奇跡の序章
━━ギル・ジータ王国、ドヴィア国境に近い地に。
第一師団は陣地を敷いていた。その陣形は中央の魔法分隊を守るように。頭上から見ると円形であった。
陣では交代の兵が仮眠を取っている他。昼食の煙が上がっていた。
そんなときのこと。突然西側から清廉な強い魔力を感じて、第5分隊の配置確認していた。エル少佐は目を細めて空を伺い。従うジン・ゲルマンに、
「間もなく、大きな、奇跡が起こります。それによって予想よりも早く結界が消える可能性が高いです。オーラルに至急知らせて」
「了解です。エル少佐」
直ちに、ジンは兵士数人を捕まえると。前線のカール中佐と本陣のオーラル准将に伝令を持たせ。走らせた。
━━ジンは少女が女性として、突然美しくなる日があるように。愁いを秘めた眼差しを静かに見受けると、優しくその横顔を見て一人頷く。
「ジン、世話を掛けます」
気遣いが素直に嬉しく。前衛にいる。愛する人を、思い浮かべ、小さく嘆息した。
━━前衛━━━、
カール・シタイン中佐は、オーラルの副官として、ロート・ハレス中尉、リマ・ロナベル第1分隊長、ユウト・アルピス第2分隊長を交え。配置と結界が消えてから、どうするかを、説明していた。
「オーラルの話では~、時間は分からないけどさ。必ずラトワニア神国側から、神の奇跡を起こすって断言してたね~。そうなれば……、魔物の大半は消え去ることになる。けどね同時に結界も消滅する可能性が高いんだってさ~」
軽薄な口調で、何でも無いことのようにカールは言うが、内容はかなり切羽詰まっていた。
「そうなればラトワニア側か、我が軍のいる。この場所に魔物が殺到するよう、細工がしてあるそうだ」
ゴクリ……、妙齢の女性仕官リマ・ロナベルが、手をあげる。
「リマ君~どうしたんだい?」
顔から血の気が失せた顔をしてるリマに。カールは軽く促した。
「その……中佐は、どれくらいの数と、予想してますか?」
初めての戦である。リマが不安を隠せないのも仕方ないことだ。
「ほんの3、4千体だろね~」
実に軽く何でもないように、とんでもない数字が述べられた、これには戦経験のあったリマとユウトとて顔が青ざめながら見合う、不安は隠せないようだ。それも仕方ないと嘆息しながら。ロートを見れば肩を竦めていた。だから軽薄な微笑浮かべ安心させるように。
「まあ~それくらいなら、俺とロートの二人でも、なんとかなるもんさ~、でもね~オーラルは、先を考えているから。敢えて第一師団の訓練として考えているんだよ~、わかるかな?。敢えて今回のこの戦いを選んだって言ったら、君たち信じるか~い?」
「はあ?」
容量得ない。人をからかうようなカールの物言いに、一瞬訝しみ、リマが眉をしかめて口を開き掛けた瞬間だった。
「中佐、来ました」
ロートが槍を手に、鋭く睨む先を見て、リマは震えた。真っ赤な血のような目、牙は大きく、大剣のような歯が並び、3首をそれぞれ動かしながら、カール達を認め、涎を落とした。
毛皮は漆黒。巨大な狼であるが、3つ首がそれぞれ、炎、雷、氷のブレスをチロチロさせる化け物は……、
「ケルベロス!」
地獄の番犬と呼ばれる。危険な魔物である。
兵士は総毛立ち。いきなり目の前に現れた強大な魔物に気圧されて……、兵達が浮き足立つ。
「まあ~仕方ないか~、けどね~」
いきなりこれは荷が重いか、ロートと目配せしてから、カールはすたすた身構えもせず。気楽そうにケルベロスに近付いてく、
「ちゅ、中佐……」
浮き足つリマ、ユウトを他所に、カールは素早く補助魔法で、筋力、スピードを強化、魔剣と呼ばれる魔力を帯びたレイピアを抜き、軽薄な笑みを浮かべながら刺突の構えを取る。
ケルベロスとしては、馬鹿な人間を喰らおうと、無造作に噛みついて来た。
「はっ!」
空気を切り裂くバシュって音がしたかと思えば、ケルベロスの頭が一つ粉砕されて、あまりのことに衝撃とショックで、ケルベロスは棒立ちになっていた。
「ふん!」
ロートがいつの間にかケルベロスの脇に周り込み。気合い一閃。
「なっ、何あれ……」
数百もの槍を放った?、眼の錯覚か━━、
そうとしか思えない現象が起こっていた。二人が見守るなか僅か数秒で、ケルベロスは肉塊と化し、リマ達は呆然と立ち尽くした。
「古参の第1分隊員なら、此くらいはできるさ~」
何事もないようにカールは微笑して。とんでもないことを二人に告げていた。二人はロート中尉を見ると
「……………」
コクコク頷いて同意する、
嘘でしょっとショックが隠せない二人を他所に。
さっさと槍の手入れを始めるロートだった。
「あはは……、今の本気なんだ……」
ごくりリマは肩の力を抜いて、力なく呟いた。
━━それからも単発的に魔物が、現れたが、ケルベロス程の魔獣はでなく。リマ、ユウト率いる。第1、第2分隊でも何とかなっていた、少しならず兵達も自信を得ていた。
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「オーラル准将閣下。エル・フィアン少尉より伝令です」
「聞こう」
本陣の大きな天幕で、各部隊からの情報を元にオーラルは、地図に自軍陣営を駒を置いて、別に秘書官に書を書かせていた。
「はっ!、間もなく奇跡が起こるとのこと」
伝令を聞き。素早く天幕から外に出て、森を挟んだ西側に目を向けていた。
「確かに……」
清らかな聖魔力の高まりが、目でも視認出来るほど発光が始まっていた。いつ奇跡が起きても可笑しくない。
「神が降りるか……」
目を細めた。




