エピローグ狂人の最後
━━イライラと。不気味で歪な、闇を放射するような骨の杖を、異形の魔人マローダは握しめる。
『ちょこまか小賢しい……』
暗い眼差しには、殺気すら生ぬるい。怨念を解き放つマローダはしばし魔力鏡に映る二組の戦いを見ていた、そこに突如として、大国の王座にいたマローダを、その場にいるはずがない人間が急襲してきた。
『ふむ………、まあよい、あれさえ上手く行けば、後は……、時を稼げれば』
ニタリ嫌らしく笑いながら、闇の女神カーレルより学んだ。闇の魔法を唱えた、
闇の矢である。
『死ね!人間よ』
怨嗟の言葉と共に。魔法を放つ、
「因子を解き放つ。光球」
即座に相反する属性の魔法である、光の玉が無数に放たれる、
闇の矢は光の玉に当たり、相殺されていった。
『何だと?、ただの光球で防いだと言うのか……、バカな』
呆気にとらわれたマローダは、背後に殺気を感じて、咄嗟に杖を前に出していた。
『グッ……』
凄まじい衝撃に、マローダは泡を食った。
魔人の目ですらも、僅かに捕らえられかの。凄まじい剣速に顔を歪めさせる。だから次第に力任せの攻防になっていた………、
打ち払う度に、異形の体が軋み、攻撃を受ける度に。鋼よりも固い皮膚は裂かれ、瘴気混じりの血から猛毒が周囲に撒かれ、石の床を、壁を溶かしていた。
『おのれ……、たかが人間の分際で……』
空気が抜けるような、言葉が洩れ出た、古い言語だろう、マローダ達赤の民の多くは、自分は、自分達は特別だと、信じて疑っていなかった、
『我こそ……、闇の女神の祝福を受けた、魔人よ』
怒りに目を尖らせる。
「遅い……」
すぐ左脇より声がして、ブワリ熱風を感じた……。
━━刹那、全身に。凄まじい衝撃と、次いで訪れた痛みに、悲鳴を上げていた。
『がぁあああああああああ?!』
プスプス肉の焼ける。悪臭が漂い、鼻を突いた、顔をしかめながら、オーラルは浄化の魔法を自身にかけ続けていた、
どしゃり、じゅうと手を着いた魔人の床を、滴る血が汚す。
満身創痍でありながら、一欠片の怯えもなく、
ただ憎悪がマローダの中で膨れ上がる。
『人間が………、人間が、我等に、我に……』
赦すことは出来なかった、マローダにとって決して赦すことは出来なかった、人間とは古代の民によって作られた存在であった。
ギリギリ歯噛みして、マローダはどうにか上体を起こした。
そんなマローダに対して、オーラルは冷ややかな眼差しを向けていた、
そして……、オーラルは莫大な魔力を『聖王の剣』に集めて行った。
刀身が、魔力が集まる度に光輝き、闇夜を照らす一条の光、まさに神々しい後光を照らしながら、オーラルは渾身の一撃を見舞った、
『舐めるな人間!!』
骨の杖を掲げ、『聖王の剣』の一撃をまともに受けてしまった、
ピシリ……、
異音を立てて、マローダの杖は砕け散る、あまりのことに驚き目を見張る。どうすることも出来ず。マローダの首筋から心臓まで、袈裟懸けに斬られていた……、
『馬鹿な……ごふ』
血を吐き出したマローダに、容赦なく返す刀で、一刀両断していた。
「杖を破壊すれば恐らく……」
━━南大陸最大の国華の国ダナイ。
城の天守閣と呼ばれる王座の間に。魔人マローダは移動していた、
オーラル達は未だに塔の地下にある施設にいると考えていたが………、
最悪の形で、予想は覆された。
━━人間の骨で作った玉座。
かつては栄華を誇った都には100万を越えた民が生活をしていた筈であった…………。
静寂。生きる物の居なくなった都は、何と禍々しくも寂寥を感じさせていた。
先ほどまでマローダが見ていた不気味な鏡の写した光景を一瞥した。
━━突然、ピアンザに対する攻撃が止んでいた、
棒立ちになったグラベルは、膝から崩れ落ちるように倒れ伏す。
「オーラル!!」
歓喜を持って、友に感謝を叫び、魔王の杖の真の力を解き放つ……、
「宝物庫を開け!大海魔」
白銀の触手が三体の使い魔の守る。神殿を模した、精緻なリレーフより。無数に飛び出しグラベルを覆った。
『魔王の杖』とは、海神プラトーンが、神に匹敵する力を持った。魔獣クラーケンを封じる神殿である。
魔獣クラーケンは、闇を喰らい封じる力を持っている。その力を一部とはいえ使うことが出来た、無数の鮹の触手は。グラベルに巣くってた異物のみ引きずり出していた。
「グッ、アアアアア!、がぁああああああああああ」
全身にズプリ入り込む触手は、凄まじい痛みを伴う。
「グッ……あっ、ああああ、あ゛ああああああああああああああああああああ!!」
海老ぞりになるグラベルは、断末魔の叫びを上げて白目を向いていた。
しかし触手はますますづぶりと。胸中に沈み込み。最奥部にある魂に巻き付いた。
………びくっ。びくびくびく、痙攣し始め。泡を吹いていた。
どれ程の時がすぎたか、
━━ズルズル……、黒い。魂にべっとり絡み付いた闇を。徐々に引きずり出して行く。
抵抗するマローダの影を、グラベルの魂から切り離した瞬間。ブツリ、
『グッアアアアア』
怒りの咆哮を上げた影は、そのまま魔王の杖に飲み込まれ……。
消え失せていった。
ピアンザは荒い息を吐いて。使い魔ウオルフを杖に戻す、
倒れ伏したグラベルの脈を確かめ。安堵の笑みを浮かべていた。
エピローグ
━━最後の映像が消えた瞬間。
オーラルは魔法の鏡を、切り裂いて、更に砕いた……。
そのせいか判らぬが、徐々にダナイを被っていた闇の力は、力を失い……、
ダイナの王城から、おぞましい怨念の死者の力が、消え去ったのを感じていた。
夜が明けて行く。
辺りには、瓦礫だけが残された町並みを見下ろして。訝しい眼差しをある一点に向ける。
「何を作ったんだ……、あれだけの人間で……」
厳しく顔をしかめたオーラルの眼前に広がる光景……、
町の中央が、綺麗に窪地のように溶かされ。恐らく白い粒子の小山……。
人間の骨……、
10万人はいたであろうか、
大国ダナイ市内は……、無人だったと、
土竜騎士長ボルド・ホウリーから、聞かされていたが……、
……ドクン……、
恐らくだが、魔人マローダは、神を自らの手で創りたかったのだ……、
自分こそは。創造神となることを信じて疑わなかった……、
ドクン。
ドクン……。
胎動は……、
南大陸の地下━━。
はぐれワームの巣くう。遥か地下にて、小さな繭が明滅する。




