『聖弓』オーダイ前編
━━━アレイク王国。沿岸の街。
先だって魔物の襲撃があった港町では━━、
魔物の遺骸の処理のため。オーダイ将軍率いる。ガイロン重騎士団による回収作業が行われていた。
作業を始めて10日余り、未だ海面には、数えきれない程の無数の魔物の死骸が、波間にたゆむ……。
「良くないのう~」
厳しい顔をして、ヴァレ・オーダイ将軍は、くすんだ色の弓を袈裟懸けに、無造作に引っ掛けたまま。配下の作業を見ていた、
間近には漁師の使う船を徴収していて、魔物の死骸を引き上げさせたあと。念のため魔法使いや学者に、魔物の死骸を調べさせたのだが……、
困ったことに魔物の死骸は、時間か経つと。人間に有害な毒を吐き出すことが分かった。さらに怪我を負った兵は魔物の毒による感染症が、問題になっていて。放置するには危険極まりないと。集めた魔物の死骸は、魔法の結界内で焼くことを決定していた。
「やれやれ、忙しくなりそうじゃの~」
ぼやきながらもその双眼には、強い意思があった。
━━翌日
オーラルが陛下に呼ばれて戻ってる間も朝から。陣頭指揮を取っていたオーダイだったが、
小鳥の鳴き声を久し振りに聞いた気がした。
「ふむ、珍しいの~魔王とあやつを見掛けた時以来よな」
暗い暗雲に包まれた大陸を見あげていた時だ。
「ん?、あれは……」
眉をしかめ、相貌を鋭く。目を細めていた。
暗雲に包まれた巨大な大陸がオーダイの所から見えていたのだが、闇に包まれている大陸から、無数の黒い影が、飛び立つのが見えていた。
その距離、オーダイの目測で150~170ノワール(キロ)は離れているのだが、オーダイの目にははっきりとその姿を捉えていた、
(ふむ何やら翼を生やした、人間のようなフォルムじゃの~、何じゃろか……)
あまりよい気がしない。
「ふむ面倒じゃな、一つ落としとくかの~」
嘆息して、肩に掛けていた弓を手に。矢をつがえず素早く弓を引き絞ると、不思議なことに放つと矢が現れたが、一瞬光ったように見えた気がした。
「ふむ問題あるまい………」
オーダイにとって、この弓を手にしてから一度も狙いは外したことがない。距離は関係ないのだから……、
━━風切り音の後、
一矢は闇を切り裂く閃光となり普通の人間では見ることも叶わぬ距離を瞬く間に飛び去り。時間差で、一体を撃ち落としていたオーダイは、
「ふむ、まあ~よしとしとこうかの~。とりあえず拾っておくかな」
飄々と呟き。何の気なしに海にひょいと踏み出して、平地と変わらぬ速さで、走り出していた。
みるみる海岸線沿いから、離れて疾走するオーダイの足元は、その実、一切海の波に。触れることなく。僅かに宙を浮いていた。
そもそもの話、オーダイには魔法は使えない。今の宙を浮いたり。気配を消したりする方法は、袈裟懸けにしたままの弓が、教えてくれた弓の力、スキルである。
━━この不思議な弓を手にしたのは、オーダイがまだ10代の若かりし頃のこと。まだ駆け出しの猟師だった時の話で━━。
━━あの日は、朝から体調が優れず。妙な夢を見ては首を傾げていた頃であった、若さに胡座をかいて、妙に体調が悪いのに、若さからかつい甘く見たオーダイは、ダルさを誤魔化して山に入ってしまった……、
山の天気は、変わりやすく、春先の季節だが、その年は━━。寒波が、妙に長く続いていた。
「こいつは参ったな……」
突如降りだした雨、木陰にいたが、吹き込む雨に体温が徐々に奪われていく……。
「うっうう……」
頭がくらくら。悪寒が走り、体が震え出し、意識が朦朧として、フラフラ歩いていたオーダイは足を滑らせていた━━。
「くっ……」
一瞬不味いと感じて、何とか岩に手がかかり、耐えるまもなく。奈落に落ちていく。
その時……はっきりと、死を意識した。
オーダイは意識を失っていた━━━、
━━次に目覚めたのは、
とても不思議な場所であった………、
見たことも。聞いたこともない。それは幻想的な風景で、森は極彩色な木々に溢れていた。それはそれは美しい場所だったのだ。
木々は色鮮やかな葉を繁らせ。手を着いた土を掴み匂いを嗅ぐと、豊かな土壌独特の甘い香りがした、辺りを伺うが近隣の森でも一度も見たこともない木の実や果実を、たわわに実らせているではないか。
果実の重みで、頭を垂れさせていた、
「………んぐ……」
酷く甘く優しい香りに。無性に喉の渇きを覚えた。迷いつつ一つもいで。むさぶるように果物を食べに食べた……。
━━フッと我に返ると……、不思議なことに気が付いた。あれほど全身が澱んだような疲労感が、一切消え失せていたのだ。それどころか……、何やら身体の内から、力が沸いてくるようである。
「ん?」
誰かに呼ばれた気がして、オーダイがそちらを見ると、一羽の小鳥が極彩色の翼を、小刻みに動かしながら、滑空していた、そんな小鳥とオーダイと目があったのだ。
小さく頭を傾ける小鳥は。実に不思議そうな。眼差しをオーダイに向けていた。
「お前か?」
「チチチチ」
まるで、返事したようなタイミングで小鳥は囀ずった。思わず寂しさからか、楽しい気持ちが沸き上がり。思わず微笑していた。
「チチチチ?、チチチチ」
人間くさい仕草の小鳥を見てると、あれ?と疑問が浮かぶ。
「微かだが……、お前の伝えたいことが、わかる気がするな。俺はオーダイ、猟師を生業にしてる」
「チチチチ、チチチチ?」
何となく、小鳥は、不安そうにしてる気がしてしまう、
「クスクスそんな小さくて、綺麗な君を、狙ったりしないよ」
「チチチチ、チチチチ♪」
安堵した小鳥は、オーダイの肩に降りて羽を休めてくれた。何だか嬉しくなり気安く手を差し出しすと。手の平に乗っては首を傾げる。まるでどうしたんだい?。心配された気がした。
「俺は多分……。この上。崖から落ちたんだと思う……」
「チチチチ?、チチチチ」
やはり、この小鳥は……、オーダイの言葉を理解してるか、自分がおかしくなったかのどちらかだが……、
しばし考えるように、首を傾げてた小鳥はオーダイに苛立ってか、
「チチチチ!」
再び手より飛び立ち。滑空しなから、まるで早くおいでって促すように、オーダイの前を、飛び回りながら 少し先に進んでは、オーダイの方を見て、首を傾げる。
「もしかして?……、この森を、案内してくれるのかい?」
ここは━━━不思議な場所だった………、
長年この山の麓にある。集落に住んでいるが、こんな沢山の果物が実る森があるなんて、噂すら聞いたことがない。まるで神話の神々の森のようで、何処までも続く見たこともない木々………、考えただけで途方にくれていた。
今も夢を見てるのか?、思わず頬をつねるが、
「痛い………」
「チチチチ♪」
`正解だよ~´
そう言われた気がして、クスリ思わず笑らい、頬が弛む、仕方ないかと重い腰を上げていた。
━━小鳥に誘導されるまま。森を歩くことしばらくして、
ようやく開けた場所に出た。
「ほう………、これは……」
感嘆の吐息を漏らした。一枚の絵画ですら。これ程美しい風景画はあるまい。もっとも学のない自分が、この先絵画など見る機会などあるまいが………、
噂話であるが商人から聞いた話だが、南大陸では、春に咲くと言われる桜にとても似ていた。ピンク色の大振りな花を枝に咲かせ。緩やかな優しい風に枝が揺れる。ふわり花弁がゆらゆら風に弄ばれながら、澄み渡る空を映した美しい泉を見付けていた。
小さな泉の前には。女神像が、設置されていて、女神は一本の美しい弓を、抱えていた。
「光の女神レイザ様?」
オーダイの呟きに、驚いた小鳥は、滑空しながら、知ってるの?とばかりに、首を傾げる。
「ああ……、ここ何日か同じ夢を見てね……」
気恥ずかしく思いながら。昨夜も見た夢を語る。
━━オーダイは前日から、風邪を拗らせていて。高熱を出し寝込んでいた……、
あれが恥ずかしながら、夢であるか、それとも幻想であるか、未だに判断出来ていない。
━━朦朧とした意識の中、流れる白銀の髪をなびかせ。戦装飾に身を包ませる。戦乙女と呼ばれる。光の女神レイザが、オーダイの枕元に現れたのだ。
『オーダイ……ソナタには類い稀な優れた能力がある。我が子を救ってくれたソナタに……、我と同じ千里を見る目と、優れた武器を与えよう……』
と告げられたのだ。そんな夢を見ては……、無理もしたくなるものだったと。照れ臭そうに笑うオーダイに、呆れたようひと鳴きして、女神レイザの像に降り立ち。小鳥は、
「チチチチ」
喉が乾いてるなら、今の内に……、そう言われた気がして、有り難く美しい泉から。両手で水を掬い。冷たい水を一口。
「美味い……、四肢に、染み渡るようだ……」
女神レイザに、感謝の言葉を祈る。
何れくらいそうしていたか、ドサリ。
重い音がして、傍らの女神レイザの像を見ると、足元に弓が落ちていた。
「これは一体?」
どうしたことかと、弓を拾いつつ、女神像を見上げたオーダイはギョッと目を剥いた。石像の女神が一つ頷き、
『ソナタが助けた我が子が認めた、この武器を与える』
毎夜聞いていた。女神レイザの声が聞こえた。
「夢か?、幻を見たのか……」
『チチチチ』
頭の中で。突如小鳥の鳴き声がした……、大丈夫と言われてる気がして、オーダイは立ち上がり、辺りをキョロキョロ見渡したが、小鳥は消えていた。急に心配になった……、
だってあいつはとても小さいのだから。
「おーい!、小鳥や、何処にいるのだ」
短い間とはいえ、オーダイを気遣い。泉まで案内してくれた、小さな友人を探す。
『チチチチ、チチチチ!』
`ここだよ。´
そう言われた気がして、手にした弓を見ると……、
弓の中央に美しい銀の弓のポインターに小鳥があしらわれていた、翼を広げてる精緻な装飾品を、驚きの眼で見つめた。小鳥の目には青い宝石が、淡く光を発していた、間違いない……、
「お前なのか?」
『チチチチ♪』
小鳥の歌うような、優しい鳴き声に。オーダイはストンと理解した。
「思い出した………」
数日前……、
近隣の山の森を散策している時のことだった。
━━古い大蜘蛛の巣に捕らわれてた。美しい小鳥を助けたことを思い出したのだ。何だか可笑しくて、小さく笑みを浮かべていた、
「なあ~、俺と一緒に行こうね」
小鳥の嬉しそうな、鳴き声が、オーダイの頭に響いた。
「ん………、っつ」
━━━鈍い痛みが走る。
目覚めたオーダイは、辺りを見回し。
「ここは……、俺はいったい……」
ようやく意識がはっきりしていた。上を見れば自分が崖から落ちたのを思い出したが、体を調べたが泥だらけだが怪我らしい怪我はない、ようやく自分が見ていた夢が、本当に夢かと首を傾げていた。
「ここが吹きだまりで助かったか……」
たまたま沢山の葉が集まってクッションになって、オーダイを助けたようだ……。
「ん、あれは本当に夢か?」
体が痛まないか気にしながら立ち上がろうとして、右手に何か握ってるのに気が付いた。
「この弓は……」




