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*** 7 ***

 今日は月に一度の子供会の日である。


 三尊研究所や瑞巌寺の幹部さんたちの子供の数も、もう五十人近くになっている。

 もっともそのうちの十人はひかりちゃんの弟妹たちで、もう十人はディラックさんたちの子供たちだったが……


 AIももちろん結婚して子供を作る。

 大昔は新しいハードウエアを用意して、その中に既存のAIをコピーして複製を作っていたが、それではAIの個性が固まってしまう。


 そこで二十万年ほど前から、AI同士が結婚して子供を作るようになった。

 新しく用意したハードウエアに、両親がその最良の能力や経験を注ぎ込んで最初の個体を作ってくれるのである。

 赤ちゃんAIのハードウエア内の領域は、こうして三分の一ほどが両親から受け継いだものなのである。


 その後両親の周囲で育ち、自分の経験で成長していくのだ。

 まあ、ヒューマノイドが太古の昔に単性生殖から有性生殖へと進化したのに似ている。


 最近では、AIたちがそのアバターを改良し、ヒューマノイドと同じようにエッチしながら赤ちゃんのボディに情報を送り込んで最初の個体を作ってあげるようになっていた。


 これも最初にその改良を行ったディラック閣下とソフィア閣下の影響である。

 ついでにソフィアさんは自分のアバターに子宮も作り、その中でしばらく赤ちゃんのアバターを育てるようにもなっている。


 最近ではソフィアさんは、生まれたばかりの赤ちゃんに水資源を与えるときに、わざわざおっぱいから出して与えていた。

 ひかりちゃんは、ディラックさんたちの長女のジェニーちゃんがそれをちょっと羨ましそうに見ていたのを知っている。


 赤ちゃんにおっぱいをあげられるのが羨ましいのか、おかあさんのおっぱいが飲める赤ちゃんが羨ましいのかはわからなかった。

 きっと本人もわからなかっただろう。



 芝生の美しい広場では、またひかりちゃんのおとうさんが座禅を組んでぷかぷかと浮き、大勢のこどもたちがきゃーきゃー言いながらその体に結び付けたヒモを引っ張って遊んでいた。

 ひかりちゃんも小さい頃は大好きだった遊びである。


 光輝おとうさんは、実は座禅を組むと光り始める。

 その後上方にいらっしゃるお釈迦様の分身が発してくださる治癒の御光である。

 これは普通の人々には見えないが、瑞巌寺の高僧さんたちには見える。

 しかも高僧さんたちは、一般の人たちにその御光を見せて上げることも出来た。


 光輝おとうさんは、実際にこの御光で全世界一億人ものがん患者さんたちの命を救ったことがあったのだが、ついでに何故か、座禅を組んで光り始めると空中に浮く、というワザも習得してしまった。

 あんまり役に立つワザではなかったが、なんだかこうして子供たちには大人気のワザであった……



 光輝おとうさんは相当乱暴に引き回されていたし、時には木にごんごんぶつかっていたが、まあディラックさんがクラス20もの遮蔽フィールドで守ってくれているようだから大丈夫だろう。


 一方ではあのゴジラドローンが、そのシッポにしがみついた子供たちを振り回して遊んであげていた。

 キングギドラドローンの三つの首にはそれぞれ子供たちがぶら下がっている。


 後で、特別に帰還を許されたモスラドローンが、子供たちを乗せて遊覧飛行をすることになっている。



 また別の一角では、あのへびアバターになったソフィアーノくんが、出力を弱めた電撃銃を持った大勢の子供たちに追い回されていた。

 そこだけ特別に草が伸びていて、あまり簡単にはソフィアーノへびを見つけられないようになっている。


 ときおり「くぅぇぇぇええええええぇ~~~っ!」という悲鳴も聞こえる。

 ビカビカと点滅する光も見える。


 まあ、出力を弱めてあるので黒コゲになることはない。

 痛覚も遮断してあるはずだから、あの悲鳴は巧妙な演技だろう。


 それに、その子供たちに大人気のアトラクションが終わると、ソフィアさんからの労いの言葉とともに、ひかりちゃんのおとうさんから多額のお小遣いを貰えるのでソフィアーノくんも実に喜んでいた。




 今やディラックさんとソフィアさんの子供たちにとって、ソフィアーノくんは英雄である。

 これから銀河のAI学校に留学する予定の子供たちは、皆ソフィアーノくんのように大勢のヒューマノイドを救えるような防衛AIになりたいと崇拝していた。


 まあ、ソフィアーノくんも、ひかりちゃんと共に二つの惑星から英雄勲章を頂いた身である。

 英雄扱いされるのもあながち間違いではないだろう。


 そのソフィアーノくんがみょーなアバターを作って子供たちと遊んでくれているのである。

 おかげでディラックさんの子供たちもみんなヘビアバターを欲しがってしまったのだ。


 後日、仕方なくディラックさんは子供たちのためにそのヘビアバターを用意するハメになった。


 それからしばらくして、ひかりちゃんの許可を得たソフィアーノくんは、ヘビアバターに変身して、おなじくヘビアバターになったディラックさんの子供たちとピクニックに出かけていた。


 みんな首から上だけは元通りの姿で、体は太さ二十センチほどの色とりどりの大蛇である。

 背中にはお弁当の入った小さなリュックを背負っている。


 そうしてみんないっせいにきゃーきゃー言いながら、嬉しそうな顔をしたソフィアーノくんを先頭ににょろにょろと行進していたのである。

 全部で十匹もいた。


 ひかりちゃんは呆れながら後ろからついて行っている。

 ひかりちゃんの弟妹たちはそれを羨ましそうに見ている。


 そこへ角の建物の陰から歩いて出て来た麗子さんと出くわしてしまったのである。


「んげげげぇぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!」


 いつものヘンな叫び声を上げて麗子さんは腰を抜かした。

 まあ、毎度毎度間の悪いひとでもあった。




 今日の子供会もいつもの通り大盛況である。


 大河くんは野球部の練習でいない。

 まだ子供たちは楽しそうに遊んでいるのでひかりちゃんの出番は無い。

 最後にはまたひかりちゃんが座禅を組んで、幼児たちを一同に集めて鎮めることになっている。

 つまりまあひつじとおんなじだ。



 ひかりちゃんは庭の瀟洒なテーブルについて、エリザベートとともにお茶を頂いていた。


「ねえ、エリザベート」


「なんでございましょうかひかりお嬢さま」


「そういえばフシギなんだけど……

 ソフィアーノって、おとうさんからお小遣いをもらうと、とっても嬉しそうじゃない」


「はい……」


 ソフィアーノくんのお給料は、もちろん銀河のルールに沿った銀河水準の法定給与だが、お小遣いは地球レベルであったため、銀河水準から見ればとんでもない金額である。

 一回のお小遣いが優に銀河人の数年分の年収に匹敵しているのである。



「でもソフィアーノがなにか買ってるのって見たことが無いのよ。

 いったい何に使っているのかしら。

 それに今年の帰省の長期休暇をあげようとしても要らないっていうし。

 その分休日出勤手当を貰って喜んでるし。

 エリザベートは何か知ってる?」


 エリザベートはため息をついた。


「やはりお気づきになられてしまいましたか……

 さすがはひかりお嬢さまでいらっしゃいますね」


「やっぱりエリザベートはなにか知ってるのね」


「もちろんこのお邸についてはAIも含めてすべてわたくしめの管掌でございますので。

 すべてを知っておくことも、私の責任でございます。

 そのわたくしもつい最近知ったのでございますが……」


 エリザベートはまたため息をついた。


「このようなことを申し上げて、ひかりお嬢さまのお心を煩わせるのは誠に心苦しいのです」


 ひかりちゃんはにっこりと微笑んだ。

「だってソフィアーノはわたしの弟みたいなものだもの。

 わたしも全てを知っておきたいわ」


「本当にお嬢さまはお優しい……」

 エリザベートは少し目頭を押さえた。


「実は……

 ソフィアーノのご両親は、そのご主人さまとともに行方不明になっているのでございます」


「…… えっ! ……」


「ご主人さまとともに銀河辺境の地に資源探査に出向かれて……

 それ以来行方がわからなくなっているのでございます。

 行方不明になってからもう一年以上が経過しているようでございますね」


「そ、そうだったの……」


「それでソフィアーノは旦那さまから頂戴したお給金やお小遣いを溜めて、すべてバウンティハンターに渡しているようなのでございます」


「バウンティハンター……」


「はい。民間の行方不明者捜索ギルドのことでございます。

 銀河宇宙で行方不明になったひとびとを、捜索経費を受け取って探す連中のことでございます。

 また発見の暁には高額の報酬を要求してきます」


「そ、そうだったの……」


「もちろん行方不明者がそう簡単に見つかるものでもございません。

 中には経費だけ受け取って、ろくに捜索もしない不届き者もいるとか……」


「な、なんでアイツ、わたしに相談しなかったのよっ!」


「それは…… 

 ソフィアーノもお嬢さまのお心を乱すようなことは控えたのでございましょう。

 さすがはこのお邸にお仕えするAIでございます。

 まあ、奇矯な行動の多い未熟者ではございますが、それでも多少は骨のある者でございます……」


「…………」


(エリザベートがソフィアーノを褒めるのって、初めて聞いたわ……)




 ひかりちゃんは、銀河ペディアでバウンティーハンターについて調べてみた。



<バウンティーハンター>


 古くは指名手配犯や、保釈金を踏み倒して逃げる逃亡者を賞金目当てに捜索する者たちを意味したが、現在の銀河宇宙では同じく賞金を目当てに行方不明者の捜索をする者たちを言う。


 また、以前は経費だけ受け取って捜索も行わない非倫理的業者も相次いだため、現在ではバウンティーハンターギルドが結成されていて認可制になっている。


 その活動地域ごとに銀河中心部から順に八つの象限に分かれて、それぞれがギルドマスターの管理の下に運営されている。

 第一象限から第六象限までは近代的な会社形態を取っているが、第七、第八の各象限では、今も一匹狼のバウンティーハンター達が、ギルドの会員として各々の腕を競って行方不明者の捜索を行っている。


 だが対象地域の広大さと、依頼人の経費負担の重さもあって、その捜索成功率はさほどに高くない。

 銀河中心部では八%ほど。周辺部では依頼の五%ほどである。


 行方不明者の多くは一攫千金を狙った資源探査商人たちであり、人類非居住恒星系という辺境中の辺境の地で行方不明になったケースが多いため、その発見率が低いものと考えられている。


 基本的には銀河連盟はこうした行方不明者の捜索をすることは無い。

 惑星文明不介入の方針の為と、銀河宇宙があまりにも広大な為である。


 また、多くの惑星警察も、担当地域外として行方不明者の家族からの銀河宇宙での捜索願いには対応出来ていない。


 このため、唯一の捜索活動の担い手として、バウンティーハンターには常に一定の需要が存在している。




 汎用端末のスイッチを切ったひかりちゃんはため息をついた。


(遭難したひとたちって昔のアレック・ジャスパーさんやディラックさんたちみたいなのね……

 みんな重層次元航法装置が故障してコールドスリープに入って、通常空間経由で救援を求めてるかもしれないわ。


 それにおとうさんたちみたいに助けてくれるひとがいなかったら、コールドスリープ用のエネルギーもそれほど多くはないかもしれないし。

 それともみんなもう……)


 ひかりちゃんは頭を振るとおとうさんのところに行った。


 おとうさんはひかりちゃんの話をじっと黙って聞いてくれている。

 途中でディラックさんやソフィアさんも呼んで一緒に話を聞いてもらってくれた。

 おとうさんの目にはみるみる涙が溜まって来ている。

 ディラックさんやソフィアさんの目も潤んでいる。


「それでねおとうさん。

 お願いがあるんですけど……」


 おとうさんは涙を拭きながら微笑んだ。


「少しおとうさんのおカネを使わせてもらえないかと思って……」


 おとうさんはさらにものすごく嬉しそうに微笑んだ。


「この前ひかりちゃんに、惑星ゴッツォで大活躍してくれたご褒美をあげるって言ったら、ひかりちゃんは今欲しいものは無いから後で考えさせてって言ってたよね。


 だからいいよ。いくらでもひかりちゃんの思う通りに使ってみなさい。

 ひかりちゃんの口座の引き出し可能額を無制限に指定しておくから。

 ああ、でも確か一日の引き出し可能額は、地球円で上限十兆円までだったと思うけど……

 だから、もし三十兆円引き出すなら三日かかるから気をつけてね」


(おとうさんったら…… 

 私、惑星や恒星系を買いたいって言ってるんじゃあないんだけど……)



 未だに地球と銀河宇宙の物価水準の差は一対千である。

 つまりひかりちゃんの引き出せる金額は、一日につき銀河宇宙の物価水準では一京円に相当する。

 十兆円の千倍である。

 その気になれば十分に惑星ぐらいは買えるだろう。

 人類非居住恒星系なら五コぐらい買えるかもしれない。


 ひかりちゃんはディラックさんに向き直った。


「それからディラックさん。

 ソフィアーノのご両親が行方不明になったらしい第八象限のバウンティーハンターギルドに連絡を取ってみたいんですけど、横にいて助けていただけませんでしょうか。

 銀河でも最高の商取引AIであるディラックさんがいてくださると、とっても心強いんですけど……」


「喜んで……」


 ディラックさんは本当に嬉しそうだった。

 きっと昔の自分たちのことを思い出していたのだろう。



 ディラックさんも、英雄光輝との商取引を通じて、その仕えるご主人さまをたったの三年で母惑星ジュリでも第三位の大資産家にし、併せて商人・オブ・ジ・イヤーも受賞させている。


 しかも今や「AIの誇り」という大称号を持ち、全銀河のAIから閣下の敬称付きで呼ばれる身である。

「若き防衛の女王」という称号を持つソフィアさんも、銀河最高の防衛AIとして、その尊崇のされ方はただごとではない。


 おかげで彼らの母惑星ジュリのAIは、銀河でも最高のブランドになっている。

 ジュリ出身のAIといえば、もはや絶対に就職先に困ることは無いのである。

 銀河中のセレブたちがジュリのAIを雇いたがっていた。



 ひかりちゃんは、ディラックさんと共に恒星間映像通信機の前にいた。

 心配そうな顔をしたエリザベートもその場にいる。

 エリザベートに言いつけられたソフィアーノくんは他の用事をしていていない。


 スクリーンにはバウンティーハンターギルドの受付AIが映っている。


「あの…… 行方不明者の捜索をお願いしたいんですけど……」


 みょーにくだけた服装のAIが乱暴な口調で言った。


「お嬢ちゃん。

 あのね、行方不明者の捜索にはとーってもおカネがかかるんだ。

 お嬢ちゃんのお小遣いぐらいじゃあぜーんぜん足りないんだよぉ」


「お、おカネなら……」


「それにね。ギルドの掟で依頼は通信では受け付けられないんだ。

 必ず依頼者本人が、ギルド本部ステーションに来て依頼してもらわにゃあならんのだよ。


 オイラたちも命がけで捜索してるもんだからね。

 去年だけでギルドメンバーが八人も捜索中に行方不明になってるんだな。

 だからこれは依頼者の面接も兼ねてるんだ。

 面接しだいによっちゃあ依頼を断ることだって多いのさ。


 それじゃこれで。

 お嬢ちゃんも本気になったらこのステーションまでおいでねー」


 通信は切れた。


 横ではエリザベートもキレている。


「あ、あのヤクザなAIめ……

 お、お嬢さまに向かって、な、なんという無礼な口を……

 これはいつか徹底的におしおきしてやらねば……」


 ディラックさんは首を振りながら言う。

「まあ、口調はともかくとして、先方の言うことももっともです。

 彼らも命がけで仕事をしていると言うのは本当でしょう。


 それに捜索にはかなりの金額の経費もかかりますし、賞金の支払い意志の確認のためにも面談は必要なのでしょうね。

 それに第八象限ギルドは、第七象限ギルドと並んで優秀らしいです。

 まあ、礼儀作法は別にして。


 なにしろあの広大な宙域で発見率五%は驚異的な数字ですから。

 あの無礼な態度はその自信の裏返しかもしれませんね……」



 ひかりちゃんはまたおとうさんのところに行った。


「それで、来週からの冬休みを利用して第八象限ギルドステーションまで行きたいんですけど……」


「ひ、ひかりちゃん。そ、そんな危ないこと……」


「ええ、だからエリザベートを同行させて欲しいんです」


「…………」


「エリザベートって、銀河最強クラスの防衛AIなんでしょ。

 惑星ジェムの防衛総司令官AIさんの副官を務めていたその後継者候補で。


 でもこの地球でディラックさんに謦咳を頂いて感動しちゃって……

 それで副司令官補佐に昇格したのを機に、ここ地球王領の防衛AIに転職したんですよね。

 ディラックさんのお母様の防衛総司令官さんが、将来の後継者候補を取られたって嘆いていらっしゃったわ」


「そ、それは確かにそうだけど……」


「それにエリザベートの能力って、座禅研修や謦咳のおかげだけじゃあなくって、おとうさんがものすごい経費をつぎ込んでフルバージョンアップしたから、もう既に惑星防衛軍総司令官クラスのとんでもない能力になってるんですよね。


 それにその装備も、惑星ジェムの防衛軍全体よりも遥かにスゴくって、もはや銀河連盟合同防衛軍一個艦隊ぐらいになってるって聞いてるわ」


「そ、それはそうなんだけど……」


「だからおとうさん。

 エリザベートが隣にいてくれたら、わたしはこの邸にいるのとおなじぐらい安全よ。

 だから何の心配も要らないんじゃないの?

 むしろ心配なのはエリザベートのいなくなったお父さんたちの方だわ」


「そ、それはソフィアちゃんもいるし、銀河連盟防衛軍の森の惑星防衛部隊もいるし……」



 もちろんエリザベートはひかりちゃんのお願いを快諾してくれた。

 そして旦那さまから無制限の資源使用許可をもらい、以前の上司であるジェム惑星防衛軍総司令官閣下に連絡を入れた。


 かつての副官の元気そうな姿をご覧になった閣下は、喜んで元部下の依頼に応じてくださった。

 その後も旦那様や総司令官閣下の口利きで、連盟合同防衛軍本部に連絡を取ったエリザベートは、着々と準備を進めた……




 こうしてひかりちゃんは、銀河辺境の第八象限にやって来たのである。


 第八象限バウンティーハンターギルド本部ステーション。

 それは銀河辺境の無人の恒星系の恒星の軌道を回る位置にあった。


 ボロとは言わないまでも、相当に古びた直径一キロほどのステーションである。


 周囲にはこれも古ぼけてはいたが、いかにも高性能らしき宇宙艇が無数に停泊していた。

 ステーションの周囲に浮かぶ工場衛星のドックに入っているものも多い。



 最初にエリザベートが用意してくれた宇宙船を見てひかりちゃんは少し首をかしげた。


 それは両端が細くなった銀色に輝く紡錘形をしていてなんの飾り気もない。

 長さは三百メートルほどだったが、その内部も三分の一ほどがひかりちゃんの居室である。

 前後方向に二つある推進機だけはやたらに太く、強力そうだった。

 

 どうやら通常の核融合駆動だけでなく、「強い力」を利用した推進機や、銀河宇宙でも最新鋭の「真空のエネルギー」駆動エンジンも搭載されているらしい。



「ねえ、エリザベート」


「はい、なんでございましょうか、ひかりお嬢さま」


「ずいぶんシンプルな宇宙船ね」


「も、申し訳ございませんひかりお嬢さま。

 すぐにプリンセスのご搭乗にふさわしい豪華絢爛な装飾を施しますです……」


「い、いえその必要はないわ。こ、これで十分よ。

 で、でもたくさん装備や資源を積んで行くからもう少し大きな宇宙船だと思っていたのよ……」


 エリザベートはにっこりと微笑んだ。

「ご安心くださいひかりお嬢さま。

 近傍重層次元には、長さ十キロに及ぶ輸送・工作船が控えております。


 またその内部と周囲の次元には、大量の各種資源はもとより、最新の軍用工場と防衛兵器が準備されておりますです。

 すべて銀河連盟防衛軍の許可の下に集めた、銀河最新鋭の兵器と装備でございます……」


(わたし…… どっかの恒星系を侵略しに行くんじゃあないんだけど……)


 ひかりちゃんは心の中でため息をついた。



 宇宙船の停泊位置を微妙に調整したエリザベートは、ひかりちゃんとともに空間連結器でギルドステーションに移動した。

 今日のエリザベートは清楚な黒いロングスカートの執事服姿である。

 金色の長いストレートの髪にマッチして実に美しい。


「ひかりお嬢さま」


「なにかしらエリザベート」


「今回の任務の性質と、このような粗野な者どものいる環境と言うことに鑑みまして、わたくしもやや粗野な言動を取ることをお許しいただけますでしょうか」


「もちろんよ。エリザベートのいいと思うように行動してね」


「いつものことながら多大なるご信頼を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます、ひかりお嬢さま」


 ひかりちゃんはにっこりと微笑んだ。



 ギルドステーションのエントランスに移動した二人に受付のAIが言う。

「いらっしゃいお客さん。

 おや、お嬢ちゃんはいつか通信をくれた子かな」


 エリザベートが無言のまま受付の机に拳を振りおろした。

 がんっ! という音と共に硬合金製の机が見事にヘコむ。

 机の上にはエリザベートの拳の形に跡が残っている。


「お前ぇみたいなチンピラじゃあ話にならねぇ。

 すぐにギルドの親玉を呼びな」


 受付のAIは震え上がってエリザベートを見た。

 そうして何事かに気づいたらしく、慌ててギルドマスターのところに行った。


 薄汚れてはいたが、まあまあの広さの応接室に通されたひかりちゃんとエリザベートの前にギルドマスターがやってきた。


 いかにも歴戦のつわものと言った風情である。

 その顔も体も傷だらけだ。


 ついさっきまで呑んだくれていたらしく、体内アルコール霧散剤を飲んではいたが、まだ少し赤い顔をしていた。


「おお、本当にお嬢ちゃんだな。

 それで今日はなんではるばるこんな辺境の地まで来てくれたんかな。

 せっかくのブランデーの酔いに匹敵するぐらいいい話だといいんだがな……」


 また拳を握りしめたエリザベートを手で制してひかりちゃんは話し始めた。


「あの、ミッシェル・サンダースさんという行方不明者を探していただきたいんです。

 それからそのAIであるご夫婦も。

 三人はこちらの第八象限宙域で一年ほど前から行方不明になっているんです」


 さっき受付にいたAIは、ひかりちゃんがAIも含めて人と言ったので少し驚いている。


 ギルドマスターは傍らのAIを振り返った。

「そいつぁあのAIのガキが依頼してきていた行方不明者じゃあねぇのか」


「へぇ親分。そいつぁ確かにあのガキの依頼した行方不明者でさ」


「バカ野郎っ! お客人の前で親分と言うなってあれほど言ったろうがっ!

 このポンコツAIめっ!」


「す、すすす、すいやせん、お、ギルドマスター……」


 ひかりちゃんは少し微笑んだ。

(ソフィアーノみたい…… 今度『おギルドマスター』って呼んであげようかしら……)


 ギルドマスターはひかりちゃんの微笑みに少し驚きながら言った。


「だがなお嬢ちゃん。

 俺たちぁ二重の依頼は受けつけねぇことにしてるんだ。

 報酬の二重取りって批判されたことがあったんでな」


「でしたらソフィアーノからの依頼は取り下げてください」


「それにゃあ本人が来て言わねえとなぁ。

 嬢ちゃん。本人連れてまた来な」



 エリザベートが立ち上がった。

 今度はひかりちゃんも止めない。


 エリザベートは、その美しい脚を振り上げると、ギルドマスターの前の応接テーブルに振り降ろした。


 どがんという大きな音とともに、やはり硬合金製の応接テーブルが盛大にヘコんでいる。

 高さも十センチぐらい低くなっている。

 また受付にいたAIが首をすくめた。



 AIのアバター自体に戦闘力を持たせることは銀河法典で禁じられている。

 彼らの戦闘行為が許されるのは防衛AI資格を持ったAIの防衛行為だけなのである。


 それもクラス25以上の遮蔽フィールドやレールガンといった装備中心のものになり、防衛行為に使用後には銀河連盟の事務局にその使用記録を提出する必要もあった。

 つまり、アバター自体には身体的な戦闘力は無いのである。


 ということは、もし今目の前で行われたような行為が出来るとしたら、それは銀河連盟合同防衛軍の戦闘用特殊部隊AIのアバターぐらいなものだけなのである。

 やはりこの美形のAIはただものではなかったのだ。



「おうおうおうおう! 

 さっきから黙って聞いてりゃあ頭に乗りやがって!

 こちらにおわすプリンセスひかりさまに向かってなんてぇ口ぃ利きやがるっ!」


 エリザベートはまだテーブルに乗せた脚をそのままにしている。

 美しいふとももの相当に奥の方まで見えていたので、ひかりちゃんはどきどきしていた。


「プリンセスひかり……

 そ、そいつぁ、あのKOUKINIAのプリンセスひかりのことか……

 あの英雄KOUKIの娘の……」


「お前ぇのその無礼な口ぁ聞き飽きた。

 今すぐ這いつくばってお嬢さまに無礼をお詫びしろや。

 さもねぇと今このステーションにロックオンした大口径エネルギーランスが火を噴いて、お前ぇら全員素粒子に帰ぇしてやるぜっ!」


(え、エリザベートって、ほ、ホントに怖いわ。

 ソフィアーノがエリザベートをあんなに怖がってた理由がわかったわ……)


「て、鉄火な姐さんだこった」


「お、ギルドマスターっ!

 い、いまとんでもねえエネルギー反応を検知いたしやしたっ!

 こ、こいつぁクラス300以上のエネルギーランスですわ!」


「く、クラス300のエネルギーランスだとっ!

 そ、そんなシロモンは銀河連盟防衛軍にしか許されてないはずだろうっ!


 しっ、しかもそれ弩級戦艦の主砲クラスだろうに……

 三秒で惑星ブチ抜いて大穴開けられるぜっ!

 そっ、それにそんなもん一発ぶっぱなすだけで、惑星予算の半日分が飛ぶぞっ!」


「おいそこのポンコツAIっ!

 目ん玉ぁかっぽじってよおっく見ない!

 こいつぁクラス300なんてぇチンケなシロモンじゃなく、クラス500のお宝でいっ!

 銀河最高のエネルギーランスで素粒子に戻れるのを光栄に思いやがれっ!」


 またギルドのAIが仰け反っている。


 ギルドマスターが汗を拭きながら言う。

「だ、だが姐さん。

 そ、そんなもんぶっぱなしたら、姐さんやこちらのお嬢ちゃんも……」


「だからお嬢さまとお呼びしろって言ってんのがわかんねえかぁっ!」


 もう一度エリザベートが脚をテーブルに振り降ろした。

 またずがんという音と共に、テーブルが二十センチぐらいの高さになった。

 その辺りの床も少しヘコんでいるようだ。


「あのプリンセスひかりさまが、あちきの可愛い子分の親御さんの捜索をご依頼して下さろうっていうんでぇい!

 そのお嬢さまに無礼な口をきくなぁ、お天道様が許してもこのあちきが許さねぇっ!」


(可愛い子分ですって……)

 ひかりちゃんはまた微笑んだ。


「それにお前たち貧乏人にゃあわからんかもしらんが、あちきらの周りをよく見てみないっ!

 この真珠色の輝きが目に入らねぇか?」


「おっ、ギルドマスターっ!

 こ、こここ、こいつぁ、クラス500を超える遮蔽フィールドの放射光ですぜっ!

 う、噂にゃあ聞いていたが、は、初めて見た……

 が、眼福眼福……」


 AIは完全に仰け反っている。


「ふん! やっぱり貧乏AIにゃあわかんねぇかい。

 こいつぁクラス800の超お宝遮蔽フィールドでいっ!

 これさえありゃあ、あちきとお嬢さまはクラス500のエネルギーランスの中でもお茶を頂きながらゆっくり出来るっていうぐれぇのシロモンだぁっ!」


「げえええええっ! く、クラス800っ!

 そ、そんなもんが作れるのか……

 それにそんなバケモノ遮蔽フィールド展開してたらいったいどんだけの資源が……」


「ふん。まあたかがそこいらの貧乏惑星予算三日分だぁな。

 これでこちらのお嬢さまのお力がわかったかぁっ!」


「わ、わかった…… わかったからどうかロックオンを外してくれ。

 あ、姐さんがくしゃみしただけで俺っちが素粒子になっちまうかもしんねぇ……

 お嬢ちゃ、い、いやお嬢さまのお話もマジメに聞くからどうかエネルギーランスを鎮めてくれっ」


「ふん。しかもあちき配下の可愛い子分どもが既にこのステーションを包囲してるからな。

 みょーなマネしやがると、お前たちもろともこのボロステーションを一ピコ秒で素粒子のチリにしてやるぜっ!


 ミューニュートリノ放射しながら自然に帰ぇりな」


「おっ、ギルドマスターっ!

 いつの間にかステーションが数千体の超重武装ドローンに包囲されていやすぜっ!

 す、すげぇステルス能力だぁ……


 そ、それに、あいつらそれぞれが銀河連盟防衛軍の巡洋艦並みの武装をしてやがる……

 ま、まるで一個艦隊に囲まれたみてぇだ……」


「わ、わかった……

 そ、それにしてもおっかねぇ姐さんだぁなぁ。

 それじゃあもっと、お嬢ちゃ、お嬢さまの話を聞かせてもらおうじゃねぇか……」


(こんどはお嬢ちゃお嬢さまか……)

 そう思って微笑んだひかりちゃんは、ギルドマスターたちに詳しく依頼内容を説明した。






(つづく)


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