんはまた微笑んで言った。

「おとうさんったら。

 そんなにすぐ送ってもらっても敷設が出来ないわ。

 急がなくってもいいわよ」


「それじゃあとりあえず一千億個送るね。

 それからすぐに少し敷設船も準備しようか。

 それにその航法AIさんも……


 ああ、それからひかりちゃん。

 行方不明者の方々って全部で何人ぐらいいるのかな?」


 ひかりちゃんは、首無し死体は返事が出来ないかなと思って、傍らのAIに聞いた。


「行方不明者さんって、全部で何人ぐらいいらっしゃるの?

 捜索依頼が出ていない方も含めて」


「へ、へいっ! こっ、この第八象限だけで、過去一千年間で三万人の行方不明者が出ていると言われておりやすっ!

 も、もちろんその中にはすでに事故当時お亡くなりになった方もいらっしゃるでしょうが」


「それじゃあひかりちゃん。

 AIさんも含めてすべての方に賞金を設定してくれるかな。

 ひかりちゃんが必要だと思う金額でいいから」


「ありがとうおとうさんっ!」


「いや、こちらこそありがとうね。

 きっとディラックくんもソフィアちゃんも喜ぶと思うよ」


 おとうさんの微笑みを残して通話は終わった。



 それからしばらくの間、ようやく元通りになったギルドマスターとひかりちゃんは打ち合わせを続けた。

 打ち合わせが終わるとギルドマスターは傍らのAIに言う。


「酒保にいる野郎どもを全員正気にさせてガン首揃えさせろ!」


「へ、へい。ですが全員泥酔されてて、体内アルコール霧散剤打とうとすると突然凶暴になって暴れはじめるんでやすが……」


「かまわねぇから二階の踊り場からライフルで撃ちこめぃっ!」


「へ、へぇ……」



 それから十分後、ひかりちゃんとエリザベートはギルドマスターが酒保と呼んだ場所に通された。


 見るからに荒くれな男どもが、徐々に正気に返って来たらしくアタマを振っていた。


 中には少数ながら女性の姿もあったが、全員筋肉ムキムキのアマゾネスタイプである。

 大胸筋なのかおっぱいなのかよくわからない。

 腕のほとんどもイレズミに覆われている。



「野郎どもと女郎めろうども。耳ぃかっぽじってよぉっく聞けぃ!」


 ひときわ大きな巨漢が顔を上げた。

 アタマのてっぺんには、まだ体内アルコール霧散剤をライフルで打ち込まれたらしい注射器が刺さっている。

 それがリボンみたいで可愛らしい。

 ひかりちゃんは思わず微笑んだ。


「親分さんよ。

 そいつぁ俺っちをみぃ~んなシラフにさせちまうほどい~い話なんだろうな」


「おうよバルガー。

 こちらのプリンセスひかりさまが、お前ぇらみんな総上げだぁ!」


「プリンセスひかりさまだとぉ。

 ヨタぁぬかすとたとえ親分でも勘弁しねぇぞぉっ!」


「その節穴みてぇな目ぇ、そこの安酒で洗ってよぉっく見てみろや。

 こちらにおわすは正真正銘のプリンセスひかりさまだぁな」


 バルガーと呼ばれた巨漢はよたよたとひかりちゃんに近づいてきた。

 すぐにひかりちゃんが真珠色に輝き始める。


 きっとまたエリザベートが、遮蔽フィールドのレベルをクラス800に上げてくれているのだろう。

 それはまるで、ひかりちゃんを神々しい後光に包まれているかのように輝かせていた。


 当然ながら小型だが超強力なエネルギーランスもその巨漢にロックオンしているハズである。

 その挙動次第ではその大きな体も一ピコ秒で素粒子になってしまうことだろう。


 バルガーはその巨大な手で目をごしごしこすった。

 そうして仰け反りながらも呟いたのだ。


「ま、間違いねぇ。プ、プリンセスひかりさまだ……

 お、俺の母惑星ビジュアのゲオルギー閣下の命の恩人、あのプリンセスひかりさまだぁ……」


「あら、あなたゲオルグおじいちゃんのお知り合いなの?」


「へ、へい。

 貧乏農場のガキどもが、親に事故で死なれちまっても飢え死にもせずに生きていけたのは、ぜぇ~んぶ閣下のおかげでございやす。

 あっしぁ早く稼ぎたくって、こんな稼業に足をつっこんじまいやしたが、四人もいた弟妹たちは、みぃんな閣下のおかげで学校にも行けやした……」


「そう…… そうだったのね」


(それにしてもさすがはゲオルグおじいちゃんよね。

 こんな銀河の辺境にも熱烈な信奉者がいるなんて……

 まあ、あの性格だったら当然かしらね)


「そ、それに今、プリンセスは閣下をゲオルグおじいちゃんとお呼びになられましたか……」


 ひかりちゃんは微笑んだ。

「ええ。ゲオルグおじいちゃんにそう呼んでくれって頼まれたの」


 巨人は後ろを振り返って大きな声で言った。


「お前ぇたち、もしもプリンセスにほんのちょっとでもご無礼なことでも言ってみろっ!

 この俺がこの手でお前ぇたちの首ぃねじ切ってやるっ!」


「バルガーのアニキ。わかったから座ってくれねぇかい」


「そうだそうだ。

 アニキのでけぇ体のせいで、プリンセスひかりさまのお顔が拝めねぇや」


 バルガーは大人しくその場に座った。


 だがどうもその場の荒くれ男どもが見ているのはひかりちゃんではなさそうだった。

 シックな執事服に包まれていても抑えようのない、圧倒的な大人の女の色香を放つエリザベートに見とれているらしい。


(このひとたちにさっきのエリザベート見せてあげたらなんて言うかしら……)

 ひかりちゃんはそう思ってつい微笑んでしまった。



 ギルドマスターが荒くれどもを前に説明を始めた。


「これからお前ぇたちは、全員で全員を探すことになった」


「なんですかいそりゃあ?」


「黙って聞かねえとまたライフル撃ちこむぞ! 今度ぁ実弾をなぁ」


 荒くれたちが静かになった。


「つまり、行方不明者全員を探すんだぁよ。

 捜索依頼が来てるやつも来てねぇやつも。

 こちらのプリンセスさまが、行方不明者全員に発見賞金をおかけになった」


 ひゅーっという口笛が飛ぶ。

「そ、それってあれですかい。

 とにかく行方不明者だったら誰でも賞金ゲットってぇこってすかい?」


「今そう言ったろうがっ!」


 荒くれたちの表情が緩んだ。


「あの宙域に確か救難信号出てたよな……」

「依頼が来てない野郎の救難信号だから無視してたけどな……」

「それぜんぶ賞金首かい。こいつぁすげぇチャンスだなぁ……」

「ちっくしょー。俺の重層次元航法装置、もう予備が無ぇ!」

「俺の船なんざぁ、推進機までイカれてらぁ……」


「日銭は今まで通りですかい?」

 中でも幹部らしき男が聞いた。


「おうよ、日当は今まで通り一日一千クレジットだ。

 だがな。聞いて驚くなよ。

 航法装置は使い放題ぇだ」


「な、なんですかいそりゃあ?」


「船一隻につき重層次元航法装置が十個支給される。

 お前ぇらが働きまくって航法装置がイカれたら、すぐにとっかえてまた働け。

 そうして残り二個になったらまたここに帰ぇって来い。

 そしたらまた十個支給してやる」


「た、タダなんですかい?」


「ああ、無償で支給だ。

 その他にも通常空間救助通信中継装置は無制限の支給だぁ。

 ついでに推進機用の水資源は一日につき五十リットルもの無料配布だぁっ!」


 どよめきが起こった。

「そ、そんなんじゃあ、遭難者は見っけ放題じゃあねぇですかいっ!」


「ああ、その通りだ。

 それからな、今船がぶっ壊れてる野郎共と女郎めろう共。

 お前ぇたちの船はぜ~んぶこちらのお嬢さまが修理してくださる。

 推進機も生命維持装置もなぁ~んもかんもだ。


 今外に浮かんでる輸送船のドックに船ぇブチ込め。

 そしたら明日にゃあ船はピカピカだぁな」


「す、すげぇ……」

「それじゃあなぁ~んも心配ぇ要らねぇじゃぁねぇですかい!」

「あーもうちょっと中継装置敷設しとくんだったなぁ」


「日頃中継装置をケチりやがるからそういうことになるんだ!

 だがな、プリンセスさまのお父上が、こちらに敷設船を派遣してくださるそうだ。

 だからお前ぇたちの子分共をそれに乗せて、中継装置の敷設に行かせろっ!」


「プ、プリンセスのお父上って……

 そ、それってあの英雄KOUKIのことですかい?」


「ああそうだ。

 さっきご本尊が恒星間通信でそう言ってたのを聞いたばかりだぁ」


 またどよめきが広がった。

 やはり荒くれたちにほど英雄KOUKIは人気があるらしい。


「ち、中継装置は何個ぐれぇあるんで?」


「ああ、三日後には一億個揃うそうだ」


「い、いちお……」


「それから驚くなよ。

 さらに三日後には、英雄KOUKIの御大が追加で一千億個届けてくださるそうだ。

 敷設船付きでな……」


「い、いっせんお……」


「数に制限は無ぇそうだ。

 お前ぇらが撒き散らすだけいくらでも送ってくださるとよ。

 だからこの第八象限を中継器で埋め尽くすまで働けぃっ!」


 荒くれたちが仰け反り始めている。

 何人かは両手を広げてバンザイ態勢になっている。


 やはり中堅幹部らしき男が聞いた。

「賞金はいままでどおりですかい?」


 ギルドマスターはにやりと笑った。

「いや、今まで通りじゃあねぇっ!

 依頼が来てるもんも来てないもんも、すべて三十万クレジットだ」


 また何人かがバンザイに参加した。


 さらにギルドマスターが不敵に微笑んだ。

「それからなぁ。その賞金はヒューマノイドの首だけに対してじゃあ無ぇ。

 AIにもおんなじ賞金がかかってる」


 またどよめきと共にバンザイが増えた。


「てっ、てぇことはあれですかい……

 資源探査野郎とそのAIを見っけたら二人分の賞金が頂けるってぇこってすかい!」


「今そう言ったろうがっ!

 それからな、サンダースってぇ野郎とそのお供であるAI二体の首にゃあ、こちらのお嬢さまが特別懸賞金を懸けてくださった。

 聞いて驚くなよ。懸賞金は一億クレジットだ」


 その場の全員が盛大に仰け反った。

 半数以上がバンザイに参加している。


「そ、そそそ、その一人と二体を見っけたら一億クレジットゲットなんですかい……」


「いいや。一人、一体につき一億クレジットだ。

 だから全員いっぺんに見っけたら、そいつぁ三億クレジットゲットのお幸せ野郎ってぇことになるな」


 全員がバンザイに参加した。



 各人の船を輸送船のドックに入れようとした荒くれたちはまた仰け反った。

 そこには全長十キロメートルに及ぶ超巨大輸送船が浮かんでいたのだ。

 それは体積ベースで本部ステーションの一千倍を超えている。


 まるで牛とその下に落ちている牛糞のような光景だった。

 連中の宇宙船と比較すれば、それは牛とハエだった……



 翌日修理を終えた連中や、重層次元航法装置を受け取った連中はさらに驚愕する。


「お、おおお、親分っ!

 こ、この航法装置、航行できる重層次元の深さに制限がありやせんぜっ!

 ま、まるで銀河連盟合同防衛軍の軍艦並みだぁ……」


「おうよ、連盟防衛軍のお墨付きだぁ……

 これなら一万光年でも十分でひとっ飛びだぁな……


 だがなお前ぇら。逃亡でもしてこの第八象限を一歩でも出てみろ。

 途端に全部の航法装置がぶっ壊れる上に、そいつぁ自動的にモノホンの賞金首になりやがるからな!

 全象限のギルド本部にお前ぇらの懸賞金がかかるぞ。

 しかも生死不問だぁな」



 五日後には、さらに長軸方向三十キロに及ぶ弩級輸送・工作船が三隻もやって来た。

 その周囲には三百隻もの高速敷設船も遊弋している。


 荒くれバウンティーハンターたちは確信した。

 英雄KOUKIとプリンセスひかりは本当に本気だったのだ。


 賞金の支払い意志に関しても疑いようが無かった。

 その輸送船団と敷設船団だけで、優に賞金総額の千倍に匹敵していることだろう。


 賞金の支払い保証の必要すら無かった。

 それは本部ステーションの周囲に浮いているのである……



 バウンティーハンターたちの目の色が変わった。

 すぐに本部ステーションの売店の精力剤と強制睡眠剤が売り切れた。


 この精力剤は、合法薬品ながら、ひとビン飲めば四十八時間不眠不休で大活動出来るというヤバいブツである。

 加えて強制睡眠剤は、十分間で六時間分の睡眠に匹敵する睡眠が取れるというエグいシロモノである。


 この二つを組み合わせたら相当なモンである。

 だが酒はあまり売れなかったらしい。




 真のプロのバウンティーハンターたちは、実はカネ目当てで働いているのではない。

 もちろん賞金も欲しかったが、それよりも賞金首を見つけた時の快感がたまらないのだ。


 それは人助けですらなかった。

 近代の銀河宇宙ではほとんど不可能になった、宝探しの快感だったのである。

 きっと賞金首を見つけたときの彼らの脳内では、エンドルフィンがどばどばに出ていることだろう。



「ああ…… 遭難してから五十年も経ってる……

 あ、あなた様が見つけてくださったのですね。

 な、なんとお礼を申しあげていいのやら……」


「うるせえぃっ!

 べらべらくっ喋ってねぇで、冷凍死体から解凍したらとっとと宇宙船に乗りやがれっ!

 お前ぇをステーションに持ってってブチこんだら、すぐさままたお宝ゲットのために飛びまわるんだぁっ!


 おっ。ステーションまで十二分かかるか……

 その間に久しぶりに少し寝るとするか……」


 そんな会話が第八象限のあちこちで繰り広げられていた。


 五十人がコールドスリープに入っていた遭難旅客船を発見したバウンティーハンターは、溢れ出る自分のエンドルフィンのせいで気絶したらしい。

 そのラリった寝顔は実に幸福そうで、ヨダレまで垂らしていたそうである。



 また、救助された資源探査人たちも、故郷星に帰って家族と涙の再会をした後は、そのうちのかなりの人数がバウンティーハンターに転職した。


 まあやっていることはあまり変わらなかったのだ。

 資源を発見したときの快感も、賞金首を発見したときの快感もほとんど違いは無かったのである。


 それに航法装置の予備がいくらでもあったため、もう遭難の心配も無い。

 しかも貸与される船は最新鋭の超高速船である。


 新米バウンティーハンターになった彼らは、宇宙船の航行には慣れていたために、敷設船に乗っての中継装置敷設任務に回された。

 敷設中にも近距離での遭難信号をキャッチしてお宝をゲットできることは多かったために、彼らも真剣に仕事に取り組んだそうである。



 こうして遭難者捜索活動が超順調に回り始めたのを見たひかりちゃんは、満足しつつも地球に帰ることにしたのである。


 もうそろそろ冬休みも終わるところだった。

 エリザベートも主任ミニAIを監視役として本部ステーションに残し、ひかりちゃんと一緒に地球に帰った。


 地球に帰ったひかりちゃんたちは、大勢の幹部さんたちに笑顔で出迎えられた。

 その中には惑星管理AIのニールスさんまでいた……



 中学校の冬休みの宿題の自由研究では、ひかりちゃんはこの捜索活動についてのレポートを提出したそうだ。

 まあ、休み中は他に何もしていなかったのだから仕方が無い。

 そのレポートは担任の若い先生を壮烈に仰け反らせたらしい……



 それからの三カ月間で、なんと五千人近くもの行方不明者が発見、救助された。

 中には遭難してから八百年も経っていたひともいたという。

 コールドスリープ用のエネルギーは、あと数十年分ほどしか残っていなかったそうである。


 だが……

 ソフィアーノくんのご両親とそのご主人さまであるサンダース氏の行方は、依然としてまだ不明だったのである……






(つづく)


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