灰と石と、空
焚き火を作ったのはゲルトだった。
王の間の外、中庭の隅に石を組んで、木を集めた。城の中は腐った木が多いが、燃えればいい。
「手伝います」とテアが言った。
「座ってろ。まだ顔色が悪い」
テアは黙って壁に寄りかかった。
◇
ゲルトが王の間に入った。ヴェルナーが続く。
しばらくして、二人が出てきた。ゲルトの腕に服がある。深い色の布。金糸の刺繍。
ヴェルナーが手を伸ばした。端を指でつまんだ。
自分の服の袖と見比べた。同じ布のはずがなかった。滑らかで、重くて、光の当たり方が違う。
「……こんな布、見たことないです」
「知らない方がいい」
ゲルトが火の前にしゃがんだ。布を広げた。一度だけ、縁の金糸を指でなぞった。
それから、火に入れた。
宝飾品も続いた。ヴェルナーが一つずつ手渡して、ゲルトが黙って火に入れた。
「……惜しくないんですか」
「惜しい」
「……それでも」
「ここに残すわけにいかんだろ」
ヴェルナーが黙った。少し考えてから、頷いた。
ゲルトが最後の宝飾品を火に入れた。城の外に持ち出すものは、何もない。
◇
「骨は」とリリアが聞いた。
「このままでいい」とゲルトが言った。「城ごと、墓だ」
テアが立ち上がった。壁から手を離して、焚き火の前に来た。
「一緒に弔っていいですか」
「弔い方があるのか」とリリアが言った。
「修道会のやり方で。——ガーゴイルも一緒に」
ゲルトが顎を引いた。
「あれに魂があったのか」とヴェルナーが言った。
「分かりません。でも」
テアが炎を見た。
「あれほどの忠義があるものに、魂がないはずがないと思う」
誰も返さなかった。
リリアには、分からなかった。
ヒーラーの教えでは、魂を持つのは人だ。モンスターは違う。石でできた守護像はなおさら。ガーゴイルと王を並べて弔うという発想は、リリアの中にはなかった。
でも——テアがそう言う時の顔を見ていると、それが間違っているとも思えなかった。
尊いものに触れているような気がした。自分には届かないが、確かにそこにある何かに。
◇
テアが目の石を拾った。床に転がっていた二つ。
欠けていない。丸いままだった。
焚き火の脇に、小さな石を並べた。結界のように、輪を作った。その中に目の石を二つ置いた。
「これが墓標の代わりです」
テアが膝をついた。目を閉じた。修道会の呼吸が始まった。深く吸って、長く吐く。気が流れに還るように、繰り返す。
リリアは隣に立った。
ヒーラーの作法は、細い。神のもとに旅立つ人に、ただ手を合わせる。それだけだ。
どんな神かも、その神がこの城の主を知っているかも分からない。
でも——神がいるなら、きっと迎えに来てくれる。
手を合わせた。
「どうか、安らかに」
炎が揺れた。
煙が流れてきた。ヴェルナーが顔をそむけた。でもその場を動かなかった。
◇
燃え残りを小箱に収めたのはゲルトだった。
誰も急かさない。誰も言葉を足さない。
「埋める場所は」とリリアが言った。
ゲルトが城の奥を見た。
「……ガーゴイルが守っていた場所がある。地図にない場所が」
「そこに」
「そこに」
四人で歩いた。崩れた石の廊下を。灯りを一つ持って。
ゲルトが場所を選んだ。言葉にならない選び方だった。ただ、ここだと分かった。
小箱を置いた。隣に目の石を二つ並べた。
石でそれを囲んだ。テアが組んだ輪と同じように。
誰も何も言わなかった。
何百年もここにいたものが、今もここにいる。それだけだった。
灯りを戻して、廊下を引き返した。足音だけが続いた。
城の外に出ると、空が明るかった。




