吸血王の最後とエピローグ
━━リドアニア公国王都。
人の気配、生き物の気配を無くした町並み、ほんの20年前までは、それは美しい都であった。大通にはそれは多くの人々が生活していた。
人々は時に泣き、笑い。沢山の生活があった。筈だった…………。
━━━今は、街だけが存在する。無いのは、人間の営み。命の息吹き。
「………ん……」
ゴクリ、思わず生唾を飲み込んだ音が、やたら大きく聞こえた。
二人は街に入る城門前にいた。ここに来るまでオーラルの手によって、何体ものゾンビ、骸骨兵をも倒したが、王都に近付くと平穏であった。
流石に、吸血鬼の気配はなかった。不安そうに、唇を青ざめさせるアミ、オーラルは辺りを見ていた。
「明かりを」
魔法の光玉を幾つか造り、周囲に浮かせた。
オーラル1人なら、気にすることもないのだが、闇を押しやる光を見て、安堵の吐息を吐いていた。青白い魔法の光に照らされ、光すら飲み込む暗黒の静寂は、アミのような少女にとって、凄まじい恐怖心を与えるプレッシャーとなっていたようだ。
「………?」
唐突に立ち止まるオーラル、アミを制止させる。ただひたすら静寂が押し包む暗黒。訝しげな顔のアミを手で静止して、オーラルは闇を鋭く睨む。
「クスクス……あはははは♪」
妙に感に障る。複数の女の笑い声が、闇に木霊する。身体を強ばらせたアミを鋭く見て。
「眼を潰れ!」
「はっはい」
オーラルは素早く。明かりの魔法の因子を発動した。
━━カッと。一瞬……辺りは、昼間のように明るくなった、フラッシュ……、相手の目くらませする魔法である。
「ギャーャー!?」
つんざくような悲鳴。眼を押さえ、悶える三人の女吸血鬼、僅か一呼吸の合間に。オーラルは三人の間合いに飛び込み一呼吸の一瞬。心臓を長剣で貫き、首を跳ねていた。女吸血鬼達は瞬く間に灰になって消え去る。
アミも半分とは言え吸血鬼である。闇を見通せる力があるはずだが……、
まだ視力回復していないのか、目を押さえていた。
「大丈夫か?」
眼をしょぼつかせるアミ、心配そうに気遣う。
「ひゃひゃい」
間近にあった。オーラルの顔に驚き、顔を真っ赤にして、あわてて飛び退いた。
トスン……?
「えっ……」
驚きの声を上げていた。
突然感じる強い嫌悪感。アミは息をすることも出来ず。体が恐怖で硬直する。絶大な力、闇の強大な魔力が、アミの背から放たれていた。
「クッククク、あははははははは、女達は滅んだか、影も倒したようだな『オールラウンダー』よ」
見上げるアミの視界の先に。憎い父である吸血鬼が立っていた。その男は赤い瞳を細め、享楽的に。実に楽しそうに笑う父の姿。ゾッとした寒気を覚えた。トンと吸血鬼の怪力で、背が軽く押された。
━━が、凄まじい勢いで飛ばされたアミの眼は、石壁が眼前に広がる。
━━フワリ……、オーラルは片手でアミの腰を抱き。円の足運びで、アミの勢いを消して、普通に立っていた。ほんの僅かな邂逅。されどアミにも理解出来てしまった。
「下がってて」
「あっ、ありがとうございます」
思わず真っ赤になりながら、あわてて下がる。
━━ピチャリ……。ピチャリ………、
……水分を含んだ何かが、地面に擦り付けるような、不快な音がした。
気が付くと。生物が腐ったような、不快な悪臭が、周囲を覆う━━。
オーラルは素早く、再び光玉を産み出して、周囲を照らし出していた。
「ひっ……」
生理的な嫌悪感。アミとて森で暮らしていた。だからモンスターも見たことがあるし。ナメクジと言うのも退治した事があった。
だけどアミの視界に飛び込んできた存在は、大きな野犬ほどもあった。肌が粟立つような感情に押されて走って逃げたしたくなっていた。されど辺りを見回せばいつの間にか、そんな不気味な軟体生物に囲まれていたのだ。アミが投げられた壁の上。辺りの家々の屋根、壊れた窓際、ずりずり出てくる扉から、後ろを見れば、舗装された路面にビッシリ迫り来ていた。
「なるほど、風の刃」
風の刃の魔法で、近づくナメクジに向け烈風を放つことで。オーラルはアミに近いナメクジを凪ぎ払う、むせるような濃厚な血を撒き散らせ、周囲を朱に染めていた。すると周りにいたナメクジ達が反応する。どうやらこのナメクジ達は、肉食獣のような牙をむき出しに、死骸に群がり、喰らい、血を啜る。
陰惨で凄惨な光景に、アミの顔からは血の気を喪う。
「こいつらは……」
オーラルは断りなくアミを抱えた。
「あっ、ちょっ、オーラル様……」
慌てるアミに説明する間はない。素早く自身に、強化魔法を掛けて、ひと1人抱えるてるとは思えないスピードで、屋根まで飛びあがり、風の魔法を背後から吹くようにさらに唱える。追い風に乗って滑るように走り、壁伝いに迫るナメクジを避けて、家々の合間を、幅跳びの要領で跳んで、先を急ぐことにした。
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━━途中。巨大なコーモリや、狼に襲われたが、何とか撃退した。
多少なり疲れはしたが、どうにか城に到着する。
「ここからは、自分の身は自分で守ること、良いね?」
顔色を失ってはいるが、気丈にも素直に頷いていた。
時間的に、本当ならば日が上っても可笑しくない時間は過ぎていた。だがリドラニア公国の王都は朝を失って等しく。この20年闇に包まれていると言われていた。
城門を通り抜け
ピチャリ……、降りてる橋を渡り、二人は王座の間に向かう。
途中、無数の大きなナメクジを見付けた。恐らく巣になってたのか、連れてこられた人間がいて、血を啜られ、アンデットになっていた場面を目撃した。
恐らく……リドラニア公国の民は、そのほとんどを、公王セージが、自身を吸血鬼になってまで、何かを手にいれようとした結果なのか、オーラルには分からない、まさに公王こそがリドラニアを襲った天災だったのだろう……、
生きた災厄……、
━━━始まりは十数年………、
当時おかしくなった兄の変貌ぶりに。恐れを抱いたリドアニア公国王女ロメイダは、海賊のアル・センバートに助けを求めた。
━━しかし……シセリアの父は、仲間に裏切られて殺された。母である公女ロメイダは、セージに捕らわれ、処刑されたと言う…………、
だが事実は違った……、
妹ロメイダの生肝を生きたまま腹から引きずり出して喰らい、心臓を掴み出して、滴る。血を飲み干すことが、吸血鬼の開祖となるために必用な儀式となっていた。
『神を呪う者の呪い』(不死者)を己にかけたのだ━━。
リドラニア公家は、その昔ラトワニア神王から託された。とある禁忌の禁呪を封印して、世に出さぬよう守るための守り手であった。
『神を呪う者』の呪われた魔法書他、禁呪の書物が、公王の封印書庫に保管されていたはずだが……。
この様子では、魔王の手に渡った。可能性が高いか……、
━━突然、窓の外に、雷鳴が轟いた。轟音凄まじい勢いで、石畳を叩く水音……雨が、降りしきる。
「フハハハハ、ヒャハハハハハ、よくも生きていたな娘よ………。お前を殺し、心臓の血を飲みたいものだ」
陰淫に、欲望に溺れた開祖である吸血鬼は、雷光に照らされ、王座から立ち上がる。瞳は血のように赤く、犬歯は、唇から伸び、鋭い、伝説では、人から開祖となる吸血鬼になった者がいたのは……、まだ中央大陸があった頃まで遡る。
「それは、出来ないかもね」
長剣を静かに抜き放ち、身構える。
「あんたは不死だが、不完全な生き物だから」
「ふん……影を殺し、聖剣を奪ったくらいで戯れ言を宣うか」
鋭く、憎悪の眼で睨む顔が、段々薄くなり、吸血鬼のいた場所には、真っ白い霧が不自然に、発生していた。
『我が場所、解るまい』
気配は、王座の間辺り一帯にあった。
オーラルはこの能力の特性を知っている。
長剣を正眼に構え。魔力を剣に流し込むと、うっすら輝く長剣は、急に聖々した光を広げていた。
『グアアァアアア、おっ、おののれ……』
聖なる光に、弾かれ。霧は押しやられる。
「忌々しい聖剣だ」
吸血鬼セージは、下半身を狼に変化させ、左腕を千切って、空に投げる。すると左腕は巨大なコウモリに変化した。どす黒い、憎悪の赤い眼をするコウモリだった。羽ばたくと嫌らしく赤い眼を細めた。
「あの蝙蝠と狼は……」
公王が変身した姿だったか……、
オーラルとアミに向けて、牙をムキ出して、音なき、叫び声を上げた。
「あっうう、頭………」
チラリ肩越しに、アミを見ると頭を押さえ、苦しんでいた。不思議とオーラルは平気だったのは……。手にした長剣は薄い光で明滅していたからだ。
「この剣の力か……」
フッと思い出したのは、蝙蝠の生態であった。確か鳴き声には、空気を振動させる力があること。人の耳には聞こえない特殊な音波を放つ……、頭を抱え座りこむアミ、辛そうな顔である。このままでは身体が持たない……。
━━素早く、爆炎の魔法を足元に叩きつけた。
━━轟音、爆風にさらされ。さしもの巨大コウモリも熱風に煽られ、体制を崩した。
しかしオーラルがコウモリに気をとられてる隙に。回り込んでいた吸血鬼は、不気味な骸骨を模した杖と下半身の狼、上下の挟撃を受けていた。
「クッ……」
「ふはははは、ふはははは!、やるなオーラルよ」
辛くも長剣でいなしながら、歯を食い縛り。
「因子を解き放つ」
爆炎の魔法に掛けていた因子を解き放つ━━。
破壊された床から、無数の石の礫が、弾丸となり、吸血鬼の背を撃った。
「なっ、何だと……!」
オーラルは一瞬で怯んだ吸血鬼の下方から迫り。すれ違い様。長剣を切り上げ、狼の首を落としていた。
「ぐぁあああ、おのれよくも。よくもやってくれたな!」
バランスをくずした吸血鬼は、怒りのあまり自身が回復するよりも早く。オーラルを追いかけようと、振り返った瞬間。
━━吸血鬼の身体を土台に、オーラルは宙を飛んでいた。吸血鬼は眼を見張り、手にした杖の先端を槍のように構えた。
その時には既に、コウモリの心臓に長剣を突き刺し灰にする。
「グァアアアアアアアアアアアア!!、おのれ……、おのれ!、我が腕を滅するとは………」
血を吐き出すような、怒りの咆哮を上げた、しかし吸血鬼は狼の首を拾い繋げた。見る間に狼の首にあった傷痕は消えていた……、
しかし吸血鬼の左腕は戻らない。忌々し気に舌打ちして、吸血鬼は怒りの目を細め。狼の首に抱き着いた。すると狼は……巨大化して、吸血鬼の姿は狼と一体化した。
「アミ………」
とても優しい声を、娘にかける。
「……お父さん…?」
戸惑いを浮かべるアミを。愛しそうに見つめ、したなめずりしそうに、陰貪なる眼差しを細める。
『「娘よ……今こそ。父の為に。身を捧げるのだ!』
牙を剥き出して、一息で、アミ飛び掛かる。
「遅いよ……公王……」
オーラルが指を鳴らせば、アミを中心に、魔方陣が浮かび上がる。精緻で緻密な立体的な
魔方の障壁に弾かれた。
『グルルルル?!』
忌々しそうに怒りを唸り声に込めた。狼の爪、牙で障壁を何とか壊そうと、何度も挑むが、強力な障壁は、傷一つ付かず。逆に狼の身体が傷付くだけであった。
『そんなバカなことがあるか!。我は神に等しい、開祖ぞ、不死の王なる真相なのだぞ』
憤りに似た叫びは、虚しく、雷鳴に消された。
「因子を解いて、構築する。絡めとれ」
魔方陣が黄色から、青に代わり。無数の茨が、触手のように巨大な狼を絡めとる。
『何故だ!我は神に等しい吸血鬼ぞ』
喚き立てる吸血鬼……、哀れなリドラニア王だった者。父で、母が愛した者に。
アミは…………、一滴の涙を流しながら、母の形見のスタッフを構えた。先端を父だった者に……。
「うわぁあああああああああああああああああ━━━━!!!」
身を切り裂くような、悲痛な叫びを上げ、全身の力を使い。ダンピルの人間にはない。強大な力は、少女の力とは思えぬ破壊力を産み出して……。狼の剥き出しの胸……、心臓に、スタッフを根元まで、突き刺していた。
『ガハ……。バカな……バカ……な…』
鏡が割れるような音がして、巨大な狼は砕け散り。吸血鬼は娘に手を伸ばしたまま……灰と化した。
「わっ私……、」
悲しみと自分のした事が信じられず。呆然と立ち尽くした。
━━━その日。呪いと暗雲で包まれたリドラニア公国王都に、
━━暗雲が消え失せ、太陽の光が闇を洗い流すよう降り注いだ。人々は温かな温もりを感じて、神に祈り涙した。
━━吸血鬼が滅んだ同時刻、
━━ラトワニア神国=リドラニア公国国境。
地を埋め尽くす勢い、統率のあったアンデット達……は、
突如━━━。
統率を失い。たださ迷い始めた。
最早……ラトワニア神軍、カレアラ師団の敵ではなかった。
エピローグ
━━南大陸、元ファレイナ公国・国境砦。ローンの街。
━━━ファレイナ公国女王ミザイナ・アルタイル。新制ローレン軍国との和平条約が交わされた。
後日━━両国により正式に発表された。
━━聖アレイク王国、ケレル皇子の元。リトラニア公国に巣くっていた吸血鬼消滅の報せが届く。
一方で……、驚きの報せが届いたのである。
ファレイナ公王死去=病死が伝えられたことで、アレイク王宮を揺るがせた。さらにミザイナ・アルタイルが女王に即位したと……、ファレイナ公国の大使補佐より報され、騒然とした。
「それほどの大事が……立て続けに起きてると言うのか………」
野望を胸に懐く、ケレル皇子は危機感を覚えていた。
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━━━ラトワニア神国、リドラニア公国との戦争が終わり二月が過ぎていた。真冬の寒空の中。
━━沢山の人出に出迎えられ。無事に帰還する。我が国の兵を、喜ばしく、誇らしげに見守るナターシャ女王は、民の歓声を受け。手を振り答えた。
ラトワニア神国の僧兵に続き。いち早く救援に参じた。ドヴィア騎士団長イブロが、ニカリ虫歯に嫌われた美しい歯を煌めかせるや。多大な賛辞か降り注いだ。
その横には聖アレイク王国が誇る。二人の『オールランダー 』が1人。カレイラ・パレス准将が、甘いマスクを笑みにして、声援に答える。二人の英雄から隠れるように、馬を並べてるが、将軍は忘れ去られていた、真っ赤になって、憎悪の眼を、両英雄に向けていた。
「オーラル様だ!」
ひときわ大きな歓声が上がる。
三人から少し離れ。第一分隊を率いて、聖アレイク王国が誇る。二人の『オールランダー』がもう1人に、ラトワニアの国民は、大歓声を持って、強烈な感謝を送る。
若くして……。夫を亡くしたナターシャ女王暗殺を察知して、颯爽と現れ防ぎ、国境付近の村や街を襲ったアンデットの脅威から、多くの命を救ってくれた。
さらには海賊に狙われた幼い少女を救い、豪胆な将軍を連れてきくれた。
━━忘れてならないのが、リドラニア公王が、吸血鬼であったこと、民は知ている。伝説でしか聞かない化け物。吸血鬼殺し……、まさに英雄と呼ぶに相応しい偉業である。
━━ラトワニア神国女王ナターシャは、三人の英雄に敬意を現して、ラトワニア神国の公共の広場に、三人の銅像が建てられる運びになった。
「オーラルお帰り!」
弾ける笑顔を振り撒きながら、人目を気にせず。オーラルに抱き付く少女、セシリアの大胆さに眼を白黒させながら。眠そうなやる気の無さそうで、それでもやさしい笑みを浮かべて。
「ただいまセシリア、だいぶ女の子の格好が、板に着いたな」
「むー、言ったなオーラル、見てろよ。僕は綺麗になるんだからな」
ムッスリしてたシセリアの頭を、軽い衝撃が落ちた。
「騒ぐなバカ孫が」
「あにすんだよクソジジイ!」
涙目のシセリアを、やれやれ嘆息しながら、肩をすくめた。
「クス、お帰りなさい皆さん」
ナターシャに艶やかに笑われてしまい、シセリアは照れ笑いした。周りの侍女達も何時もの光景なのか、朗らかに微笑していた。
同席を許されたアミは、場違いな場所に来たようで、不安になっていた。
「あっ……」
思わず。声を出していたアミは、あわてて口を押さえたが、
「ん?、君は誰なのだ」
興味深そうに、シセリアに見詰められて、息が詰まった。
『綺麗な瞳……』
力強く、真っ直ぐとアミを見詰めていた。
「わっ私……アミ・マーキュリー」
困ったような、恥ずかしそうに、オーラルを見上げてから、静かに同意されて、迷いながらも、小さくも一歩を踏み出した。
「私は………」
シセリアは、眼を見開き、ゆっくり笑みを浮かべて、アミに抱き付いた……、
「初めまして私の従妹」
「初めまして私の従姉」
二人は見つめあい。心から喜びに満ちた涙を拭ったていた。
暖かな日差しの名残が、仄かに二人の従姉妹を照らしたのだ。
静かに……、穏やかな時を過ぎるようにと━━。




