閑話記憶喪失ですね?
━━━今から20年前。
聖アレイク王国。王都━━━。
癖のある。艶やかな赤み掛かった髪を、後ろで無理やり撫で付け、丹念に、髭を剃ってから。シニカルに笑う青年が鏡に写る。若くして、国王から勲章を貰うという、栄誉を受けたリブラが、美しい妻と共に二人で、小さな村を救った経緯を知ってのことである。
王都に、家を貰い。過酷な土竜騎士と冒険者の生活から、抜け出した形にはなる。
━━リブラは、孤児だ。学は無いが、さっぱりした性格で、頭も回る。わりとモテル方だと、自負してるが、妻のララに、怒られるから、内緒にしていた。
スラリ線の細く見える体躯。所謂細マッチ体系に。皮の服の下に鎖帷子を着込んでいた、腰にダガーナイフを着け、足や服に投げナイフを仕込む。一見優男に見え勝ちだが、軽装を好むためスカウトと勘違いされたりするも。実はかなり武勇に優れていて、大抵の武器は操れた。それに何となくで、一度見た魔法を独学で覚えれる特技は、ある意味反則である。魔力も多いためモグリの魔法使いと勘違いされることしばしば。
仕事の時は黒のローブを羽織るためそう勘違いされたりする。
以前酒の席で、魔法のこと聞かれた時に。シニカルに笑いながら、
「一度見て、覚えたんだが、」
軽く言ってみた。すると━━━
「いやいや無理だろ、相変わらずリブラは冗談が上手いぜ」
等と軽く流されてしまう、どうやら魔法とはそう簡単に覚えれるものではないようだと。頭が回るリブラは理解した。
「ああ~ばれたか」
ゲラゲラ笑う冒険者仲間に笑われながら、その時はそうだぜと嘯き、肩をすくめていたが、事実リブラは、幾つかの魔法が使えた。本当に一度見て覚えただけだった。剣や槍、弓なんかの技術もしかり、鍛練してるの見てれば、何時の間にか使えるようになっていた。リブラはそれを当たり前だと思ってたが、違うのだと最近理解した。
そうリブラ・ハウチューデンと言う青年は、両親を知らぬばかりに。孤児院での生活が長かったばかりに。自分が所謂天才だと知らなかったのだ。それがリブラ・ハウチューデンと言う男であった。
「お父さんおはよう~、ご飯出来たたわよ」
この頃おしゃまになってきたミリアは、しっかり者の妻に似てきたな、感慨深く、目尻を下げた。
「父さんおはよう」
先にテーブルに着いて、手持ちぶさたなオーラルは、脚をプラプラさせながら、抜けた前歯を気にせず。嬉しそうに笑う。我が子ながら、妻の小難しい。蔵書を読んでたと、昨日聞いて驚いたものだ。
『ある意味こいつの性格は、俺に似たのかもな』
勉強嫌いのリブラとは違うが、一度見てるだけで、ある程度のことは直ぐに覚えれる才能があった。朝から妙な感心をしていた。
「あなたおはよう」
愛しい妻の微笑みに。胸に仄かな温かみを覚えた。ガキの頃から今まで。ただ一人側にいたいと思えたのは。生まれてこのかた。この女だけだったな。美しい黒髪が印象的で、艶やかな唇につい目が行き、夕べのことを思いだして……、目元赤くした。
目敏くリブラの様子に気づきララはわざとらしい咳払いをした。ハッと我に返る。
「あなた。明日からまた、長く家を空けるんですからね?、オリバさんには顔を、だしてきなさいね」
誤魔化すように、チクり一言忘れない。
「うっ……、そうだったな、また忘れるとこだったぜ」
リブラの本音に、あきれがちに嘆息しながら、優しく笑う、思わず頭をかきながら、破顔した、ガキの頃からの付き合いだ。ララへの呼び名は変わったが、俺は幸せだと、胸を張って言えるぜ。
片目をつぶりララを見ると、恥ずかしそうにしながら、笑っていた。俺が大好きな、笑顔だ。
━━西の職人通りに行くと、ミリアが付いてきていた。こいつは、こいつは、職人の作業がことのほか好きで、オリバの奴も筋が良いと誉めてたな。ガキの癖に、手先が器用なのは、ララ譲りか?、あいつあんなおしとやかにしてるが、
仲間にいた盗賊から、鍵開けの技をものにしてたし、洋服から、小物は、ほとんど自分で作ってたからな~、ミリアの服、オーラルの服も安い端切れを買い漁り、作っちまう、出来た嫁だ。
「父さん、」
天気がイイナ~なんて考える時だ。
「んあ?どうしたミリア?」
「ミリアね。妹が欲しい!」
「なっ」
急なことで驚き。眼を白黒させながら、真っ赤になるリブラ、クスクス笑いながら、ミリアは訳知り顔で、言うのだ。参ったな、顔を手で覆いながら、我が娘ながら………、
「まあ~その内な」
頭をかきながら、仕方ないなと嘆息して、クシャリ頭を撫でる。くすぐったそうにしながらも、嬉しそうに笑ってから、
「約束だよ父さん!」
「へいへい……」
夕べの話。聞いてやがったか、ララもリブラと同じく、孤児だった、リブラと違うのは、両親が分かっていたこと、ララの両親はアレイ教徒の司祭だった。ララの物心ついたガキの頃、流行り病で、あっさり両親が死んだと、一度聞いていた。
だからではないが、ララは司祭になるべく、勉強していた。
━━本当なら、アイツは司祭になる筈だった。だけど俺みたいなろくでなしが、惚れたばかりに、
━━おっとあいつが、聞いたら殴られるな。
『まあ~土竜騎士と結婚したからなのか、司祭の昇格を辞退したララには、悪いと思うがな』
今もたまに悩む、これで良かったのかと……、
━━それに……。この間のこと思い出す。
「誰に似たのかなあいつの無謀さは」
普段が、聞き分けがよく。大人しい生活のオーラルだが、まさか暴君の為に無茶するなんてな、今思いだしても肝が冷えるぜ、
「まさか人間嫌いの暴君が、俺以外と契約を結ぶとはよ。本当に面白いよなまったく」
結婚してからこっち、こんなに大変で、色々なことを経験する日々が訪れるとはな、感慨深い。
「オリバさん今日はー!」
元気一杯、ミリアは眼を輝かせながら、店を見て回る。
「おおミリアちゃんいらっしゃい、おっと、ついでに薄情な友人も一緒かい?」
丸顔の人柄が、全面に押し出したような、日溜まりと表現する。オリバは、ガキの頃からの悪友だ、こう見えて、元盗賊ってんだから人は見かけによらないぜ、しかも割りと名が売れてたりする。俺がララと結婚して、土竜騎士に専念するようになるのを期に、オリバの奴は念願の小間物屋をやっている。小間物と言ってもオーダーメイドなんかする店でな。ちょっとしたアクセサリーから、お洒落な鎧まで、何でも。作っちまうから、目端の効く上客が、常連になったりと。いい噂をよく耳にしていた。
「明日からまた、地下迷宮のクエストでよ、北の方を探索するよう、依頼されてるから、しばらく帰れない、またミリアが邪魔するかもしれんが、それとな~く頼むぜ」
土竜騎士なんて呼ばれてるが、やってることは危険な事ばかりだ。いつ命を落としかねない可能性も高い、だから掛けれる保険は、幾つ掛けといても足りないくらいだ。ギルドには、何かあれば、まとまった金を渡すようにはしてるが、今回ばかりは嫌な予感がする。
「デスホールまで行くのか?」
「ああ、北大陸と海で交易はしてあるがよ、地下迷宮が、何故分断されてるか、調べてる学者先生の依頼だからな、危険がないか下調べだな」
依頼主は、東にある。ギル・ジータ王国から、更に東に行くと島々があって、その一つが、造船と機械の国ジエモンと呼ばれてる。移動国と呼ばれる巨大な。船の国は、ジエモンの技術者の手によるものらしい。造られたのは、100年以上前になるそうだ。今の技術では、再現不可能な技術多々あり、ジエモンの技術長は、地下迷宮で、断絶した種族が、それらの知識を有すると、話していた。
今回の下調べによっては何としても。彼らとコンタクト出来ないかとか考えてるようだ。
そんな訳で、地上の冒険者が地下迷宮を探るよりも。唯一、世界に一つだけ現存する。土竜騎士ギルドに依頼した方が可能性は上がると、そう言うわけである。
「赤の民だっけ?探してるのは」
元盗賊であった情報通のオリバにも、昔の伝を頼み。調べてもらっていたが、遅々として、何も出ないのだ。
赤の民のことを、リブラもアレイ学園、アレイ教の図書館に赴き、過去の文献を洗いざらい調べたが、古代の民に……、
赤の民の記事がなかった。全く不思議なことに……、
「オリバさん、早く、早く」
大人達の話に飽きてたか、ミリアは、訳知り顔で、オリバの作業台に、ちゃっかり自分用の前掛けまで付け。座っていた。二人は見合い、リブラが肩を竦めると、笑顔で、
「今行くからね♪」
そう言うと、オリバの奴。目尻下げるのだ、顔を見ると、嬉しい時の癖で、糸のように目が、細まる。やれやれ友人の娘に甘いとはな。ミリアは、ミリアで、家を空けるリブラの代わりに、甘えてる節があった。拙いながら、オリバに教えられ、銀細工を作ってるらしい、嬉々として、細かい作業に、没頭する娘に、呆れながら、微笑していた。
こうした姿を見る機会が、少ないせいか、とても新鮮である。ララが、気を利かせたのだろうな。リブラを認め、自慢気に見せた銀細工は、土竜に見えなくもない。だから頭を撫でてやると、嬉しそうに笑った。
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翌朝━━━━。
ミリアから、誕生日プレゼントとして貰った、銀細工に、革ひもを通しといた。昨日は不覚にも泣いてしまったペンダントを首から下げるリブラに、眠そうなオーラルを抱えたララとミリアに見送られ、リブラはターミナルの街に向かった。
━━ターミナルの街。
王都から馬を飛ばせば、無茶をすれば古街道を通れば、ギリギリ半日で着ける。平坦な道のりである新街道だと2日は掛かるがな、
最近の事情から交易の主要として使われていて、かなり整備されてるから、交通量が多く、未開の森辺り以外は、安全である。
未開の森には、ウオルフと呼ばれる。普通の狼の数倍ある。モンスターの生息地で、危険なモンスター等まで、生息してる。危険地域だが、軍の訓練に使われることが多く、そのままになってる。
その為。古街道は盗賊や山賊等。山辺には隠れ住んでると言われたが、リブラは見たことがない。
━━山を南西に、下りながら、薄暗い森の入り口を通り抜け、太陽の日差しが、温もりを感じた頃。
かなり遠くに、ターミナルの街が見えてきた。
━━━━街の入り口。
ギルドの窓口で、赤い手甲を見せ、名前を記入する。受付も慣れたもので、土竜調教師のオリベ先生に、知らせるよう伝えた。
━━━下の駅舎の街は、何時ものように雑多な感じで、荒くれ者ばかりである。俺には帰ってきたと実感する独特の空気があった。
駅舎の窓口で、探索の受付を済ませ、外に出ると、2両車両を着けた暴君が、勇ましく、胸を張って待っていた。左手の爪は二本掛けているたった1頭だけの相棒である。傍らに白い物が混じり始めた。オリベ先生と、今度新しく調教師になる。暴君の厩務員が、見送りに来ていた。
「先生行ってきます」
孤児のリブラを見出だして、土竜騎士になるべく修行を着け、後見人となってくれた恩人だ。こうして一人前の土竜騎士となれたのは、オリベ先生のお陰である。
「気を付けて行ってこい、リブラよ」
「はい、暴君がいるから大丈夫ですよ」
やれやれこいつは、呆れた顔のオリベ先生に、破顔しながら、眠そうな眼を細めた。
━━━あれから、南の中継の街で二泊して、北の辺境に進路を替えて、途中の村で買い物を済ませ。魔物の群れを蹴散らしつつ、半月程でデスホールに着いていた。
近くにある集落を拠点に、崩れた沢山の通路を一つずつ、丹念に調べ回る地味な作業を更に半月続けた。
「このまま何も見つからないかもな」
流石に疲れから。ついぼやくリブラだったが、
━━翌朝。馬車を降りてから。妙な魔力を感じていた。
『ん?、なんだこの感じは』
リブラは辺りの通路を調べながら、妙な魔力を追跡して行く。それからどれくらい時間がたったのか、我を忘れていたリブラだったが、
ハッと我に返っていた。
「ここは一体………」
まるで見覚えのない通路に立っていた。それと視界の先にはちょっと頑張れば、壊せそうな岩があるのが見えた。
「こいつは…………」
右腕の赤色の手甲に手を触れていた。暫くして暴君が走りよってきた。
「暴君、あれを壊してくれ」
「きゅいきゅい」
自分に任せなと自信満々な暴君は、勢いよく。岩を破壊していた、崩れた岩を排除しながら暫くすると。苦労のしがいもあった。暴君も通れる入り口がポッかりと開く。
「こいつは当たりかな」
何とはなしに呟いていた。
「さて相棒。いっちょ行ってみるか」
「きゅいきゅい♪」
やや低い鳴き声を上げた相棒。暴君と供に奥を目指すことにした。
「一応暴君の背に鞍を着けといて正解だったな」
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カビた古い空気、開けた空間、大きな街並みが、眼前に広がっていた。
「オヤオヤ、外の人間とは珍しいね」
いくらなんでも予想外な光景だった。惚けてたリブラと暴君に気付かれず。赤い髪が特徴的な、老人が、枯れ枝のような手をワシャワシャ暴君を撫でる。
驚き、跳び跳ねる暴君を気に入ったのか、ニカリ前歯の欠けた老人は、愉しそうに笑っていた。
老人は、ただ一人、
この街━━━、
赤の民の街に住む住人だと名乗る。呆気にとられながら、リブラの持参した保存を勝手に食べてしまい。殆ど胃袋に収め。軽く文句を言ったら
。
かかっと笑いながら、
「ほうほう造船と機械の国ジエモンか、まだあったか、フムフム馳走になった礼じゃ、目的の本はやるが、ちと頼まれごとしてくれんかの?」
赤の民を名乗る老人は、突如強大な魔力を放ち、リブラと暴君を包み、済まなそうに頭をさげた。
「地竜と心を繋ぐ者よ。そなたには、済まないと思うが、時間がないのだ未来に行き、中央大陸復活の阻止を頼む」
「なっ、おっ、おいじいさん!」
あまりの毎に、身動きすらできないリブラと暴君は、鳴動する。邪悪な魔力を足元から感じた。
━━泡立つ肌、暴君の毛が逆立つ、
「気付かれたようじゃな、間もなく。この街は崩壊する。最後と諦めとったが、良い星を持った若者と会えるとはな」
儚げに笑う老人、嫌な予感は消えない、
「ちっ、じいさん……」
凄まじい睡魔に襲われ、リブラは、眠りに落ちた。
「すまなんだ若者よ。未来を頼んだ」
シニカルに笑いながら老人は、更なる魔力を魔方陣にこめてゆく。足元から光が走る。
町中に、魔方陣が広がり立体型の積層を作り出して行く。時を越えるには繊細な計算と古代の民。いや王族の命を使って初めて可能にする魔法、
━━老人の……、
かつては、赤の民の王と呼ばれた、稀代の魔法使いが、命を掛けた最後の魔法が、発動する。
大地が鳴動して、7日7晩、東大陸にて、地震があったと言われる出来事。大崩落。
━━━17年後━━
北大陸━━ターミナル村、
100年以上昔まで、地下迷宮の入り口があった村である。
今では小さな洞穴だけが残る。
村に住む、老人の一人が、日課となる。洞穴に向かった。土竜の亡骸に、花を添えるためであった。
村から森を抜ける何時もの散歩道。衰えたとは言え、毎日通う道のりである。今日も明日と変わらぬ平和な日々が続くと。誰もが考えていた。そんな時である。大きな揺れに、足をとられ尻餅をついた時、
老人の側に。やけに重い。ドサリて、何か落ちる音がしたかと思えば、若い男が、見たことない巨体な土竜の背から、落ちたのだと理解した。
「つっ……、ここは何処だ?、ん?……」
若者は、頭を押さえ手に付いた血を、嫌そうに見て、困ったような顔をして、老人と目があった。
「よおじいさん、俺は誰だ?」
嗅いだことのない、大地の匂いに、困ったように笑う若者が、17年後の世界に降りたった。




