吸血王の秘密
━━━話は、ラトワニア神国からの救援要請後。カレイラ、ケレル殿下との会談に戻る。
オーラルが、二人に呼び出され、命じられた仕事は3つあった。
1つはナターシャ女王の暗殺を防ぐこと、
1つはリドアニア公王が、悪魔と取引をして、吸血鬼=不死となっているため、真相の弱点を集めた存在。影を、先に殺すこと、
1つは吸血鬼=公王の浄化であった。
流石に驚きを隠せずにいたオーラルだが、了承した。
━━そして……、第一分隊が……国境に着いた頃……、
何故かオーラルは頭を抱えていた。視線を下げると、とても真剣な眼差しをして、口を一文字に結び、譲ろうとしない強い決意の光さえ、相貌に宿していた……、
「あの~アミさん?、この先危ないので、街の宿で、待ってて貰えないかな?」
「私も行きます!、母を殺した、吸血鬼をこの手で、倒しに……」
意表を突かれオーラルは驚き、同時に、感心していた。
「アミさんはどうして公王が、吸血鬼だと、気付いたのかな?」
アミは、一瞬迷った顔をしたから、何か理由があると感じていた。だからアミが話すまで待つことに。
そして……明かされたアミの父親の名を聞いて、さすがに動揺したオーラル、自分の秘密。微かに伸びる八重歯を見せられては、信じるしかなかった。
━━ダンピル……、吸血鬼と人間の混血を意味する単語である。遥か昔……、僅か一例だけその存在が見付けられたと、本で読んだ事があった……、
「まさか……、そんなことが……、アミに一つ聞く。吸血衝動は無いのか?」
これだけは聞いておかなければならない。
「はい、母に聞いたのですがダンピルは、吸血鬼とはそもそも存在自体違うそうです……」
アミの話しでは、ダンピルは人間に近く。呪いによる拘束が無いが、生命エネルギーは必要だと、
「私は動植物、人から発するマナを吸います」
足元に咲く花を手折り、オーラルに見せるように、アミの手の花は、一瞬で枯れた。
「癒しの奇跡を使えるのは……、とても珍しいそうです」
照れて朗らかに笑みを浮かべていた。多分オーラルに話したことで、少なくない肩の荷を下ろしたのやもしれないな。不可思議なアミの運命を考えると、小さく首を振っていた。
まさかアミの父親が、リドアニア公王セージ・キラオクだったとは……、世紀の大事件である。吸血鬼と司祭の禁断の恋……、
アミは、セージ王がまだ優しい心を持っていた時の結晶だった……、
「多分ですが……」
母フレンダは、アミがセージの側にいることが良くないことと判断して。父の手から逃れた。
だから小さな集落で暮らしていたと。しかしセージ王はアミを探すため、多くの命を奪っていった……、
アミは神に使える身。とてつもない罪悪感を感じていたと………。
「なるほど……、例え俺が置いてきぼりにしても。君は……、1人でも向かう。そうだね?」
一切の迷いなく、アミは首肯した。
「では、一つ約束してくれるかな?」
「何をですか?」
オーラルは優しい眼差しをアミに向けていた。だから敢えて一つの約束をさせていた。それはとても酷いことを言ってるだろうと思った。
アミはとても戸惑う。それでも強い決意ある瞳は、険しい顔は……、やがて……、戸惑い、泣きそうな顔になり。
「はい………」
可愛らしい、年相応の笑みを浮かべていた━━━、
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━━━南大陸、ファレイナ公国━━元国境砦、
……現ローンの街。
━━街は着々と建物が建てられて行く、まだ通りが作られたばかりであるから。通りと区がが漸く整備されたばかりであった。
ダーレン反乱軍とファレイナ公国との戦は、半月もの激戦を繰り返し。辛くもファレイナ公国を退けた。それを大々的に各国に知らしめ。新たなる国家建設を世界に認めさせること。これにより承認国となることが決まっていた。
新しい国名は近日、ファレイナ公国との和平条約締結時に、発表される。
━━半月前……、戦争の始まりも突然ながら。
戦争の終息も突然だった。
━━数ヶ月後。国境の街ローン。
決印式に署名するのは、ダーレン解放軍の英雄バローナ将軍と、
病死した前国王に代わり、女王となったミザイナ・アルタイルであった。
締結の式場に、国境のこの街を選んだのは、公式上では、そういうこと(…………)になっていた。
「大丈夫か……、ミザイナ?」
ぼくとつとした顔立ちの少年。童顔のため、そう思われてしまうが、年はミザイナの2つ上である。彼こそ夫となる剣聖ジンベイ。彼の優しさに、艶やかに微笑していた。
「大丈夫だジンベイ……、伯父が、まさか病死するとは……」
未だに信じられなかった。ファレイナ公国最強の剣士であった。あの伯父が…………だ。
ミザイナが国境に向かった翌日……。
剣王は息をひきとった……、
あの日━━ミザイナが戦場に着いた時には━━既に。
父は、ダーレン解放軍の魔神を倒すため無理が祟り、右腕を失っていた。今も生きてるのが不思議な状態だ……、
━━なし崩しで、ミザイナが女王として戴冠した。こんな形で……、女王になるとは思わず。夢ではないか?、何度も自問自答した。不安に揺れるミザイナを救ったのは……、幼なじみで、ミザイナの許嫁者ジンベイだった。本当は今も不安だ。でもやるしかない、
「こちらでしたかミザイナ陛下━━」
声を聞いた瞬間。ミザイナの眼差しが鋭くなる。
━━コツコツ。杖を着きながら、黒衣のゆったりしたローブを羽織り、現れた男こそ。ダーレン解放軍、軍師デーア・オルトスであった。
ミザイナの目に幾分、険があるのは理解している。彼こそ魔神と呼ばれるゴーレムを作った製作者であり。バローナの右腕。ミザイナとしては認めることは出来ない。ただ1人の肉親となった父を、ああまでしたのだ、赦されるなら、殺してやりたいと今でも思っていた。
しかし民のことを、さらには情勢の悪い、東大陸ばかりを気にする訳にはいかない……。
「よっ~と、ようやく会えたなミザイナ、相変わらず元気そうで……おっと止めときな、次期国王様」
珍しく怒りを顕にした婚約者の腕に、手を置いて制す。
「バローナ……相変わらずだな。人の神経をさかなでにするのが旨い」
呆れたような口調で、睨み付ける。バローナは肩をすくめながら、不敵に笑っていた。ミザイナは内心唸っていた、まさかあのバローナから秘密りに密書を受けようとは……、ダーレン解放軍の後ろ盾に、魔王の影があるとは……、
「デーア頼む━━」
バローナの意向を瞬時に理解して、魔法を唱えていた、一瞬ジンベイが反応するが、ミザイナが留める。
「大丈夫なんだな?」
確かめると静かにバローナを促す。
「魔王の手下が……、この会談を覗いてやがる。誤魔化せる時間は僅かだ、口を挟むなよ」
既にミザイナから、ジンベイには話していた。二人は素直に頷く。
不敵に笑いつつバローナは、魔王の手下=闇術仕の双子の目的を話していた。
━━━西大陸、パレストア帝国。王都ミッドパレス。
「あっ。あああ!」
大好きな父と母を見つけて、幼子はバランスを崩しながらヨタヨタ駆け寄って来た。
「ああうう♪」
抱き付くと、母のスカートに顔を埋める。
「まあ~リムルたら、お部屋から逃げ出してきたのかしら?」
驚き、眼を丸くしながらシレーヌは、可愛い我が娘を抱き上げ、柔らかな頬に、キスをする。
「だ~だ~」
大好きな母に抱かれていたが、直ぐに父を見詰めると、手を伸ばしていた。ピアンザはリルムの頭を優しく撫でると、直ぐにご機嫌である。
「シレーヌ」
夫魔王ピアンザの願いに。クスクス笑いながら、娘を手渡す。ピアンザは魔王の顔から、子煩悩な優しい父の顔になり、娘を抱き締め、大切な宝物をそっと撫でるようにすると、嬉しそうな笑い声を上げた。
「ありがとう」
温かな。子供のぬくもりを感じて……、人の心を失ってないか、確かめる。
ピアンザは、大切な友人の父を傷付けた……、
間接的でもあれ、命じたのはピアンザ自身。優しい魔王は、苦悩する。優し過ぎて、世界の敵と言われる覚悟を決めたとしても。大切な時を過ごした仲間である。
北大陸のある方を見て、やれやれと首を竦めたのは、
もう一人の友に苦戦を強いられてるからではない、大切な友人達の行く末を、願わずにはいられなかった。
世界を救うため━━、
━━我が子供の未来を守るため。魔王は覇道を歩む。




