『聖弓』オーダイ後編
━━オーダイが、不思議な出来事を経験してから数年がたったある日のこと。
集落にいる。若い猟師の中でも一目置かれるようになっていた、オーダイに転機が起こる。
新しい開拓村への誘致であった。
ちょうど結婚した翌年のこともあって、集落には腕のある猟師もいたので、オーダイ夫婦は新天地へ向かうことにした。
━━翌年。
新しい開拓村での生活は毎日苦労の連続だったが。苦労の分得るものも多かった。
━そんな日々を過ごしているとき、ある噂話が流れ始めた。
近々レゾン王が、近隣の開拓村の視察に訪れると。
「ふむ、なぜこんな辺境に?」
それに王位を継いで間もない時期である。間も悪いなと、酒の席でおもったものだ━━。
それからしばらくして、狩の仕事も忙しくなる夏。そろそろ暑さが身に染みてきたなと不快に思っていたら。視察がオーダイの住む。開拓村へ来ると聞いて、ますますなぜこんな時期に?。不思議に思ったものだ。
何せオーダイの住む村は、名前だけの辺境にある集落でしかない。そんな集落に、レゾン王がわざわざ巡回するなど……、いくら考えても意味が分からなかった、なぜ今王が視察にくるのかはさて置いといて、
………数日後。
噂のレゾン王が、僅か数名の近衛兵を護衛にして集落を訪れた……、
「きな臭いな」
……無論当時のオーダイは、知るよしもなかった。
新しい集落では、腕の良かったオーダイも人柄もよく。瞬く間に村の顔役となっていた、それも僅か一年とせずにだ、沢山の住人が移住してきていたのもその頃だった。
顔役としてのオーダイの仕事は多く。見習い猟師の面倒をみたり、他の集落から来た。腕のよい中堅の猟師までもが、村に移住してきたので、ようやく畑を荒らすモンスターの間引きに乗り出せた。
それからこの一年。豊かな広大な森を切り開き、土地を開拓したことで、来年には潤沢な食料を作り出すことが予想された。その為増えた畑を作るため、更なる人手を求めていた。
一方で豊かな生活を求めて、移住すしたい若者が増えていると噂になっていた。此度の視察は、成功の可能性が高い開拓村の様子を見ることも含まれていたようだ。
━━━━━━━━
━━後日。
僅かな護衛と供にレゾン王は、開拓村を訪れた、
村長は緊張のあまり自分が接待するのを放棄した。他の村人に接待を任せようとしたが、皆がいやがるので頭を抱えていた、そこでオーダイに白羽の矢が刺さったのは成り行きであった。
朝早く呼び出されたオーダイは、訳もわからず村長の家に向かったのだが……、
「ほ~う乱獲を禁じたとな?」
やたらと豪華な衣服を身に包ませた上品そうな青年が、村長と話し込んでいた。じろじろオーダイのこと見てくる護衛に居心地悪く思いながら。村長の家に入ると、冒頭の話をしていた。
予想外の出来事に、些か訝しげに思うていた。
「おお~ようやく来たな」
「ん、おおその方がオーダイか?」
「あっはい、御初にございます」
深々と頭を下げた。オーダイ達猟師達は、危険なモンスターを駆逐する一方で、動物を狩り過ぎないよう制限していること。人間と共存出来る環境を整えたことと説明を受けていたが、いまいち実感が持てないと陛下はおっしゃられた。
「済まないが……」
そこで確認したいこともあるためと猟師達が、普段行う仕事を実際見たいとおっしゃられた。
ならばと……、森や山を熟知し。腕前からもオーダイ以外あるまいと、取りあえずの説明をした村長に頼まれたのだが。本音が透けて見えて、溜め息を飲んでいた。
━━翌日
王と護衛の近衛兵数名を伴い。山と森を案内することになった……。
「陛下……、何分学のない身です、私で分かることなら、何でもお聞き下さい」
「うむ、そなたの仕事を見たいが、良いかな?」
「はっ、そんなことならば……」
その日の内に。レゾン王はオーダイの飾らなくも、然り気無い細やかな気遣いに感銘を受けることになった。
「オーダイよ!、我が客として、一度王宮に遊びに来るがよい、いいな?」
都を訪れるよう申し付けられた。
「はっははあ~、ありがとうございます」
多分冗談だろうと、安請け合いしたのだが……。
━━数日後。
レゾン王から、正式に招かれ馬車まで遣わされたので、戸惑いながら妻を伴い。王都カウレーンに向か向かうことになった。
美しい町並み、美しく着飾る女性達、活気ある大きな通り。見るもの全てに圧倒されていた。
さらに見たこともない巨大な城を前に。場違いだと首を振っていた。不安そうな顔の妻を連れて。城の兵に案内されるまま、王と謁見が許された。
さらに王は、歓待して、恐縮するオーダイを夕食に誘い、レゾン王自らホストを勤める熱の入れようで、国の重鎮、有力貴族にまで、オーダイを紹介していた。こうなると皆。王の悪ふざけと噂したのも仕方ないのであった。
夕食会が終わり。僅かな側近。重鎮を残し。その場にオーダイを同席させるレゾン王は。突然言うのだった。
「のう~オーダイよ。世の側近にならぬか?」
突然の申し出。酒の席でもあり。重鎮達は、冗談かとひとしきり笑いが起こる。王はしたり顔で、一同を見ながら、
「世は、本気である」
「おっ王よ。いささか興が、過ぎまするぞ!」
王の友人であり、新任の准将となった、ギルバート・ガイロンが、たしなめるも辺りは。ざわざわ驚き、不振な目が、オーダイにまで向けられてしまう、
些か座り心地の悪くなった空気の中、何とも言えない思いをしていた。
困惑を隠せないオーダイに、王は優しい眼差しを送りながら、改めて一同を見渡していた。
まるで出来の悪い生徒に語りかけたるような口調で語る。
「先だって、我が視察に出たのは知っておるな?」
一部の重鎮達には知らせてあるが、レゾン王とエトワール家のレイダ嬢の婚約が、発表されて間もない頃であり。エトワール家の権力が、増すことを懸念した貴族連中が、レゾン王の暗殺を画策してると、黒衣の調べで、明らかになっていた。
そこで……、
何者が暗殺を企てるのか、調べるため罠を張ることになったのだ。それが先日の視察の目的であった。王の護衛とは別に、黒衣の中でも手練れが護衛を張らせその時を待ったていたのだが……、
━━不思議と、一度として暗殺者が、現れない………、
これはおかしいと、不信に思い。注意深く、村人ですら疑って見ていた。すると1人おかしな行動をするオーダイに気付いた━━、
そもそもが可笑しかったのだ。どれ程凄腕の猟師とは言え。矢筒すら持ち歩かず。王の前に見事な牡鹿。猪。鳥。兎を持ちかえって来たことが、
オーダイが、ほんの僅かな時間。森の横道に入っては、獲物や森の恵みを手に戻る。それは別段不思議な事ではないと、重鎮は首を傾げていた。
オーダイは王の意味ありげな眼差しに。ようやく思い出していた。
「あれは、やはり王を守る者達だったか……」
微かな呟きゆえ。誰の耳にも入らなかったが、王はさらに続けた。
あの数日の間。王に殺気を放つ、複数の人間に気が付いていた。村長に世話を頼まれた以上。捨て置く訳にはいかない。
だから仕方なく。森に入った僅かな時で、排斥していたのだが……、
苦笑を滲ませるオーダイをしてやったり。楽しそうに目を細め見ていた。
「世は見ていた、一度。弓を構える姿を……、その方の弓は、特別な力をもつ。魔法の弓であるな?」
思量深いレゾン王の思惑に、肩を竦めていた。
「やはりな……、そうでなければ。あの数日のこと納得できぬ」
レゾン王の呟きに、ようやく理解したオーダイを。其ほどの人物かと、笑みを深めていた。
「よって我は、オーダイの功績に応え。側近にすると決めたのだ」
どうだと言わんばかりの王に。
「陛下……、別段その者が、功績を上げたとも思えませぬが?」
ギルバート・ガイロン大佐は、意味が分からず困惑を浮かべていた。
「では聞くがギルバート、何故暗殺者が現れなかったか、わかったのか?」
そのように問われても。わからぬゆえ。
「理由を。お聞かせ下さい陛下」
一同に代わり、説明を求めた。それこそがレゾン王の狙いであった。皆に納得させるには正しく。オーダイの力量を知らせる必要があった。
「世を狙う暗殺者は、確かにいたのだギルバートよ。あの視察の数日間にな……」
ザワリ……、
驚愕を顕にしていた。
「あの数日の間━━世を狙う暗殺者は、全て、そこにおるオーダイが、排除していた。驚くことに黒衣ですら、一切気付くことはなかっと言ったら?。獲物を取るほんの僅かな時で。そのようなこと出来る者はいるのか?、世はそれほどの者をオーダイ以外知らぬ」
王の言わんとした内容を理解して、軍席にいるものは、ハッと青ざめる。そのようなこと可能なのかと……、
「世は、黒衣に命じ、オーダイが、森に入った場所から、調べさせた、そうさな……ざっと10ワノール(キロ)離れた場所で、暗殺者急所を射抜かれ、絶命していたのを見付けておる」
ざわり、今度こそ騒然となる重鎮達。
レゾン王は、あの日を忘れぬ。黒衣が報告したのは━━、
「黒衣は106名の死骸を見付けた」
皆、事の重大さに気付いた。レゾン王は思い出すと。身震いしたのだ、其ほどの人物が、野に埋もれていた事実に。
「よって世は、オーダイをただ1人の我の護衛として、登用する」
もはや言葉を無くした重鎮を一瞥して、小気味良く笑う、悪戯を成功した子供のように、したり顔でオーダイを見れば、苦虫噛み潰した顔をしていた。だから片眼を瞑り諦めろと口パクしていた━━━。
━━━━━━━━
波間に漂う。魔物のような何かが浮かんでいた━━。
「ふむ……奇っ怪な」
と言うより人に近い死骸をひょいと掴み上げ。オーダイは、陸地に向かって再び走り出す。
「面倒じゃな……」
仕方なさそうに、聖弓と呼ばれた遺物を袈裟懸けにして、嘆息を漏らしていた。
━━あの日よりオーダイは、王の護衛として、重鎮に祭り上げられたのだ。
時には、世界会議に付いて行き。生まれて初めて海を見た時は、それは驚き、舐めた海水がしょっぱくて驚かされた、
些細な発見が楽しかった物だ。何より驚いたのは、この世に移動する国などがあったことで。王に付いて、城のように巨大な船に乗って、広大な見渡す限り海と言う、美しい世界に感動していた。
王の護衛となり数年毎。各国王が集まる世界会議が、まだ行われていた頃の話である。
━━当時は、血気盛んなレゾン王と、前魔王ヒザンが口論となり、配下同士の決闘と相成った。
当時レバンナの筆頭魔法使いになったばかりのゼノンと。まだ無名だったオーダイの決闘は意外な結果を生むことになった。
━━当初馬鹿にしてたゼノンは魔法の矢を当て付けのように放つ、しかしオーダイの精緻射撃で、自分に当たる矢だけ撃ち落として見せる絶技の数々に。ゼノンも舌を巻いていた。あの気難しいと評判の魔王ヒザンさえ、オーダイを絶賛して後に言葉を残したのは有名な話である。
『オーダイよそちの腕の見事なことよ。我が子が男ならば!、弓を習わせる』
とまで言わしめたのは有名な話だ、魔法使いに弓だけで挑み、引き分けた裁量には、凄まじいとさえ各国の重鎮に言わしめたのだった。
あの出来事がきっかけで、世界会議が行われる年には、優秀な生徒同士を、競わせる毎になったのは……、
ゼノンとオーダイの勝負が、余興として気に入られたのか、船が沈む9年前が最後となったが……、
今やアレイク王国最強の守護者オーダイの名は、知らぬ者はいない。
余談だが……、ゼノンとの決闘では、愛用の弓を用いていなかったと言う話であったが。




